日常 その2
「昨日はいけると思ったんだ」
昨日の事を思い出しながら言うと、「毎回同じこと言ってるね」とマチオは苦笑した。
一人でいた王都から来たというハンターの女性に声をかけたところ、なんと成功し、一緒に酒を飲みながら王都の話で盛り上がった。
ついに俺のロングソードを実戦で使う時が来たのかと、心の中でガッツポーズをしたところまでは覚えているが気付けば朝になっており、俺は酒場の外で寝ていた。
当然そこに女性の姿はなく、目を覚ました俺は酒場の女将さんから昨夜の飲み代を請求された。しかも二人分。
舞い上がっていた俺は『七法全書 暴食の法 景気よく、酒は飲ませろ呑まれるな』を失念していた事を後悔した。
「町の見回りに行ってくるよ」
俺の愚痴を一通り聞いてくれたマチオはそんなことを言ってきた。
せっかく隊長がいないというのに真面目に仕事をするらしい。
「真面目な奴だ」
それだけ言うと机に突っ伏し、苦笑するマチオに手を振った。
「ふぅ~」
大きく息を吐き、そのまま目を閉じるとすぐに睡魔がやってきた。
「あのう」
睡魔に誘われ、うとうとしていた俺だったが、女性の声をキャッチし自然に体が動く。
「どうししました?」
遠慮がちに開けられたドアの前に立つ女性のもとへ瞬時に移動し声をかけた。
キョロキョロと中を見回す女性と視線がぶつかる。
俺を見つめる女性。
俺は直感した。
彼女は俺のことが好きなのだ!
「あ、あのう」
「はい!」
愛を受け止める覚悟はできている。俺は背筋を伸ばし返事をした。
「マチオさんは?」
「はい?」
思わず間の抜けた声を漏らすも、すぐに切り替える。
「マチオに何か?」
「ちょっと相談があって」
彼女はマチオに用があって来たようだが、俺は諦めない。諦めたらそこでゲームセットだ。
「マチオの代わりにボクが相談に乗りましょう。さ、どうぞ中へ」
「い、いえ」
中に入るよう勧めるも彼女は遠慮している。
(こ、これは!)
彼女は照れている。
俺の直感は正しかった。
『イヤよイヤよもなんとやら』彼女は俺のことが好きなのだ!
「仮眠室もありますので、なんならそっちで――」
「結構です!」
パチーンと乾いた音を残し去っていく女性。
女性が去り、俺に残ったのは虚しさと切なさと頬の痛みだった。




