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魔王

 無茶苦茶楽勝だ。

 魔王城に迫ったのに敵がほとんどいない。

 でも何者かが敵を蹴散らした後はある。

ーーーーーーーーーーーーーー

 (ぼく)は獲物を咥えて戻って来たペット達を見てウンザリする。

 「お前ら・・・コレ全部団子にするの結構大変なんだよ?

 何でそのまま食わないの?

 何で僕の手からもらったモノしか食わないの?

 この甘えん坊さん達め!」

 この時豊(ぼく)はペット達が魔王城の周りで狩りをしてきた事を知らない。

ーーーーーーーーーーーーー

 「どういう事!?」

 準備をして勇者を待ち構えているはずだ。

 5人いる『魔界四天王』はどうした!?

 『魔界大将軍』はどうした!?

 四天王も大将軍もボコボコにされて、豊のペット達が豊のところへ咥えて行った。

 さすがというべきか、豊のところへ咥えていかれた四天王も大将軍もまだ息があった。

 豊は四天王と大将軍をテイムした。

 つまり魔王城の護りは全くいない。

 護りが全くいない魔王城を勇者パーティーはハイキングに来た気軽さで魔王のところまで到達した。

 そして冒頭に戻る。

 「どういう事!?」と魔王。

 「そりゃこっちが聞きたい。

 『今回は下見ね。

 あ、水筒は忘れないでね!』って言ってたら魔王のところまで辿り着いちゃった」と英雄。

 「遠足か!?」と魔王。

 「遠足のつもりだったんだよ。

 日頃の慰労も兼ねて。

 それより・・・」と英雄。

 「『それより』何だ?」と魔王。

 「お前、女だったんかい!」と英雄。

 「だから何なんだ?

 我が女で何か問題があるか!?」と魔王。

 「いや、やりにくいな。

 女の子に暴力を振るう男って最低じゃない!?」と英雄。

 「貴様は我に情けをかけるというのか!?」と魔王。

 「だからその格好じゃ攻撃しにくいって言ってるの!

 ホラ、セルみたいに『第二形態』とか『最終形態』とかなれるんでしょ?

 アレだったら攻撃出来るからさ!

 俺もモンスターを『男』とか『女』とか意識したことねーもん。

 オドロオドロしい格好なら遠慮なく攻撃出来るからさ!」と英雄。

 「アレは今は無理だ。

 アレになるには朝ごはんをちゃんと食べて、早寝早起きした時でないと・・・。

 今日のような『朝食抜き、夜更かしの後』は形態変化出来る気がせん」と魔王。


 「どうする?

 やっちゃう?」と魔法使い。

 「私らがやればヒデオが気にする事はないでしょ?」とクレリック。

 「男が女に攻撃するのも抵抗あるけど『女の子同士』も同じぐらい抵抗があるんだよ。

 女子プロレスとか女の子の悲鳴聞くだけでもう無理って言うか・・・」と英雄。

 「『ぷろれす』?

 何それ?」と2人。

 「女の人同士が闘技場で闘う事だよ。

 それはともかく、ここは俺に任せて貰えないか?

 悪いようにはしないから」と英雄。


 「では参る!

 魔王覚悟!」と英雄。

 「ちょっと待って!

