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転生者モーブ・キャラダの平凡な日常  作者: name


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日常 その11

 次の日、約束通り俺とスネカジオの模擬戦が行われた。行われたのだが、思いのほか多いギャラリーに困惑する。

 所属する小隊だけではなく、他の隊の隊員の姿もあった。

 何故こんなに注目を集めているのか不思議だったが、「目障りな平民を叩きのめすから見に来い」とスネカジオが触れ回ったのが原因だった。


「こんな貧相な剣など使えるか」

 訓練用の木剣が不満だったのか、スネカジオは装飾の施された木剣を取り巻きから受け取った。


「剣のせいで負けたと言われてはかなわんから、平民にも特別に使わせてやろう」

 スネカジオの言葉に取り巻きの一人が俺に近づき同じ木剣を俺に差し出す。

 ジャンヌを見ると無言で頷いたため、木剣を手に取った。

 それにしても高そうな剣だ。

 たかが木剣にこんなに金をかけるとは、金持ちの考えることはわからない。

 そんなことを考えていた俺は気付かなかった。木剣を受け取った時、取り巻きの口角が上がっていたことに。


「はじめ!」

 開始の合図とともにスネカジオが剣を振り回し猛然と突っ込んできた。

 俺は冷静に振り回される剣を払い攻撃を凌ぐ。

 力任せの攻撃は、ジャンヌやマチオと違い基本が出来ていないため、剣速は遅く力も伝わっていなかった。

 だが、気を抜くことはできない。

 めちゃくちゃな動きというのは逆に予測ができないからだ。


「その時は私も一緒に騎士団を辞めてやる」


 ジャンヌはそう言ったが、俺とジャンヌでは立場が違う。

 ジャンヌは貴族だ。騎士団を辞めても野垂れ死ぬことはないだろう。

 だが、俺は……。

 貴族に睨まれ、平民の俺が生きていける場所などこの国にはない。

 ジャンヌくらい強ければ傭兵や冒険者など、権力など関係なしに自由に生きる道もあるだろう。しかし俺程度では到底無理だ。


 だから俺は決めたのだ。『亀になる』と。


『亀になる』とは俺が考えた作戦だ。

 勝ってもろくなことにはならないが、わざと負けるにしても演技力に自信がない。

 そこで考えたのが防御に徹し、引き分けを狙うことだ。

 引き分けと言ってもこちらは防戦一方、事実上、判定負けだ。

 試合時間がどれだけかは知らんが、永遠に戦わせることはないはずだ。

 とにかくそれまで耐え抜くしかない。


(あれ?)

 開始から数分が過ぎ、防御に徹していた俺は異変を感じていた。

 スネカジオ動きがおかしいのだ。

 体調でも悪いのか、呼吸が乱れ肩で息をしている。動きも緩慢になり攻撃にも力がない。


「大丈夫か?」

 もしかしたら持病でも持っているのかもしれないと心配になり声をかけた。

 心配と言ってもスネカジオの心配ではない。

 男がどうなろうが知ったことではないが、もしも大変な病気も持っていて死なれでもしたら、戦っていた俺のせいにされねないからだ。


「ハァハァ、余裕かましやがって、ハァ、かかって来いよ」

 俺を挑発するスネカジオだが、息も切れ切れで、どう見ても辛そうだ。


(まさか……)


 俺は理解した。

 攻め疲れたスネカジオは逆に俺に攻めさせ休みたいのだと。

 ボクシングでも体力を回復するため防御に徹することがあるらしい。スネカジオも同じなのだと。


 ならば俺のやることは一つ、スネカジオが捌きやすい攻撃をすることだ。


「うぉぉぉー」

 叫びながら剣を振上げ突進する。

 このまま真っ直ぐ剣を振り下ろすだけなら、さすがにスネカジオも防ぐだろう。

「あっ!」


 もう少しで間合に入るというところで足が滑った。

 前のめりになった体とともに振上げていた剣も一緒に振り下ろされる。

 間合いに入っていなかった俺の剣はスネカジオに届くことなく、地面に叩きつけられた。


「※☆▼◇」


 声にならぬ大声が響き渡る。


 何事かと顔を上げると、膝を立て前のめりに倒れたスネカジオが悶絶していた。

 傍には折れた木剣が転がっている。

 俺は反射的に自分の剣を見た。

 木剣は半分から先が見事になくなっている。


 折れた木剣。


 股間を押え悶え苦しむスネカジオ。


 これから導き出される答えは一つ……。


 勢いよく叩きつられた木剣は、その衝撃に耐え切れず折れてしまっということだ。


 折れた剣は反動で跳ね上がり目の前にいたスネカジオに当たった。


 そして……。


 スネカジオのムスコを勢いよくかち上げたのだ。


「すまんな……」

 男として思わず謝ってしまう。

 不幸な事故とはいえ、スネカジオの味わった苦しみが容易に想像できたからだ。


 しかし、俺の言葉が届くことはなかった。

 スネカジオの意識は既になく、白目を剥いて気絶していたからだ。


 実はこの事故は仕組まれていた。

 俺の木剣は折れるように細工がされていたのだ。

 とはいえ犯人はこの結果を想定していたわけではない。なぜなら、犯人はスネカジオを勝たせるために仕組んだからだ。


 俺に木剣を渡したとき取り巻きは笑っていた。そう、犯人はスネカジオの取り巻きたちだ。

 大方スネカジオの攻撃で剣が折れ、俺が負ける筋書きだったのだろう。

 だが、予想に反し剣は折れなかった。俺の捌きが上手かったのか、スネカジオの攻撃がへなちょこだったのか、たぶん後者だろうが、予想に反して剣は折れなかった。

 多少想定とは違うが、このまま続ければ、そのうち俺の剣は折れ、スネカジオが勝つと高を括っていたに違いない。

 しかし結果ご覧の通り、折れた剣はスネカジオの股間にヒットし、スネカジオの顔に貴族の威厳などなく、白目を剥き、涙、鼻水、涎の大洪水だ。


「これは事故だ。使えなくなっても恨むなよ」

 男として痛みがわかる俺は、思わずそう言った。


「プッ」


 観戦者の一人が我慢できずに吹き出すと、それを皮切りに笑い声が響いた。


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