日常 その15
「とりあえずこれは没収だ」
俺はガマ男が握っていたものを取り上げた。
「な、なにをするんだ。それはオレ様のものだぞ」
ガマ男は怒りを露わにそう言った。
俺が取り上げたもの。それは三角形の純白の布、そうパンツだ。ガマ男はタンスを漁り女性のパンツを嬉しそうに眺めていたのだ。
「お前のものなわけないだろう。この変態が」
女性のパンツが好きかと問われればもちろん大好きだ。だが、俺が好きなのはパンツそのものではない。パンツは履かれてこそパンツであり、スカートから遠慮がちに覗くそのしおらしさに、チラリズムに興奮するのだ。
「そんな態度をとっていると後悔するぞ。よく聞け、オレ様は勇者だぞ。勇者牙磨丸様だぞ」
ガマ男は立ち上がると、傲慢な態度でそう言った。
(やっぱりか……)
俺は心の中で溜息を吐いた。
『勇者』
世界を魔王の脅威から救うべく異世界から召喚されし者。
これまで何人もの勇者が召喚されては消えていった。消えては召喚され、召喚されては消える。そんなことをこの国は幾度となく繰り返している。
「ただのモブNPCは引っ込んでろ! 勇者が民家からアイテムを得るのは常識だぞ!」
恐らくコイツは俺のいた世界から来たのだろう。
突然異世界に召喚され、「あなたは勇者です」と言われ舞い上がる気持ちはわからなくもないが、完全にゲームの主人公になりきっている。
たまにこういった勇者が現れることがある。
まあ、ゲームみたいに民家を漁りたくなる気持ちもわからんでもない。
世界を救うために召喚されたというのに、渡されるのは僅かなお金のみ。一番安い装備を揃えるのがやっとの額だ。
そんな状態で城から追い出され魔物と戦わされる。
まるでゲームを思わせる始まりに、快適な冒険のために金策に走りたくもなるというものだ。
現にガマ勇者の武器は粗末な棍棒で防具は身の着けていない。
その棍棒だってちゃんと店で購入したのかすら怪しい。
なぜそう思うのか?
答えはガマ男が着ている服だ。
ピカピカ輝いている金色のオールインワン、見た目はアレだが下手な武具より高いだろう。逆にこんな服どこで見つけたのかと感心してしまうが、さすがは王都というべきか。
この服を買うのに殆どのお金を遣ったのではないかと考察したのだ。
だからといって盗みを働いていい理由にはならない。まして自分の性癖を満たすためなど論外だ。
『七法全書 怠惰の法 法を犯すほど頑張るな! 捕まればナニもできない』とあるように俺はエロでも犯罪者ではない。
しかし相手は仮にも勇者だ。国の存亡をかけ国王の命により召喚された勇者なのだ。
「勇者殿でしたか。失礼しました」
「わければいいんだ、このカスモブが」
俺が謙り頭を下げると、ガマ勇者は高圧的な態度でそう言った。
「勇者殿はお強いのでしょう?」
「当然だ」
「召喚される前は何か武術を?」
「なにも」
「ここに来るまでに魔物に遭遇しました?」
「いや、馬車で来たが魔物は出なかった。それでお金が尽きたんだ」
王都からハージマリまでは安全な道が開拓されているので、日中ならば魔物に襲われることはまずない。
「魔物が出たとしても勇者として選ばれたオレ様なら瞬殺だがな」
「そうですか……」
自然と口角が上がる。
確かに相手は勇者だ。
特別なスキルや魔法を扱う勇者は強い。
そう、経験を積みスキルや魔法を覚えれば……。
逆に言えば経験を積んでいない勇者はただの人だ。
ゲームに例えるなら目の前のガマ勇者は召喚されたばかりで何も覚えていないただのレベル1の男だ。
おまけに武術などの経験もない素人で、基礎能力も低いだろう。
本人は自分は特別だと思っているようだが、人を襲うような魔物と遭遇していたら瞬殺されていたのはガマ勇者の方だったであろう。
なぜそう言い切れるのか?
それは実際に俺が見てきたからだ。
ハージマリは召喚された勇者が最初に訪れる町だ。
過去に何人かの勇者と会ったことがある。現世での経験によって基礎能力に違いはあったが、最初からスキルや魔法を覚えている者はいなかった。
ジャンヌの暴力に耐えてきた俺は、一般人よりは強いとの自負がある。実際に魔物を倒した経験もある。
まあ、ここは勇者が最初に訪れる町だ。そこに出てくる魔物なんて強くはないのだが。
そんな魔物でも一般人にとっては恐怖だ。
ガマ勇者の戦闘力は一般人と大差ないだろう。
だとすれば俺の方が強い。
そう確信した俺は、ガマ勇者を睨み付けた。




