初見殺しvsわからん殺し
佐藤桃子
中学校教員だ。
そして『最新鋭のアンドロイド』でもある。
S(佐藤)5000は『アンドロイドが開発したアンドロイド』なのだ。
使われている金属は『液体金属』
金属なのに液体。
イメージとしては『水銀』だろうか?
何より柔らかく、何より硬い。
旧型の『T(田中)シリーズ』の理想型として産み出された超最新型機で最早、人間にはその構造自体、理解が出来ない。
『アンドロイドが産み出したアンドロイド』
『S(佐藤)シリーズ』の破壊が可能なのか?
それとも不可能なのか?
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「何で喫茶店で家庭訪問なんだよ?」と豊。
「ウメもいるからだよ。
ついでにアンナとシンシアの保護者にもなっといた。
儂がいる喫茶店で家庭訪問するのが手っ取り早いだろ?」とマツ。
「英雄の両親がいるじゃんか」
「新聞屋は忙しくて家庭訪問には応じられないんだとさ」とマツ。
「まあ、あの娘らには『保護者』が英雄の両親の他にはいないからね。
保護者を名乗ってくれる人が近くにいたら、心強いだろうけど。
・・・でも何で、家庭訪問の場所がタバコ屋じゃなくて、喫茶店なのさ?
ばあちゃん、あんまり行かないだろ?」と豊。
「タバコ屋だったら、アンナやシンシアにとって縁のない場所になるだろうが!
本当は『バイト先』で家庭訪問をするのなんておかしな話なんだよ」とマツ。
「何だよ。
わかってるのか。
だったら何で」
「そりゃ、『教師が変』だからに決まってるだろうが
「『教師が変』て誰の事?」と僕。
「そりゃアンタらの担任の『佐藤桃子』の事に決まってるだろうが!」とマツ。
「佐藤先生の胸がけしからん大きさなのは同意だけど」
「そんな話をしてるんじゃないよ!
ウメ達が言うには『佐藤先生だけ、何があろうと定時で帰る』らしいのさ」とマツ。
「ふーん。
ダメなの?」と僕。
「ダメじゃない。
『定時内で全業務を終わらせる』なんて褒められこそすれ咎められる話じゃない。
そういう意味じゃない。
佐藤先生は『仕事が忙しいフリ』を一切しないのさ」
「どういう事?」
「世の中じゃ教師のなり手がいない。
それは教師が『サービス残業』『サービス休日出勤』まみれの職場だからさ。
でも、アンタらの学校は世間の流れとは違う。
『生徒の数と教師の数が同数になりつつある』というのが問題になっている。
だから教師はみんな『ちゃんと働いてますよ』と『忙しいフリをする』のさ。
そして生徒が作った実績を『自分が作ったモノだ』とアピールしたがる。
それはアンタも良く知ってるだろう?
立木先生だっけ?
アンタは『実績』を作ろうとしてるダメ教師のせいで死にかけたんだから」とマツ。
「・・・そりゃ忘れられる訳ない。
でも『佐藤先生』が定時で帰ってばかりなのを悪意に受け取るのもおかしいんじゃないの?
それで『仕事が中途半端なら』責められるべきかも知れないけど『仕事が完璧なら』褒められなきゃいけない。
むしろ『残業する事が偉い事だ』とか、そんな考え方がおかしいんだよ」と僕。
「アンタの言う事に間違いはない。
『残業する事が偉い』なんて考え方がクズだ。
でもかつてのタバコ屋の常連客の中には教師だって何人もいたんだよ。
アンタは知らないかも知れないけど、教室内でタバコ吸ってた教師なんて昔は珍しくなかったんだからね」
「またまた~」
「冗談だと思うかい?
