日常 その21
「肉はどこだ~」
「静かにしろ、獲物に気付かれる」
前を歩く男に注意される。
白髪交じりの無精髭を生やしたその男は、矢筒を背負い、左手に弓を持っている。
男の名前はアテルノ・ジョーズ。ハージマリの猟師で、若い頃はハンターだったらしい。本人曰くそこそこ名の知れたハンターだったそうだ。
金欠の俺は肉が食いたくてアテルノに同行させてもらっている。
ちなみに、この草原には薬草も自生しており、採取して売れば小遣い稼ぎにはなるが、今は草よりも肉なのだ。
とはいえ、ここにも魔物はいる。森の結界にかからないような弱い魔物だ。
無暗に襲ってはこないので遭遇する確率は低いが相手は魔物、決して安全というわけではなく、発見しても刺激しないよう注意しなければならない。それは魔物限ったことではない。犬一匹といえども大型犬が牙を剥いて襲ってきたら怪我では済まない場合もあるだろう。
それに先の魔物騒ぎの一件もある。結局魔物は見当たらなかったが、森の結界が弱まっているのだとすれば危険度は増す。
そもそも魔物とは何か?
答えは魔核を持っている生き物のことだ。
魔核とは簡単に言えば魔法の基だ。
魔核を持つ魔物はマナを消費して、魔法を使うことができる。
魔法は魔物の特殊能力で火を吐いたりするのがそれだ。現世でのイメージとは違う。
ちなみにマナとは全ての生き物が持つ生命力だ。
当然、魔核を持つ魔物は獣よりも危険度が高い。だが、俺たちが欲しいのは魔核ではなく肉だ。敢えて危険を冒す必要はない。
確かに魔物の肉は高価で美味いものが多いが、欲望のままに突き進めばこっちがエサになりかねない。
逃げられないようにと襲われないように、俺たちは長草に身を潜めながら獲物を探していた。
「肉が食いたいから同行したいなんて、アンタは変わってるな」
「俺は平民だからな」
貴族なら肉を食うために狩りなどしないだろう。肉が食いたきゃ肉料理を作らせればいい。ましてや平民と一緒になんてするはずがない。
「ん?」
「どうした?」
「音が聞こえる」
草の擦れる音とは別に悲鳴のような高い声が聞こえた。
「何も聞こえんぞ」
アテルノは不思議そうに俺を見た。
アテルノがそう言うのも、もっともだ。この音は人間が聞こえる音域ではない。
この世界には特殊な能力を持つ人間がいる。その能力が俺にもある。それが人間には聞こえない音域の音が聞こえるというものだ。
転生する前、神は加護をつけてくれると言っていたが、その加護がこの能力なのだろう。
はっきり言って役に立ったためしがない。聞こえないような小さな音まで聞こえるということはなく、煩過ぎることはないが、他の人が聞こえない音に反応すると周囲から変な目で見られてしまう。女性を惹きつけるフェロモンでも出す能力とかであれば、毎日祈りを捧げたことだろう。マリアがいるので教会にはよく行ってはいるが……。
「こっちだ」
耳を澄ませ音のする方に向って歩く。
「遠吠え?」
声は次第に大きくなり、遠吠えのような鳴き声がはっきりと聞こえた。
「それにしても下手だな」
遠吠えに上手い下手があるかわからないが、聞こえてくる遠吠えはたどたどしく弱いものだった。




