2話 天才少女は前世を思い出す
アンドリューは侍女のロジー以外誰も部屋に入れようとしなかった。
引きこもりから3日目には痺れを切らした父アンジェイが何とか部屋の外に引きずり出そうと、メイドが食事を運び入れる隙に突入したが、アンドリューはベッドにしがみつき抱きかかえて連れ出そうとする父を蹴って暴れて抵抗した。
ここまでされてはアンジェイにもお手上げで、引きこもりは続行された。
アンジェラももちろん部屋の外から毎日呼びかけたが返事さえなかった。
そして1カ月。
プレスクールはお漏らし事件から1週間後には夏学期が終わり、年長クラスだったアンドリューは欠席のまま卒園となっていた。
9月からは全寮制の寄宿学校──パブリック・スクールと呼ばれるが私立学校である──に行かなければならない。
アンドリューが行く予定の学校は世界でも最高峰の教育を行っており、祖父やその父、一応アンジェイも卒業生だ。
アンドリューはこの家系の4代目の卒業生となり、スポーツばかりにかまけていた父を反面教師として勉強に励みこの家を建て直すことを期待されていた。
でなければこの家は早晩貴族としての体面を保つことは難しくなり、爵位を返上し平民として生きねばならなくなる。
この家での本当の希望の星はアンジェラではなくアンドリューだった。
にも関わらずそのアンドリューは引きこもり、パブリック・スクールの入学試験は1週間後に迫っていた。
そして話は冒頭に戻る。
「お父様、お母様。私ががお兄様の代わりに寄宿学校へ参ります」
アンジェラはこの家の状況を正確に把握していた。
そして「兄が外へ出られるようになるまで自分が兄の代わりに学校へ行くしかない」と考え、両親の居室を訪ねた。
「何を言っているの。あなたは女の子で、学校へは行けませんよ」
「違いますお母様。私がお兄様のふりをして学校へ行くのです」
「そんなことできるはずが……」
と言いながらもマリアナはアンジェラを見た。
二人の容姿は瓜二つ。違うのは髪型と服装くらい。
髪を切り、男の子の服装をさせれば、親族でも見間違うだろう。
ただ、女の子の髪を切るなどそんな可哀想なことはできない、とも母は考えた。
父とて同様。しかし、このままではアンドリューは寄宿学校のエイルズベリー校に入れそうもない。
さりとて、アンジェイは自分ではもうこの家を建て直すことはできないだろうとも思っていた。
だから子供をパブリック・スクールへ入れて勉強させ、人脈を作らせ、この家を立て直してもらおうと考えていたのだ。
両親はアンジェラを自室に下がらせ話し合った。
晩から朝まで話し合っても結論は出ず、翌日の晩からまた朝まで話し合われ、迫りくるタイムリミットに急かされ、なし崩し的に結論を出した。
「アンジェラすまない。この家を、兄を助けるためにエイルズベリー校へ行ってほしい」
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