昔は初詣の人混みの中でも、普通にタバコを吸ってる人がいたのさ。
電車の中にも灰皿が常備されてたし・・・そんな話はどうでも良い。
そんな『沢山の常連客』として教師を知ってる儂が断言する。
『佐藤先生のこなしてる仕事量は人間がこなせる量じゃない』
その教師が一切残業をしてない、と聞いたら尚更さ。
『仕事が出来る』
そんな範囲を超越している。
意味がわからない。
・・・でも『残業をしない』
確かに意味はわからない。
でも、それだけで敵対視するなんて馬鹿らしいだろ?」とマツ。
そりゃ、そうだ。
「だったら何を警戒してるのさ?」と僕。
「・・・アンタは『荒唐無稽な話だ』と思うかも知れない。
でも、これはあくまでも事実なんだ」とマツ。
「だから何がだよ?」と僕。
「村上さんのところの従業員の田中さんいるだろ?」
「僕はあんまり良く知らないけど。
だって僕が喫茶店に来るのもあんまりないし、その隣の会社の従業員について詳しい訳ないじゃない?
ウメがする話の中で『今日、田中さんが・・・』って聞くぐらいの認識しかないよ」と僕。
「その『田中さん』だけどね。
村上さんが言うには記憶喪失らしいんだよ」
「へぇ、でもそんなの良いのかね?
『記憶喪失の人間がいる。そんな人を従業員として使っている』そんな理屈が許されるの?
警察なり、病院なりに渡さなきゃいけないんじゃないの?」と僕。
「『普通の人間なら』ね。
『田中さん』を保護したのは橋の下、つまり『田中さん』にはちゃんとした住民票とか、戸籍とかがどうやらないらしいよ?
そんなのはオマケでしかない。
もっとハッキリとした『田中さんを公の機関に渡さなくて良い理由』は『田中さんはロボットで人間じゃない』んだ」とマツ。
「何でそんな話をばあちゃんが知ってるんだよ?」と僕。
「儂がしてる『魔法少女ごっこ』あるだろう?
村上さんの所で『玩具の修理』をしてたからマリアに『村上さんのところで余ってる玩具があったらもらったらどうだい?そうすれば魔法少女ごっこで使えると思うし』とアドバイスしたんだよ」
「そうしたら?」
「田中さんに凄い武器をマリアがもらった」
「どのぐらい凄い武器を?」
「何て言ったら良いんだろ?
『自衛隊ですら持ってないような最新鋭の武器』とでも言うのかね?」とマツ。
「イメージ出来ないな」
「儂も想像してた千二百五十段階上だった訳さね。
だから『折角もらったんだけど、受け取れない』と田中さんにマリアは返しに行った訳さ。
そうしたら田中さんの腕に標準装備されてる『サイ○ガン』を見せられた。
そこで知ったんだ。
『田中さんは人間じゃない』」とマツ。
「『サイ○ガン』って何だよ?」
「最近のガキは『COBRA』も知らないのか。
・・・まあこの話は前置きだから、理解出来ないでも良い」とマツ。
「この話、前置きなのかよ・・・」と僕。
「その田中さんが言うんだ。
『佐藤先生は人間じゃない』と。
『自分と同じアンドロイドだ』と」
「ちょっと待ってよ!
田中さんは記憶、というかメモリが初期化された状態なんだよね?
何で『佐藤先生』の記憶はあるのさ?」と僕。
「儂は良く知らないんだけど、パソコンを初期化した時に、パソコンが全く使い物にならないように最初に準備されているソフトが何本かあるんだって?
そのソフトの中に『Sシリーズの説明書』が入ってたらしい。
つまり『佐藤先生』は田中さんが作り上げたアンドロイドなんだよ」
「アンドロイドを作り上げる技術なんて今の日本にあるの!?」
「ないだろうね。
田中さん曰く『アンドロイド作成は未来の技術だ』とさ。
つまり田中さんも佐藤先生も未来からタイムマシンで来たのさ」とマツ。
「何で人間じゃなくて、アンドロイドが・・・あ・・・」
僕は自分がタイムマシンに乗った時の事を思い出した。
生身の人間はタイムマシンに乗ると、若返ったり歳を取ったりしてしまう。
僕が元の年齢、元の時代に戻れたのはただの幸運だ。
本来なら生身の人間はタイムマシンに乗るべきじゃない。
あのタイムマシンは佐藤先生や田中さんが未来から乗ってきたモノだとしたら?
