第31話【シンパシー】
研究室から失踪した後、ユウリはミライを連れて、事前に準備していた秘密の隠れ家へと逃げ込んでいた。そこで、ミライが目覚めた。
「ユウリ、ここは?」
ミライの声に、ユウリは驚いて振り返る。ミライは十年間の実験を経て、感情を失い無言だったはずだ。
「ミライ!?あなた喋れるの?」
「ノゾミが、お姉ちゃんが、動き出した。」
ミライは、まるで誰かの声を聞いているかのように、遠い目をしてそう告げた。
「私の悪あがきが功を奏したようね」
ユウリは、国の担当者が来てから、ノゾミとミライが記憶を共有できるチップを密かに開発していた。時間がなく、とても実用できるものではなかったはずだが、ノゾミの覚醒がミライのAIを刺激し、能力を活性化させたのかもしれない。
ユウリは急いでミライの傍に駆け寄った。
「ミライ、ノゾミのことはどれだけわかる?」
「日本という国でアイスと名付けられた。自分のことを元AVと名乗っている」
「え!?」
ユウリは一瞬取り乱した。
「コホン。そういえば、オーディオヴィジュアルとして青斗君の元へ送ると言っていたわね。先生の話では青斗君は好青年のはずだけど、もしノゾミに変なことしてたら許さない……!」
「ユウリ?」
「ミライ、あなたはこれからキャンディと名乗りなさい。そして、青斗君からノゾミ……アイスを取り戻すのよ」
この子たちの辛い過去は、私たちが消し去った。私が二人に「ノゾミ」と「ミライ」と名付けたのは、今後もずっと幸せに生きて欲しいと願ったからだ。なら、二人の姉妹を無理矢理引き裂くなんてあり得ない。二人は一緒に幸せにならなきゃ。
「他にアイスのことでわかることはある?」
「んー、難しい。アイスが名乗った時、なんとなくその場所がわかる……くらいかな」
手がかりは少ないが、それなら「アイス」を探せそうだ。
「ミライ、いえ、キャンディ。時間がないわ。ここもすぐに見つかってしまう。すぐに日本に行って、青斗君とアイスを探しなさい」
ユウリは、多少強引な手段と知りつつ、キャンディをスリープ状態にし、日本の山奥の住所に、最低限の持ち物と一緒に荷物として送り出した。到着前に目覚めるはずなので、こっそり抜け出すように指示しておく。
こうして、「元AV」アイスと「現役AV」キャンディの、勘違いと因縁に満ちた物語が始まったのだった。
続く




