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第7話:──学園の怪異と、魔力の予兆

文化祭の喧騒が終わり、校内には少しだけ“祭りの後”の空気が漂っていた。


教室では、通常の授業が再開し、生徒たちはどこかけだるそうに教科書を開いている。


(……日常、か)


窓際の席でノートを取る雫は、ふと手を止めた。


“何も起きない”ことの尊さを、今の彼女は少しずつ理解していた。


けれど――


それは、ほんの一瞬で崩れる。


 



 


「おい、聞いたか? また理科準備室の電気が勝手に落ちたってよ」


「うそ、昨日の夜じゃなかった? 今日も?」


「しかもさ、床に“焦げた輪”みたいな跡があったんだって。先生、すげー青ざめてたらしい」


昼休み、男子たちが盛り上がるその噂話に、雫はそっと耳を傾けた。


「停電、焦げ跡……?」


「うん。でも、ブレーカーも異常なかったって」


(……おかしい)


それは、“かつての魔法の残滓”に近い現象だった。

エネルギーの偏在。空間のねじれ。触れずとも、肌がざらつくような違和感。


(この空間に……“何か”が、入り込んでる?)


そう考えた瞬間。彼女の中で、長く沈黙していた“魔力”が、ざわ……と音を立てた。


(……反応してる)


呼吸が浅くなる。心臓が鼓動を速める。


それは、力が“外の何か”に共鳴している証だった。


 



 


放課後。

何かに導かれるように、雫は理科準備室の前へと足を運んだ。


人気のない廊下。灯りはついているのに、どこか薄暗い。空気が、重たい。


(……この感じ。間違いない)


彼女はそっとドアに手をかけた。


「入っちゃダメだよ」


ふいに、背後から声がした。


振り返ると――桐生蓮が立っていた。


「……桐生さん」


「調整者として言っておく。ここは“管理下”に置いた。中に入る必要はない」


「……“魔力の痕跡”が、ありました」


「君が感じたなら、その通りだろう。でも、これは君の出番ではない。忘れてくれ」


静かな声。だが、その目は明らかに警告を発していた。


(……“触れるな”ってこと?)


「……分かりました」


そう答えながらも、雫の中では、別の想いが渦を巻いていた。


(でも……このまま何もしなかったら、誰かが傷つくかもしれない)


(力を使うのは、だめ。でも――)


 



 


夜。ベッドに横になりながら、雫はじっと天井を見つめていた。


思考が止まらない。脳裏には、理科準備室の“違和感”と、ざわついた魔力の感覚が残っている。


(使いたくなる。……でも、それは“甘え”だ)


彼女は自分に言い聞かせた。

でも、それでも――


「誰かが、助けを求めていたら?」


そんな声が、胸の内で問いかけてくる。


そして、スマホが震えた。


【差出人:綾瀬悠斗】


《氷室さん、明日ちょっと話せる? 気になることがあるんだ》


(……“気になること”?)


次の朝が、ただの“日常”であるとは、雫はもう思えなかった。

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