日常 その9
俺と同じ従騎士にスネカジオ・クズデスという奴がいた。
公爵の息子であるスネカジオは、常に取り巻きを従えており、親の権力を笠に従騎士でありながら騎士すら顎で使う我儘令息であった。
だが、ここにはスネカジオの思い通りにならない相手がいた。
それがジャンヌだ。
ジャンヌの容姿を気に入ったスネカジオは、自分のものにしようと家名まで出し言い寄ったが、まるで相手にされなかったばかりか、訓練でも特別扱いされず他の従騎士同様に扱われた。
好意が憎悪に変わるのは一瞬だった。好意を無下にしたばかりか、爵位の高い公爵家の自分を特別扱いしないジャンヌを憎悪した。
もちろんジャンヌが連れてきた俺を快く思うはずがなかった。しかも平民だ。お貴族様からすれば当然だろう。
ジャンヌの手前、表立ったことは出来なかったが、陰では様々な嫌がらせを受けた。
スネカジオは公爵家の子息だ、これまでも歯向かう者などいなかっただろうし、まして殴り合いの喧嘩なんてしたことがないだろう。
甘やかされて育ったスネカジオは見た目にも強そうとはいえず、俺でも勝てる気もしたが、取り巻きまがいては無理だ。
それに平民の俺が貴族を殴れば、それこそ首が飛びかねない。
ムカつかなかったといえば嘘になるが、前世の記憶を取り戻した俺は奴らとは人生経験が違う。
前世ではブラックな企業に勤め、上司のパワハラに内心はムカつきながらも笑顔を浮かべやり過ごしてきた俺には、スネカジオの嫌がらせなど所詮は子供のいたずらだった。
その日も、訓練でボロボロになった俺を見てスネカジオが絡んできた。
子供は好きな相手に意地悪をするという。毎日のように絡んでくるスネカジオを、最近では「俺のことが好きなのでは?」と、絡まれるたび恐怖を感じていた。
さすがに「夜、俺の部屋に来い」など言われた日には、命を懸けて拒絶するか、命の為に初めてを差し出すか悩みどころだ。
『七法全書 暴食の法 何でも喰らえ。見た目で味を判断するな、喰わず嫌いは損をする』とあるが、これは違う気がする。第一、喰うより喰われる確率が高い。新たな発見があるかもしれないが、そんな探究心はいらない。
俺を一通り罵ったスネカジオは「オレ様が稽古をつけてやろうか?」と蔑むように言ってきた。
馬鹿にしたかっただけで本気ではなかっただろうし、俺も男と一緒に稽古などまっぴらごめんと丁重にお断りしようとしたその時だった。
「モーブでは役不足だ」
声の主は、たまたま通りかかったジャンヌだった。
「わかっているではないか。オレ様の実力からして、この平民では役不足だ」と満足そうに笑うスネカジオは頭も悪かった。
取り巻きの一人が言いにくそうに耳打ちすると、ご機嫌だったスネカジオの顔は、怒りで茹で蛸のように真っ赤になった。




