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14話 アンジェラ怒りの救出

これで1章完結です!

 人気のない川沿いの冷たい風が頬を突き刺す。

 倉庫街に近づくと石畳も街灯もなくなり、カンテラを照らして辺りを警戒する。

 ルパートら数人が地面に灯りを近づけると、馬車の轍の跡に混ざって車のタイヤ痕が残っていた。


 「ここにいる可能性が高いな。ダン、警察に知らせに行ってくれ」

 「了解しました」


 部員の一人が馬を駆って飛ぶように去る。


 「ここからは音を立てないよう馬を繋いで行くぞ。マルコムとゴーシュは馬で待機。犯人が逃げたら追え」

 「了解です」


 部員たちは静かに馬から降り、運河沿いの柵に繋いだ。

 川の水音に砂を踏み締めるジャリジャリとした音が混ざる。


 倉庫群を慎重に歩き進めると倉庫に横付けするように一台の車が停まっていた。

 この時間、灯りもない倉庫で作業する者はいない。そんな場所に用事があるのは犯罪者のみだ。


 「ルパート君、これ以上は危険よ。警察が来るのを待ちましょう」

 「えぇ、分かっています」


 逃げる場合を考えてか、倉庫の扉は半分開いていた。

 ルパートは部員を少し離れた場所に待機させ、一人近づいた。

 車からはエンジンの匂い。ボンネットにはまだ熱が残っていた。


 ルパートは冷えた煉瓦に背を押しつけ、慎重に倉庫の中を窺う。

 中でランプが動いているのが見える。

 確実に誰かが、おそらく車に乗ってきて人物が中にいた。

 それを確認すると素早く部員たちの元へ戻った。


 「エリオットの姿は見えませんでしたが中には人がいます」


 息を潜めてクラリッサに報告した。


 「部長、エリオットは無事ですか?」


 アンジェラは辛抱たまらず聞いた。


 「エリオットの姿は見えなかった。だが、危害を加えるのであればここに潜伏する理由もない。無事だろう」

 「ルパート、突入は?」

 「しない。だが、警察が来る前に逃げようとした場合は取り押さえる」

 「危険よ。やめなさい」


 クラリッサが制止する。


 「しかし、警察に追われていると気づけばエリオットを人質するかもしれない。そうなれば彼の命が危ない」


 クラリッサは唇を噛んだ。


 「他に出入りがないか確認する」


 ルパートは再び息を殺して倉庫に近づいて周囲を一周してから戻った。


 「出入りはそこの扉一つだけだ。総員左右に分かれて待機。犯人が出てきたら取り押さえる」

 「部長、提案があります」


 アンジェラは犯人が逃げる動きをした場合の献策をした。


 「人的被害が出ることに比べたらよほど安い。いいだろう。ではE班が担当だ」

 「はい」


 アンジェラは他の部員と混ざって扉の横に待機して息を潜めた。


 そうしてどれだけの時間を待ったのか。

 遠くから石畳を踏む馬の蹄の音と、エンジン音、警察車両らしき車が徐々に近づいてくるのがわかる。

 ダンが無事、警察に知らせてくれたのだろう。もしかしたら誘導もしているのかも。


 中から声が聞こえてきた


 「おい、外が少し騒がしくないか」

 「いや、ここにいるなんて分かるはずがない」

 「潜伏してると踏んで虱潰しに捜索しているとしたら?」

 「逃げた方がいいんじゃ?」

 「いや見つかるはずねぇよ」

 「おいおい、音がどんどん近づいてないか?」

 「やっぱヤバいって! 逃げようぜ!!」

 「チッ、こンなかに裏切りモンがいるんじゃねぇだろな!?」

 「そんなこと言ってる場合か? ヤバいって! 逃げるぞ!」

 「おい王子サマ! 箱ン中戻れ!」

 「痛っ、やめっ、やめて!」


 言い合いの末にエリオットの声が聞こえた。


 「エリオット!」

 「オイ! 誰だ今の声ェ!?」


 慌てて口を押さえても遅い。

 エリオットの声に反応したアンジェラが声を出してしまった。

 中にいた人間の一人が外を見に出てこようとする。


 (どうしよう!?)


