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マッチポンプ

 喫茶店の最寄りのバス停にバスは1日に四回しか停まらない。

 『あべべ自動車』が乗用車部門から撤退する前、街がゴーストタウンになる前にはもう少しバスの数は多かったが今となっては廃線間際だ。

 最後にバスが停まるのは夜の七時ちょうどだ。

 不便だが、赤字バス路線が残っているだけでも感謝しなきゃいけない。

 よく『年寄りは免許を返すべきだ!』『車なしで生活出来ないところでどうやって生きていけば良いんだよ!?』と議論になる田舎が多いが、まさにそんなド田舎なのだ。

 そんなド田舎でまことしやかに囁かれている怪談話がある。

 夜に運転手のいない路線バスが走りまくっている、という。

 一台だけじゃない。

 色とりどりの路線バスがそこら中で目撃されている。

 果たして『幽霊路線バス』の目的は何なのだろうか?


 「何で動かさなきゃダメなんですか?」と僕。

 「だって動かさないとバッテリーがあがるじゃないですか」と田中さん。

 「何でそこだけリアルな路線バスなんですか?

 アンドロイドが変形した姿でしょう?」

 「変形した姿はリアルな路線バスみたいです。

 性能もリアルな路線バスなんですよ。

 だから変形した姿はリアルにバッテリーがあがります」

 「何で精工に変形するほど不便になるんですか!?」

 「でも燃料なしで走りますよ?

 走る事で発電するEV車です」

 「へー。

 未来ですね!

 完全に環境対応なんですね!」

 「ただ1日に一回は街を一周しないとバッテリーがあがります。

 バッテリーがあがったら、路線バスは鉄屑です」

 「バッテリーがあがるくらいなら元のアンドロイドの姿に戻れば良いでしょう?」

 「アンドロイドの姿になると六つに分裂した姿じゃなく一つの人型のアンドロイドになります。

 酸素の原子が分裂したら『オゾン』になるじゃないですか。

 それと同じように、分裂した状態は非常に不安定です。

 アンドロイドが六つに分裂して五台の路線バスと一台の原チャリに固定されています。

 決まった形でないとより不安定なんです。

 分裂した状態は路線バスの形を取る事で何とか一定に保たれているのです」

 「・・・よくわからないけど、兎に角『路線バスじゃなきゃダメ』って事ですね。

 でも邪魔なんですよ。

 喫茶店の駐車場、路線バスで一杯でお客さんが入れないじゃないですか!」

 「『喫茶店は世を忍ぶ仮の姿』で本当は『秘密基地』じゃないんですか?」

 「それで食っていければ・・・でも『秘密基地』じゃ、この喫茶店は維持していけない!

 そもそも『魔法少女』って何だよ!?

 何と戦っているんだよ!?」と僕。

 「NHK(西日本フナムシ協会)?」とウメ。

 「問題発言するんじゃねえ!

 そんなもんぶっ壊さなくて良いだろうが!

 人間『ごっこ遊び』だけじゃ生きていけないんだよ!

 マリアさんや馨さんは喫茶店が本業なんだから!」

 「いつの間にか『喫茶店が本業』なってる・・・」と馨。

 でも仕方ない。

 もう帰る先がないんだから。

 誰も自分が『阿部馨』だとは気付いてくれないんだから。

 とにかく『身の振り方』を考えなくては。

 それまでは喫茶店勤務、という事で。

 それよりこの喫茶店にいるヤツらは何なんだ?

