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5話 圧迫面接

 優しげな試験官からバトンタッチしたその人は、黒目黒髪で厳しい雰囲気で、視線は鋭すぎて目を合わせたら石になりそうだった。


 「同級生と喧嘩をしたら、その後どうする?」

 「謝ります」

 「自分は悪くないと思っていてもか?」

 「喧嘩になってしまったなら仲直りのために謝ります」

 「客観的に見ても君の方が正しくてもか?」


 男は深く突っ込んでくる。


 (この人ね。さっきの子をガクガクブルブルにしたのは)


 幼児がこんな詰められかたをしたら怖くて泣いてしまうのも当然だ。


 「他から見て正しいか正しくないかは必要ないです。お互いにモヤモヤが残るなら話し合います」

 「それでも着地点がなかったら?」

 「うーーん、一旦話はやめて美味しいものでも食べる……? 食べます」


 この問いには答えが用意されているわけではない。この問答を通して受験者の思考力や考え方を見ているのだ。 


 「なるほど、わかった。では最後に聞く。君は自分を天才だと思うか?」


 この質問にはアンジェラも面食らった。

 両隣に座っているアンジェイとマリアナも隠しきれない動揺が伝わってくる。


 「今は同じくらいの他の子より出来ることが多いと思います。けど大人になったらみんなと同じになるんじゃないか、と思っています」

 「同じに? どうして」

 「みんなも勉強して賢くなるからです」

 「ふむ……なるほどな。では最後に聞く。君はこの面接を怖く、もしくは厳しく感じただろう。それはここでの学校生活でも同じだ。なぜ厳しくすると思う?」


 アンジェラには分からなかった。

 前世の記憶も『アドバイスの声』も都合よく知りたいことを教えてくれるわけではなかった。


 「分かりません」

 「考えてみろ」


 ギブアップは許されなかった。

 黒髪の教師はアンジェラの能力を見定めたいのだ。


 アンジェイとマリアナはアンジェラだと見破られるのではないかと冷や汗をかきまくっていた。主に背中と脇に。顔から出さないのは貴族の矜持だ。


 アンジェラは改めて考えた。


 (厳しくする理由……。楽しいから、じゃないわよね。学校の方針だから?)


 神童と名高くともまだ5歳。考えは浅く狭い。


 「厳しくするように、と校長先生がおっしゃるから……でしょうか?」

 「まぁ校長先生、ひいては我が校がそのような方針であるのは確かだ。ただ、それには理由がある。我が校に入学するのは9割が貴族。平民はだった1割だ。その1割の半数以上は特別な才能を認められ奨学生として中途入学する。つまり、この学校に入るほとんどの生徒が何に不自由することもなくヨチヨチと家で可愛がられ、まだ何の能力もないのに貴族男子としてのプライドだけはある。そんな子供の鼻っ柱を早々に折ってしまおうというのがこの面接であり、我が校の方針だ。なぜそうするか分かるか?」


 試験官の説明は幼児向けに噛み砕かれていない小難い言葉だったが、アンジェラには理解できた。


 「……分かりません」


 それでもなぜそうするか、までは思いつかない。


 「能力より先にプライドがくるような人間は人様の役に立たないからだ。プライドは努力に裏打ちされていなければならない。でなければ有事に国や民は守れん。この学校の卒業生はすべからく国を率いる立場になる者たちだ。我々教師陣には正しき指導者を育成し輩出する責務があるのだ」


 難しい言葉を多用されながらも、アンジェラは理解した。そして少し悲しくなった。


 (私がここで学ぶ意味はないのかしら……)


 アンジェラはアンドリューが復学するまでの身代わりで、この学校で学んだとて将来の道は一つだけ。


 家のために結婚し子供を産む。


 そこにはアンジェラ自身の能力はおろか物事を考えることさえも必要とされない。


 (私は卒業さえ出来ないかもしれないけれど、この学校に通えるあいだは好きなだけ勉強するわ!)


 アンジェラは前向きだった。


 入試に落ちる可能性は考えていなかった。

 当然、受かったのだが。

 この日から2週間後。アランドル家にエイルズベリー校の合格通知が届けられた。


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