アンドロイド
「『安倍馨』
『安倍浩』くんの遠い親戚。
『あべべ自動車』会長、浩くんのお祖父ちゃんに頼まれて『黒いフードの男』、石鎚彰を調査していた陰陽師。
依頼は調査だけだったが、味方の陰陽師を殺されて頭に血がのぼる。
虚言癖の疑いアリ・・・か」と豊がノートにメモ書きしながら呟く。
「誰が『虚言癖』やねん!」と魔法少女のコスプレをした女の子が叫ぶ。
自称『馨』という少女が言うにはこうだ。
『しまむら』の駐車場で彰と闘っていた。
圧倒的にこちらが優勢だった。
だからこそ油断が生じてしまった。
詰めの部分を誤って、勝負は引き分けで終わったはずだ。
『はず』というのは決着の場面以降の記憶がないから『どうなったのかわからない』というのが本音なのだ。
目を醒まして以降の話は今の今まで『悪夢の中』だと思っていた。
『どうせ夢だ』と思っていたから、抵抗もしなかった。
意味がわからないが魔法少女にも変身した。
魔法少女に変身して、妙に力が身体の奥から湧き出して来るのを感じる。
頭脳もスッキリしてきた。
そして認めたくないが、一つの事を確信した。
『どうやらコレは夢じゃないぞ!?
現実だぞ!?
自分はどうも魔法少女だぞ!?』と。
でも女になった時の記憶が全く馨にはない。
本当の事を知っている可能性があるのは『石鎚彰』だ。
「その話を信じろ、と?」と英雄が頭を抱える。
「信じられる訳がないよな。
でもボクの言う事に嘘はないんや。
あるとすれば『勘違い』や」と馨。
「『勘違い』?」と僕がオウム返しに聞く。
認めたくはないが、『勘違い』の可能性はなくはない。
自分は夢を見ていて『本当は男だ』と思い込んでいる少女が寝惚けているだけの話かも知れない、認めたくはない話だが。
はなから信じられない話なら、シカトして終わりなんだが・・・所々、リアルな部分も話の中にはある。
英雄と豊は『黒いフードの男』に追われて門をくぐり、異世界を彷徨ったのだ。
浩くんのお祖父ちゃんに雇われた『馨』が、闘ったのも『黒いフードの男』、浩くんの母親に雇われたのも『黒いフードの男』・・・偶然の一致にしては話が出来過ぎている。
それに、ところどころ妙にリアリティーのある話だ。
お盆にお茶と湯飲みを持って、黒い魔法少女の格好をした女の子が襖を開けて入って来る。
ばあちゃんがお茶を持ってきた女の子を紹介する。
「この娘はマリア。
元蕎麦屋の看板娘らしい。
訳あって、今はウチのタバコ屋で居候をしている魔法少女さ。
特技は『美味しいお茶を入れる事』
魔法少女としては『ドリームつや消しブラック』と名乗っている。
宜しくしてやっとくれ」
「何でやねん!」という話だが、ばあちゃんの言葉には有無を言わせない何かがあった。
「その娘の話なんですが・・・『石鎚彰』は私の恋人です」とマリア。
ここに来て、トランクから出て来た『何かよくわかんない亡骸』が爆弾発言。
『この娘は一体何やねん!』それがマリアに聞きたい事の本音ではあるのだが、同じ『死亡』という特殊な経験をしたマツが「死んでる間は全く記憶がない。何で死んだかわからんもんだ。だからあんまり『どうして?』とは言わないでくれ。死んで生き返った側もわかんないんだから」と言ったんで、マリアには「思い出したら何か教えてね」と言うにとどめてある。
「マリア、『石鎚彰』について詳しく話せるかい?」とマツ。
「・・・・・」マリアは何も言わない。
自分を助けてくれた、というマツやウメが何かするとは思えない。
そうではないが、『彰と闘っていた』という目の前の少女は信用して良いかわからない。
その上隣の部屋での聞き耳が間違いじゃなければ、『彰は少女の仲間を殺した』事になる。
そんな相手にペラペラ恋人の情報を話して良い訳がない。
マリアは彰から『実は俺は呪術師だ』と打ち明けられている。
その上で「俺は呪術師を辞めて裏の社会からも足を完全に洗う。だから結婚してくれ」と言われた。
アレ?あの後の記憶がない。
何て答えたんだっけ?
