表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/24

路線バス

 英雄に扮したキングスライムが佐藤先生に殴りかかる。

 端から見たら『女教師に手を上げる最低男』だ。

 佐藤先生は拳を避けもしない。

 鼻の頭で偽英雄の右拳を受け止めた佐藤先生。

 殴られたのは佐藤先生なのに、偽英雄の右拳が砕け散る。

 「『S(佐藤シリーズ)』は液体金属。

 水分にもなれますし、何よりも硬い金属にもなれます」と田中さん。

 どこか『私が設計しました』と誇らしげに見える。

 「だったら弱点もわかるんじゃないの!?」と僕。

 「記憶を失う前の私なら弱点を知っていたかも知れません。

 しかし、今となってはそれもサッパリわかりません」と田中さん。

 「アンナ、#####(鑑定魔法を使え)!」と英雄。

 アンナが鑑定魔法を使う。

 「どうやら『火魔法』も『水魔法』も『風魔法』も無効みたい。

 『雷魔法』はちょっとだけ通るみたいだけど・・・。

 どうやら『不老不死』のステータスを持ってるみたいね」とアンナが異世界語で答える。

 「なんだ『不老不死』か」と僕が胸を撫で下ろす。

 僕は所々、異世界語がわかるのだ。

 「『不老不死』のどこにそんなホッとする要素があるんだよ!?」と馨。

 「え?

 ホッとするでしょ?

 元々『死んでる物』『生きていない物』は『不死』なんだよ?

 『不滅』じゃない。

 『不死』なんだ。

 冷蔵庫やテレビみたいに『元々生きていないモノ』と同じなんだよ?

 『不老』だって『成長しない』か『ずっと成長を続ける』って意味で『無敵』って意味じゃない」と僕。

 「『ずっと成長を続ける』ってどういう状態だよ?」と馨。

 「『成長点がない』って事だよ。

 確かロブスターとか大きくなり続けるんじゃなかったっけ?

 そんなもんは敵として脅威じゃない。

 アンデッドモンスターの多くは『不老不死』なんだよ。

 『死ななきゃ消せば良い』『消せないなら封印すれば良い』

 全然問題じゃない」と僕。

 「だったらお前らは『コイツ』を倒せるの!?」と馨が佐藤先生を指差す。

 「・・・・・」

 「倒す自信もない癖に大きな事を言ってたのかよ!?」と馨。

 「うるさいなー。

 『倒せる可能性はある』って言っただけで『簡単に倒せる』なんて言ってないじゃん」と僕。


 しかしアンナなら佐藤先生を倒せる可能性が高いのも事実だ。 

 「じゃぁ、雷魔法で佐藤先生を倒して!」と英雄。

 「ごめん、私、雷魔法凄い苦手だわ。

 寝癖みたいに頭が静電気でボサボサになるのが嫌で・・・」

 「初耳だよ!

 何でここに来てそんな事カミングアウトするんだよ!」

 「しょうがないでしょ!?

 アンタにボサボサ髪を見られたくないんだから!」

 英雄とアンナのやり取りは異世界語なのでシンシアとウメ以外には伝わっていなかった。

 ウメは『男女の機微』というモノに疎かったので、特に何とも思わなかったが、シンシアは「あら、甘酸っぱい」とニヤニヤしていた。

 「そもそも『雷魔法』は通じるけど、弱点じゃないわよ!

 むしろ『雷弱耐性』があるわね。

 効くって意味じゃクレリックの使う『光魔法』の方がダメージを与えられるわよ」とアンナ。

 「でも良いの?

 私の『光魔法』をダメージソースにして。

 いざって時に『回復魔法』が使えなくなるわよ?

 しかも『光魔法』もぶっちゃけ『少ししかダメージを与えられない』ぐらいの効き目なんでしょ?

 『光魔法をアテにする』ってハッキリ言って負け戦よね?」とシンシア。

 

 「こんな事もあろうかと・・・」と僕が雷魔法を使えるテイムモンスター達をアイテムボックスから出そうとした。

 ほとんど効かないとしても、取り囲んでタコ殴りにすれば倒せない事もないでしょ?

