33話 幕間
今話はアンジェラが12年生になる直前の時間軸です。
明日から夏休みさと浮き足立つ寮内で、談話室には監督生たちが集まっていた。
卒業を控えた最上級生と、7年生から11年生までが顔をそろえる。
開け放った窓からは初夏の空気が入り込み、花瓶にいけられたライラックとスイートピーがさわさわと揺れる。
「では、新6年生の監督生は満場一致でこの者に」
寮代表の宣言に、拍手が静かに広がった。ひとつ、またひとつ、来年度の体制が固まっていく。
そして最後の議題が上がる。
「新12年生──つまり我が寮の次期代表と副代表をどうするかだ」
1人が言った。
「やはりアンドリュー・アランドルがふさわしいのではないでしょうか。11年間、首席を守り続けたのは前例がない」
他の面々も異を唱えなかった。
全員の視線が“アンドリュー”に注がれる。
アンジェラは少し間を置いてから、静かに言った。
「いえ、僕よりもエリオットの方がリーダーシップに優れています。人の輪を作るのも得意ですし、彼が代表になるべきです」
それは本心だった。
けれど、皮肉なことに──その謙虚さも評価されてしまった。
「アンドリューこそ代表にふさわしい。エリオットは副代表として支えるのがよいだろう」
結論は寮代表によってあっけなく裁可されてしまった。
アンジェラは「頑張ります」という他なかった。
さらに翌週、全校と教師による投票で、新しい生徒代表と副生徒代表が選出された。
結果は──アンジェラが生徒代表、エリオットが副生徒代表。
その知らせが掲示板に貼り出された瞬間、寮中が歓声に包まれた。
監督生に選ばれるだけでも大学への推薦が貰え、将来有望とされる。
まして、生徒代表となれば、卒業後の道は約束されたようなものだ。
だが、アンジェラの胸には、喜びよりも重たい沈黙があった。
(秘密を抱えたまま、この学校の顔になるなんて……)
喝采の中でただ一人、微笑みを保ちながら、アンジェラは拳を握りしめた。
◇ルーシー視点
アンドリューが生徒代表に決まったわたくしは嬉しかったし誇らしかった。当然よね、とも思っていた。
ただ、あの子は本当は女の子。大丈夫なのかしらと不安にはなるけれど。
あの子はきっと、わたくしたちも知らないところで苦労があったはずなのよ。
年に2回ある避難訓練の時だって、日時の予告がないからシャワー中だったら最悪なのよ。頭が泡だらけで寮の外に出てくる子も毎回数人はいるし、下着姿だって珍しくない。
なのにあの子は毎回きっちり服を着て出てきていたわよ。一体どうやっているのかしら。
あの子は学校始まって以来の天才だと言われ、学年総合首席は11年連続。きっと最終学年でもそうなるでしょうね。
もともと勉強が好きでしているタイプだけれど、1位を取り続けることにもこだわっているように見えるわ。
それって、いつか女の子だとバレてしまっても、いい成績を取り続けていればそう大きなお咎めはされないだろうって保身もある気がするのよね。
学校なんて寮生活なんて、規則と勉強ばかりでそんないいものじゃないとわたくしは思っているけれど、あの子にとって学校は全て。
そうよね。女の子がエイルズベリーと同じ教育を受けられる場所はないんだから。
全く。こんな天才を女の子だからって活かせないようじゃこの国はダメだわよ。
そういえば……。わたくしは卒業後はファッション関係の仕事をしたいと思っているのだけれど、あの子はどうするのかしら?
卒業する年には19歳になる。
貴族令嬢の結婚適齢期。23を超えたら結婚は難しくなってしまう。
今まで進路について深く話したことがなかったけれど、今度聞いてみましょう。
でもちょっと待って。
無事卒業できたとしてもそれって“アンドリュー”としてよね?
エイルズベリー卒を活かそうと思ったらこれからもずっと男のフリをし続けなくちゃいけないってこと!?
しかもバレたらエイルズベリーに女子がいたって大スキャンダルで破滅! ジ・エンド!!
どうしたらいいのかしら!?
どうしましょう!?
ってわたくし、誰に向かって喋っているの!? 独り言!? 怖いっ! 老化!?
ぜひ評価の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎&ブクマよろしくお願いします!!