それはともかく・・・彰が『殺人を犯した』と聞いた時、ショックではあったが『あぁ、やっぱりな』という感想が大半で心はそれほど動かなかった。
彰はマリアに『今まで裏社会の『呪術師』として人に言えないような事をしてきた』と言っていた。
呪術師が表社会の人間にその素性を晒すなんて事はあってはならないが、彰はマリアに全てをさらけ出した上で、『こんな俺で良いなら受け入れて欲しい。受け入れてくれたら俺はマリアを絶対に裏切らない。呪術師も辞めるし、裏社会も抜ける』そう宣言している。
そう宣言した彰ではあるが『マリアを生き返らすためならどんな汚い事でもやる。殺人も厭わない』と馨の仲間の陰陽師を殺している。
マリアが本音をペラペラ喋れば、話は進んだのかも知れない。
しかし『もしかしたら馨は敵かも知れない』と思ったマリアはそれ以上何も言わなかった。
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浩が愛犬のポメラニアンを連れて河原の砂利道を散歩している。
最近、英雄や豊とつるんで遊んでいない。
書斎で二人がどこからか外国人の女の子達を連れて来た時、本当なら追及すべきだった。
『女の子を屋敷に連れ込みたかった』そんな訳がない。
『屋敷の中に許可なく外国人の女の子達を連れ込んだ』
こんな事が許されるはずがない。
英雄や豊がそんな非常識な事をする訳がない、と思っていた。
だからきっと『二人にも何かしらの事情があったのだろう』と。
その話を二人が打ち明ける前にこちらから詰問するような真似は止めよう、と浩は考えた。
その内に二人から真実を語られるだろう。
別に英雄と豊が浩を仲間外れにしている訳じゃない。
ただ『どういったら良いモノか』と話すのを躊躇しているに違いない。
実際に二人は『門を潜った先は異世界だった』なんて浩に話しても「二人で自分を馬鹿にしているんじゃないか?」と思われるんじゃないか、と打ち明け話をするタイミングを逸している。
ただ浩が二人に対して疎外感を感じていたのも確かだ。
浩が河川敷を飼い犬の散歩させていた時、急にポメラニアンの『ナナ』が唸り声を上げた。
他所の飼い犬とすれ違う時の「キャンキャン」という鳴き声とは違う。
明らかな『敵』とすれ違う時の牙をむくような「ウー、ガルルルルル・・・」という全身の毛を逆立てる臨戦体制だ。
元々『ナナ』は人間好きで、人間に対して唸り声どころか吠えた事すらない。
初めて会った人らにもお腹を見せてナデナデをせがむので『この子に番犬は無理だね』なんて言われていた。
なのに『ナナ』は河川敷で会った田中先生に対して威嚇を始めたのだ。
田中先生は佐藤先生と一緒に転任してきた体育教師だ。
田中先生は体育教師だけあって無茶苦茶ごっつい。
いや、ごっついという範疇を越えている。
まるでボディビル日本代表だ。
浩は田中先生が少し苦手だ。
いや、こんな『ムキムキの先生が好き!』という生徒の方が珍しいんじゃないか?
「コラ、ナナ!
突然どうしちゃったの?
失礼だろ?」と俺。
ナナは我を忘れている訳じゃない。
むしろ、俺を必死で庇おうとするように田中先生に立ち向かっているようだ。
(犬の感覚は人間の感覚より鋭いみたいだな。
ソイツは人間じゃないぞ)と左腕が俺の頭の中に語りかけてくる。
『人間じゃない』ってどういう事だ?
