第25話 お風呂場で
「だって、さっきのえっちで凪沙を気持ちよくできなかったから……」
「!?」
ルカはとんでもないことを言う。思わず振り向く羽目になってしまった。
「だから、せめてもの罪滅ぼしってやつ?」
ルカは勘違いをしている。
「……別に……良かったけど」
「えっ?」
「だから、気持ちいいって言ったの!」
浴槽に私の声がこだました。
「……本当?」
ルカは信じられないというような顔をする。
「やったー! わたしも気持ちよかったよー!」
ガバッと背中めがけてルカが抱きついてくる。シャンプーの泡で摩擦がないから……なんていうかやわらかい! ヤバい!
「急に抱きつかないでよ!」
「でも、なんて言うんだろ……。物理的じゃなくて、精神面な気持ちよさの方が強かったかも?」
「……」
「だって、凪沙、好き好き言ってくれたし?」
「!!!!」
「あはっ。顔真っ赤じゃん。かわいい♪」
穴があったらすぐさま入りたかった。
——そうだった。私は行為中に、ルカに向けた、まるで気持ちを表すような甘い言葉を連発していたのだった。
なんで自分でも言ったのかわからない。ルカにほだされたのかな。
「う、うるさい。ルカが上目遣いで私を誘惑してくるから悪いんでしょ!」
「はぁ? なにそれ」
「あんな顔されたら、どうにかなっちゃうよ!」
「し、仕方ないじゃん! 早く一つになりたい気持ちになったんだから」
ちょっと待って。お互いにすごいことを言っているような気がする。
裸で向き合っているから、素直になれているのだろうか。
あっ。は、裸……。
ルカは私にぴったりくっついており、羞恥から押しのけた。彼女は「きゃっ」と言って、不満そうに眉をひそめている。
お風呂場は明るく、ベッドの中よりもルカの体がはっきりと見えた。
——それは私の裸も、彼女から鮮明に見えているということになる。
は、は、は、恥ずかしい!
さりげなく腕を胸の前で交差させて前が見えないようにする。
「何それ?」
ルカが仁王立ちをして、私を見下ろしていた。
「あっ。恥ずかしいんだ」
図星だった。
「ふふっ。かわいいところあるじゃん♪」
ルカはそう言って、私の首元に顔を近づけると、躊躇いなくガブリと噛んだ。
いた……くはない。
だけど、何してるのっ!?
お風呂場に熱がこもっており、私は頭がクラクラした。
「ひゃ……」
ルカは角度を変えて、もう一度私の首を噛んできた。今度は噛み跡をなぞるように、優しく舌で這わせる。
「んっ。やめて……」
抗議の声を上げても、ルカの動きは止まらない。確かに、私たちは一線を超えた。
そこで、絆も深まった——といえば聞こえはいいけど、物理的にも精神的にも距離は縮まったような気がする。
——この行為も、そこまで嫌ではない。彼女の細やかに動く舌が気持ちよかった。
目まぐるしく近づく距離感に甘美なめまいがした。あれ。なんだか、力が入らない……。
「ちょ! 凪沙!?」
私はお風呂場で倒れた。視界が真っ暗になっていた。
体にヌルヌルの泡が付いていて、気持ち悪いなと思いつつも、目を開けることができなかった。
お風呂場の床の冷たさを肌で感じながら、私の体を触るルカの手がやけに熱いのが気になった。
◇
——気づいたら、知らない部屋の中にいた。
違和感を感じたのは一瞬のこと。ダブルベッドに水色のソファーが目に入ると、家ではなくホテルにいることを理解する。
そうだ。私、お風呂場で倒れたんだ。
手でペタペタと体を触ってみると、既に服は着ていた。
「あっ! 起きた?」
ドアからひょっこり顔を出したルカが、すぐさま私の元に駆け寄ってきた。
「うん。私——」
「倒れたんだよ! びっくりした!」
「……」
「もー。凪沙の体を洗って、服を着せて、大変だったのよ! ベットまで連れてくるのも一苦労だったんだから!」
ルカが介抱してくれたのだ。小さな体では重かっただろうに。申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「ごめんね。ありがとう」
「ふんっ。べ、別にどってことなかったわよ? わたし体力あるから!」
ルカは胸に拳をドンと置いた。頼もしい。
「ねぇ。……あれから大地はこの部屋に来た?」
「へっ?」
「私、倒れちゃったじゃん? ——ほら、監視カメラがあったら、様子を見に来るはずでしょ。仮にも私は連れ去った"研究対象"なんだから。突然、死なれたりでもしたら困るでしょ」
「確かにね。でも誰も来てないわよ」
もしも、お風呂場に監視カメラがあるなら、私やルカに異変があれば、アイリスでも誰かが駆けつけるはずだ。
——もしかして、何も仕掛けられていないのかな。
ホッと安心してしまう私がいた。
「片方に何かあっても良いように、大地は"女子二人"を一緒の部屋に監禁したのかしら」
「えっ」
「……ほら。今みたいにどっちかが倒れたら困るわけじゃない? きっと大地も、ずっと見張ってはいられないわけだし。だから、わたしと凪沙は偶然でも、一緒にいることが最初から決められていたのかしら——って思ったの」
「……」
ルカの言葉には謎の説得力があった。
大地が処女の子を監禁したい場合は、一部屋に一人だけを閉じ込めておけば良い。
わざわざ私とルカを同室にしたのは、互いに助け合うように仕向けてのことなのかもしれない。
一人でいたら、きっと嫌なことをウジウジ考えてしまうだろう。現に、お風呂場では取り乱して、ルカにキスされる羽目になった。
ルカとの出会いは運命だったのかな。大地に仕組まれたことを考えたら、ロマンチックさはかすむけどね。
「——ルカ、助けてくれてありがとう」
私はあらためてお礼を言った。
「ふふん」
彼女は得意気に鼻を鳴らす。照れているように思えた。




