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12話 行方不明

 「君たち、エリオットがどこにいるか心当たりはないか?」


 アンジェラとルーシーは夕食を食べながらエリオットの姿を探していたところに監督生が尋ねに来た。


 「いえ、食堂にはまだ来ていないみたいで……」

 「それは知っている。彼は自室にもいなかった。どこかへ行くとか聞いていないか?」

 「聞いていません。じゃあ、エリオットは行方不明なんですか……!?」


 言いながらアンジェラは血の気が引いていくのを感じた。


 (こんな広大な敷地の中で行方不明だなんて、見つけられるの……?)


 「他の寮の上級生にも要請して手分けして探している。じゃあ彼が行きそうな場所は分からないか? 君たちと一番仲がいいだろう」


 問われてアンジェラは絶望的な気持ちになった。


 (一緒に図書館に行ったり、敷地内を探検したりもした。けど、エリオットが落ち込んだ時に行きそうな場所は知らない……)


 彼のことを何も知ってはいなかった。

 それで本当の友達と言えるのか。

 アンジェラは泣きたくなった。


 「わかりません……」


 そう答えた時、監督生が一瞬失望したような表情をしたのにも胸を抉られた。


 「そうか。何か分かったら誰でもいいから監督生に伝えてくれ」


 それだけ言うと足早に立ち去った。


 「エリオットが行方不明……? 探しに行かないと……!」


 どうしよう、行かなくてはと思うが体が動かない。


 (広すぎる学校内のどこへ探しに行けばいいの?)


 「エリオットが行きそうな場所ってどこだろう……」


 考えろ、考えろ。

 エリオットの好きな場所を。

 落ち込んだ時に足が向いてしまう場所を。


 (知らない……こんなことも分からないなんて!!)


 「ねぇ、そもそもエリオットって機嫌が悪いからってヒトに迷惑をかけるコじゃなくない?」


 思わぬ方向からルーシーが意見した。


 「そうだよ。……じゃあ帰れないんじゃなくて帰れない……?」


 だとしたらどこに行ったのか。

 授業棟、図書館、今は使われていない旧校舎まで全て上級生が見て回っただろう。

 それでも見つかっていない。


 「まさか……誘拐……?」


 エリオットは王子。常に誘拐の危険性は付きまとう。

 しかしこのエイルズベリー校は王族や貴族の子供が通う名門校。当然誘拐対策も徹底している。

 学校は高い塀に囲われ、警備員が24時間巡回している。学校関係者が学校に入る時には専用ゲートで警備に身分証見せる決まりになっている。


 「さすがにそれはないんじゃ……? どこからも侵入なんてできないわよ」

 「……じゃあ学校関係者が誘拐犯を手引きしていたら……?」

 「まさか! そんなことって……。でも待って。エリオットを袋詰めにできたとしても学校の出入り口で中身を見られたりするんじゃないの?」


 (人目につかず、人一人を誘拐して逃げる方法……)


 正規の出入り口は使わない。

 エリオットは手足を縛られ、袋箱に入れられているだろう。

 その状態で高い塀を越えるには滑車のようなものを使って塀の中と外で協力しなければならない。それでは時間がかかり人目につくだろう。

 学校から出ても徒歩で逃げるはずはない。馬車か車を使うはず。


 (塀を越えず、外に出る……。馬場の奥の森!!)


 もちろん塀のない森の入り口付近は常に警備が厳重だ。

 しかしそれは外からの侵入者に対してであり、学校内部から手引きがあった場合などありえない事態は想定されていないはずだ。


 「入る時は堂々ゲートから。出る時は学校の奥の森を抜けたら……?」

 「っ……! ありえるのかしら……? あぁもう分からないわよ!」

 「寮代表に話してみる!」


 アンジェラは走り出した。


 「ちょっ待って! ねぇどうして寮代表!? あの方は生徒代表でもあるから今は忙しいんじゃ──」


 慌ててルーシーも追いかける。


 「寮代表は馬術部の部長だから!」

 「馬術部? え、まさか馬で追いかけるつもり!?」

 「相談してみる!」


 アンジェラは走った。

 捜索中の上級生にルパートの居場所を聞いて全力疾走で向かった。


 そして生徒会室で捜索隊から上がってきた情報整理と指示を行っていたルパートのところまで辿り着いた。


 「ハァハァハァ……っうっうま馬をッ…ハッハッ」

 「アンドリュー・アランドル。まずは呼吸を整えたまえ」


 気持ちだけが焦って空回りしてしまった。

 ルパートが言うように息を大きく吸って吐いてを繰り返すと自然と思考も整い、言うべきことがまとまる。


 「失礼しました。行方不明のエリオットですが、誘拐の可能性があります。警察に連絡をお願いします」


 誘拐、の言葉にルパートの視線が鋭くなった。


 「根拠は?」

 「エリオットは自分の機嫌が悪いからっていなくなってヒトに迷惑をかけることはしません。ただの迷子ならもう見つかっているはずです」


 ルパートは少し考えてから口を開いた。


 「やはりそうか……。彼は私の寮の生徒だ。人柄は把握している。私も誘拐ではないかと考え、すでに警察には連絡をした」

 「警察の到着を待っていては時間がかかります。その間にもエリオットはどんどん遠ざかる。私はエリオットが裏山から馬車か車に乗せられて連れ去られたと考えています。なので、馬術部員を総動員してタイヤか轍の跡を追えるのではないかと考えます」


 ルパートは腕を組み少し考え込んだ。


 「馬術部が早期発見できなかった場合、むしろ私たちの蹄鉄の跡がのちの警察の捜査の邪魔になる可能性もある」


 アンジェラは唇を噛む。


 「行方不明になってから約2時間。馬車なら時速10キロから15キロ。車ならば速くとも25キロ。轍が残っていたとしてもエイルズベリー市街に入ってしまえば跡は辿れない……」


 ルパートは呟きながら考えをまとめているようだった。


 「ルパートは箱か何かに入れられていると思います。市街地で『人一人が入っていそうな荷物』を積んでいる馬車か車に限定すれば数は絞れるのではないでしょうか?」

 「犯人グループが武器を持っていた場合、部員に危害が及ぶ可能性もある」

 「市街で発砲するより逃げ切る方を優先するのでは?」


 警察に任せたとしても発見できるとは限らない。

 今動かなければ後悔する。

 アンジェラはそんなゾッとするような確信があった。


 「お願いします。部を動かすのが無理なら私だけでも行かせてください! エリオットは私に『王子だから友達になったんだ』って言ったんです! 違うって言いたい。みんなエリオットを探しているのは王子だからじゃないって言いたいんです!」


 アンドリューの仮面が剥がれ、自分を『私』と言っていることにアンジェラは気づいていない。


 長い沈黙の後、ルパートはゆっくり頷いた。


 「警察の捜査を邪魔しないこと。部員の安全を第一に行動すること。この条件で総動員をかけよう。責任は私が取る」


 決断すれば早かった。

 周囲にいた生徒会委員に馬術部員を集めるよう指示を出し、自身も乗馬服に着替えるべく寮へ走り出した。


 「私も連れて行ってください!」

 「足手まとい、と言いたいところだが君は頭が回る。捜索班に加わることを許可する。だが、ようやく速足で乗れるようになったところだろう。部員の本気の駈歩(かけあし)にはついてこられない。あとから追いつけ」

 「はい!」


ぜひ評価の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎&ブクマよろしくお願いします!!

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