辻褄が合ってしまう。
「その『佐藤先生』がね、家庭訪問するって言うんだよ。
怪し過ぎるだろ?
勿論断ったさ。
『今の時期、タバコ屋も喫茶店も忙しくて家庭訪問どころじゃない』ってね。
実際、息子は販路の拡大でそれどころじゃない。
嫁だって今は新しいパートに慣れるために必死だ」
父親は遠くの自動販売機の管理をしているから、そこまで人口減の影響は受けていない。
だが、人が減った事によるやむにやまれぬ商圏の拡大販路どうやっても移動距離が長くなったり、仕事量の増加の原因となっている。
母親に関しては、以前パート勤務していた近所のスーパーマーケットが廃業して、片道二時間かけて系列のスーパーマーケットに再就職した。
仕事量が変わるわけじゃないし、仕事内容が変わるわけでもない。
ただ母親が家に不在の時間が多くなった。
だからマツが喫茶店を始めた時に『何でこんな時期に?今は勝負する時じゃないだろう?』と息子である父親は大反対した。
だが、結局はマツが自分の財産の中でどうやって金を使おうがそれは家族といえど干渉すべきではない。
『借金は許さない』
その大前提さえ守れば、マツが自分の財産の中で何をしようが文句は言わない・・・という事になった。
そもそも父親が大学を出て就職した時にその話は既に終わっていたはずだった。
父親は岡山の高校を卒業した時に、タバコ屋を継ぐ事を一度拒絶した。
「東京で音楽がやりたい」と。
今は亡きじいちゃんは言った。
「音楽をやるのは好きにしろ。
タバコ屋を継がないのも良い。
だが何故音楽をやるのに大学に行く必要がある?
何でお前の学費を儂らが出さなきゃならん?
一度、とことんまで自分を追い込んでみろ。
『ダメでも大学を出とけば潰しがきく』とか思っとりゃせんか?
『最悪、タバコ屋を継げば良い』とか考えとりゃせんか?
そんな甘い考え方で、何かを成し遂げられると本気で思っとるのか?」と。
だが、マツは自分の息子にそこまで鬼になれなかった。
結局、父親は両親が兼業でやっていた田畑を売った金銭で東京で大学に入った。
全ての持っていた土地を売った訳じゃない。
だが父親は夢やぶれて東京から岡山へ戻って来た。
じいちゃんは『思った通りだ。本気で夢を叶えたかったら他の全ては犠牲にする覚悟が必要だ。アレもコレも、と手を出して成功する程、夢は甘くはない』と少し呆れたような様子は見せたが、怒りもしなかった。
結果として、じいちゃんとばあちゃんに残された土地は2つ、元々タバコ屋を営んでいた土地と、目抜通りに移転した新店舗のタバコ屋だ。
それ以外の土地は父親の『見通しの甘い夢』に食い潰された。
だから残った財産、土地を使ってばあちゃんが何をやろうが、父親は決して口を出さない、いや、出せない。
「しかし、よりにもよってこんな消えていく街で喫茶店始めるとは思わなかったぜ・・・。
一言相談してくれよ」と愚痴りたかったけど、じいちゃんのアドバイスを一切聞かなかった父親が言えた話じゃない。
ばあちゃんは『商売をキチンとしよう』と喫茶店を始めた訳じゃない。
ばあちゃんはごっこ遊びするのに「あそこに空き地があったな」と考えただけだった。
そのタイミングで『商売をしたいから土地を貸して欲しい』というみすぼらしい男が現れた。
だから「土地は貸す。でも貸した土地の隅っこで『ごっこ遊び』をさせて」という話だった。
だから貸した土地でキチンとした社屋を村上さんが建て出した時は焦った。
「そんなキチンとした建物作っても出ていってもらう時には、更地にして出ていってもらうよ」と。
でも建物を建ててたのは田中さんと山根さんの2人だとばあちゃんは知った。
