第2話【思い出は遠く】
燃え盛る家から遠ざかり、俺はなんとか彼女を連れて人目のない路地裏まで逃げ込んだ。
「元AV妹って一体なんなんだよ?」
俺が小声で抗議すると、彼女は首をかしげた。
「え?だって『おまかせモード』で設定されたんです。私の名前は『元AV』」
「『AV』じゃなくて、『A』と『V』って、アルファベットだよ!オーディオ・ビジュアル機器の『AV』!」
「あ、そうなの?」
俺は天を仰いだ。この完璧なアンドロイドは、一体どこで「おまかせ設定」を間違えたんだ……?
そんなことを考えていると、ふと、幼い頃の記憶が蘇ってきた。
父は有名な科学者で、母は俺を出産後すぐに他界した。それなりに資産家だった父は、愛情を注ぎながらも、研究に没頭して家を空けることが多かった。
俺は寂しさを紛らわすように、誕生日に欲しいものを聞かれるたびに、いつも同じ答えを返していた。
「妹がほしい」
最初は笑っていた父も、次第に真剣な表情になっていった。
「ごめんな、それはパパには作れないんだ」
父のその言葉に、俺はいつしか妹を持つことを諦めるようになった。しかし父は諦めていなかった。まるで、俺の願いを叶えるかのように、人工知能AIの研究に没頭していったのだ。
そして、ついに完成させたのが、この「IMOUTO」のプロトタイプだった。
「これは試験運用だ。おまえにしかできない大切な仕事だ」
そう言って、父は俺にこのアンドロイドを託した。まさかそれが、こんな事態を引き起こすとは、夢にも思っていなかった。
今、俺の腕の中にいるこの彼女は、紛れもなく、俺がずっと欲しがっていた「妹」だ。だが、それはもう、アンドロイドではなかった。
冷たい路地裏の風が吹き抜け、彼女は少しだけ体を震わせた。
「お兄ちゃん、寒い?」
その言葉に、俺ははっとした。アンドロイドだった彼女には、体温もなければ、寒さを感じることもなかったはずだ。
「……なぁ、本当に、おまえは人間になったのか?」
俺の問いに、彼女はそっと俺の腕から離れ、少し照れくさそうに微笑んだ。その表情は、まるで本物の少女のように、温かかった。
「はい、私はもう、お兄ちゃんの本当の妹ですから」
そうして、俺たちの奇妙な共同生活が始まった。
続く




