17話 恋って何だろう(エリオット視点)
湯浴みの後、夕食を食べた僕とアンドリューはセバスチャンからコンコンと説教を受け、その後は部屋で大人しくしているように、と謹慎(?)を命じられた。
いつもは物悲しく感じるこの離宮も、アンドリューが隣の部屋にいると思えば輝いて見える。
(でも悪いことをした……。運転できるところを見せたくて、格好つけたいために危険なことを……)
落ち込んで僕はベッドに転がった。
蝋燭が灯る薄暗い室内に窓から月明かりが差し込む。
夜風にでも当たろうかと思い立ちテラスに出た。
風が心地よく吹き抜ける。
(今日は月が綺麗だな……。アンドリューも誘ってみようかな)
テラスは隣の部屋と繋がっている。
僕はテラスからアンドリューの部屋の扉の前に立った。
部屋にはカーテンがかけられていて中は見えなかったがいるはずだ。
タンタンタン
ノックをして少し待つと、カーテンが開いて彼が顔を出した。
「どうしたの? というか、そこってエリオットの部屋と繋がってたんだ」
扉を開けてアンドリューが出てくる。
(部屋着だ……。そういえば初めて見たな)
寮では部屋着で出歩いてはいけない決まりだし、談話室を引き上げたら部屋でシャワーを浴びて勉強して寝るからその姿でお互いに部屋を訪ねたことはない。
「テラスに出てみたら月が綺麗だったから一緒に見ないかと思って。ここから見る夕日も綺麗なんだけどね」
「あぁ、ここが昼間言ってた『湖に面したいい風が吹くテラス』?」
アンドリューが出てきた。
風にさらわれた裾が翻り、彼の膝まであらわになる。
(細い、綺麗な……。って何を考えている!?)
他人の脚をジロジロと見て、あまつさえ男なのに脚を綺麗だなんて失礼にもほどがある。
しかし、やはり改めて見ても彼の体は華奢だった。
ほっそりした首に袖から少し覗く腕。
自分の腕と比べるとまるで違う。
(確かに馬術部はクリケットより必要とする筋肉量は少ないだろうけど……)
ここまで違いが出るものなのか。
隣に並んで立つと、彼の頭頂部が見下ろせた。
(入学した時はほとんど変わらない身長だったのに。毎年の身体測定でどれだけ身長が高くなったか競い合っていたけど、いつの間にかしなくなったな……)
「月といえば、古典のモチーフにもよく出てくるよね」
「あぁ、月に住む杖を持った老人の話は最近習ったな」
「神話の月の女神の話もよく出てくるよね。それに恋の話も多い。羊飼いに恋して眠りの中で彼を永遠に若く保つ話とか、美しい青年に恋をしてその人を永遠の眠りに閉じ込め、眠る姿を眺め続けた話とか」
「古典は文法とか単語ばかり追っていたから話まではあまり頭に入っていなかったな……」
アンドリューはやっぱり頭がいい。
僕も彼に追いつきたくてずっと頑張って勉強しているけど、全教科一度もトップを取らせてもらえていない。
けれど誰も彼に嫉妬したり嫌がらせなんかもしない。
これだけ普通の人と頭の出来が違うとそんな感情も湧かないのだ。
「恋ってなんだろう……」
アンドリューが独り言のように呟いた言葉にドキリとした。
「オウィディウスは『恋は火のようなもの』と書いたよね」
経験がないからそこからは答えられない。
僕は古典から引用した。
「恋は見た目から始まる、とも書いてたね」
アンドリューはそれに応えた。
「火は消えるし、見た目は変わる。どっちも永遠じゃないってこと……?」
なんだか残念な結論に辿り着いてしまった。
しかしアンドリューはそこから軌道修正してくれた。
「恋はそうなのかも。でも愛は? 僕は母も父も妹も愛してるしそれは変わらないと思う」
月を反射して輝く彼の雪に日のようなグレーの瞳を美しいと思った。
彼の胸は愛に溢れていて尊い。
翻って僕はどうだろう。
最後に父上母上と話をしたのは何年前だ?
幼い頃は期待していた。
学校で勉強を頑張ったら褒めていただけるのではないか。
父上と同じクリケット部に入ったら共通の話題になるのではないか。
たくさん期待してその数だけ失望した。
そしてもう期待もしなくなった。
ただそんな僕に兄上だけは気にかけてくれた。
成績を褒めてくれたのも、クラブの話を聞いてくれたのも兄だった。
僕と兄の間には確かに愛があると思う。
そしてアンドリューと僕との間には友愛がある。
この2つの愛が僕を生かしてくれたんだ。
「うん、私も変わらない愛は知っているよ」
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