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【短編】雨の日の後悔

 雨は嫌いだ。心が病んでいく気がする。

 僕は、雨を降らせるのをやめようと思った。

 そのために気象庁に入庁したのだ。


 雨がなければ作物が干上がってしまい、大変なことになるくらいわかる。

 だから、一瞬だけ雨を降らせることをやめさせる。

 それだけで、僕の気が晴れるってわけだ。


 僕は、気象庁のデータを使って、その日一番雨が強い日を選んだ。

 どうせなら皆が雨を憎む日を選んだほうが良い。

 豪雨の警報が出ている日だ。


 やり方は、中国のイベント開催日に行われる雲散らしロケットを参考にした。


 中国では大規模なイベントで雨雲を散らすために、ヨウ化銀、塩化ナトリウム、ドライアイスなどの粒子を雲の中に散布し、降雨を促進または抑制する技術が使われる。主にロケットの弾丸に仕込んで空中に向けて発泡する。

 僕はこれをロケットの弾丸ではなく、数万個のドローンに仕込んだ。


 その名は「セルフィリス」。

 セルはバイオ的な細胞の意味、フィリスは天候を意味する古ギリシャ語を由来にしている。


 構造はこうだ。


 まず、サイズは数ミリのナノドローンを大量に用意する。

 とても小さいからってバカには出来ない。


 このナノドローン内には、なんとバイオエネルギ―の増幅素子が組み込まれている。

 その中に電力が流れることでドローン内のバイオ細胞が活性化するってわけだ。

 仕組みとしては、簡単だろう?


 このバイオ細胞は、自己複製能力を持ってる。

 つまり、台風や雷雲内の強力な電磁力や放電を利用して、自ら増幅するってわけ。


 雲散らし成分として、ナノカプセルにヨウ化銀と分子水素を含ませた。

 分子水素は嵐の中に含まれる大量の酸素と結合し、制御された燃焼反応で温度を下げる。

 そのまま、嵐内の強力な電力を利用し、ドローンの自己増幅が加速する。


 空中の電力が増えるほど、ドローン内のバイオ細胞が活性かし、より多くの雲散らし物質を散布させることができる。


 また、ドローン自体がフラクタル構造を持ち、嵐のエネルギーを効率的に分散する。

 フラクタル構造とはご存知のとおり、氷の結晶や木の枝のように、全体の形や部分が繰り返される自己相似構造のことだ。これは科学をかじっているものなら誰でも知っている話だ。


 やがてドローンは嵐の中で生き残りながら、いや増幅しながら雲散らし成分を散布し続ける。

 役目を果たすまでどんどん増え続ける。

 嵐の中にはとんでもない電力が含まれているから、無限に増える。


 もちろん、このバイオドローンは永遠に増え続けてしまうことはない。

 台風の風速がある一定以下になると自然に弱体化されるようにプログラムしてある。


 残ったドローンは最終的に自己消滅プログラムを発動し、大気中で分解される。

 危険な物質や成分は一切残らない。

 エコシステムここに極まる、だ。


 僕は、気象庁の屋上でそれを実施した。

 結果は、——見事に成功した。


 嵐は一時間も経たないうちに、すぐに収まりやがて青空が広上がった。


 人々の歓声が聞こえた。

 僕は、やった。やったのだ……。


 しかし、異変に気づいた。

 ドローンが消えない。

 それどころか、空中で無数に増殖し続けている。


 暗雲が広がり始めたかと思ったけれど、それは雲ではなかった。

 ドローンだ。

 すでに何兆個にも増えたナノドローンが空を埋め尽くしていた。

 

 自己消滅プログラムが機能しなかった? なぜ?

 僕の指は震え、視界が滲んだ。止められない。


 空を覆うナノドローンは、太陽光を遮断し、雲よりも暗い影を落としていた。

 雨は止んだ。


 けれど、その代償として世界から光が消えた。


 僕は、屋上の縁に足をかけた。

 風が頬を切りつける。

 下では人々が空を見上げている。

 不安と恐怖を含んだ顔をしていた。


 僕は、気象庁の屋上から、——飛んだ。


 増え続けたナノドローンは、やがて空を覆い尽くし、太陽を奪うだろう。

 そして雨も光もない世界を作り出す。そんなに時間はかからないはずだ。


 世界中で作物は干からび、動物は死に絶え、世界は静寂に包まれていくだろう。


 僕は、なんてことをしてしまったんだろう。

読んでくれてありがとう。


最初の一行目から最後の一行まで

どういう展開になるか私自身もわからないまま書きました。


そんな書き方が好きなのです。


そんな文章にお付き合いいただきありがとう。

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