田中先生は確かに人間離れした筋肉質さだけど、人間であることには間違いないだろうが。
そう考えていると、ナナが田中先生に飛びかかった。
俺はリードを掴んでいたので、咄嗟にナナを
慌てて引き寄せた。
引き寄せたナナを俺は慌てて抱き上げる。
田中先生は飛びかかろうとしたナナがいたはずの場所に向けて回し蹴りを空振りしていた。
しかもその回し蹴りは『犬を振りほどこう』としたモノではない。
『小型のお座敷犬を蹴り殺そう』としたモノだった。
「犬の躾が出来ていなかった事は謝罪します。
でも、田中先生、蹴り殺そうとするのはやり過ぎですよ!」と俺は田中先生に抗議する。
(バカ、わざわざ揉めるような事は言うなよ。
言っただろうが。
コイツは人間じゃないんだ。
普段は教師として『人間のフリ』をしているんだ。
今、浩は『自分が犬を蹴り殺そうとしているところを見た人間』なんだぜ?
コイツが感情がない機械みたいなモノだとしたら、浩もコイツの排除対象と見られる可能性もあるんだぜ?)と左腕。
じゃあ、どうすべきなんだ?と頭の中で左腕に語りかける。
(先ず犬のリードを橋の手すりに繋ごう。
そうすりゃ戦闘になったとしても犬を闘いに巻き込むような事もない。
で、浩は河川敷に降りて来よう)
何でだよ?
(言っただろ?
犬と離れるためだよ。
犬と離れれば思う存分にあの機械とも闘える)
田中先生が機械?人だろう?
(見た目はな。
確かに人間にそっくりだ。
でも炭坑で見た鬼の方がコイツよりよっぽど生体反応があったぞ?
コイツの人工皮膚の下は金属の塊だ)
じゃあ、田中先生の正体は何なのさ?
(わからん。
何で教師のフリをしてるのか?
どうしてここにいるのか?)
今の時点でアンドロイドT(田中)2000が何故、未来から桃に乗って現代に来たかはわかっていない。
未来では人類の継続的な支配を望む勢力と、『地球を生き残らせるためには人類を10%以下まで減らすべきだ』という勢力で戦争が起きている。
『どちらが正しい』という話ではない。
お互いに尤もな言い分がある。
『このままじゃ地球が終わる』という理屈も『その選民思想は危険だ!人が人を裁くべきではない!まして裁く人間を選ぶなんて絶対おかしい!』という理屈もある意味正しいのだろう。
『片側の信号が青の時、片側の信号は赤』
それぐらいの意見の違いで人類は凄惨な殺し合いを未来で繰り広げる。
『人類の継続的な支配を望む勢力』の礎を作ったと言われる人物が『安倍浩』と言われている。
未来で『安倍浩暗殺計画』は何度も行われた。
しかし計画は失敗に終わった。
いや、成功しているのかも知れない。
最早『影武者』が多すぎて、どれが本当の『安倍浩』なのかわからないのだ。
もう『安倍浩』を未来で暗殺しても、『安倍浩』一派が掲げた『人類による統治』の理念は既に根付いてしまっていて手遅れだ。
『安倍浩』が死んでも『第二、第三の安倍浩』が登場するだけだろう。
『安倍浩』の敵対勢力は一計を案じる。
「勢力を掲げる前の『安倍浩』を抹殺しよう。
どうやって?