 コイツらは人外としか思えないような力を持っている。

 しばらく『どこに行って何をすれば良いかわからない』間だけでも監視しなくては。

 もしかしたらコイツらは陰陽師にとって敵になるかも知れない。

 ・・・今のところ、そんな様子はないが。

 コイツらが『何をしようとしているか?』は全くわからない。


 馨がわからないのも当然だ。

 何しろ『何にも考えていない』のだから。

 勇者一行の『魔王討伐』という大きな目標はすでに終わっている。

 勇者一行のこれからの人生は『悠々自適』目標なんてモノはない。

 アンナもシンシアも英雄を慕って日本に来た、それだけだ。

 「何をしているのか?」と聞かれたら「何をする予定もない」と答えるだろう。

 そしてウメの考え・・・これが本当に難解だ。

 先を見通しているようで、何も考えていないようで・・・。

 とにかく魔族と人間では思考回路が違うらしい。

 恩師に擬態していたアンドロイドを路線バスに、巨大ロボにしよう、というだけでも意味がわからない。

 ウメの行動に理由を求めてはいけない。

 マツの行動原理は『死ぬまでの暇潰し』だ。

 「どうせ一度死んだんだから、残りの人生ボーナスステージみたいなモノだ」と。

 マツはウメを溺愛している。

 だからウメの好きなようにやらせているのだ。

 ウメのやる事は突拍子もない。

 だから残りの人生で『魔法少女』をする事になった。

 唯一行動原理がまともなのはマリアだけだ。

 しかしマリアは一度は死んでおり、正規の住民票すらない。

 ・・・というか、死んだ時に正しく届け出されてすらいない。

 マリアには頼るべき場所すらない。

 喫茶店にいるしかないのだ。

 馨の立場はマリアに近い。

 『別に喫茶店に思い入れはないが、取り敢えずここにいるしかない』

 そんな事を考えているうちに『魔法少女』のリーダーに任命されてしまった。

 魔法少女の衣装が『赤い』というだけで。

 「自分はここで何をしているのだろうか?」

 馨はウェイトレスをしながら考える。


 喫茶店の営業時間が終わる。

 今日の客入りはまずまずだった。

 駐車場は何故か路線バスがぎっちり停まっていて、客の車が停められない。

 車では来れないが、近所から歩いて来る奇特な客がいる。

 ありがたい事に『得意客』が早くも喫茶店にはついたようだ。


 「何で喫茶店の駐車場にバスが沢山停まってるの?」と常連客がウメに聞く。

 「それはね・・・お前を食べるためさ!」とウメ。

 「?」常連客はポカンとしている。

 「すいません。

 コイツに『お前だ!』って大声で驚かすタイプの『怪談』を教えたら、何かどんな場合でも使えると勘違いしちゃったみたいで・・・。

 だいぶ日本語は上手になってきたんだけど、時々『何を言ってるのか』不明なんですよ」と馨が横から助け船を出す。

 そうは言うものの馨も最近マシになってきたばかりだ。

 ちょっと前まで敬語は使えなかったし、がに股でノシノシ歩いていた。

 それでも馨はウェイトレスとしてマシだった。

 何せ『日本語が通じる』から。

 馨以外に注文すると、何を頼んでも『ざるそば』が出てきた。

 まぁ、そのざるそばが絶品なんだが。

 因みにウメの淹れるコーヒーは『下水の方が遥かにマシ』という代物だった。

 そりゃウメは異世界でコーヒーなんてモノは見た事がない。

 誰もコーヒーの淹れ方を教えていないのだから『コーヒー豆とマヨネーズを合える』と第一段階から間違えているのも仕方がない。

 以前、蕎麦屋で働いていたマリアが作る蕎麦以外にまともなモノは提供されない。

 アンナとシンシアも大概『料理音痴』だった。

 勇者一行が旅をしていた時、英雄はアンナとシンシアの二人に「頼むから料理しないでくれ。毒消しがいくつあっても足りない」と懇願した。

 因みにアンナとシンシアは『無から毒を産み出す天才』として、暗殺者ギルドから勧誘されるほどの腕前だった。


 「しかしあのバスは何?」と常連客。

 「こっちが聞きたいですよ」と馨。

 「いざという時、出動する」とウメ。

 「え?

 どこに?」と常連客。

 「山陽新聞本社ビル」とウメ。

 「デタラメ言うな!

 怒られるぞ!」と馨。

 「新聞社のビルに何で出動するの?」

 「ビルが変形して世界がヤバい・・・」

 ウメが言おうとした事を馨が遮った。

 「よし、それ以上何も言うな!

 聞かれたら裁判沙汰になるぞ!」と馨。

 その時、初めて『魔法少女の仮想敵』が明らかになった。

 常連客が帰った後に馨はウメに聞く。

 「ウメは既存のメディアを敵対視してるのか?」と。

 「?」聞かれたウメは首を傾げただけだった。

 『何を言ってるのかわからない』と。

 ウメは山陽新聞の本社ビルをテレビで見て『変形しそうだ』となんとなく口に出しただけなのだ。

 政治的な主張は特にない。

 しかしウメは『言霊』という物を甘くみていた。

 ウメは異世界とは言え『魔』を束ねる者だった。

 つまり『ウメを崇める者達』というのは数え切れなかった。

 そういった者達にとって『ウメの言う事は絶対』なのだ。

 異世界ほどではなくとも人外の者達で『ウメの言う事は絶対』と思っている『魔』に属する者達は少なからずいる。

 そういった者達にとって『ウメ様の言った事を本当にしなくては!』という要らん使命感がある。

 そうだ『山陽新聞本社ビルが変形して街を襲う』それを実現させよう、という魔の者達がいる。

 山陽新聞で働いている人達は何も悪くない。

 だが、本社ビルが変形して西日本を襲う!・・・それを魔法少女達が食い止める!

 今、正にこの下らないマッチポンプが起きようとしている。

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