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身代わり伯爵令嬢はパブリック・スクールで奮闘する  作者: キシバマユ
9年生編

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19話 理解者

 部屋に戻り汚れ物を処理して、次の授業、数学のクラスに途中から参加したものの、今日の出来事が反芻され頭の中がグルグルして全く集中できなかった。


 そんな状態のまま一日の授業が終わりクラブ活動の時間になったが、アンジェラは厩舎へは行かず、自室に戻って教科書の入ったカバンを放るように机に置きベッドにダイブした。


 (こんな集中を欠いた状態での乗馬は危険すぎる……)


 それに、乗馬中に生理の当て布がずれてしまっては困る。

 だが、これからはコレが月に1週間ほどもあるのだ。その度に休んでいては不真面目だと叱責されるだろうし、大会で勝つこともできない。


 布を当てるだけじゃ足りない。何か方法はないかと思案を巡らせた。

 すると、頭の中に見たことがないはずの物が閃いた。

 それは倫子の記憶。体内に入れて使う道具だった。


 (あれはこの国では売っていないし自作も無理だ。となると、布を突っ込む? エドジダイには紙を丸めて詰めていたみたいだけど……イヤ。どっちも嫌。すごく嫌。だけど他に方法はなさそうだし……。あぁ、どうしよう……)


 考えながら抗いがたい眠気に襲われまぶたが下りていった。




 トントン、とノックの音でパチリと目が覚めた。

 誰だろうと思いながらドアを開けると、外にはエリオットとルーシーが立っていた。


 「2人ともどうしたの?」

 「どうしたのって……。心配して様子を見に来たに決まってるじゃない! クロスカントリーの最中にわたくしの後ろであなたが倒れてびっくりしたんだから! 心配して保健室に行ったらもう出て行った後だったし、その後の授業はクラスが被らないから会えなかったし! それで夕食の時に体調を聞こうと思っていたら現れないし!」


 なんて友達甲斐のない人! と捲し立ててルーシーは口を尖らせそっぽを向いてしまった。


 「もしかして寝てた? だったら起こしちゃってごめん。食堂から夕食を持ってきたんだけど食べられそう?」


 エリオットが持っていたのはローストビーフにマリーローズソースのかかった茹でエビとマッシュポテト。ルーシーはスープチューリン(スープジャーのようなもの)を持っていた。


 「うん、もう体調は悪くないしいただくよ。ありがとうルーシー、エリオット。ちゃんと食べるから機嫌直して?」

 「別に怒ってないし!」


 と言いながらルーシーはスープチューリンを机に置いて、アンジェラの顔を両手で挟み込み正面から覗き見た。


 「顔色は悪くないし熱もないみたいだけれど……。どうして倒れたの?」


 その顔は先ほどとは打って変わって心配そうに眉が下がっている。


 「えぇっと……寝不足、だったみたい」

 「それだけで倒れる? ……そんなことあるのかしら?」

 「病院に検査を受けに行ったほうがいいんじゃないか?」


 ルーシーもエリオットも訝しんでいる。ただしそれはアンジェラではなく保健医の見立てを。


 「そう……かも。あとでカーター先生とも話をするから相談してみるよ」

 「うん、それがいい」


 2人はそれで納得して、お大事にと言って部屋を出ていった。


 女だと隠し続けて、今ではもう男のふりをするのが当たり前になって罪悪感も薄れてきていた。

 それが、新たな嘘を重ね、心配させて、さらに罪深くなっていく。

 本当のことを打ち明けたい。あの2人ならきっと受け入れて、力にもなってくれるだろう。

 でもこの関係を壊したくない。


 いつか話そう。

 いつ話そう。


 問題を先延ばしにしていいことはないことは分かっている。

 それでも今はまだ言えそうにない。


 (一旦考えるのはやめよう……。さっ、ごはんごはん)


 椅子に座り、スープチューリンの蓋を開けた。

 そして気づいた。


 (ジャガイモのスープだ。よく見たらローストビーフもエビも私の好きなものばかり……。ありがとう、2人とも)


 楽しいことばかりではない学校生活も友達がいればやっていける。

 アンジェラは感慨とともに味わった。




 夕食を終えてしばらくの後、アンジェラは寮監室に呼ばれた。

 どんな処分が下るのか、不安と緊張を抱えながら部屋を訪ねた。

 室内は厚いカーテンが引かれ、古びた机の上に置かれた蝋燭がゆらめく。


 カーター先生はいつもの調子で椅子を勧め、ココアを淹れてくれた。

 アンジェラは椅子に座り、それに手をつける気になれず、手を膝に置いて固く背筋を伸ばしていた。

 寮監は静かに紅茶を注ぎ、向かいに腰を下ろす。

 一口すすってから、眼鏡の奥の瞳を細め、淡々と告げた。


 「保健医のゼペット先生から話は聞いたよ。私はねぇ、なんとなくそんな気もしていたんだ」

 「っ!? どうして……」


 まさか隠しきれてもいなかったなんて。

 今日は何度衝撃を受けるのか。


 「どうして分かったのか、ということならあなたを8年以上見てきたんだ。もっと言えば寮監として男の子を数百人と見てきた。『ここには男子しかいない』という先入観を一旦捨てさえすれば明らかだ。どうして退学にさせなかったかというと、楽しみだったからだ」


 思ってもいない言葉が飛び出した。


 「楽しみ……?」

 「えぇ。あなたはこの歴史あるエイルズベリー校で初の入学以来8年連続学年首位だ。前回の馬術大会では入賞もした。あなたはずっと努力してきた。それは私も他の先生たちも知っている。そんな才気あふれるあなたがこの学校で学び、どんな大人になるのか。私は見てみたいのだよ」


 アンジェラは言葉を失ったまま、じっと寮監を見つめた。

 そして、


 「私はまだ、この学校にいてもいいのですか……?」

 「あなたは辞めたくないのでしょう?」

 「……っはい!」

 「だったらこれからのことを考えなくては。今日スポーツの授業中に倒れたということですし、そもそも男子に混ざってのスポーツは危険です。今後は個別授業にしてもらうよう手配します」


 味方になってくれた寮監は非常に頼もしく心強かった。


 「そんなことができるんですか?」

 「えぇ、過去に体の弱い生徒には特別な配慮をしています。保健医からの指示ということで学校には伝えましょう」


 最後に、と寮監は真剣な眼差しでアンジェラを見据えた。


 「言うまでもないことですが、このことが他の男子生徒に知られてしまってはいけません。それから、校内での性的な接触は禁じられています。覚えておいてください」

 「はい。……? でも男子校ですよ……?」

 「えぇ」

 「わっ、分かりました」


 言葉の真意を悟り、アンジェラはコクコクと神妙な顔で頷いた。


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