日常 その18
「モーブがこんなところにいるなんて珍しいね」
背後から声をかけられ振り返ると武器を持った数人の男たちがいた。
「マチオか。見回り御苦労」
ハージマリ周辺の見回りを終えたマチオたちが戻ってきていた。
「何やってんだい?」
そう訊いたマチオだったが、俺の足元に転がっている物を見て「ああ」と納得した。たまにクズみないな勇者が現れるのはマチオも知っている。
「もう少し早ければ最高だったのだがな」
安全第一、あわよくばマチオに相手をしてもらおうと考えていた俺は、いらん労力を使ったとついつい愚痴っぽく言ってしまった。
そんな俺に怒ることなく苦笑するマチオ、本当に良い奴だ。
「それにしてもすごいセンスだね」
勇者の着ていた服を見てマチオが言った。
「そ、そうだな、こんなんどこに売ってんだろうな。ハハハ……」
実はちょっといいかもなどと思っていた俺は動揺を隠しマチオに同意する。
「……」
「そ、それで、そっちはどうだった?」
沈黙に耐えきれなくなった俺は取り敢えず話題を変えた。
「魔物はいなかったよ。森に帰ったんじゃないかな」
「こりゃ当分は夜警だな」
マチオの言うとおり森に帰ったのかもしれないが、また現れる可能性も捨てきれない。森の結界に引っかからないような弱い魔物だが、一般人にとっては魔物というだけで脅威だろう。
この件を報告すれば住民の安全を守るため俺たちに命が下る。
ジャンヌはそういう人物だ。
これから寝不足が続くのかと肩を落とし詰所に戻ってくると、中でジャンヌが仁王立ちしていた。
「マチオ、見回りご苦労だった。で、どうだった?」
「はい。――」
どうやらジャンヌがここにいたのは魔物の件が気になっていたいたからのようだ。
マチオが報告を行うと案の定「数日は警戒する必要があるな」と俺たちに夜警の命が下った。
「ところで貴様はどこに行っていたんだ?」
マチオの時とは違い、鋭い視線でそう訊いてきた。
酷い上司だ。詰所にいなかった俺がサボっていたと決めつけているのだろう。
しかし、今回は違う。
「住民からの依頼で空巣退治に」
今回はちゃんと仕事をしていた俺は胸を張って答えた。
「本当か?」
ジャンヌの視線が鋭くなる。
条件反射というべきか蛇に睨まれた蛙だ。嘘は吐いてないが、あの目を向けられると勝手に嫌な汗が出てくる。
「ほ、本当ですよ。これが証拠です」
俺は勇者が身に着けていたものを差し出した。
棍棒に金色のオールインワン。その中には残念ながら金色のブリーフも入っていた。
牙磨丸は勇者ではなくキングになっているかもしれない。
まあ、中には牙磨丸を勇者と呼ぶ奴も出てくるだろう……。念願の勇者だ。よかったな臥牙丸。
「疑ってすまなかったな」
嘘ではないとわかるとジャンヌは俺に頭を下げた。
「わかればいいんすよ、わかれば。俺はいつだって真面目に仕事してるんすから」
「モ、モーブそれくらいで……」
調子にのる俺をハラハラしながら見ていたマチオがこれ以上は危険と俺を止めた。
「そうだな。間違いは誰にでもあるしな。ふぅ~、それにしても嫌な汗を掻いた」
俺はポケットからハンカチを取り出し、顔の汗を拭った。
(ん? 俺ハンカチなんてもっていたっけ?)
「そ・れ・は・な・ん・だ」
ジャンヌの怒気を含んだ声、マチオも唖然とした顔で俺を見ていた。
嫌な予感がした。
俺は予感が当たらないことを願いつつ、持っているハンカチに目をやった。
「げっ!」
予感は見事的中した。俺が顔を拭いていたその白いハンカチは四角ではなく三角だった。
これはあの時、ガマ勇者から取り上げたもの、つまり純白のパンツだ。
俺はガマ勇者から取り上げた後、何気なくポケットへ入れてしまったのだ。
「こ、これは、ち、ちが……」
「貴様の腐った性根を叩き直してやる!」
本当に盗む気なんてなく誤解なのだが、焦ってしどろもどろになる俺の弁明など通じるはずもなかった。
「誤解だーー」
今日もまた俺は訓練場まで引きずられていく。
その日の訓練は今までで一番過酷なものとなったことは言うまでもないだろう。




