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パラサイト

 坑山の中は真っ暗だ。

 なのに坑山を奥に進むと淡く光を放つ物質が所々に置かれている。

 「誰かが置いたんだよなぁ。

 しかし誰が?

 ここには100年ぐらい誰も入ってないはずなんだが?」と俺は首をかしげる。

 肩は痛いが他は『動けない』というほどじゃない。

 余命宣告は受けたが、本当に死ぬんだろうか?

 医者は「少し肩が痛むところから一週間もしないで左肩が動かせないぐらいになったでしょう?

『若い』という事はそれだけ『病気の進行も早い』という事なんです。

 これから病状は一気に変化します。

 だから、一秒一秒を大切にして下さい」と言っていたが。

 大切にしろ、と言われても具体的に何をすれば良いのやら。

 やりたい事がない、と言えば嘘になるけど自分が存在するだけで多くの人を傷つけるのだったらたまらないな。

 それに、死ぬ前にやりたい事と言えば『この廃坑の奥に何があるか知りたい』って事だけだ。

 そういう意味でも廃坑の奥に入るのは理に適ってる。


 しかし息が上がるのが早いな。

 癌細胞が、もう肺にまで影響してるのかな?

 喉がカラカラだ。

 『どうせ死ぬ』って言ったって、『今はまだ生きてる』んだから喉も渇くよな。

 ミスった。

 水筒ぐらい準備してくれば良かった。

 身体が水分を求めているからだろうか?

 俺は水音に敏感になっていた。

 チョロチョロチョロチョロ・・・・・

 どこかで水が流れている!

 こっちだ!

 俺は音が聞こえる方に歩いて行った。

 「あった!湧水だ!」

 俺は湧水を(すす)った。

 「うめえ!」

 本当は生水なんて飲んじゃいけない。

 ましてや工業地帯の土壌に染み込んだ湧水なんて飲んで『死ぬ気か!せめて沸かして飲め!』と言われてもしょうがない。

 でもどうせ余命宣告されている俺にしたら「そんなもん知るか!」というモノだ。

 喉が渇いている俺は湧水の中に太いミミズのような生き物がいるのに気付いていない。

 そのミミズのような生き物の先が針のように尖り、左手中指の先に突き刺さった。

 「痛・・・!・・・くない!?!?!?」

 生き物の太さから考えたら肌の中に入って来たら激痛が走ってもおかしくない。

 なのにまるで麻酔が効いているように、指の中にミミズが入って来ても何も感じない。

 ミミズは中指から肩に向かって凄い勢いで移動する。

 何故それがわかるか?

 痛みは全くないが、ミミズの移動の痕跡が地面の中のモグラの移動の痕跡のように肌にポッコリ盛り上がって見えているからだ。

 その間0.5秒ぐらいだろうか?

 肩まで来た移動の痕跡がピッタリと止まった。

 俺は訳がわからない。

 (貴様、もうすぐ死ぬのか?)

 何者かが俺の頭の中に語りかけて来る。

 俺は周囲をキョロキョロと見渡す。

 (どこを見ている?私は貴様の左肩にいる)

 「!

 お前、あのミミズか!?」

 (ミミズというのがどんなモノだか私にはわからん。

 私は貴様の指から身体の中に侵入したモノだ)

 「お前、一体何者なんだよ!?」

 (貴様にわかるように説明するなら私はこの洞窟に1000年ほど閉じ込められている寄生生物だ。

 隕石に乗ってこの星に飛来したのだが隕石の衝突エネルギーが強くてな。

 地面の中にめり込んでしまったのだ。

 ようやくこの星の生物が私を掘り起こしたのだが私が活動を再開しようとした刹那、この星の生物達はこの洞窟をまた埋めてしまった。

 この洞窟には他にも住み着いている生物がいるようだが、ソイツらの皮膚は硬すぎる。

 私が肌から侵入する事は出来ない。

 仕方なく私は再びこの星の生物がここを訪れるタイミングをこの湧水でうかがっていたのだ。

 どうやら生物は水がないと生きていけないようだからな)

 「だから何でこの星の生物を待ってたんだよ!」

 (そんなもの寄生するために決まっているじゃないか。

 私達は寄生した生物の脳をのっとり活動する。

 しかし貴様、病魔に侵されていてもうすぐ死ぬな?)

 「・・・そんなことわかるのかよ・・・。

 だから何なんだよ?」

 (言っただろう?

