プロローグⅡ
俺は交差点でスマホを見ながら信号待ちをしていた。
「ポンチ―!!」
女性の叫び声に何事かと顔を上げると、一匹の犬が視界に入った。
掴んでいた手が緩んだのか、リードをつけた犬が尻尾を振りながらこちらを見ていた。
賢い犬だ。ちゃんと飼い主を待っているのだろう。
だが、場所が最悪だ。
その犬がいるのは横断歩道の真ん中だった。
俺は反射的に車道を見た。
すると交差点に迫る一台の車が見えた。
自然に俺の体は動いた。
犬の命を、女性の笑顔を守ろうと……。
その後のことは覚えていない。
ただ、頭に凄い衝撃があったことは微かに覚えている。
「犬を庇って車に轢かれたのか」
思い残すことはまだまだあるが、現実を受け入れるしかない。
犬を救えただけでもよしとするしかない。
「何を美談にしている」
「え?」
「確かに犬が飛び出したのは本当だが、すでに信号は変わっとったわ! 車道を見たのは安全確認で、そのうえで飼い主の女と話すきっかけにと、下心全開で犬をつかまえようとしたんだろーが! 何が「犬を救えただけでも」だ、心にもないことを考えるな。そもそも貴様は犬を庇っとらんし、死因は車に轢かれたからじゃねー! 勝手に改ざんすんな、この妄想イメトレ職人が!」
嵐のように捲くし立てられ唖然とする俺に自称神は言葉を続ける。
「貴様が死んだのは、飛び出そうとして足を滑らせ、派手に転んで後頭部を叩きつけたからだ。思い出したかこのソロキャンパーが」
事実は妄想より恥なり。俺にドジっ子属性があったとは知らなかった。
それにしてもだ、
「罵られて悦ぶ趣味はないので、ネタがないなら無理しなくてもいいぞ」
ちなみに俺は、キャンプはしない。
俺の言葉に女の口角が上がった。
「信号待ちをしていた時、何をしてたか覚えてるか?」
「!!!」
俺はスマホで動画を見ていた。75%の金を含んだ子供では見れない動画を。
「思いだしたか。そして貴様は仰向けに倒れ、死んだのだ」
「ま、まさか」
血の気が引いた。俺は仰向けに倒れたが、ただ一つ倒れなかったものがあったのだ。
それは俺が死んだ後も弁慶のように起ち続けたに違いない。
そしてそのまま死後硬直が……。
「貴様はテントを張っておったのだ。一人用の小さなテントを」
シュールな光景を想像し、恥ずかしさのあまり手で顔を覆った。
「恥ずかしさで死にたくなってきた」
「死んどる言ーとろーが!」
ナイスなツッコミに「テヘッ」と可愛く舌を出してみたが蔑んだ目で見られた。
「ちなみに動画はそのまま貴様の横で流れとったぞ。さすがに音は漏れてなかったがな」
音は漏れてないかもしれないが、人が倒れ意識を失ったとなれば、否が応でも注目されるだろう。
救護の人が、スマホに気付くだろう。
……。
これ以上の恥辱はない。
「穴が合ったら――」
「入りたいじゃエロ犬が」
俺の心が読めるのか、最後まで言う前に訂正される。
神様恐るべし。
「ところで神は何をしに来たんだ」
「様をつけんか無礼者」
自分が死んだことは理解した。では、目の前の女は本当に神なのか?
にわかには信じられないが、先程、考えていることを読まれた俺は、女の言うことを信じるしかなかった。
「貴様の今後を話にきたのだ。すっかり忘れとった」
「大事なことだろ! 忘れんなよ」
「貴様のせーだろーが!」
「ギャァー!!!」
神罰で痺れまくる俺は、許しを請うことしか出来なかった。




