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 「何とか日本に戻れる方法はないか?」と英雄は探った。

 すると王は言ったらしい。

 魔王を倒した勇者を元の世界に帰らせた記録がある、と。

 つまり『魔王を倒したら元の世界に帰れる』

 その可能性に縋るしかない。

 それしかないのだが、(ぼく)には勇者になる資格がない。

 完全に勇者の足を引っ張る存在だ。

 英雄は『勇者にしか装備出来ない武器・防具』を装備出来る。

 それは古来から城に伝わっており、無茶苦茶強い。

 「ハッキリ言って武器と防具だけの強さじゃねーか!」とツッコミを入れたくもなるが、それを装備出来るのが英雄だけなので誰も文句を言えない。

 対して(ぼく)はと言うと、強さは一般人以下だ。

 この世界の人間は足腰が強い。

 科学万能の機械文明の世界から来た(ぼく)がもやしっ子なのはしょうがない。

 オマケにコミュニケーションが全く取れない。

 (ぼく)を一人で置いていけないから、英雄は最初の街から離れられない。

 (ぼく)の存在は正直、誰のためにもなっていない。

 この世界の人々は早くに勇者に魔王討伐の旅に出て欲しい。

 英雄は早く魔王を討伐して元の世界に帰りたい。

 『アイツさえいなければ・・・』周りの陰口が(ぼく)の耳に入らないのは僕が言葉がわからないからだ。

 街を歩けば石を投げられる。

 ついに僕はそんな生活に耐えられなくなる。

 英雄がいたらまだ耐えられたんだろうが、英雄は訓練と遠征でほとんど家に帰らなくなっていた。

 それでも英雄はぼくを置いてあまり遠くまでは遠征に出掛けなかった。

 それが余計に民衆の僕に対する反感になった。

 別に嫌がらせとかイジメに耐えきれなくなった訳じゃない。

 でも『魔王を討伐しないと元の世界に戻れない』と言われてるのに、僕という存在がそれを阻害してるのは「なんだかな」って感じだ。

 それに配給されたパンを小鳥にあげた時、小鳥がバタバタ倒れるのを見た時に思った。

 「誰かに毒を盛られたんだ」と。

 ここまで周りの人らに『お前の存在が邪魔だ』と思われていた事に正直凹んだ。


 英雄がいない隙をみて僕は街から飛び出した。

 僕は英雄に置き手紙をした。

 『僕の事は気にせずに魔王討伐の旅に出てくれ』と。


 街から出た僕は、とにかく人間達から距離を置いた。

 『近くで悪意を向けられる』ってしんどいぜ?