 『人間形態』の我は街娘に擬態するぐらいしか出来なくて全く戦闘力ないのだ!」と魔王は言ったが、もう英雄は魔王を聖剣の腹でゴチンと殴っていた。

 そうだと知っていれば、英雄はもう少し魔王に手加減をしただろう。

 魔王は『キュ~』と気絶した。

 「勝負あった・・・のか?」と英雄は釈然としない。

 勇者パーティーは気絶した魔王を見下ろす。

 『これ、どうすりゃ良いんだろうか?』と。

 そこにコトコトとフェンリルが現れる。

 「新手か!?」と英雄。

 しかしフェンリルからは全く敵意も殺意も感じない。

 素早く動いたフェンリルは英雄のそばまで来るとクンクンと匂いを嗅いだ。

 すると元々敵意を感じなかったフェンリルがペロリと英雄を舐めた。

 フェンリルは豊が『犬』と呼んで可愛いがっている魔狼だ。

 豊の匂いがする英雄をフェンリルは仲間と判断した。


 フェンリルは最後に英雄の方をチラリと見ると、魔王を咥えて何処かへ走って行ってしまった。


 何ともよくわからない幕切れだ。

 こうして勇者パーティーの『魔王討伐』の物語は終わりを告げた。

ーーーーーーーーーーーーー

 テイムしたモンスター達が獲物を(ぼく)の前に積み上げる。

 僕は獲物達を注意深く選別する。

 まだ息があるモンスターは相手が激しく拒絶しない限りテイムする。

 息絶えているモンスター達はミンチ団子にする、テイムしたモンスター達のエサにするためだ。

 「お前ら、好きに獲物食えば良いじゃん。

 何で僕の手からもらいたがるんだよ?」と愚痴を言うが情が移ってるからか、モンスター達が可愛くて仕方ない。

 文句を言いながらもエサをせっせと作っていた時に『(フェンリル)』が戻ってきた。

 口にはいつも通り何か『獲物』を咥えている。

 「おかえり、今日の獲物は小さいし少ないね。

 いつもこのぐらいなら僕も楽なんだけどぉ!?」

 僕は話している最中に『(フェンリル)』が咥えていたのが女の子である事に気づく。

 僕はテイムしたモンスター達に何度も言い聞かせている。

 『絶対に人間は襲うな』と。

 ここまでモンスター達が大きな問題を起こす事はなかった。

 だから僕は勝手に思っていた。

 『言葉がちゃんと通じてるんだな』と。

 でもそれは勝手な僕の思い込みだったのかも知れない。

 そう言えば、僕が街に行った時にモンスター達は『アイテムボックス』の中にいた。

 「絶対出てくるなよ!」これは確かに通じていた。

 だから勝手に『言葉がある程度通じているんだ』と思い込んでいた。

 だが、『人間を襲うな』という事が通じていたかどうか、なんて僕の思い込み以外では確証が持てなかった。

 恐る恐る、『(フェンリル)』が咥えて来た女の子を確かめる。

 良かった!

 息がある!

 気絶しているだけだ!

 (フェンリル)が僕の袖を咥えて引っ張る。

 これはエサが欲しい時の『催促の態度』じゃない。

 遊んで欲しい時の『甘えた態度』でもない。

 これは何度も見た『コイツをテイムしろ』という態度だ。

 アホな!

 何で女の子をテイムせにゃならん!

 (フェンリル)をシカトしていると、他のモンスター達が『早くコイツをテイムしろ!』と急かしてくる。

 お前ら、どうしちまったんだ!?

 こんな聞き分け悪い事初めてだろう?

 もうエサ作りどころじゃない。

 もうわかった、わかった。

 いっぺんテイムしようとしてみりゃ、お前らも納得するのか?

 テイム出来るのはモンスターだけ。

 他の家畜とかペットとかにテイムは効かなかった。

 まして人間にテイムなんて効く訳がない。

 「よく見とけよ!

 『テイムしようとしたけど、無理だった』ら、もうしつこく『テイムしろ!』って言うんじゃねーぞ!」と形だけ女の子をテイムしようとする。

 すると女の子に『テイムモンスターの証』となる紋章が首筋に浮かび上がる。

 ・・・どうしよう?

 女の子、テイム出来ちゃった!

 何なの?このエロ漫画みたいな展開。

 まぁ、女の子が起きた時に『テイムをキャンセル』すれば良いや。

 今までに何回か、テイムに不服の態度を取ったモンスターのテイムをキャンセルしている。

 嫌がっているヤツを無理矢理働かせる、って悪魔みたいじゃない?