 ・・・と思っていたら英雄が僕を止める。

 そして「ここでモンスター大量に出したら、豊、お前、家から追い出されるぞ?」と耳元で英雄が言う。

 しかしそんな事言ってる場合か?

 場合なんだろうな。

 勇者パーティーにしてみたら「こんなの大した事ない。倒し方がまだわからないだけ」と。

 どうやら僕がこれ以上でしゃばるのはお節介らしい。

 

 周りを見回してみるとウメもマツも落ち着き払っている。

 慌てているのは新加入の馨とマリアだけだ。 

 オメーら、普段どれだけ激しい『魔法少女ごっこ』してるんだよ?

 一番慌てているのは村上さんだ。

 ここは田中さんがなんとかするのが、一番丸く収まるみたいだ。


 「佐藤先生が人間じゃない事は理解しました。

 で、佐藤先生がアンドロイドだとして、田中さんはどうやって倒すつもりなんですか?」と僕。

 「あら竹内君、

 『佐藤先生を倒す』だなんて悲しいわ」と佐藤先生。

 「そんな事言って全然悲しそうじゃありませんね。

 先生だって、今、英雄と闘ってるじゃないですか。

 もしかしたら今、先生と闘ってる英雄が本物かも知れませんよ?」と僕。

 「・・・・・」

 結局、佐藤先生が普段使っている『言葉』なんて『周りの人々を騙して民衆に溶け込むためのモノ』で正体がバレたら余計な事は言わないようだ。

 キングスライムが化けた『偽英雄』が佐藤先生に何度か殴りかかる。

 佐藤先生は最早、避ける事もしない。

 こりゃ、時間稼ぎにもならんね。

 『いないのと一緒』という扱いを受けている。

 「キングスライム、もう良い。

 アイテムボックスの中に戻って!」と僕。

 さて困った。

 有効な攻撃手段がわからない。

 やはり『雷魔法』でチョコチョコダメージを与えなきゃダメなのか?

 それを行うのを躊躇している最大の理由、それは『雷と光に強いアンドロイドはいない』からだ。

 確かに佐藤先生には雷魔法と光魔法で少しはダメージを与えられる。

 でもそれは『田中さんと山根さん、二人のアンドロイドも一緒に破壊する事を覚悟するなら』という話だ。

 佐藤先生はアンドロイドとして最新型だ。

 田中さんと山根さんと比べて『何十倍も雷や光に強い』

 佐藤先生を雷や光で倒せる可能性は低いにも関わらず、その攻撃のとばっちりで田中さんや山根さんが活動を止める可能性はほぼ100%だ。


 「僕がやってみます」

 後ろから僕に声をかけた人がいた。

 ここは男が少ない。

 というか、僕と英雄と村上さん以外はアンドロイド二体が『男風』なだけだ。

 なんで『風』なのか?

 だってアンドロイドの性別を語るのは変だろう?

 僕が声の方向を向くとそこには山根さんがいた。

 「お前、見よう見まねで私が作ってみたアンドロイドじゃないか。

 本当なら田中が作ればもう少し精工なアンドロイドを作れるんだけど、私がアンドロイドの構造を理解するために田中のアドバイスを受けながら作った初めてのアンドロイドだろ?

 何が出来ると言うのだ?」と村上さん。

 「私の特徴を忘れたんですか、マスター。

 彼女に勝てるアンドロイドは自分だけかも知れません」と山根さん。

 「!」村上さんは何か思い当たったところがあるようだ。

 佐藤先生が一応、自信満々の山根さんを警戒する。

 「ホアチョー!」

 山根さんが『蛇拳』の構えで大声を上げる。

 (こりゃダメだ)

 誰もが一瞬期待した山根さんに絶望する。

 山根さんの長渕(ヤクザ)キック!

 蛇拳の腕の構えは一体何だったんだ?