「大工が建てなくても違法じゃないの?」とばあちゃんは思った。
『セルフビルド』といって個人で資格さえ取れれば、建物は建てても大丈夫らしい。
でも、どうやら『建物を建てる事』よりも『資格を真っ当な手段で得る事』の方が真っ黒で、どうも田中さんと山根さんの公のデータが派手に書き換えられている形跡があるらしい。
『潜水士』とかどう考えても「持ってる方がおかしいだろ?」という資格が2人の経歴にはてんこ盛りだという。
だから建物を建てる事には何の問題はない・・・2人の資格が本物なら。
ばあちゃんは2人を胡散臭く思いながらも「一旦貸すって言っちゃったしなあ・・・」と応じねばしょうがなかったが、信用は出来なかった。
「取り敢えず目を光らせておこう。
違法建築とか、許しちゃいけない!」とばあちゃんが思っていた2日後・・・『リサイクル業者の建て屋が出来ました』と村上さん。
目を離した隙に大きな倉庫が目の前に出来ていた。
訳がわからない。
「プレハブ工法?」と聞くと「似たようなモノです」と村上さんは玉虫色の回答。
プレハブ工法だとしても建物が建つまで早すぎる。
「・・・それにしても困ったね。
最初に話しておいただろう?
『土地は貸す。貸すけど、その土地の中で儂らを遊ばせてくれ』と。
『魔法少女の隠れ家を作らせてくれ』と」
「だから作りましたよ?」と村上。
「何を?」とばあちゃん。
「だから『魔法少女の秘密基地』を」と村上。
「いやー、苦労しましたよ。
『魔法少女の秘密基地』
調べてもそんなモノないんですもん。
だから『仮面ライダー』の秘密基地みたいに喫茶店にしました」と村上があっけらかんと言う。
で村上が『リサイクル業者』の裏手に建っている喫茶店の建物にばあちゃんを案内する。
「リサイクル業者という事なんで、悪臭が漂ったら喫茶店の営業妨害ですよね?
『悪臭』云々の前に、臭いが漂わなくても不衛生な見た目の建物が隣にある、というだけで喫茶店としては大打撃だ。
だから、苦情が少しでもあったら遠慮なく言って下さいね!」と村上。
いや、勝手に村上さんが『秘密基地』を喫茶店にしただけで、こちらとしたら『文句を言う』以前の問題なんだけど。
「飲食店にされても困るんだけど。
『調理師』も『衛星管理者』も『火元責任者』もこちらは・・・」
「そう言われると思って『調理師』と『火元責任者』はこちらで田中の名義を貸し出します」と村上さん。
確か『資格の名義貸し』って悪い事じゃないっけ?
どうやら田中さんは建築の資格、電気の資格だけじゃなく、他にも色々な資格を持っているらしい。
そして喫茶店の内部の説明を村上さんから聞く。
そして喫茶店の地下の秘密基地の説明を田中さんから・・・。
「待てい」とばあちゃん。
「何でしょう?」と田中さん。
「コレは何だい?」
「秘密基地ですが」
「『ですが』じゃない!
シレっと建築基準法違反してるんじゃない!
地下云々より、設計図にない構築物を秘密で作ったらダメだろうに!」とばあちゃん。
「そんなこと言っても秘密にするから『秘密基地』って言うんですよ。
ブスを『美人妻』って言わないのと同じです。
設計図に堂々と載せてたら『秘密基地』じゃないでしょう?」と田中さん。
一理ある。
「『ごっこ遊び』に理屈なんていらないだろう!?」とばあちゃんは思わず叫んだそうだ。
「ごめんなさい。
私に人間の理屈はイマイチわかりません。
言い遅れましたが、私は人間ではありません。
私は『アンドロイド』です」と田中さん。
今更そんな事を言われてもマツには意味がわからない。
「何でそれを儂に?
