デート
駅の校舎に彼女は待っていた。
赤いジャケットを着ていて、しかも金髪だからかなり目立つ。
「よぉ。俺。坂本だけど」
驚かせないように声をかけると歩美が頷いた。
「よっすー」
「よ、よっすー?」
「あ、あれ」
歩美が困り眉をした。どうやら渾身のギャグをしたらしいが俺に不発だった。
「せ、精一杯のギャルっぽい挨拶をしたんだけど……」
「多分、ギャルというよりヤンキーだわ。それ」
「えっ、ギャルとヤンキーって同義語じゃないの」
「その認識は各方面に怒られると思うから気を付けような」
「えっと、じゃあ次は」
あたふたとしたあとに、今度は逆さピースをしてきた。次は俺の方が困り眉をしてしまった。いや、しかめ面か。
「どうしてそんなにギャルに寄せようとしてるんだよ」
「だって……」
少しもじもじとしたあとに答えた。
「坂本君の好きな女の子になりたいんだもん」
俺はもう泣きそうだった。
歩美は盲目だが、容姿は端正でとにかく可愛い。
そんな女子が俺好みの女の子になりたいだなんて。
夢のまた夢。夢想郷とはこのことを言うのではないだろうか。
「じゃあ、行こうか。あっ、いつも白杖どっちの手で突いているんだ?」
「えっ、右手だけど……」
「だよな。じゃあ左手を繋がせてもらう。ほら、その、恋人だし。手ぐらい繋ぎたいじゃん」
「うっ、うん」
歩美は俯きざまにも頬を照らしていた。
それから電車に乗る。
「そう言えば、ショッピングって歩美はなにか欲しいものがあるのか?」
「え、えっとーアニメのタペストリーとか、キャラクターのコップとか」
そうだった。こいつイモだった。
妖艶な金髪美少女に変身していたから、最近忘れていたけど……
「あのね、最近は副音声でアニメが放送されるから視覚障がいでも見れるんだよ」
「そうなんだ」
そうやって普通の生活を送ることが困難な人が、趣味を謳歌出来るのは素晴らしい限りだ。
池袋―、池袋―、と電車が目的の駅に着いた。それを聞いたので俺は彼女を先導しながら車内から降りた。
そして駅前の大型ショッピングモールに入り、併設されているアニメイトへと向かった。
「俺、アニメイトは初めて来るなぁ」
「あっ、そうなの」
「うん」
某なろう系MMORPGのゲームアニメとか、すっごいエッチなタペストリーとかが悠然と並べられている。
「すごいな。でもさ、タペストリーとか視覚情報じゃん。その、買う意味あるのかな?」
言ったあと、自分の失言に気付いた。
買うとか買わないとか、そんなの個人の自由じゃないか。
それを、俺ごときが決めつけて。何様のつもりなんだよ。
そうしたら歩美は意志のこもっている表情でこちらを見つめてきた。
「――たとえ目が見えなくてタペストリーの春麗な絵を見れなくてもいい。それでも普通の人と同じようにオタクの趣味を満喫したいんですよ」
俺はハッとして彼女の顔を見た。そしたらニコッと微笑んでくれる。
「一緒のアニメキャラのコップ買いませんか?」
見た目はギャルの恰好をしていても、性格は相も変わらずオタクでイモだ。
だからこそ、俺は彼女のことを好きになったのかもしれない。