 『タノム、コロシテクレ』とか夢の中で懇願されるようなテイムはしたくない。

 基本、テイムモンスターは自由だ。

 好きに狩りをして、好きな時に戻ってくれば良い。

 良いって言ってるのに、何で僕からエサを貰いたがるんだろうか?

 僕は女の子をお姫様だっこをして、取り敢えず棲み家に戻った。

 モンスター達に見られている。

 「違うぞ!

 お持ち帰りじゃないぞ!」と僕は言い訳をする。

 すると街の方角から聞いた事もないような『鐘の音』が聞こえた。

 何かあったのかな?

 もしかしたら『モンスター襲来!』かも知れない。

 英雄のマブダチとしちゃ、行かない訳にもいかんよね?

 僕は街に行く事にした。


 街ではパレードが始まっていた。

 「これ、何事?」と僕は近くにいるオッサンに聞く。

 「勇者が魔王を討伐したんだよ!」とオッサン。

 「それマジで?」と僕。

 「間違いない!

 この街の鐘には特殊な魔力がこもっているんだ!

 魔王が力を失わないと絶対にこういう風には鳴らないから!」

 パレードの中『♪リンゴーン』と鐘が鳴り響いている。

 どうやら魔王が本当に力を失ったらしい。

 良かった、良かった。

 英雄のパトロンを買って出た甲斐があったってモンだ。

 パレードの荷車が近づいてくる。

 荷車には英雄と魔法使いとクレリックが乗っている。

 僕は荷車の上の英雄に声をかける。

 「英雄、おめでとう!」と。

 英雄はこちらをちょっと見ると驚いて「豊、今までどこにいたんだよ!?」と叫んだ。

 「一緒にいるわけにはいかなかったんだよ。

 英雄の遠征の妨害とかあったじゃん?

 アレ、こじつけた理由の一つに『英雄が知り合いのいる街を離れたがらないから』ってのもあったんだぜ?

 一緒にいたら、僕も英雄の妨害に利用されそうだったんだよ」と僕。

 「でもすぐに豊が見つかって良かった。

 帰る方法の説明を受けたんだよ。

 アイツら、今すぐにでも俺を元の世界に返したいらしい。

 魔王がいなくなったら俺がこの世界で権力者になろうとしている、と思っているみたいだ。

 あんまりこの世界に長居したらアイツら、俺を暗殺拳する気満々だと思うぞ?」と英雄。

 「帰る手段はあるのかよ?」と僕。

 「問題はそれだよ。

 『魔王が倒されたらジダンの門が丸1日開く』という言い伝えしかヒントはないんだ。

 『ジダンの門』がどこにあるかも不明なんだよな」と英雄。

 「それなら(オーガ)の集落でそれらしい門を見たぞ?」と僕。

 「おお!

 (オーガ)の集落なら場所はわかる!

 こうしている暇も惜しい!

 (オーガ)の集落に行くぞ!」と英雄。

 最初から英雄に聞けば良かった。

 方向音痴の僕が探して、もし見つかったとしてももう一回行ける可能性は低かったんだ。


 「何でこの()らついてくるの?」と僕。

 確かに英雄と僕は日本に帰りたい。

 けどこの()らは異世界にとどまれば良いじゃん。

 だって日本に何の思い入れもないんでしょ?

