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身代わり伯爵令嬢はパブリック・スクールで奮闘する  作者: キシバマユ
最終学年編

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37話 投票結果

 深夜0時を過ぎた生徒会室には、重たい静寂が張りつめていた。

 時計の針の音が、やけに大きく響く。


 机の上には、開票箱がひとつ。

 その中には、白い投票用紙がぎっしりと詰まっている。


 生徒会メンバー6人が、それぞれの席に着いていた。

 アンジェラ、エリオット、ルーシーの3人は、少し離れたソファに腰を下ろしている。


 「──始めよう」


 生徒会書記係の低い声が室内を震わせた。

 会計係がうなずき、箱の鍵を開ける。

 カチャリと南京錠が回る音が、やけに鋭く響いた。


 投票用紙が1枚、また1枚と取り出されていく。

 二人一組のペアが、票を読み上げ、確認し、積み上げる。

 その手つきは真剣で慎重だった。

 一つの票に宿る重みを、誰もが痛いほど理解していた。


 「──“認める”」

 「“認めない”」


 淡々と告げられる判定の声。

 だが、ひとつひとつの言葉が心臓に突き刺さるように響く。


 アンジェラは無言のまま、まんじりともせず座っていた。

 エリオットは腕を組み、じっと票の束を見つめている。

 ルーシーは唇を噛みしめ、時折小さく祈るように目を閉じた。


 やがて、積まれた票の山が少しずつ高さを変えていく。

 “認める”の山と、“認めない”の山が3つずつ出来上がる。

 パッと見ではどちらが優勢か判別がつかない。


 「……次」


 書記係が小さく呟く。

 緊張の糸がピンと張りつめた。

 また一つ用紙が開かれ、担当の生徒が読み上げる。


 「……“認める”」


 ルーシーの肩が微かに震えた。

 だが次の票は──


 「“認めない”」


 再び静寂。

 誰も言葉を発さない。

 空調の風がカーテンをわずかに揺らし、紙の端が擦れる音がした。


 「残り、10枚です」


 書記の報告に、全員の視線が一斉に箱へ向かう。

 その瞬間、誰かが小さく唾を飲み込む音がした。


 「……続けて」


 9枚目、8枚目これ─結果は拮抗したまま。

 ルーシーの拳が膝の上で強く握りしめられる。

 エリオットの眉間には深い皺が刻まれ、口元がわずかに動く。

 何か言いかけて、飲み込んだ。


 「……残り3枚」


 アンジェラは目を閉じた。


 脳裏に、12年間の記憶がよぎる。

 寮の朝、みんなを起こして回るベルの音。

 初めて取った満点の答案。

 勉強を教えて欲しいと頼られ、テスト前は連日談話室で格闘した。


 ──これで終わっても、悔いはない。


 最後の1枚が、ゆっくりと開かれる。

 紙が擦れる音が、まるで世界の終わりのように響いた。

 読み上げる生徒の手が、わずかに震えている。


 「……“認める”」


 空気が弾けたように、ルーシーが小さく息を漏らす。

 書記係が即座に集計を確認し、全員の視線が一点に集まった。


 「結果を発表します」


 その言葉に、誰も呼吸をしていないかのようだった。

 まるで、時間そのものが止まってしまったかのように。


 書記が読み上げた。


 「全校生徒562名中──

 “認める” 352票。

 “認めない” 162票。

 “白票” 48票。」


 一瞬の静寂。

 そして次の瞬間、爆発するような歓声が生徒会室の外から巻き起こった。


 「やったあああ!」

 「アンジェラ! アンジェラ!」


 誰かが名前を叫ぶ。

 その声は波のように広がり、部屋全体が震えたようにさえ感じた。


 アンジェラは立ち上がろうとしたが、膝が震えてうまく立てず崩れ落ちようとするのをエリオットとルーシーが抱きとめた。


 「やったのよ……! 本当に……!」


 耳元でルーシーの泣き笑いの声が震える。


 「よかった……!! 認められたんだ!!」


 エリオットも目に涙を浮かべている。


 「アンジェラ、入学おめでとう」


 エリオットのその声を聞いた瞬間、アンジェラの涙腺も決壊した。

 目の奥から、こみ上げる熱が堪えきれずあふれ出す。


 泣いてはいけないと思っていた。

 けれど、もう我慢できなかった。


 「あぁぁっ……! っふ……うぅ……」


 2人に抱きしめられて、取り繕う余裕もなく声を上げて泣いた。

 それにつられるように生徒会メンバーもが

目頭尾押さえたり目元をゴシゴシと擦った。


 アンジェラはこの学校に来て初めて泣いた。

 いじめに遭ったり、他の男子生徒と同じようにできず悔しい思いをすることもあったが、それでも涙を見せることはなかったのに。


 ルーシーが笑いながら、涙を拭った。


 「あなた、そんな可愛い顔は目に毒よ」

 「泣いてるんだから不細工だよ」

 「いいや。可愛いから私以外に見せないで」


 そう言ってエリオットはアンジェラを抱き込んだ。


 「あらやだ独占欲? わたくしだって親友なのに」


 アンジェラはエリオットの腕の中でただただ涙を流れるままにした。


 (これで本当の意味で“エイルズベリー生”になれたんだ……!)


 「みんな、ありがとう……!」


 彼女の中で長かった闘いの幕が静かに下りた。

 窓から月明かりが祝福するように降り注いでいた。


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