 もはや佐藤先生は避けもしない。

 「かかった!」

 村上さんが一人でガッツポーズする。

 ヘロヘロヨロヨロキックが佐藤先生にペチっと当たる。

 ダメージを与えた様子もない。

 ・・・なのに、佐藤先生は大きく震える。

 何が起こったのか!?

 「山根が機械、コンピューターを触ると必ずと言って良いほど破壊するんだ。

 しかも、精密機械ほど故障度合は大きい。

 よく『何もしてないのにパソコンが壊れた』とか言うオッサンいるだろ?

 山根はあの頂点に立つ者なのだ。

 山根に触れられて壊れないコンピューターなど存在しない!

 以前、山根が田中に触れて田中に深刻なエラーが出たのだ。

 アレで田中から破壊衝動が消えたから『結果オーライ』ではあるんだが・・・」と村上さん。

 佐藤先生は相変わらず震えている。

 『ここさえ触らなきゃ壊れない』

 そこをピンポイントで触って壊すのがオッサンだ。

 そして『何もしてないのに壊れた』と。

 何もしてない訳がない。

 触ったから壊れたのだ。

 佐藤先生が究極で至高のコンピューターである程、山根さんとは相性が最悪だ。

 地球を破壊出来る程の凶悪な兵器でも佐藤先生を破壊出来ないが『一見ガリガリのオッサン』にしか見えない山根さんは触れるだけで佐藤先生に不具合を引き起こす。

 山根さんが佐藤先生の胸に掌低を繰り出す。

 ポヨン、と山根さんが佐藤先生の胸に掌を埋めた形だ。

 何も知らない人が見れば『セクハラ案件』だ。

 だが佐藤先生はビクビクと痙攣している。

 『R18』指定動画のようだ。 

 どうやら佐藤先生は変形出来なくなった。

 僕は佐藤先生を後ろ手に縛った。

 よく考えたらこんなの意味がない。

 だって佐藤先生は縛った紐ぐらい引きちぎれるだろうし、そもそも変形機能が復活したら紐なんてすり抜けてしまうだろう。

 でもやっぱり『佐藤先生』が何者だろうと、昨日まで『教員と生徒』だったのに今日は殺し合う、なんて出来ない。

 何か山根さんは佐藤先生を弄り回してる。

 後で聞いた話だが、山根さんは電子レンジすら爆発させるらしい。

 そんな男に最新鋭のアンドロイドを触らせて良いのか?

 良いんだよな、本当は壊す予定だったんだから。

 山根さんは以前に田中さんに触れた時に、素でバグを送り込んで来たらしい。

 危うくウィルスも流し込まれるところだった、と言う。

 田中さん程の精密さでもそれだけ深刻な事態になりかけた。

 佐藤先生も同様に山根さんに触られた時の深刻なエラーはその比じゃないだろう。


 後ろ手に縛られていた佐藤先生が目を覚ました。

 「ここはどこ?

 私は誰?」と佐藤先生。

 うん、テンプレ通りのぶっ壊れ方だ。

 どうしようかなー?

 ひょんな拍子に故障が直って襲いかかってくる事もあり得るし、野放しにして良いとは思えない。

 「佐藤先生って何しに現代に来たんだろ?」と僕。

 「聞きたいですか?」と田中さん。

 「説明出来るの?」と僕。

 「自分の中にあったライブラリーには、アンドロイドを必要とした人間が『どうしてアンドロイドを量産したか?どうしてアンドロイドを過去に送り込んだか?』が記されています」と田中さん。

