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森の中のホテルに監禁された私。しかも、部屋にもう一人女の子がいる。  作者: 宮野ひの


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第26話 キスだったらたくさんできるよね

「ねぇ、身体痛い?」


 ルカは私をチラッと見ながら、何気なく言った。

 あの行為の後の、体調を尋ねたいのだと表情を見て、すぐに気付いた。


「……ん。ちょっと。ルカは?」


「めっちゃ痛い」


 私たちは同じ気持ちだった。思わず幸せな笑みが溢れてしまいそうだった。


 アイリスが来たら新しいシーツを持ってきてもらおう……。


「じゅ、十分に休んで」


 優しい言葉の掛け方なんてわからない。


「……ねぇ。じゃあもう。しない?」


 ルカは、なんてきれいな瞳を向けてくるのだろう。

 逸らすことができない。気持ちを誤魔化せなくなる。


「……しない。——今は」


 どっちつかずな答えを返す。

 これが私の今の精いっぱい。


「んっ」


 ルカは素っ気なく、背中を向けた。


「それって、いつまで?」


「えっ?」


「——いつまで待てば良いの?」


 ルカは食い下がる。

 またする日を探っているような質問に、息を呑む。


「わかんない!」


 それしか言うことができなかった。

 体の奥に熱は残っているけど、しばらく休んでいたい気持ちもあった。


「ふーーーーん」


 ルカが低い声を出す。

 拗ねているのかな。なんだか、かわいく見えてきた。

 っていうか——。


「……ルカの痛みが治まるまでできないよ」


 体が心配だ。

 さっき"めっちゃ痛い"って言っていたし。


「それって、わたしの心配してくれてるってこと?」


 ルカが勢いよく振り向く。興味津々と言った瞳を向けてくる。


 ——当たり前でしょ。


 私がこくりと頷くと、ルカはニマニマした笑みを浮かべた。


「じゃあ、キスだったらたくさんできるよね!」


「!!」


 突然、ルカに唇を奪われた。

 いつのまにか、手を彼女に握られていた。指先を焦ったく絡めてくる。


「やっ……」


「ふふっ」


 ルカの舌の感触がした。彼女を押しのけようとすると、それが彼女に火をつける理由になったようで——ベッドに押し倒された。


 ルカの髪が私の頬にかかる。透き通るようにサラサラで、きっと丁寧に手入れをされていることがわかる。

 彼女の瞳を見ていると抗えなくなる。すべてを受け入れてしまいたくなる。ルカはもしかしたら魔法が使えるのかもしれない。


 二人で、深く深く、どこまでも沈んでいく。深海は誰の目もなくて楽だ。もう浮き上がらなくてもいい。このままずっと浸かっていたい。


 ルカの熱を唇越しに確かめる。——ふと、横から視線を感じた。


「……お二人とも、食事の時間でス」


 アイリスが私たちの行為を、無機質な目で見つめていた。


 えっ!!!!


 反射的にルカから離れた。


「い、い、い、いつから見ていたの?」


「少し前でス。ノックもしましタ」


 ——それだけルカとのキスに夢中になっていたということだろうか。


 アイリスはロボットだ。感情なんてないはず。だけど、人に見られたような恥ずかしさがあった。


「ねぇ、アイリス。この部屋に監視カメラってあるの?」


 ルカがポリポリと頬をかきながら、何気なく聞いた。


「ありませン」


 アイリスは淡々と答える。


 えっ。ないんだ!

 っていうか、教えてくれるんだ。絶対に、はぐらかされると思った。

 

 じゃあ、ルカとのあれこれも大地に見られていないということだよね。

 ホッとして、肩の力が抜けた。


 もっと早くアイリスに聞けば良かった。


「あノ」


 アイリスが抑揚のない、いつもの声を出す。


「何?」


「——キスすることって、そんなに楽しいんですカ?」


 大胆発言。やっぱりルカとのキスをバッチリ見られていた。


 なんて答えたらいいんだろう。


「うん。すごく!」


 ルカが代わりに答えてくれた。口元が緩んでいる。


「そうなんですネ」


 ——今思えば、アイリスからの初めての質問だった。

 まるで私たち人間に興味があるかのようだ。まばたきを数回繰り返している。 


「ふふっ。アイリスもしてみたいの? キス」


「……」


 だんまりだ。何かを考えているようにも見える。


「——って、そんなに真剣に考えないでよ!」


「いヤ。真剣に答えるのがワタシの仕事でもありますのデ」


 アイリスは一点を見つめて、動かない。


 変なの。ロボットなのに、人間臭いところがある。

 彼女の感情の揺れみたいなものが垣間見れて、少しだけ親近感を抱く。


「——今日の晩ご飯は、パエリアでス」


 答えが出なかったのか、アイリスは話を変えた。


「わーい。食べたかったの!」


 ルカが無邪気にはしゃぐ。キスの質問のことは、もうどうでもいいみたいだ。


 このホテルにいたら美味しい料理が自動的に出てきて、そのうち太っちゃいそう。

 Tシャツをめくってお腹に手を当ててみると、なんとなく浮腫んでいるような気がした。


 しかし、すぐにエキゾチックな匂いが鼻をかすめて、どうでもよくなってしまった。

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