 私達は寄生生物だと。

 宿主がすぐに死んでしまったら一緒に命を終える運命なのだ)

 「残念だったな。

 他の宿主を探すんだな」

 (一度、肌から侵入したらソイツが運命共同体になるのだ。

 他の宿主など、選びたくても選べん。

 ・・・仕方がない。

 貴様の侵された臓器の修復を行う)

 「そんな事が出来るのか!?」

 (出来ない訳があるまい?

 私達は寄生した生物の脳を食い破り、もう一度生命活動させるために私達の都合の良いように脳を作り替える事すら出来るのだぞ?

 臓器を作り替える事など、朝飯前だ。

 しかし相手の身体全体を支配するためには脳に侵入してから10秒で到らないといけない。

 既に脳を乗っ取るためにはタイムアップだ。

 口惜しいが、貴様の身体全体を乗っ取る事には既に失敗している)

 「で、お前はどうなるんだよ?」

 (左手の指先から左肩までは私の支配下にある。

 それ以外の身体の指揮権は貴様のモノだ)

 「そうかよ」

 (貴様、ショックじゃないのか?)

 「どうせ左肩から先は自由に動かせなかったんだよ。

 元々俺の指揮権から離れてたようなモノだ。

 だったら痛みがない分だけ今の状態の方がマシだ。

 で、どうするの?

 お前、俺を殺すの?」

 (言ったろう?

 貴様が死んだら私も死ぬ、と。

 私は貴様に生きていてもらわないと困るのだ。

 だから貴様の身体の治療を行う)

 「指揮権は左肩より先だけじゃないのか?

 全身の血に混じった癌細胞を何とか出来るのか?」

 (癌細胞であればな。

 確かに左肩より先の治療は難しい。

 でも血液であれば、左肩を通って全身を巡る。

 巡って来た時に癌細胞を取り除くことは容易だ。

 既に転移していた場合にも多少骨は折れるが治療出来ない事はない。

 貴様はほとんど転移していないし、問題はない)

 「・・・という事は俺は死なない!?」

 (死なれたら困ると何度言わせるのだ?

 しかし貴様、病気が治れば本当に生き残れるんだろうな?)

 「大丈夫、大丈夫!

 日本で普通にしてたら死ぬ方が難しいから!

 俺はわざわざ死ぬためにこの廃坑まで来たんだぜ?」

 (だったら良いが・・・。

 早速お客さんのようだ。

 絶対に死ぬんじゃないぞ!)

 寄生生物が言う通り、廃坑の奥からは頭にいくつか角が生えた、見るからにゴツゴツした生物がゆっくりと近付いて来た。

 会長である祖父からは何度も聞かされている。

 「廃坑跡には鬼が住み着いている可能性がある」と。

 「コイツが鬼・・・か」俺は冷や汗を流しながら呟いた。

 (どうやらコイツは貴様を敵とみなしているようだが?

 手を貸そうか?

 先手必勝だと思うぞ?)

 「残念だが、俺に鬼を倒せるだけの強さがないんだよ。

 何とか俺を逃がす方向で手を貸してくれ」

 (貴様の身体の中に入っているんだ。

 貴様の身体能力や、身体のコンディションは全てわかっている。

 その上で『逃げれる可能性は低い』と思う。

 私は闘うべきだと思うぞ?

 逃げたらその分、体力を劇的に消費する。

 相手は追いかけるぐらいなら体力はほぼ消費しないと思うぞ?)

 「悪かったな!

 体力がなくて!」

 (いや、貴様は病魔に侵されて死ぬ寸前だった。

 そんな状態で元気に跳ね回れるとは思っていない。

 現状体力がないのはしょうがない。

 『この身体状態でいかにこの危機を乗り切るのか?』を考えるしかあるまい)

 そんな作戦会議を『鬼』が黙って見てくれている訳がない。

 『鬼』が俺に拳を振り上げて迫って来る。

 「危ない!」

 俺は目を瞑って身構える。

 すると左腕が大きな楯の形に変形して『鬼』の右拳を受け止める。

 凄い衝撃だ。

 俺は後ろの壁まで飛ばされ、背中を打って止まる。

 背中を激しく打った俺はむせ込む。

 (ダメージが激しいぞ!

 少しぐらいは避ける事を考えろ!)

 「さっき、癌に侵された内臓を治してくれたじゃん!

 ダメージだって治せるんじゃないの!?」

 (だから言っただろうが!

