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13話 駆ける大捜査線

 馬術部員の上級生、総勢25人と顧問が馬場に揃った。

 彼らの腰には護身用に剣術部から借り受けた刃を鈍らせた剣を帯刀していた。剣術は必修科目なので上級生は全員扱える。


 部員が用意をしている間に用務員(グルーム)さんが馬のウォーミングアップを済ませておいてくれている。


 「これから我々はエリオットを誘拐したと思われる犯人を追走する。犯人らはこの裏山から馬車、もしくは自動車に乗ったと思われる。時間的にもう市街地に入っているだろう。市街の先まで行かれては捜索範囲が広くなりすぎるため追いきれない。従って何としてでも市街で発見する必要がある。怪しいのは人が入れるサイズの箱を積んでいるものだ。発見したら中を検めさせてもらえ。逃げる等不審な動きをしたらホイッスルを吹け。音を聞いた班は応援に迎え。武器には注意しろ」


 次にルパートは捜索班を5班に分けた。

 そしてそれぞれの班に地図を渡した。


 「これはエイルズベリー市街の地図だ。1分で頭に叩き込め」


 部員は一言も発さず地図を睨んだ。

 張り詰めた緊張の中、アンジェラも地図を覗き込んだ。

 時間になり、班長に地図を懐にしまうよう言ったルパートは意気軒高な面々を見渡した。


 「馬車だろうが車だろうが馬術競技会で常勝の我々の敵ではない。さぁいくぞ!」

 「おう!!!!!」


 全員が鬨の声を上げ、裏山に入った。




 冬の午後8時。すでに陽はどっぶりと暮れ辺りは闇に包まれている。


 部員は馬に乗ってカンテラを持ち、裏山を越えて市街と市街を繋ぐ市道へ歩みを進めた。

 そして全員で地面を照らすとくっきりと自動車のタイヤ痕があることを確認できた。


 「タイヤ痕を見ても、車はやはりエイルズベリー市街へ向かったようだ」


 エイルズベリーからは他の市へと道路がいくつも伸びているが、逆方向のイルドール市から行ける場所は絞られてしまう。

 だから犯人はイルドールへは行かないとルパートは推測していた。


 「タイヤ痕を消さぬよう、エイルズベリー市街へ急ぎ向かう!」

 「はい!!」


 ルパートを先頭に駈歩でスピードに乗る。

 アンジェラはだんだんと上級生たちについていけなくなり距離が空いていく。


 「落馬せぬよう自分のペースで行きなさい」


 顧問のクラリッサ・ハートレー先生が諭した。

 彼女はこの学校で唯一の女性教師だ。


 この入れ替わり生活が終わった後も勉強と乗馬を続けていたら、一番ありそうな未来だとアンジェラは常々思っていた。


 「先生はどうして先生になったのですか?」


 こんな状況での思わぬ問いに、アンジェラの前を走るクラリッサがクスリと笑った気配が伝わってきた。


 「父が投資に失敗してね。借金を返せないまま亡くなったから、土地は差し押さえられて、屋敷も売り払って、家督を継いだ兄は爵位だけの無一文。だから生きていくために教職を得たのよ」


 夢も志もない話でごめんあそばせ、と彼女は笑った。

 しかし実家の状況と似ていると感じたアンジェラはさらに親近感を覚えた。


 「教職以外は考えなかったんですか?」

 「考えたけれど、女の身で一人生きていくには賃金と労働環境が悪すぎるのよ。兄もそれを不安に思って、前の乗馬部顧問の先生に話をつけて後任に私を指名してくださったの」


 乗馬はずっと続けていたのか聞いてみると、お父様が乗馬好きでずっと一緒に乗っていくうちに大会に出たくなって、馬場馬術の練習を始めたそうだ。


 「馬は好きだし、ここの給料は世間一般の給与よりずっと高い。私は運がよかったと思うわ。って無駄話していないで早くみんなに追いつかないとね。もう少し速度を上げましょう」


 先生が速度を上げたのにアンジェラは懸命についていった。

 そして市街地でアンジェラたちを待ちながら怪しい車を探していたE班と合流した。




 「怪しい荷物を積んだ車はいくつか検めさせてもらいましたがエリオットは発見できていません」


 部員の吐く息も白く、報告は虚しく響いた。

 市街は石畳でこれ以上跡を辿ることはできない。


 「AからD班はそれぞれ市街へつながる道へ向かいました。僕たちは念のためこの道からイルドールへ行く車の監視役です」


 2人が道ゆく車を監視し、もう2人が周囲に怪しい動きがないか見て回った。


 「犯人らしき姿はないですね」

 「やっぱりこの街から先に行く道を走っているのかな」


 少し諦めた空気が流れ始めた時──


 ピィィィィ ピィィィィィィ


 「ホイッスルの音だ!」

 「音の方へ行きましょう!!」


 班員は馬の腹を蹴って駆け出す。

 アンジェラも今度は遅れを取らないよう必死に速度を上げた。

 石畳の道を駆け抜ける。

 そうしながら考えた。


 (市街は街灯が明るいからまだ車が走れるけれど、ここを出たら真っ暗な夜道。そんな中を車が走っていたら目立つし、そもそも視界が効かないから危ない。もしかしてまだ市街にいるんじゃ……?)


 急行した現場では男が一人、部員によって取り押さえられていた。


 「こいつ酒臭いぞ!」

 「部長! 車にはなにもありません!」


 どうやら馬で追ってこられたのに驚いて逃げただけらしい。

 合流した全班に失意が浮かぶ。


 「ハズレか。全班捜索を再開──」

 「部長! 犯人は逃げていないかもしれません!」


 アンジェラが叫んだ。


 「そうか、そうだな。潜伏するとしたら……アイシス運河の荷揚げ場かその近くの倉庫エリアか……」


 アンジェラの一言でルパートは全てを察し可能性を考えた。

 そして頭に入れていた地図を引っ張り出し、瞬時に潜伏していそうな場所の候補を出した。


 「B、C班はこのまま市街を捜索、他は倉庫街を捜索する!」


 アンジェラはルパートたちとともに倉庫街へと急行した。


ぜひ評価の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎&ブクマよろしくお願いします!!

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