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森の中のホテルに監禁された私。しかも、部屋にもう一人女の子がいる。  作者: 宮野ひの


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第15話 暇つぶしのおもちゃ





「何もすることないわねぇ」


「だねぇ」


 朝ご飯を食べ終えたら、たちまち何をしていいのかわからなくなった。普通であれば、学校に行っている時間だ。


 テレビやスマホなんかの娯楽もない。緊迫した状況であるのに、手持ち無沙汰から平和ボケしそうな私がいた。


 ルカはソファーの上で横になっていた。そんな食べて、すぐ寝たら牛になっちゃうよと思った。——言わないけど。


 私もソファーで足を組んで、白い壁をぼーっと見ていた。細かい模様をつなぎ合わせると、人の顔に見えてきそうだった。


 トントン。トントン。


 ノックの音で静寂を破ったのは、またしてもアイリスだった。


「入っても良いですカ?」


 感情が混じっていない無機質な声で、私たちに呼びかける。

 おそらく朝ご飯の食べた皿を片付けに来てくれたんだろう。


「いいよ」


 アイリスが部屋に入ってくる。手には、ミネラルウォーターを数本持っていた。


「こちら、飲み水になりまス。ぜひ、冷蔵庫等に保管してお飲みくださイ。無くなったら、是非お申し付けくださイ。ただちにお持ちいたしますかラ」


 昨日と今日で、ミネラルウォーターを飲んでいた時に、無くなったらどうするんだろうと考えていた。

 そっか。アイリスが持ってきてくれるんだ。


「それと、洗濯物等がございましたら、お皿と一緒にお出しくださイ」


「それって、アイリスが洗濯してくれるの?」


 ルカがすかさず聞いた。


「はイ」


 アイリスはこくりと頷いた。


 そっかー。って……ちょっと待って!


「——なんか閉じ込められているのに、至れり尽くせりじゃない?」


 ルカが腕組みをしながら、アイリスを見下ろしていた。うん。本当にそう思う。


「……洗濯ってあなたが? できるの?」


 私はやっと言葉を挟んだ。

 アイリスは、まばたきを一つした。


「はイ。洗剤を入れて、ボタンを押すだけなのデ」


 そりゃそうだ。

 何故か、アイリスが洗濯板を持って、衣類をゴシゴシとこする映像が頭の中に浮かんでいた。


「それに、ワタシは防水加工されてあるので、濡れた洗濯物を干すこともしっかりとできまス」


「ぶはっ」


 アイリスが冗談を言うと、ルカが笑った。


 今の面白いかな?

 だけど、少しだけ、場の雰囲気が和らいだ気がした。


「じゃあ、お願いしようかな」


 本当は嫌だった。だけど、仕方ない。ここから出られないんだし。

 それに、そのまま洗濯物を溜め込んでも不潔だしね。


 ちょうど良いタイミングなので、私たちは、昨日着ていた衣類をアイリスの前に持ってきた。


「はイ。お預かりいたしまス」


 話もそこそこに、アイリスが食器と洗濯物を持って部屋から出て行こうとした。


「待って」


 ルカは彼女の背中に向かって呼びかける。


「アイリス! わたし達、部屋の中にずっといても特にやることなくて暇なんだけど! 何か、暇つぶしグッズを持ってきてくれない?」


「……かしこまりましタ」


 アイリスは、はっきりとそう言った後、いつものように部屋を出て、鍵をガチャリと閉めた。


「……」


「大丈夫かな」


 ——私たちの不安は杞憂に終わる。


 数分後。アイリスが再び部屋にやってきた。手に持っていたのは、黒ひげ危機一発だった。


「へっ……」


 思わず変な声が漏れてしまった。


 懐かしい。そのおもちゃは、すでに開封されていて、一度遊ばれた形跡があった。


 確か、小学生の頃に従兄弟と遊んだ記憶がある。だけど、私達は高校生だ。こんなもので暇が潰れるだろうか。


「それでは、失礼しまス」


 アイリスが部屋から出ていった。私は呆気に取られて、しばらくぼーっと突っ立っていた。


「——ねぇ、それ何? 怪しい男が樽の中に入っているんだけど」


 もしかして、ルカは黒ひげ危機一発を知らないのかもしれない。

 お嬢様ということだし、子どもの頃は花札なんかで遊んでいたのかもしれない。……偏見が過ぎるか。


 ルカは今も興味津々でおもちゃの箱を見つめていた。


「黒ひげ危機一発だよ。この樽の中に剣を交互に刺していって、おじさんを飛ばした方が負けっていうゲーム」


「へぇ。面白そうね」


 ルカの目はキラキラ輝いていた。


「テーブルの上で遊ぼっか」


 箱の中には、樽と黒髭のおじさん、色とりどりの剣が入っていた。

 それらをすべてテーブルの上に広げる。


「これっていくらくらいするの?」


 ルカが樽を触って、上から下まで眺め見た。


「どうだろう。3,000円くらい?」


「ふーん」


「とりあえず、勝った方から剣を刺していくルールでいい?」


「うん」


 私たちはじゃんけんをする。なんとなくチョキを出したら勝った。

 1番近くにあった緑色の剣を樽に刺してみたけど、何も起こらない。まぁ。最初はそうだよね。


 次はルカの番だった。彼女は赤色の剣を樽に刺した。しかし、何も起こらない。


「私の番」


 次は黄色の剣を選んで樽に刺した。シーンとした静寂が辺りに漂う。


「ふんっ」


 ルカは鼻を鳴らした後、緑色の剣を取った。樽に差し込んだその時——ビョーンとおじさんが宙を舞った。


「きゃーーーーーーーーー!!!!!!!」


 ルカは目を大きく見開く。ソファーから崩れ落ちて、尻もちをついた。まるでコントだ。


「そんなに!?」


 私は込み上げる笑いを抑えられなかった。こんなに面白いリアクションを取ってくれるとは思ってもみなかった。

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