 それに、暗殺されるのも正直勘弁して欲しかった。

 街から遠ざかった僕は知らないうちに魔族領との境目に来ていた。

 僕が来た所は昔、魔物がゴロゴロしていたらしい。

 でも、遠征で英雄が魔族領との境界線の魔物を一掃した、と。

 因みに僕は異世界に来て、大した魔物を見ていない。

 だって僕が見る前に英雄が大体の魔物を討伐してしまっていたから。

 本当なら、僕が一人っきりで街の外をウロウロしていて一瞬でも生き残れる訳がない。

 でも、僕はラッキーにも一人で魔族領との境界線を越えた。

 「ここら辺は静かだな。

 向けられる『悪意』も感じない」と僕は胸を撫で下ろした。

 当たり前だ。

 普通、魔族領内に人間達は近づかない。

 やっと人心地つけた。

 思えば、一昼夜歩き通しだった。

 ちょっと休憩しよう。

 本来なら魔物だらけで、ここで足を止める事は許されない場所だが英雄一行がこの地を蹂躙し魔物の一掃した後だったんで、僕にとっては調度良い休憩場所になった。

 ここを休憩場所に選んだ理由、というのは泉があるからだ。

 やはりこの世界、水は貴重だ。

 この異世界は砂漠のような乾燥した気候ではないけれど、蛇口をひねればどこでも水が手に入る便利さはない。

 泉の水は澄んでいる。

 ここで気づくべきだった。

 ここは魔物にとってオアシスになるはずだ。

 ここまで魔物がいないのはおかしい、と。

 僕はこの異世界に来てから、魔物を見ていない。

 知らない間に英雄に守られていたのだ。

 地球と生態系が違う事はなんとなく感じていた。

 馬車を引いているのが、良くわからないトカゲだったり。

 猫が無茶苦茶デカかったり。

 小鳥が妙にカラフルだったり。


 泉の畔にある大木の下で、腰を下ろす。

 大木の裏が何かやかましい。

 やかましい、といっても微笑ましいやかましさだ。

 大木の裏を見ると仔犬と子猿が取っ組み合いの喧嘩をしていた。

 どうやら大木から落ちた木の実の奪い合いをしていたみたいだ。

 仔犬は餓えているみたいだし、子猿は怪我していて木には登れず、落ちてきた木の実を食べるしかないようだ。

 僕も調度、腹が減ってきてたし木登りは苦手じゃない。

 僕は大木に登って仔犬と子猿の分の木の実も取って降りて来た。

 登る最中、木のウロの中で鳥の卵を見つけた。

 放置された鳥の巣だろうか?

 近くに鳥の気配はない。

 しかしデカいな!

 ゆで卵を作ったら、これだけで充分一食分になりそうだぞ!

 持って行こう。

 貴重な動物性たんぱく質だ。

 僕は上着のポケットの中に謎の鳥の卵を入れた。

 ・・・で降りて来てケンカしている仔犬と子猿の前に木の実を置いた。

 その木の実を仔犬と子猿は一瞬、不思議そうに見たが、美味しそうに木の実を食べる僕を見て、二匹も無我夢中で木の実を食べ出した。

 お腹一杯になった一人と二匹。

 暇になった僕は二匹をモフった。

 二匹も最初は警戒していたもののしばらくモフっていたら、遠慮なしにじゃれついてきた。

 こんなに小さいんだ。

 本来、母親に甘えたいさかりだろう。

 決めた!コイツらを連れて行こう!

 コイツらが自分から離れていくなら止めはしない。

 でも『僕と一緒にいたい』と思う限り、追い払ったりしない。

 ・・・僕も一人っきりは寂しいし。

 パリッ

 仔犬と子猿とじゃれ合っていたら、上着のポケットの中の卵にヒビが入った。

 うわっ、やべえ!

 ヒビの入った卵をポケットから取り出す。

 そんなに割れた訳じゃない。

 ヒビが少し入っただけだ。

 しかしもう食べられないかもな。

 あーあ、もったいない事したな。

 ・・・と思っていると、卵のヒビから(くちばし)が見えた。

 この卵、有精卵だったのか!?

 雛はみるみるうちに卵の殻を壊して外に出てくる。

 つーか、雛、バカでけー!

 ダチョウか!?ダチョウなのか!?

 雛にはホゲホゲの羽がはえている。

 でもまだ全身に羽根がはえてる訳じゃない。

 だから成体になった時のこの雛が全く予想出来ない。

 雛が僕に懐いてくる。

 おそらく『インプリンティング』ってヤツだ。

 鳥なんかで卵から出て最初に見た動く物を母親だと思う、っていう。

 つまりこの雛は僕を母親だと思ってるんだ。

 参ったな。

 放っておく事も出来ない。

 この雛はまだ飛べないよな?

 この子猿も怪我しててまだあんまり動けないし。

 動けるのは僕とこの仔犬だけだ。

 でもこの仔犬だって一人っきりじゃまだまだ行動出来ない。

 ・・・覚悟を決めよう。

 僕がこの子達の親代わりになろう!

 そうと決まれば僕は泉から程近い、山肌の洞窟を仮の住まいとしてこの子達を育てる決意をした。

 しかしこの時、僕の見立ては甘かった。

 そんなに都合良く洞窟があるか?