 「それじゃ、教えてよ。

 頼むね」と僕。

ーーーーーーーーーーーー

 地球環境は人類により破壊されて、全ての生命体の種類の90%が絶滅しました。

 そして環境破壊は更に進んで『このままでは近い将来地球に生命体はいなくなる』とAIは予言しました。

 そこで様々な意見が出ました。

 『人類を間引こう。

 そうすれば環境破壊のペースが緩やかになる。

 地球環境にも回復力がある。

 人類の人口が30%以下になれば、回復力が環境破壊ペースを上回る』

 『人類を惑星移住(テラフォーミング)させよう。

 地球はもうさすがに休ませないと』

 あらゆる意見が出ました。 

 ただどんな意見でも『唯一一致している事』は『地球で生活出来る人類は選ばれた一握りだけ』というモノでした。

 これは『選民主義』を産みました。

 「選ばれた人類以外は『地球に住む価値がないクズだ』と」

 選民意識の塊である『劣等人類を粛清する』という過激派が産まれました。

 過激派に対抗する『レジスタンス』も産まれました。

 ですが『過激派』も『レジスタンス』のどちらも元は「このままじゃ地球はヤバい。何とか策を講じないと」という危機感から産まれた組織でした。

 「お前らの差別的な思想は許しがたい。

 何が『自分らは選ばれた存在だ!』」

 「じゃあどうするんだよ?

 誰かが手を汚さないと人類だけじゃなく、全ての生物が死滅する。

 綺麗事を言うなら全ての人々を納得させる代案を出せ!」

 人類の醜い争いは続きました。

 レジスタンスは劣勢ながらもアンドロイドに対する対抗手段を持っていました。

 『レジスタンス』は、この喫茶店で誕生したと言われています。

 この喫茶店さえなくなれば、『レジスタンス』は産まれないと未来からアンドロイドが送り込まれたのではないでしょうか?


 田中さんは説明する。

 ちょっと待て。

 そりゃおかしい。

 確かに喫茶店を潰せば『レジスタンス』は産まれないかもしれない。

 でもここで村上さんが工房を失ってしまったら、アンドロイドも産まれないんじゃないか?

 過去を変えるなんて、結局そんな単純な話じゃない。


 しかし僕はどうしようか?

 『地球を取るか?』『人類を取るか?』みたいな複雑な話なんじゃないかな?

 他の人らは『タイムマシン』『未来から来た』という意味がイマイチ理解出来てないっぽい。

 だから『何言ってるかわかんないし、豊、お前が判断しなよ』と僕に丸投げするつもりらしい。

 

 「保留」

 僕はノータイムで返答した。

 判断なんて出来るかい!

 その判断は後で偉い他の誰かに任せる。


 決断を先延ばしにするのはわかった。

 問題は佐藤先生だ。

 こんな危険なアンドロイド、放置しておけない。

 「村上さん、佐藤先生の洗脳って出来る?」と僕。

 「洗脳って人聞きが悪いね!

 でも・・・うーん・・・わからない。

 田中くんを無理矢理動かした時と同じことをすれば良いのかな?

 あの時とは違って今は田中くんのライブラリー内の知識も使える。

 やってみよう!」と村上さんは乗り気だ。

 根っからの研究者なんだろう。

 結論から言えば、田中さんと佐藤先生じゃ構造の複雑さが段違いだ。

 田中さんが弄れたから、佐藤先生が弄れるというモノではないらしい。

 だが、佐藤先生というアンドロイドを作り上げたのは昔の田中さんだ。

 田中さんのメモリのライブラリーに佐藤先生を組み上げた時のモノが残っていた。

 田中さんは佐藤先生をバラす事が出来たのだ。

 「しかし・・・スプラッターな光景だな」

 僕は眉を潜める。

 『佐藤先生はアンドロイドだ』という知識がないと、田中さんが人を殺してバラしたようにしかみえない。

 「これ、どうしましょう?」と田中さん。

 これというのは『佐藤先生』の事だ。

 知るかいな。

 「このまま、という訳にはいかないの?」と僕。

 「アンドロイドには『自己修復能力』というモノがあるんです。

 これは放っておいたら『Sシリーズ』としての能力をそのうちに取り戻しますよ?」と田中さん。

 「何でそんな事がわかるの?」

 「記憶にはありませんが、『Sシリーズ』を開発したのは私なんですよ?

 私のライブラリーには『Sシリーズ』についての記述があります。

 『Sシリーズ』には『修復能力』がある、と記述されています。

 今はバラバラですが、そのうちに『Sシリーズ』は元通り、また襲って来るでしょう」と田中さん。

 「そんなのどうすりゃ良いのさ?

