日常 その16
「おい、ガマ勇者!」
「な、なんだ!?」
さっきまで下手に出ていた俺の豹変ぶりにガマ勇者は困惑する。
「とりあえずこれは没収だ!」
「あっ」
ガマ勇者が手にしていたパンツを取り上げる。
「何すんだ!」
「盗品を回収しただけだ。このガマ野郎」
「ガマじゃない。牙磨丸様と呼べ!」
見た目にコンプレックスがあるのか、単に敬称をつけなかったのが不満だったのか、ガマ勇者は激怒した。
「俺様は勇者だぞ!」
ガマ勇者は怒号を発し恫喝する。
「それがどうした。俺はハージマリの兵士、犯罪者を捕まえるのは仕事だ」
「えっ?」
自分の言葉に怯まない俺に、ガマ勇者はたじろいだ。
国王の命により召喚された勇者を表立って批判する者は少なく、多少の行為は忖度される。
当然、王都でも咎められることはなかったのだろう。もっとも王都は田舎と違い戸締まりもしっかりしているので成果は期待できないが。
ゲームでも鍵がかかっている家には入れないのと同じで、鍵を壊してまで盗みを働けばさすがに庇いようがない。
勇者にとっては、お馴染みのゲームのような世界で、ゲームと同じことをしているだけだが、この世界はゲームではなく、紛れもなく現実なのだ。
この世界にはこの世界のルールがあり、それを犯せば罰せられる。
他の町では忖度されるかもしれないが、ここでは違う。
なぜなら、ここの代官がジャンヌ・オニールだからだ。
こんな輩を見逃しては俺がジャンヌに殺されてしまう。
相手が強そうならマチオが帰ってくるまで調子を合わせようと思ったが、格闘技はおろか体すら鍛えていないレベル1勇者の強さなど前世の俺と大差ないだろう。
ならば今の俺が負けるはずはない。
俺は弱い奴には強いのだ。
「ゆ、勇者にそんな態度をしていいのか。俺様は国王に召喚されたんだぞ」
ガマ勇者の声は少し震えており、虚勢を張っているのが見え見えだ。
「この町の一番偉い奴にいいつけるぞ。どうせ役人なんて自分の保身のため上には媚びへつらう連中だ。国王に庇護されている俺様に歯向かえば、お前の首がとぶぞ」
ニヤニヤと下品な笑みを浮かべるガマ勇者に俺は怒りを覚えた。
「俺の上官はな、勇者だろうと忖度はしない清廉な人なんだよ!」
ジャンヌの事を何も知らないくせにそんなことをほざくガマ勇者に自然と語気が強くなった。
脅しが通用しない俺にビビったガマ勇者は「ひっ」と小さな悲鳴を上げ後退り、何かブツブツと呟きだした。
「どうした? 勇者様」
そう言って俺は距離を詰める。
「俺様は特別、俺様は特別、俺様は特別、俺様は特別……」
パニックに陥ったガマ勇者は自身を鼓舞するように同じ言葉を繰り返していた。
「勇者に選ばれた俺様がモブにやられるわけねぇーんだよ!」
突然ガマ勇者が叫ぶ。
どうやら恐怖に精神が耐えられなくなり、開き直ったようだ。
「やってやるよモブ野郎」
ガマ勇者は血走った目で俺を睨み付け言った。
(ちょっと厄介だな)
俺の方が強いとは思うが、ああいう目をした奴は何をしてくるかわからない。
「ここじゃ住人に迷惑がかかる。場所を変えよう」
「面倒だ」
即答するガマ勇者に俺は言い方を変える。
「他人の家を壊したら悪評が立つぞ。勇者ならそれは駄目だろ」
「……」
「それに城ならまだしも、戦闘場所が民家って勇者らしくないだろ? 勇者は勇者らしく戦わないとな」
「……。それもそうだな、俺様は勇者だからな」
勇者という言葉に反応する。この男にとって勇者に選ばれたということは特別なのだ。
踵を返すと勇者は俺の後をついてきた。家の外では俺を連れてきた女性が不安そうにしていた。
見知らぬ男が家の中を物色していたのだ。その恐怖は計り知れない。
女性には優しく、怖がらせるなんてもってのほかだ。
『七法全書 憤怒の法 女の敵は俺の敵! 怒り狂え! どんな手を使っても殺れ! 殺ればヤレる! ワイルドな男はモテる!』
この男は許さないと心に誓った。