 洞窟は他の魔物の棲み家だったのだ。

 その魔物を掃討したのは英雄一行。

 そんなに都合良く仔犬、子猿、雛がいる訳がない。

 そうだ、この子達の親を掃討したのは英雄一行なのだ。

 親が殺されて置いてけぼりにされたこの子達は生き残った。

 そうだ、この子達は『神獣の子供達』なのだ。

 僕が勘違いして仔犬だと思っている魔獣は神獣『フェンリル』の子だ。

 僕が勘違いして子猿だと思っている魔獣は神獣『ハヌマーン』の子だ。

 僕が勘違いして雛だと思っている魔獣は神鳥『フェニックス』の子だ。

 しかしどんな怪物達も子供の時は可愛い。

 僕は『フェンリル』の事を犬だと思っていたし、『ハヌマーン』の事を猿だと思っていたし、『フェニックス』の事を(きじ)だと思っていた。

 僕はこの後、凄い勢いで成長していく三匹の神獣を見る。

 ・・・が毎日成長過程を見ていると結構、成長に気づかなかったりする。

 僕はここ数万年で、異世界一の『ビーストテイマー』となるが全く自覚はない。


 僕は三匹の神獣達とパーティーを組んだ。

 最初の数日間は僕が拾った枝で釣竿を作り、神獣達の抜け毛を繋いで糸を作り、フェンリルの生え変わる乳歯で針を作った。

 それなりに魚は釣れて、一人と三匹は餓える事はなかった。

 ・・・だが、一週間もすると三匹は『もう魚は飽きた』と言わんばかりに狩りを始めた。

 獲物が僕の前に山積みにされる。

 「こんなん食いきれんぞ・・・」と思ったのも束の間、神獣達は獲物をペロリと平らげた。

 そして食べた分だけ、神獣達は大きくなる。

 しかしどこで獲物見つけてくるんだろ?

 近くに獣はいないよな?

 時々モンスターぽい獲物も混じってるし。

 異世界の生態系知らないからモンスターかどうかなんてわかんないけど。

 でもこの角の生えたウサギ、めっぽう旨い!

 どうやら、モンスターっぽいほうが美味しいらしい。

ーーーーーーーーーーーーーー

~遡る事、数ヶ月前~

 鎧も剣も勇者用らしい。

 「こんな重そうな武器とか防具、装備出来るかよ・・・・」そう思っていた時期が英雄(オレ)にもありました。

 だが身に付けてみて思う。

 「無茶苦茶軽い」

 装備を着けた方が動きやすい、まである。

 特に剣に至っては何か語りかけてくる気がする。

 最初は空耳かと思ったけど『剣の振り方がなってないわ。

 身体の使い方も素人丸出しね!』と頭の中に響く。

 いよいよ英雄(オレ)もホームシックで頭がおかしくなったんだろうか?

 『でも身体は結構鍛えてあるのね。

 ・・・ってもしもーし!

 無視してんのー?』

 ・・・やっぱり頭の中に女の声が聞こえてくる。

 俺は頭が狂ったんだ!

 『んな訳ないじゃない。

 本当に頭の中に話しかけてんのよ!』と頭の中で女の人の声が聞こえる。

 どこから声が聞こえるんだ!?

 どこから話し掛けてるんだ!?

 俺はキョロキョロとして、ベッドのシーツをめくったりしながら部屋中を探す。

 『そこじゃないわよ!

 探すならアンタの背中よ!』

 背中!?

 俺は後ろを振り返る。

 そこには白い壁が。

 それ以外には何もない。

 『後ろじゃないわ。

 アンタの背中に張り付いてるのよ!』

 ゴキブリみたいにペトッてしがみついてるのか!?

 「うわああああ!取ってくれー!

 虫は苦手なんだー!」と俺は悲鳴をあげる。

 『失礼しちゃうわ!

 誰が虫よ!

 私はアンタが背負ってる剣よ!』

 「剣?