 『癌は血液を巡る。だから治しやすい』と!

 ・・・まぁ、ダメージだって治せない事はないだろう。

 だが治療に専念したら今みたいに相手の攻撃を防ぐ事は出来ないぞ!

 それでも良いのか!?)

 「それは困る。

 お前には『鬼』の攻撃を防いでもらわないと!」

 (だったら目を閉じるな!

 生き残る方法を考えろ!

 足掻け!)

 そうか、何も勝たなくて良い。

 要は『鬼』を足止めすれば良い。

 その隙に俺がここからいなくなれば良いんだ。

 考えろ、考えるんだ。

 (お、良い感じにアドレナリンが出ているぞ!

 その調子だ!)

 壁まで吹き飛ばされた事で、鬼と距離が開いた。

 これなら若干逃げる距離が稼げそうだ。

 逃げきろう、というんじゃない。

 『ここで迎え撃つのは不利過ぎる』と言っているのだ。

 楯で『鬼』の拳を防いでも、背中が壁ではサンドイッチにされて潰れてしまう。

 背後が壁は不味い。

 一先ず『距離を取ろう』と逃げる。

 幸い『鬼』に素早さはない。

 逃げれば一旦は距離を稼げる。

 しかし『鬼』は遥かに俺よりスタミナがあるようだ。

 長距離勝負になってしまえば『鬼ごっこ』は『鬼』が断然有利だ。

 俺に出来る事は『俺のスタミナが続くうちに有利な立地に鬼を誘導する』事だ。


 絶望的な光景が目の前に広がる。

 目の前に足場がない。

 向こう側に地面はある。

 つまり目の前には底が見えない溝が横たわっているのだ。

 こちら岸と向こう岸には石で出来た柱のような棒が二本ずつ立っている。

 おそらくこの棒に吊り橋がくくりつけてあったのだろう。

 吊り橋は経年劣化して朽ち落ちたのか、鬼が渡ろうとして重みに耐えきれず落ちたのか・・・何故、吊り橋がなくなったのかは今は想像するしかない。

 ただ一つ間違いない事は『今は吊り橋はない』という事だ。

 後ろからは『鬼』が迫って来る。

 前は底が見えない谷底だ。

 考えろ!

 どこかに活路はあるはずだ!

 ダメ元で谷底に飛び込むか?

 蹴った石ころが谷底めがけて落ちる。

 ・・・落ちた石ころが跳ねる音がまだ聞こえて来ない。

 これは相当深いぞ・・・。

 落ちたらひとたまりもない。

 (来るぞ!)

 左腕が再び楯の形に変わる。

 ・・・ちょっと待てよ?

 「お前、楯以外に変形出来るか?」

 (出来るが、鬼は硬い。

 剣に変形しても無駄だぞ?

 大体、私の攻撃は相手に傷をつけられない。

 つけられたら、私は鬼に寄生している)

 「そんな話をしているんじゃない。

 鞭に変形出来るか、と聞いているんだ!」

 (ムチ?

 ムチで鬼に攻撃出来るのか?)

 「何で鬼を倒すんだよ?

 ムチになって向こう岸の石の柱に絡みつけるか、と聞いているんだよ!」

 (あぁ!

 そういう事か!

 なった事はないがムチになってみよう!

 しかし硬度の低いモノに変形出来るだろうか?)

 「出来るかどうか、試す価値はあるだろう!?

 早く!!!!」

 (急かすな!

 変形はイメージなんだ。

 柔らかいモノに変形するイメージを思い浮かべてるんだから・・・)

 そういうと俺の左手は最初、ロープのような形状になった。

 (違う、長さが足りない・・・)

 「頼む!

 もう鬼がそこまで来てる!」

 (全く、やかましいな!)

 「クソっ!

 時間切れか!」

 鬼の右拳が迫ってくる。

 左腕は再び楯の形になる。

 正面から拳を受け止める訳にいかない。

 そうしたら俺は谷底に吹き飛ばされてしまう。

 考えろ!

 自分の持っている全てを吐き出せ!

 俺が出来る事は何だ?

 俺が身に付けているのは『合気道』だけだ。

 一応、俺は『おぼっちゃま』『社長令息』だ。

 小さな頃から護身術の合気道はやらされている。

 『合気道』は自慢じゃないが、有段者の中でもかなりの腕前だ。

 吹き飛ばされたら谷底に落ちて死ぬんだ。

 どうせなら全ての出来る事を試してから死のう。

 一度は死を覚悟したこの身だ。

 何も怖い事はない!

