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森の中のホテルに監禁された私。しかも、部屋にもう一人女の子がいる。  作者: 宮野ひの


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第29話 手を繋いで眠ろう





「はぁー。いい汗かいて、疲れたわね」


「うん。今日はぐっすり眠れそう」


 真っ暗な天井を見つめていた。さわさわと木の葉を揺らす音がする。

 ベッドは相変わらずふかふかだ。時折、獣の雄叫びのような声も聞こえるのは気のせいだろうか。


 そのまま暗闇を見つめていると、吸い込まれてしまいそうだった。自分という存在が確かなものではないように感じる。


「凪沙」


 ——だけど、隣にはルカがいる。彼女の存在が私をしっかりと現実に引き留めてくれていた。


 あれから運動をした後、アイリスに連れられて部屋に戻った。

 別れ際、鬼ちゃんが「またねっ」と、手をブンブンさせていた姿が目に焼き付いている。


 ——鬼原真里。


 まさか私たち以外に、監禁されている人がいるとは思わなかった。


「あの子のことなんだけど」


 ルカが神妙な声を出す。鬼ちゃんのことを指しているのだろう。


「うん。何?」


「大地のこと崇拝してたけど、セックスはしてないのかしら」


「ぶっ」


 ついむせてしまった。眠気が一瞬で飛び去った。


「だって、このホテルには処女だけ集められてるんでしょ? あんなに慕ってる子、彼が見逃すと思う?」


 確かに。ルカの言う通りだ。

 鬼ちゃんは約8年間も、このホテルにいるのだ。


 大地と顔を合わせる機会も、きっと何度もあったはずだろう。すぐに彼女の想いの大きさにも気づくはずだ。


 既に体の関係を持っていてもおかしくない。なのに鬼ちゃんは未だに処女だと言っていた。


「——大地は、女の子から好意を向けられるのは嫌なんじゃないかな」


 私は一つの可能性を思いついた。


「えー。何それ?」


「ほら、釣った魚に餌はやらない人っているじゃん? 自分に興味がない相手ほど、振り向かせたくなるみたいな……。大地、鬼ちゃんのような熱狂的な女の子には気後れしちゃうタイプなんじゃないかな」


「——なるほどね。自分でホテルに連れて来た手前、そのまま世に返すこともできないしね。鬼原さんも、ここにいることに特に不満を抱いてなさそうだから、そのままにしていると」


「うん」


 鬼ちゃんの運動している姿が鮮明に思い出された。

 あんなに熱心に体を動かしているのは、ストレスからか、それともすることがないからなのか……。


「ねぇ」


 ルカがすがるような声を出す。


「どうしたの?」


「だったらさ、わたし達も大地を好きなふりでいた方がいいんじゃないかな。彼に丸め込まれないためにも」


「えっ」


 それは——。と否定したい気持ちがあったけど、本能的にルカの言う通りなんじゃないかと思い、口をつぐんだ。


「ベタベタに溺愛したら、案外ドン引いてくれるかもよ。ふふっ」


「——そんなに上手くいくかな」


「——まぁ。上手くいかないわね」


 ルカが苦笑する。


「それに、凪沙が大地に熱を上げる姿は見たくないもの」


「えっ」


「わたし、きっとイライラしちゃいそうだし……」


「それって……」


 ルカの方を見るけど、真っ暗だから、どんな表情をしているのかはわからなかった。すぐ側に、私とよく似た熱を感じる。


「——うん。私もルカが大地に片想いする姿は見たくないかな」


 素直な気持ちを伝えることができた。目をギュッとつぶる。


「ふふっ。片想いって」


 くすくすと彼女は笑う。そんなにおかしなこと言ったかな。


「ねぇ。今日はさ、手を繋いで寝てみない?」


 ルカが甘えた声を出す。言葉尻が柔らかくて、まるで全身を包み込んでいるかのようだった。


「ん。いいけど」


 そっと隣に手を伸ばすと、華奢な指に触れた。その輪郭を確かめるように手を握ると、最初からそうするのが正しいと言うようにぴったり重なりあった。


「あれ? 指湿っていない」


「……」


 ルカは黙る。


「もしかして、指しゃぶりしていた?」


「……知らない」


 ぶっきらぼうに言った。図星だろうか。

 前に、彼女が不安そうに口元に指を持っていった姿が思い出された。


 真っ暗な中、一人で指を舐めては、どんなことを考えていたのだろう。


 ……。


 空いた左手を唇にそっと持っていくと、ルカを真似するように、親指を口の中に入れてみた。

 うーん。なんか変な感じ。でも、安心して眠れそう。


 ルカが隣で何かを言うけど耳に入ってこない。今日はたくさん運動したなぁ。今まで5kgのダンベルって持ち上げたことないから新鮮だった。ルカのルームランナーで走る背中がひときわ輝いて見えたのも大発見だった。


 ——それは、このホテルに連れてこられて、一番ぐっすり眠れた夜でもあった。

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