それを儂に信じろ、と?」とばあちゃんは言うしかない。
「誰も浮浪者だった私の話を信じてくれなかった。
でも大家さんだけは違います。
私は『常に大家さんにだけは本当の事を言おう』と決めています。
その話を大家さんに信じてもらえないのは辛い、でも私はその方針だけは曲げません。
田中にも山根にも『嘘を大家さんに言うな』『極限まで大家さんの役に立て』と伝えてあります。
アイツらが『アンドロイド』なのは嘘ではありません。
私は改造はしましたが、大元の『アンドロイド』を作り出したのは私ではありません。
私が棲んでいた橋の下の棲み家に半壊した田中が放り込まれたのです。
『ロボット工学』『AI工学』は私の専門でした。
その専門知識が買われて私は『あべべ自動車』にヘッドハンティングされたのですが、『あべべ自動車』の経営不振で私はリストラされて自暴自棄の浮浪者生活を送っていたのです。
私にやり直しの機会を与えてくれて、信用して物件を貸して下さった大家さんに私が嘘をつくなんて有り得ません。
私の会社の従業員2人は『アンドロイド』です!」と村上。
ばあちゃんは『これって建築基準法的にダメなんじゃねーの?』という話がしたかった。
なのに村上の返事は『コイツらに人間の常識は通用しません。コイツらはアンドロイドなんですから』と。
ばあちゃんは何と答えたら良いかわからなかったそうだ。
ばあちゃんと村上さんと田中さんの無言は続いた。
その無言を破ったのは田中さん。
「私達は社長から『大家さんとその大切にしている仲間達を護れ』と厳命されています。
出来る範囲内でそれは間違いなく行います。
しかしそれは99%不可能でしょう」と田中さん。
「それはどうして?」
「こちらを索敵している『アンドロイド』がいます。
あと10分程度で接敵します」
「何でそんなことがわかるんだい?」
「索敵の技術は私が授けたモノだからです。
偶然、索敵はこちらの索敵技術にも引っかかる技術を採用しています。
しかしその『アンドロイド』は全てに於いて、私を数段アップグレードした存在です。
どうやら私が半壊した時にメモリーの記憶部分に重大な欠損があるようで、こちらに近付いて来ている『アンドロイド』の記憶もほとんどありません。
しかし、どうやらその『アンドロイド』は私が設計したようなのです」
「『ようなのです』というのは?」
「私の欠損していないメモリーの中に『私が設計したアンドロイド』の図面があります。
私が『アンドロイドを設計した』というのは事実のようです。
それは特に驚くべき事ではありません。
もう一人の社長の従業員、山根もまた『私が設計したアンドロイド』です」と田中。
「そんな話を儂にしてどうするつもりだい?」とばあちゃん。
「危機が迫っています、と伝えたくて」
「アンタらもアンドロイドなんだろ?
2人で迎え撃てば良いだろう?」とばあちゃん。
「性能が違い過ぎます。
足元にも及ばないでしょう」
「設計図を持っているんだろう?
敵と同等の性能を持っている『アンドロイド』を作成すれば良いじゃないか」
「無理です。
作るための材料も揃ってない。
作るための工作機械もない。
図面だけあってもどうしようもないです」
「じゃあ、具体的にどうすれば?」
「逃げて下さい。
そうすれば生き残れる可能性も・・・。
来ました『S(佐藤)シリーズ』のアンドロイドが。
もう逃げる事は不可能です」と田中。
カラララララ~
喫茶店のドアが開いた時の音がした。
「ばあちゃん?