 俺は楯に鬼の右拳が当たる瞬間に身体を捻る。

 鬼は勢い余って、右半身を前につんのめる。

 つんのめった鬼の右腕を更に引っ張って更に鬼をつんのめらせる。

 おっとっと、とたたらを踏む鬼の足元に俺は亀のように(うずくま)る。

 俺の身体に(つまず)いた鬼はクルっと一回転すると谷底に落ち・・・るかと思いきや、溝の(ふち)にガッシリと指をかけてつかまっていた。

 「どういう握力してるんだよ!」と俺は悲鳴を上げる。

 掴まれなくて良かった!

 この握力に捕まったら、どうやったって引き剥がす方法なんてないだろうから。

 しかし鬼が崖にぶら下がっている今がチャンス・・・と思いきや、鬼の身体能力はハンパじゃない。

 難なく這い上がろうとしている。

 「もう!

 頼むよ!

 早くしてよ!

 向こう岸に渡るムチ用意してよ!」

 (その前に・・・)

 ハンマーの形に形状を変えた左腕は崖にぶら下がっている鬼の右手にハンマーを打ち下ろした。

 鬼にはハンマーの攻撃は全く効いていないようで、鬼の表情は全く変わらない。

 「効果ないよ!

 何してるの!?」

 (鬼にはな。

 しかし地面にはどうかな?)

 何度もハンマーで叩かれた鬼が掴んでいる崖はひび割れると、鬼は今度こそ谷底へ落ちていった。

 「やった!

 良かった!

 じゃあ戻ろうか?」

 (いや、戻ったら間違いなく鬼の仲間がいる)

 「何でわかるんだよ!」

 (私はこの洞窟で1000年以上過ごしてたんだぞ?

 それこそ鬼が住み着く前から。

 この先に鬼の集落があることなんて織り込み済みだ。

 それにこれだけの大立ち回りをしたんだ。

 鬼が集まってきても不思議はないだろう?

 元きた道を戻るのは自殺行為だ。

 このまま別の道を進もう)

 「・・・わかったよ。

 お前を信じるよ」

 左腕はムチに形状を変えると崖の向こう岸の石柱にクルクルと巻きついた。

 巻き付くのは良いけど、良く考えたらどうやって向こう岸に飛び移るんだ?

 そう考えていると・・・。

 (衝撃に備えるんだな)

 「お前、どういう意味だ・・・うわあ!」

 向こう岸の石柱に巻き付いたムチが短くなり始める。

 イメージ的に言うと、クルクルと巻き取られる掃除機のコンセントのコードのようだ。

 ムチが短くなったので、石柱の方に俺の身体は引っ張られた。

 引っ張られた身体は谷の方向へ。

 突然足元が消えた。

 「ちょっと待て!」

 (この中途半端な長さで止めたら、貴様は向こう岸の崖の壁に叩きつけられるぞ?)

 「ひー!

 待たないでー!」

 (先程、覚悟を決めて鬼を投げた貴様と今の貴様、どちらが本当の貴様なのだ?

 まあいい。

 反対側の岸に着いたぞ)

 ちょうど崖に当たらない長さにムチの長さを調節してくれたらしい。

 ちょっとムチを短くしすぎで、したたかに石柱でオデコを打ったがこれくらいは我慢すべきなんだろう。

 (やはりな。

 元きた岸を見てみろ。

 鬼が集まって来ていた。

 戻らないで正解だったな)

 元来た岸には五匹の鬼がこちらを見ている。

 一匹相手でもこれだけギリギリなんだ。

 五匹なんて相手に出来る訳なかった。

 (とにかくここから出よう。

 この洞窟の道は一つじゃない。

 他の道から地上に出れるかも知れない)

 左腕の言う通り、道は回り道ではあったが元来た道と繋がっていた。

 ・・・という事は再び『鬼』と会う可能性もある、という事だ。

 俺は急いで地上へと戻った。

 再び坑道の鍵をかける。

 ふと思う。

 「こんな鍵一つで鬼を閉じ込めりるんだろうか?」と。

 鬼が地上に出て来ない理由はおそらく鍵だけではない。

 他にどんな理由があるだろうか?

 しかしそんな事を今考えていてもどうしようもない。

 今、俺にすべき事は坑道の鍵を返す事だ。

 


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