 剣がしゃべっているのか?」

 『アンタの常識じゃ普通の剣がしゃべるの?

 アンタに私の声が聞こえるのはアンタが勇者で私が聖剣だからよ!』

 「聖剣って女なのか!?」

 『私に性別はないわよ!

 でもアンタが男で、アンタに四六時中ベッタリくっつかなきゃいけないんだったら"自分は女だ"と思い込んだほうが良いじゃない?』

 「『良いじゃない?』と言われても・・・。

 『うん』とは言えないよ。

 『そういうモノなの?』としか」

 『そういうモノかどうかは私にもわからないのよ。

 だってアンタに握られて初めて自我が目覚めたんだから。

 それはそうと、アンタ、さっきも言ったけどとんだ素人ね!』

 「しょうがないだろ?

 剣なんて握るの初めてなんだから。

 振り方なんてわかんないよ」

 『私の送るイメージ通りに剣を振りなさい。

 わたしがアンタのコーチになってあげる』

 俺が目を閉じると剣の振り方が頭の中に流れ込んでくる。

 俺はそのイメージ通り、剣の素振りを行う。

 『下手くそ!

 センス悪いわね』

 「やかましい!

 あんまり口が悪いと、ゴミ箱に捨てるぞ!」

 『聖剣を捨てるバカ勇者がどこにいるのよ!?

 アンタにアドバイスしてあげてるのよ!

 ありがたく思いなさい!』

 「そんな事しなくても俺、結構強いみたいだぜ?

 城の近衛兵も誰も俺に勝てない・・・」

 『そりゃアンタが強いんじゃなくて「伝説の防具」がアホみたいに堅くて近衛兵達がアンタに傷一つつけられないだけよ!

 まあ、その防具を装備出来るのは勇者であるアンタだけなんだけどね。

 今は良いわよ。

 大して強い魔物もいないから。

 でもアンタは魔王領との境目にいる「フェンリル」「ハヌマーン」「フェニックス」といった強敵の魔物も倒していかないといけないのよ?

 装備の強さだけじゃなく「本当の強さ」を身に付けないと!』

 「強い魔物とか、魔王を倒したい、とは思わないけど。

 倒さないと元の世界に帰れないんだよな。

 わかった。

 剣の手解きお願いするよ!」

 『・・・なかなか根性はあるようね』

 「新聞配達で鍛えた身体と根性は伊達じゃないんだよ!

 遠慮せずに頼む!」


 数ヶ月後

 フェンリルもマヌハーンもフェニックスも倒した。

 かなり剣も使えるようになった。

 何と言ってもこの数ヶ月での大きな出来事は豊が出ていった事だ。

 豊は『自分が英雄の足を引っ張ってるんじゃないか?』と考えていたようだ。

 確かに豊がいたから街から遠く離れられなかった。

 街を離れなくちゃ魔王は倒せない。

 という事は元の世界にも戻れない。

 結局、どこかのタイミングで豊と別行動をしなきゃいかない、とは思っていた。

 それが今だったのだ。

 いつまでもショックを受けている訳にはいかない。

 豊の事は心配ではある。

 でもアイツは『ちゃっかりしている』ところがある。

 アイツはいつも何だかんだ大丈夫だ。

 書斎で『絶体絶命』というところまで追い込まれたはずなのに、何故か今、異世界にいる。

 アイツは常に『ギリギリセーフ』なのだ。

 本当に意味がわからない。

 小学校の時、上級生達に目をつけられて『どうするんだ?もう終わりだ!』って時に豊は「何とかなるだろ?」って一人で楽観してて、実際『あべべ自動車の工場規模縮小』で上級生達がまとめて家族ごと転勤した。

 ロールプレイングゲームのキャラなら、能力値は平凡だけど『運の良さ』だけが、カンストしている。

 だから根拠はないが今回も豊は何処かでちゃっかり生き抜いている気がする。

 俺はそんな豊と偶然再会した時のために魔王討伐を目指そう!

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