日常 その8
ジャンヌの推薦で俺は王国騎士団員となった。
もっとも騎士ではなく従騎士と呼ばれる見習いの雑用係だ。
誰しも従騎士を経て騎士になるのだが、そこで騎士としての心・技・体を叩きこまれる。……。というのは昔の話で、現在はそれほど厳しくはない。
昭和の教育が通用しない前世と同じだ。
だが、ジャンヌの指導は違った。
ジャンヌの指導は厳しく、そして平等だった。
騎士だろうと従騎士だろうと、爵位が高かろうが低かろうが関係なく、部下に対して平等に厳しかった。
周りは貴族ばかり、平民の俺が騎士なんて歓迎されるはずもなく、他の従騎士からも仕事も押し付けられた。
そんな中でマチオだけが俺を邪険にせず、気さくに話しかけてくれたうえ「大変だね」と仕事も手伝ってくれた。
ジャンヌとマチオはシユウレイン貴族学院の先輩後輩にあたる。
当時からジャンヌの強さは有名で『シユウレインの鬼姫』と呼ばれ、武芸大会では負けなしだったそうだ。
ジャンヌの戦いに感銘を受けたマチオは、ジャンヌに師事し剣技を教わった。
マチオが騎士になったのもジャンヌの影響が大きい。マチオは師匠であるジャンヌを崇敬しているのだ。
俺も今、ジャンヌの指導を受けているが、あれを受けて崇敬するとはマチオのMはマゾヒストのMなのだと確信した。
ジャンヌに鍛えられたマチオは小隊の中でジャンヌの次に腕が立つ。しかし、男爵家の三男であるマチオは、他の騎士より階級が低く訓練では本気を出せない。その証拠にマチオは相手の攻撃を捌いてばかりで、相手に攻撃をしている姿を見たことがない。これが階級社会の現実だ。
腕が立つうえ顔もいい。おまけに俺のような平民にでも分け隔てなく接する性格だ。そんな非の打ちどころのないマチオを慕うものもいるが、快く思わない者も多い。
面子にこだわる貴族にとって、マチオは俺とは別の意味で目障りな存在なのだ。
だが、ここでマチオ以上に疎まれている者がいる。
それがジャンヌだ。
ジャンヌは任務の度に功績をあげ、入隊から僅か1年余りで小隊長となった。
そんなジャンヌの部下は年上の者ばかりだ。
貴族というのはプライドだけは高い連中だ。年下で経験も浅く、しかも女性に従うのはプライドが許さないのは当然の反応だろう。
小隊長になった当初、そのような理由でジャンヌに従おうとする者はいなかったという。それをジャンヌは教育という名の暴力で部下を従わせた。騎士団において上官の命令は絶対なのだ。
女性だろうが、経験がなかろうがジャンヌは強い。隊の中にジャンヌに敵う者はおらず、彼らは従う以外なにもできなかった。
先日の事件も、訓練が厳しいうえ、爵位に関係なく部下を平等に扱うジャンヌに恨みを持った部下が起こしたものだった。
だが、俺が来たことで事情が変わった。
ジャンヌのしごきが俺に集中したのだ。
これに俺を快く思わない者は喜び、連日ボロボロになる俺を見て「平民にはお似合いだ」と蔑まれた。
奴らにとってはジャンヌのしごきから解放されたうえ、目障りな俺がボロボロにされるのだ。いくらか溜飲も下がったことだろう。
ジャンヌが俺をここに連れてきた理由。
いくら頑張っても平民の俺が騎士になることはない。
そんな俺をなぜジャンヌは従騎士にしたのか?
答えは簡単だ。
俺はスケープゴートとして雇われたのだ。
そういう意味では俺も役に立っていたといえる。
ジャンヌは息子が他の者と平等に扱われることに不満を持った大貴族からクレームが入り、さらに先の事件も指導に問題があると叱責された腹いせに俺をいたぶっているとの噂を耳にした。
この世界は階級社会、権力を持つ大貴族様なら騎士といえども無下にはできないだろうし、十分あり得ることだ。
前世でもモンスターペアレントは問題になっていたが、この世界でも同じのようだ。
息子が可愛いのか家名が大切なだけなのか、はたまたその両方かはわからないが、俺なら子供の職場にクレームを言いに来る親なんて御免だ。
ムスコがモンスターなら嬉しいが、親がモンスターでも嬉しくはない。
噂の真相は定かではなく、腹いせかどうかは別としても、俺をいたぶっているという部分は本当である。それも嬉々として……。
マチオがマゾヒストならジャンヌはサディスト(俺に対しては特に)である。
案外二人の相性は良いのかもしれないと俺は思ったのであった。




