日常 その13
いつものように詰所でボ~っと、じゃない、真面目に仕事をしてるとドアがノックされ一人の女性が入ってきた。
「どうされました?」
俺はすぐさま女性に駆けより声をかける。
「ん?」
よく見ると、この女性には見覚えがあった。
そうだ!
以前マチオを訪ねて来た、ビンタ女だ。
「マチオならいないよ」
どうせ今回もマチオが目当てだろう。俺は訊かれる前にそう告げる。
ハージマリの近くに魔物が出たとかで、マチオは今、自警団の連中と見回り中だ。
自警団とは、俺やマチオのような正規兵ではなく、集落の住人で結成された組織だ。
正規兵のいない集落では自警団が魔物や野盗からの防衛や治安の維持を担っている。
だが、言ってもまともな訓練などしたことがないただの村人だ。
装備もお粗末で、戦闘力も気休め程度だ。魔物退治なら近くの町の代官に派兵してもらうよう陳情するか、金はかかるがハンターに頼んだ方が確実だ。
俺たちはジャンヌの従者だが、ハージマリを守る騎士でもある。
ハージマリを任されているのはジャンヌである。いうなればハージマリはジャンヌの町だ。
ジャンヌの町を俺たちが守るのは当然なのだ。
そんな俺たちが赴任した後も自警団は解散することはなく活動している。
如何せん俺とマチオだけでは手が足りないのだ。
これは珍しいことではなく他の町にも自警団は存在する。自警団は町の住人で結成されているため、町の事に詳しく情報も早い。
そんな自警団は正規兵にとって便利な道具なのだ。他に都市や町には地方兵が存在する。これは国から派兵される正規兵とは違い、その都市や町が雇っている兵士だ。
地方兵は元ハンターや腕に覚えのある傭兵などが在籍し、地方兵もまた自警団を見下しており、命令はすれど一緒に何かをするなんてありえない。
だが、ハージマリでは違う。
ジャンヌは俺たちが使っている詰所の使用も許可し、今日のように一緒に活動することもある。
そのうえジャンヌは希望者に剣を教えると言い出した。
羨ましいことに教えているのはマチオだ。
俺とジャンヌの訓練を見た自警団のメンバーは、当初誰一人訓練を希望しなかった。しかし、マチオが教えることを知ると、現金な彼らは先を競い訓練を希望した。
マチオに教えられた自警団の腕は見る見るうちに上がり、マチオは「先生」と呼ばれ慕われている。
そんなマチオとは対照的に、きっと俺は可哀想な者として見られているのだろう。
優しいマチオは「モーブのタフさは絶対に真似できない」と、みんな感心していたと言っていたが、本心ではなぜ俺みたいな平民の弱い奴が正規兵なのかと思っているのだろう。
(剣は駄目でもこれがあるさ)
俺は腰のバッグに手を当て、沢山入っている戦利品の感触をバッグ越しに味わいながら気を持ち直した。
「違うんです」
「?」
言葉の意味がわからず ? を浮かべる俺に女性は説明を続ける。
「今日はマチオさんに会いに来たわけじゃなく――」
「俺に会いに来たのですね!」
彼女はマチオにではなく俺に会いに来たのだ。
好意を寄せられていることを知ると、それまで何とも思わなかった相手でも意識してしまうものだ。
先日俺に誘われ、彼女は会いに来るくらい、俺の事が気になりだしたのだ。
つまり、あのビンタは照れ隠しだったのだ。
「俺はいつでも準備万端ですよ! さ、仮眠室へ」
「違います!」
デジャブ
パチーンと乾いた音が響き、熱を帯びた頬がヒリヒリする。
俺は意味がわからず呆然とした。
俺に惚れているのは間違いない。
それなのに「違う」とは何が違うのか?
「わたしの家に――」
(そういうことか!)
彼女は自分の家に誘っていたのだ。
たしかにここでは誰が来るかわからない。
俺も人に見せて悦ぶ趣味も、見られて興奮する性癖も持ち合わせていない。隊長にでもバレようものなら命の危険すらある。
「わかりました。すぐに行きましょう」
希望を受け入れ一緒に彼女の家に向かった。




