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転生者モーブ・キャラダの平凡な日常  作者: name


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日常 その6

「まったく昨日は酷い目に遭ったぜ」

 詰所に入るなり悪態を吐く。

 あれから俺は動けなくなるまで隊長に扱かれた。おかげで今日は体中が痛い。

 ジャンヌ・オニール。顔は最高だが性格が鬼畜の上官だ。


 彼女との出会いは4年前、故郷を離れ1年余り17歳の俺は定職に就くべく仕事を探していた。

 前世では17といえば、まだ子供で親の庇護下にあるが、この世界では違う。

 貴族など富裕層の中には遊びほうけている者もいるが、俺のような貧しい家に生まれた子供は、幼いころから家の手伝いを強いられ、15ともなれば定職に就いているのが普通だ。

 俺の故郷ウマレタには鉱山があり昔は賑わっていたそうだが、近年は採掘量が減り、ひとり、またひとりと住人が去り、今では見る影もないほど廃れている。

 それでもウマレタにとっては鉱山が一番の収入源であることには変わりなく、住民の殆どは鉱山で働くいており、例に漏れず俺の父親も坑夫だった。

 職や夢を求め若者がウマレタから出ていく中、父は15歳になった俺に「やりたいことはあるのか?」と訊いた。

 素直だった俺は正直に「ヒモになりたい」と答えた。


 その瞬間、父は怒り、母は泣いていた。


 怒った父は「性根を叩き直してやる」と俺は強制的に抗夫として働くこととなったが、1年も経たず逃げ出した。ただ単に抗夫を辞めたわけではなく、文字通り家から、ウマレタから逃げ出したのだ。

 重労働が原因ではない。まあ嫌ではあったが、我慢できないほどではなかった。

 逃げ出した原因は労働環境だ。労働環境が最悪で俺は耐えることができなかった。

 職場に女性がいなかったのだ。

 周りはガタイのいいオッサンばかり、閉鎖された鉱山でそんな奴らに囲まれての仕事は耐え難く俺は逃げ出したのだ。


 夢を追いかけるなら大都会と王都にやってきた俺だったが、現実は厳しかった。

 確かに仕事は沢山あったが、手に職も無ければ学も無い俺は面接で尽く断られた。

 今となって思えば、志望動機を訊かれた際「女性が多そうだから」と答えたのがマズかったのかもしれないが。

 当時の俺はまだ若かったのだ。

 生まれや身分も関係なく実力次第で大金を稼げるハンターという道もあったが、ツルハシくらいしか握ったことのない俺ではすぐ死ぬのは目に見えていたので初めから選択肢にはなかった。


 それでも王都だ。選ばなければ仕事はある。俺は日雇いの仕事をし、空いた時間は街で夢に向かって邁進した。

 しかし努力の成果が出ることはなく、ただ時間だけが過ぎていった。定職をもたず、稼ぎの少ない俺を相手にしてくれる女性は皆無で、今更ながら俺はモテるためにも本気で就活しようと心に決めた。


 その日も就活やナンパに惨敗し、意気消沈しフラフラ歩いていた俺は、気付けば知らない場所に来ていた。

 周りは高級そうな店が並び道行く人も高級な服に身を包んでいた。

「ヤバい」

 知らぬ間に貴族街に入っていたと気付いた俺は急ぎ踵を返そうとしたその時、ひとりの女性に目を奪われた。

 貴族の令嬢なのだろう。身形の良いその女性は、絹のような金色の髪に、吸い込まれそうな瑠璃色の瞳の整った容貌に加え、引き締まった体はメリハリがつき、色気も感じさせた。

 その容姿はまさに美の女神そのものだった。

 俺の田舎じゃ、というか王都でもこんな美人お目にかかったことはなかった。俺は相手が貴族だということも忘れ、この女神とお近づきになりたいと初めて心から神に祈った。

 すると奇跡が起きた。なんと彼女のポケットからハンカチが落ちたのだ。

「お嬢さーん」

 俺は金メダルでも取れそうなほどの速さでハンカチを拾い、女性に声をかけたところである考えが浮かんだ。


「うわっ!」

 女性が振り返った瞬間、俺は躓いたふりをした。そしてそのまま女性に抱きつこうとしたのだ。

 落とし物を拾ってくれた親切な人、しかも不可抗力だ。さすがに処罰されることはないだろう。いや、この女神に抱きついてあわよくばあの柔らかそうな双丘の感触を味わえるのなら殺されても本望だとさえ当時は思った。

 だが俺は気付いてなかった。勢いのまま女性に抱きつこうとする俺とは別に、女性に駆け寄る別の影があったことを。

「うっ!」

 横から駆け込んできたその男とぶつかり、衝撃とともに脇腹に焼けるような痛みが走る。

 痛い、とにかく痛い。脇腹に触れた手に生温かい液体が絡む。


「なんじゃコリャ!?」

 確認しようと近づけた手は赤く染まっていた。

 何が起こったか理解できない。いやそうじゃない、頭が理解することを拒否しているのだ。


(あれ?)


 体から力が抜け、景色が歪み意識も朦朧とする。


「おい! しっかりしろ」

「あ、あ、あ、」

 せっかくこんな美人が話しかけているのに、俺は言葉を返すこともできないばかりが、眺めていたい女性の顔もよくわからない。


 俺の気持ちとは裏腹に、女性の声は小さくなり俺の意識は完全に闇に落ちていった。

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