佐藤先生を連れて来たよ~?」と豊の声。
豊はアンナとシンシアとウメと英雄も連れているらしい。
こちらは村上さんと田中さんと山根さんと馨とマリアと自分だ。
『ただの女教師』ならタコ殴りに出来る人数差だ。
だが村上の話が本当なら佐藤先生は『2人のアンドロイドでも歯が立たない、超高性能アンドロイド』という話だ。
敵のアンドロイドが豊と一緒なら、一か八か逃げる事も出来ない。
迎え撃つしかない。
学校から生徒達を連れて佐藤先生が喫茶店にやって来た。
秘密基地のモニター画面でも喫茶店の入り口付近の画像が大写しになる。
「今だ!」
田中がモニター画面の前にある複数のボタンの中の1つを押す。
佐藤先生の足元の床が消えて、一行の中で佐藤先生だけが落とし穴に落ちる。
「ええええええええええ!?」少し離れているのに残された者達の驚きの叫び声が聞こえてくる。
落とし穴は佐藤先生を落とすと、足元の穴がなかったように塞がった。
「こんな事やって許されるのかい!?
先生を穴に突き落として!」とばあちゃん。
「そんな話をしている暇はないですよ!
今の隙に逃げ・・・無理か」と田中が秘密基地のモニターを見ながら言う。
落とし穴には確かにしっかりと蓋がされている。
隙間は0.0001ミリぐらいだろうか?
でも佐藤先生はその隙間をスライムのように変形しながら、ミリミリと表に出てきた。
変形した瞬間だけ銀色で、元の佐藤先生の形に戻ると肌は肌色っぽく、服は黒いスーツっぽい色に一瞬で戻った。
「へー、佐藤先生、人間じゃないんだ!」
豊が全然慌ててない。
まるで『そんな光景は見慣れている』とでも言うように。
実際、豊は『人間に擬態するアメーバ状の魔物』は見飽きていた。
最初は『うわー!』なんて叫んで、小便チビッたりもしたよ?
でもそんな経験も五回もすれば『もう飽きたよ』ってモノだ。
『竹原豊の心拍数、血圧を計測。
特に変わりなし。
こちらを敵対視している様子もなし』
何か佐藤先生が呟いている。
「どうするんだよ?」と英雄。
「どうするって何が?」と僕。
「別に佐藤先生がスライムだって普通に先生やってくれるなら問題ないさ。
敵対するならしょうがない。
闘うよ」と僕。
「なら俺は豊をフォローする事にするよ」と英雄。
「ごめんよ、先生」と僕が佐藤先生に胴回し回転蹴りを繰り出す。
佐藤先生の脳天に蹴りは命中する。
ゴン!
蹴りの感触はまるで銅像をおもいっきり蹴ったようだった。
とにかく硬い。
「イテテテ、金属じゃねーか。
英雄!」と僕。
「わかった!」と英雄が背中の聖剣を抜く。
聖剣は何故か僕にしか見えない。
いや、ウメにも見えているか。
聖剣で英雄は佐藤先生を肩から脇の下にかけて真っ二つに・・・斬ったはずなのに佐藤先生は全くダメージがないようだ。
「参った。
佐藤先生、鈍撃も斬撃も全く効果がないぞ!」と英雄。
「だったら『熱』しかないだろ!
アンナ、############!」英雄がアンナに異世界語で何かしら指示を出す。
するとアンナが頷き、佐藤先生に炎の玉を食らわせる。
「ヤバいって!
火事になるよ!」と僕が慌てる。
「大丈夫だ!
魔法の炎は燃料に燃え移ったりしない限り、燃え広がらない。
でないと魔法なんて気軽に使えないだろう?」と英雄。
よく考えたら魔物が森の中で炎の魔法使う度に森が大火事になってたら、異世界、火事だらけよね。
威勢よく佐藤先生が燃え上がる。
そんな事はないとは思うけど、佐藤先生がもし人間だったら、僕ら殺人よね?