 「俺も何度もそう言ってるんだけどな。

 何か知らんけど『日本について行く』って言ってるんだよ」と英雄。

 「言葉もわからん世界に放り出されるのは辛いぞー。

 経験した僕が言うんだから間違いない」と僕。

 「俺もそう思うんだけどな」と英雄。

 そんなの二人が英雄に惚れているからに決まっている。

 しかし英雄は『主人公ならではの鈍感さ』を相変わらず発揮して気づいていない。

 英雄は武芸だけではない。

 勇者として『どんな言語でも通訳出来る翻訳魔法』を手に入れている。

 盲腸があれば誰でも勇者になれる資格がある。

 しかし、実際に異世界で『勇者の資格』を得た者はどの世界を探しても英雄だけなのだ。

 僕が魔法使いとクレリックに「何とかコミュニケーションを取ろう」と話しかけても、2人は英雄の後ろに隠れていて何も言わない。

 「・・・僕が何をした?」と半べそになる。

 「まあまあ、2人は人見知りなんだよ」と英雄がフォローを入れる。

 「(オーガ)の集落に行く前に寄るところがあるんだよ」と僕は勇者パーティーを棲み家に連れて行く。

 『棲み家』と言っても、洞窟でしかないが。

 そこには先ほどテイムした女の子がいた。

 要は「テイムするだけして、異世界に置いていくなんて無責任だよね?テイムを解かないとダメだ」と。

 気絶した女の子は目を醒ましていた。

 「き、貴様は誰だ!」と女の子が僕に言う。

 「それはこっちのセリフなんだけど・・・。

 『君は一体誰なのさ?』

 と、言ってても話は進まないね。

 僕は豊、それ以上でもそれ以下でもない」

 何で異世界語が片言なのに、普通に女の子とコミュニケーション取れてるの?

 モンスター達が喋れなくても、僕の意思を伝えられてるのは何故か?

 それがテイマーとテイムされるモンスターの意志疎通だからだ。

 逆に僕は女の子との意志疎通を頭の中で行っており勇者パーティーには伝わっていない。


 「『ユタカ』・・・」女の子は反芻するように言う。

 それも束の間、女の子が英雄の方を見て「貴様は勇者!」と言う。

 しかし『丸腰の女の子と勇者パーティー』では戦力差は歴然だ。

 可哀想に女の子はガタガタと震える。

 見かねた僕は女の子と英雄の間に入り

 「いくらなんでも勇者が女の子を虐める、とか見過ごせねーぞ?」と咎める。

 「そんな事言ってもなぁ。

 豊、この()の事知ってるのか?」と英雄。

 「知らん。

 飼ってるペットの『犬』が咥えて来たから、テイムしただけだよ」と僕。

 「この()、魔王だよ」

 「この震えてる()が!?」

 「そう。

 豊が『テイムした』って()が人間達に怖れられた『魔王』だよ」

 「道理でテイム出来るはずだよ。

 普通、人間はテイム出来ないんだよ。

 そうか、人間じゃないんだな」と僕。

 「でどうするつもりだよ?」と英雄。

 「流れでテイムする事になっちゃったけど、解放するよ」と僕。

 「魔王を無罪放免するのかよ!?」と英雄。

 「つーか僕、魔王がどんな悪い事をしたか知らんのよね」と僕。

 「でも『魔王』だぞ?」と英雄。

 「『魔王』ってだけで罪なのかよ?」と僕。

 「豊の言う事は(もっと)もだ。

 でも、折角『魔王の脅威から解放された!』ってパレードまでやってる人もいるのに、もう一度、魔王を野に放つのか?

 確かに魔王は若く罪はないかも知れない。

 でも、力がないから悪いヤツらに利用されるんだぞ?

 無知だから悪いヤツらに利用されるんだぞ?

 良いか?

 無知は罪なんだ。

 力がないのは罪なんだ!

 『可哀想だから』って解放されたら、もう一度『人間界を暗闇に突き落とそう』という魔族に利用されるぞ?

 結果、数百万人が命を落とすぞ!?」と英雄。

 「だったら英雄はこの震えてる()を殺せ、と?」と僕。

 「そうは言ってないだろ!

 『テイムを解くな』と言っているんだ!」と英雄。

 「魔王とは言え『ほぼ人間』をテイムするのかよ!?」と僕。

 「それが気に食わないならしょうがない。

 俺が首を落としてやる」と英雄。

 「わ、わかった!わかった!

 僕が面倒を見る!」と僕。

 流れとは言え、僕は魔王をテイムする事になっちゃった。

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