星降る神社の巫女様 エピローグ
星見神社の神様だった星美が人になり、数ヶ月が経っていた。
取材依頼のメールを読み返しながら、私は山道を走る車の窓を開けた。
冬の冷たい風が車内に流れ込んでくるが、その寒さも今は心地よく感じられる。雪化粧をした山々が美しく、まるで星美と過ごす新しい人生を祝福してくれているかのようだった。
人生とは分からないものだ。
あの夜から数ヶ月が経ち、私と星美は細川さんの家の農業を手伝いながら、今はこの土地で暮らしている。
都会のカメラマンだった私が、まさか山奥の町で農業をしているなんて、半年前の自分には想像もできなかっただろう。
私は農業の合間に写真撮影の仕事をし、星美は神社の手伝いをしている。新しい神様が降りてからも、星美の神社への愛情は変わらない。むしろ人間になったことで、より身近にこの土地の人々と接することができるようになったようだ。
細川さん夫婦は、星美を快く家族として迎え入れてくれた。
「葛城の嫁さんは、なんだか神々しい美人だねぇ」と細川のおじいさんは目を細めて笑う。
もしかすると、彼らは星美の正体に気づいているのかもしれないが、それを口に出すことはない。この土地の人々の優しさと寛容さを、改めて感じている。
ある時、妻になった星美に、神様なのに何故私を選んだのか聞いた事があった。そしたらとんでもない答えが返って来た。
「私、誰かから直接なにかを頂いた事なんてありませんでしたから、とても嬉しかったのです」
星美は恥ずかしそうに頬を染めながら、でも嬉しそうな表情でそう答えた。
「・・・なにかあげたっけ?」と、私は首をかしげながら記憶を辿った。
「いつもあなたが持ち歩いているそれを頂きました」
星美は私のポケットを指差しながら微笑んだ。
「・・・それって、名刺の事?」
「はい!」
星美は嬉しそうに頷いた。まさか名刺一枚がきっかけで、神様と結ばれることになるなんて・・・人生とは分からないものだと、つくづく感じた瞬間だった。
そんな私の隣で、星美は空を見上げながら、何か思いにふけっている様に遠くを見つめていた。
~~~三百年前~~~
神社の境内には、数日前から続いている豪雨が降り注いでいた。
その境内には、黒髪の青い着物を着た神と、巫女服を着た、まだ人の時の星美が立っている。
「神様!神様!なぜそこまでしてこの地の人達を護るのですか!」
星美が泣き叫びながら、黒髪の青い着物を着た神に向かって声をあげている。
「この地を護る事が、私が月の神から与えられた役目だからな」
「それに私は、この地の人々がずっと昔から好きなのだ」
黒髪の青い着物を着た神は、星美にそう告げると、空へ向かって祈りを捧げ始める。
「だからって、そんなに力を使ってしまっては、神様の存在自体が保てなくなってしまいます」
星美が必死に黒髪の青い着物を着た神を説得するが、黒髪の青い着物を着た神は星美に優しく微笑みかけこう言った。
「これからは、お前がこの地を護って行けば良いだけの事だ」
「お前が私の次の神となり、この地の人々を見守ってやってくれ」
そんな黒髪の青い着物を着た神の言葉に、星美は必死に叫ぶ。
「私を・・・私を置いて行かないで下さい」
「私は、あなたとずっと一緒に居たいのです」
黒髪の青い着物を着た神は、星美の方に振り返り優しく語り掛けた。
「・・・そうだな・・・私もそれを願っていた」
「いつになるか解らぬが、きっとお前を迎えに来よう」
「本当ですか?」と星美は少し安心したような顔になる。
「ああ・・・それまでこの地を頼んだぞ」
そう言い残すと、黒髪の青い着物を着た神は淡い光となって空へと消えていった。
すると先ほどまであんなにも降り続いていた雨は穏やかになり、雲の切れ目からは満月が少しだけ見えていた。
「待っています・・・いつまでも私はあなたの事を待っています」
星美が空を見上げながらそう呟くと、月から光が差し込み星美を包み込んで行った。
こうして星美は人から、この地を守る役目をもった神へとなった。
~~~~~
空を見えげながら嬉しそうにしている星美に、少し気になった事を私は尋ねた。
「この名刺を貰った事が、そんなにも嬉しかったの?」
「カメラマンとして独立した時に作った安いやつだから、見た目もシンプルだし・・・」
「とても嬉しかったですよ」
星美は目を輝かせながらそう答えた。
「それに、三百年もあなたを待っていたのですから、なにを頂いても嬉しいものですよ」
星美の声が小さくて、後半の部分は聞き取れなかった。
「ん?三百年って何?」
「いえ、なんでもないですよ」
星美は慌てたように手を振りながら、頬を赤らめている。
「これからは、ずっと一緒に居ましょうね」
「もちろん!約束するよ!」
「ありがとうございます・・・私は本当に幸せ者ですね」
星美は心から嬉しそうな表情を浮かべた。その笑顔を見ていると、私も幸せな気持ちで満たされる。
今では私の妻になっている星美のその表情に、私はつい見とれてしまった。
「あ!ちょっとそのまま!」
私は慌ててカメラを構えた。
「どうしたのですか?」
星美は不思議そうな表情で私を見つめた。その瞬間の彼女の表情があまりにも美しくて、思わずシャッターを切った。
カシャ
慌てて構えて撮った写真には、美しい妻の姿がちゃんと映っていた。人間になった星美の姿は、確かにフィルムに記録されている。写真に写らなかった神秘的な存在だった女性は、今は私の大切な妻として、この現実世界で生きているのを実感した。
窓の外では、雪景色の中に星見神社の屋根が見える。私はもう神様のお姿を見る事は無かったが、静寂に包まれたこの神社は、新しい神様の加護を受けて穏やかな時を刻んでいるのだろう。
私たちの新しい人生も、この美しい土地で静かに始まっている。
星美の温かい手を握りながら、私はもう1度、窓の外の雪景色を眺めた。これからどんな季節が訪れても、私たちは一緒にいることができる。それだけで十分幸せなのだと思う。
完
『星降る神社の巫女様』を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
これが私にとって初めての小説投稿作品でした。普段はYouTubeで活動をしており、今回初めて小説執筆に挑戦させていただきました。8話という短い物語でしたが、最後まで完結させることができて、とても嬉しく思っています。
この作品を読んでくださった皆様には心から感謝しております。
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今回の経験を活かして、次回作にも挑戦したいと思っています。また新しい物語でお会いできれば幸いです。
※このお話はyoutubeで動画にもなっておりますので、よろしければご視聴してみて下さい。
動画はこちらから視聴できます
https://youtu.be/UkkBYCTMm-w