 「E班! カンテラを投げろ!」


 ルパートの命令に反射で体が動いた。

 アンジェラは犯人らしき人の足元を目がけてカンテラを全力で投げた。

 E班の投げたカンテラは地面に叩きつけられ、ガラスが割れ、油が床に散り、瞬間的に炎が上がり濃い煙が広がっていく。

 犯人たちの視界は遮られ、咳き込む声と怒声が響く。


 「犯人を取り押さえろ!」


 鞘から剣を抜いた部員たちが飛び込み1人を数人がかりで制圧していく。

 アンジェラも倉庫に飛び込み、エリオットの声がしたほうへ走った。


 「エリオット!! どこ!?」


 カンテラを失ったアンジェラは周囲の灯りに頼るしかない。


 「アンジェラ!?」


 声が聞こえた。


 「エリオット!! どこ!?」

 「ここだよ!!」


 声を頼りに辿り着いた。

 アンジェラは手と足を縛られ、木箱に入れられていたエリオットと目が合った。


 「エリオット!!」

 「アンジェラ!!」


 エリオットに抱きついてアンジェラはただ無事を喜んだ。

 そうしてからクラリッサを呼んでエリオットの手足を縛っていた縄を切ってもらい、外へ避難した。

 部員たちは倉庫に置いてあった縄で犯人たちをグルグルと縛り上げて倉庫の外に転がした。


 「エリオット。あなた私が『王子だから友達になった』って言ったよね?」


 バチーーン! 


 音を立てて思い切りエリオットの両頬を挟んで顔を覗き込んだ。


 「私が、王子様のあなたのために、部長を説得して、馬術部のみんなに動いてもらったとでも!?」 

 「いっ、いいえ。思いません(おもひましぇん)

 「エリオット。私たち上級生は下級生が困っていたら助ける責務がある」


 いつの間にか傍に立っていたルパートが言った。


 「私たちは君が王子だから助けにきたのではない。エイルズベリーの生徒だからだ」

 「そうだぞー! 本当は追跡だけしてあとは警察にお任せのはずだったのに結局は交戦することになっちゃって」


 別の部員が茶々を入れた。


 「はい……もう、分かりましたので……!!」


 自意識が恥ずかしくなったらしいエリオットは顔を覆った。


 「先生、すまなかった。結局一戦交えてしまった」

 「いいわ……。誰も怪我をしていないようだから。本当によかった……」


 クラリッサは力なく笑んでいる。


 「さて、もうすぐ警察も到着するだろう。この男たちを引き渡したら帰るぞ。もう夜も遅い。今日は特別に就寝時間は12時まででいい。ただし、明日も寝坊はするな」


 高学年の就寝時間は12時なのでこれは下級生のアンジェラとエリオットに向けられたものだ。


 「「はい!!」」


 2人は元気よく返事をして、顔を見合わせて笑った。




 後日、エリオットの誘拐を手引きしたのは同じ獅子寮の上級生と教師1名だと判明した。

 この事件を受けて学校は改めて教師陣の身元・素行調査が行われた。

 生徒全員に対しても密かに調査を行った、とこれはルパートからアンジェラは聞かされた。


 また、事件当日にエリオットの誘拐被害を学校側は速やかに国王夫妻に伝えたが、学校に駆けつけたのはエリオットが赤ちゃんの頃から世話をしているという乳母の女性だけだった。

 国王陛下と皇后陛下はお忙しくて来られなかったのか。

 それでも子供の生死が関わっているなら何を置いてでも飛んでくるのが普通ではないのか。

 普通の親としての行動が取れないほど公務がお忙しいのか。

 それとも、エリオットに興味関心がないのか──

 アンジェラには分からなかった。


 それから、学校と馬術部は警察の捜査に勝手に先行したとしてエイルズベリー市警からは少し注意を受けたものの、犯人の追跡と確保に尽力し成果を上げたとして市警からは感謝状が、学校からは学外で成果を上げた生徒に贈られるバッジが授与された。

 そのメンバーの中にはアンジェラも入っており、アンジェラは1年生で初の受賞者となった。


2章は現在シャカリキ執筆中です。ある程度書けたら週1ペースとかで更新していく予定です。

ぜひ評価の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎&ブクマよろしくお願いします!!

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