でも、アンナは『人間に擬態した人外の化物』に故郷の村が殲滅されて、その生き残りなので、佐藤先生が人間に擬態していたと知った時に頭に血がのぼっており手加減する気は0なので、英雄に『攻撃しろ』と言われなくても、そのうち攻撃しただろうし結果は変わらなかっただろう。
アンナの手の平から出る炎の柱が佐藤先生を火炙りにする。
杖がないから、若干炎の威力が弱い。
「無駄です。
『S(佐藤)シリーズ』に熱と冷気は効きません」と田中さん。
田中さんは『S(佐藤)シリーズ』の図面を持っているらしく『S(佐藤)シリーズ』の構造には何故か滅法詳しい。
僕は確信する。
『S(佐藤)シリーズは無敵じゃない』と。
もし無敵だったらわざわざ未来から『反乱の芽』を潰しに来ない。
未来で『反乱分子』を『S(佐藤)シリーズ』で殲滅すれば良いだけだ。
わざわざ過去に『反乱分子』を潰しに来た理由、それは『反乱分子』が将来的に『S(佐藤)シリーズ』の弱点を掴んで、それが『反乱分子の希望』となるからだ。
弱点は存在する。
でもそう簡単にわかるとは思えない。
とにかく弱点を解明するための時間が欲しい。
何かないか?
そうだ。
『相手の弱点がわからない』なら『こちらも所見殺しのわからん殺し戦法』を使おう。
バレたら終わり。
でもバレるまで時間は稼げる!
僕はアイテムボックスから一人の人間を引っ張り出す。
「気分が悪い擬態してるんじゃないよ!」と僕。
よく見ると人間は僕と同じ顔をしている。
僕に怒られた僕と同じ顔をしている人間はドロドロと赤いスライムになる。
「「「あー・・・」」」元勇者パーティーの三人がウンザリとした声をあげる。
きっとコイツには良い思い出がないのだろう。
逆を言えば、勇者パーティーはコイツと遭遇してコイツを乗り越えている。
そりゃそうだろう。
弱点さえわかってしまえば、コイツは『ただのスライムの上位種』でしかないのだから。
「『キングスライム』、佐藤先生の相手をしろ!」と僕。
キングスライムは英雄の姿に変わると、佐藤先生と向かい合った。
「アレはなんだい?」とマツ。
「何て言ったら良いだろう?
僕のペット・・・かな?」と僕。
「変なモノ飼ってるんだね」とマツ。
「ちゃんと面倒は見てるよ」と僕。
キングスライムは物理攻撃は一切効かない。
魔法攻撃も一切効かない。
熱にも冷気にも滅法強い。
『無敵なんじゃねーか!?』
一度は誰でもそう思う。
僕もそう思った。
キングスライムは病的な潔癖症なのだ。
ちょっとした混ざりモノでも拒絶反応を示す。
身体の粘液の中に他のスライムの体液を少し混ぜてやれば良い。
キングスライムは発狂して身体中の体液を全て吐き出す。
体液が全てなくなり、細胞核だけになった『キングスライム』は踏み潰すなり、好きにすれば良い。
対策さえ知っていれば、一般人でもキングスライムは倒せる。
むしろ普通のスライムより容易に倒せる。
しかし対策を知らないと『無敵の地獄からの使者』と思う者も少なくない。
上級冒険者で『キングスライムの倒し方』を知らない者は少ない。
だが、この世界ならば一見『無敵生物』だ。
時間稼ぎには丁度良い。
佐藤先生が英雄の姿をしたキングスライムの頭に前蹴りを入れる。
英雄の頭がグチャリと潰れる。
「嫌な光景だ!」と英雄。
佐藤先生が足を引っ込めて再び向かい合うと、英雄の格好をしたキングスライムの頭部は復活する。
これで少しは時間を稼げそうだ。
でもそれはあくまで「相手が『わからん殺し』に気付くまでの間」で、こちらも佐藤先生の『わからん殺し』を見破らなきゃいけない。