 また田中さんを頼れば良いの?」

 「残念ですがアンドロイドには優れた学習機能があります。

 一度通用した作戦は二度は通用しないと考えておいた方が良い。

 彼女がもう一度、我々に立ち向かって来たら倒す方法は思い付きません」と田中さん。

 「だったらバラバラになってる間に佐藤先生を再起不能にすべき?」

 「本来はそうすべきなのでしょう。

 壊してしまえば危険はないでしょう。

 しかし、我々アンドロイドには知識欲があります。

 『Sシリーズ』を出来るだけ触って知識を得たい」と田中さん。

 「つまり『佐藤先生を壊さずに観察したい』って事?

 そんな事が可能なの?」

 「わかりません。

 しかし可能性はあります。

 全く記憶のメモリにはありませんが『Sシリーズ』を設計したのは田中(わたし)です。

 『Sシリーズ』の自己修復能力を止めて、田中(わたし)の指示に従うように再プログラムする事が出来る・・・かも知れません」と田中さん。

 「『かも知れない』って『出来ないかも』って意味?

 もし出来なかった場合、相当ピンチじゃない?

 大丈夫?」

 「貴方達に不利益を与えるだけの話なら、当然『そんな話に乗るわけにはいかない』と大反対をされて当たり前だと思います。

 もし我々に『Sシリーズ』を研究させてもらえるなら、我々は『Sシリーズ』を独占しません。

 『Sシリーズ』を貴方達にも役に立つように共有する事を約束いたします」と田中さん。

 ・・・そんな事言われてもなぁ。

 いきなり「アンドロイド、お前らも使って良いよ」って。

 何に使うのさ?

 「キャベツ太郎買ってこい」とか?

 それにアンドロイドとはいえ一応、学校の先生だったんだぜ?

 パシリには心情的に出来ないでしょ。

 でも『Sシリーズ』を壊すのも、『Sシリーズ』の指揮権を書き換えるのも田中さんじゃなきゃ出来ないっぽい。

 一回壊すのは山根さんの仕事だったけど、山根さんはそれ以上の事は出来ないっぽい。

 どうやら田中さんの言い分を聞くしかなさそうだ。


 田中さんがバラバラになった佐藤先生を弄っている。

 傍目から見たら重大な事案だ。

 でも『指揮権の変更』が出来るのは田中さんだけだ。

 他の人間は黙って見ている事しか出来ない。


 「終わりました」と田中さん。

 「こら。

 佐藤先生ピクリとも動いてないじゃんか!

 それどころかバラバラのままだ!」と僕。

 「そりゃそうでしょう。

 『くっ付け』と指示を出さないとバラバラのままです」

 「誰が指示を出すの?」

 「誰を『Sシリーズ』のマスターにしましょうか?」と田中さん。

 「え?

 決まってないの?」と僕。

 「普通、アンドロイドのマスターは村上様になります。

 ですが、『Sシリーズ』に限っては村上様の『指揮権』は半分だけになります。

 『Sシリーズの指揮権を独占しない』というのが『Sシリーズを破壊しない』という我々のわがままの交換条件でしたから。

 貴方達の誰が『Sシリーズ』のマスターになるかは今のところ、決められていません。

 誰がマスターになるのか、決めて下さい」と田中さん。

 「そう言われても・・・」僕は戸惑ってしまった。

 「じゃあマスターは馨ちゃんで・・・」

 横からウメが口を挟んだ。

 「ちょっと!

 何で勝手に決めるの!?」と僕。

 「知らないの?

 『赤』はリーダーなんだよ?」とウメ。

 勝手にウメが『赤』に任命しただけで、誰よりも馨は新米じゃんか!

 しかも『赤はリーダーの色』っていうのが常識になってるのは『戦隊モノ』であって『魔法少女』じゃない。

 「わかりました。

 『Sシリーズ』のマスターは『馨さん』ですね」と田中さんがウメの戯言を受け入れた。

 「そんな事言われても、何が何やらわからないし・・・」と馨。

 否定するほど現状が理解出来ていない。

 「大丈夫、大体の事は私が決めるから」とウメ。

 全然大丈夫じゃない。

 「なるほど。

 新米の馨さんの代わりにウメさんが『Sシリーズ』の処遇を決めるという訳ですね?

 では大枠を決めてしまいましょう。

 では『Sシリーズ』の主な役割は何にしましょう?」と田中さんが妙に納得して話を進めようとしている。

 「えっと、じゃあ『乗り物』」とウメ。

 「何で佐藤先生が乗り物なんだよ!?」

 たまらず僕が田中さんとウメの議論に口を挟む。

 「頭が固い。

 固すぎる。

 佐藤先生は何にでも変形出来るんだよ?

 だったら『乗り物』にだって変形出来ると思わない?」とウメ。

 「ウメは先生に乗りたいの!?

 というかウメは先生をどんな乗り物にしたいの!?」と僕。

 「えーと・・・路線バス?」とウメ。

 「何でだよ!?」

 「だって雨が降った時、便利じゃない?

 雨が降ったらバス、無茶苦茶遅れるじゃん。

 マイバスがあったら雨の日、早起きしなくて良いんだよ?」とウメ。

 ダメだ、コイツは。

 全然深く考えてない。

 「どこにバスなんて置くんだよ!?

 駐車するにも場所が必要なんだぞ!」と僕。

 「あっそうか。

 でも変形出来るんだからバスのままじゃなくても良いよね?」とウメ。

 少しは考えているようだ。

 「・・・じゃあ、普段は何に変形してるんだ?」

 「巨大ロボ」とウメ。

 「何でそうなる!?

 逆だろうが!

 『普段は路線バスでいざって時には巨大ロボになる』っていうなら戦隊モノの常識としてわからなくもない!

 『普段は巨大ロボでいざっていう時には路線バスになる』って何だよ!?

 意味がわからん!」と僕。

 「わからない?

 今もバラバラになってるでしょ?

 バラバラになってる一つ一つが路線バスになるんだよ。

 で、五台の路線バスと一台の原チャリが合体して巨大ロボに変形するんだよ」

 あー、車が合体して巨大ロボになるってあるなー。

 バスが合体して巨大ロボになるっていうのももしかしたらギリギリアリかも知れない。

 しかし何で乗り物が原チャリと路線バスなんだよ?

 地味じゃない?

 しかし、ウメの発案はボツだな。

 バラバラになった佐藤先生が五台の路線バスと一台の原チャリに変形出来る訳がない。

 『質量保存の法則』というのをウメは知らないらしい。

 佐藤先生一人が路線バス五台になれる訳がない。

 「わかりました」

 田中さんが

 大体、人を路線バスにしようという発想が頭おかしい。

 そうか、ウメは元々魔族で人間じゃないのか。

 人間はウメの意見を真に受けないのがふつうだが、田中さんは人間ではなくアンドロイドだ。

 ウメの言うことをそのまま実行しようとしてしまっている。


 確かに巨大ロボを置くスペースはない。

 巨大ロボを何かに擬態させる戦法は悪くない。

 しかし、路線バスを五台置くスペースはどこにあるんだ?

 バスは誰が運転するんだ?

 大型二種どころか、車の免許を持っている人物は一人もいない。

 辛うじて『レッド』は原チャリの免許を持っている、という事で馨の乗り物は原チャリ、という事になった。

 ・・・で、残り五人の魔法少女の乗り物が路線バスという事になった。

 「そんなん言っても誰も運転出来ないけどどうするの?」とマリア。

 「大丈夫。

 私が『あべべ自動車』に勤務していた時の自動運転の技術があります!」と村上さん。

 「その技術って完成したんですか?

 自動運転の車って、まだ発売されてないみたいですけど」と英雄。

 「大丈夫。

 『トライ&エラー』です!」と村上さん。

 いやいや、路上でエラーがあったら大変な事にならない?

 そんなもん、勢いで採用して良いモノなの!?


 そして街からは一人の女教師が姿を消し、喫茶店の駐車場には五台の色とりどりの路線バスが置かれるようになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