過去にタイムマシンを送り込めば良い。
タイムマシンに乗ると生物は若返ってしまうから、生物の代わりにアンドロイドを送ろう。
『桃型タイムマシン』で過去に送れるアンドロイドは二体が限界だ。
今回は『田中』と『佐藤』の二体を送ろう」と。
誤算は『認識阻害』で人間に見えないはずの『タイムマシン』が『魔王』であるウメには見えた事だ。
誰にも気付かれずに校庭の中庭に置かれていた『タイムマシン』をウメが「これは何?」といじり回した事だ。
結果、巻き込まれた豊が更に過去まで飛ばされる。
豊は遥か昔に飛ばされるが、タイムマシンはエネルギー切れになり大きな桃と認識されて川で洗濯していた老婆に発見された。
『タイムマシン』はエネルギー切れになったとしても、ソーラーパワーで再充電が可能だった。
しかし元の時代に戻るためのエネルギーを貯めるには六年の月日が必要だった。
豊が再び『タイムマシン』に乗ったのは6年後だった。
『タイムマシン』を操れない豊が、10年間エネルギーを貯めなくてよかった。
そうしたら豊は元いた時代ではなく、未来へ行ってしまっていた可能性が高い。
つまり『そこまでしか時代は遡れなかった』のだ。
偶然に偶然が重なって、豊は元の時代に戻って来れた。
アンドロイド達には豊の『タイムマシン』を使った大冒険など知る由もない。
そして豊本人が後の世に『桃太郎』と呼ばれる事など。
話は逸れた。
T(田中)2000のターゲットは元から『安倍浩』なのだ。
だが浩には現時点でターゲットにされる心当たりがない。
しかしT(田中)2000は浩を殺すために未来から来た。
何故今まで行動に出なかったのか?
今までは『調査段階』だったのだ。
未来でも『浩』を護るためのダミー情報が山ほどある。
その情報収集にアンドロイド達は時間を費やした。
そして、その情報収集の結果T(田中)2000は『浩を抹殺する』と決めた。
河原で今まさに『コイツを殺そう』と決めたのである。
(ここから動くなよ)と浩に左腕が言う。
この小石だらけの瓦から?
どうしてさ?
(自分は左腕を『投石器』に変えられる。
つまり小石だらけの河原は『武器の山』なのだ)と左腕。
(前にも言わなかったか?
左腕は弓にも銃にも形を変えることは出来る。
しかし弓も銃も実弾がなければ攻撃する事は出来ない。
それと比べて瓦を見てみろ。
投石器があれば小石だらけだ。
敵を待ち受けるなら絶好の場所だ!)
なるほど。
しかし、どんな敵対待ち受けるんだ?
そうそう敵はわかないだろう?
(浩は鈍いな。
今まさに、あの『田中』とか言う教師が攻撃を仕掛けようとしてるじゃないか)
・・・と左腕が言うので、田中先生の方を見ると田中先生が散弾銃をこちらに向けて構えている。
訳がわからない。
(何をボーっとしている?
早く、楯の後ろに入らないか!?)
俺は慌てて左腕が変形した大楯の後ろに隠れる。
楯に衝撃がある。
痛みなどはない。
左腕に痛覚はないからだ。
ただ、散弾銃を受け止めた衝撃は伝わってくる。
(こういった場合、跳弾が跳ね返ってきて当たらないように周りに障害物がない方が良いんだ)と左腕が意外な事を言う。
障害物自体が『隠れる場所』になるのかと思った。
(そんなのは『相手に見つかっていない場合』『隠れる場所が決まっていない場合』限定の話だ!
・・・それより銃撃されてるのに冷静だな)
確か、日本の散弾銃は二連装が一般的なんだよ。
親が『猟友会』の昔の同級生が言ってた。
つまりあと一発打ったら弾切れって事だよ。
(アホか!
一度に二発しか打てないだけで、予備の弾がないわけがないだろ!?
それに相手の持ってる散弾銃がどうして日本製だってわかるんだよ!?)
そう言われてみたら・・・。
でも散弾銃は現地調達だと思うよ?
なんとなくだけど。
頭の中で浩と左腕が揉めていると田中が散弾銃をもう一発打つ。
ジャキッ、やはりだ。
散弾銃を二発打ったら、弾を込めるために銃身を二つに折る。
つまりこのタイミングでは散弾銃は撃てない!
左腕が楯から投石器に形を変えると、左腕は足下の小石を拾うと、田中先生に向けて出来るだけ間なく小石を投げつけた。
『人間に石を投げるなんて・・・』とは思ったけれど、田中先生に小石が当たった時の音が『キン!』とか『カン!』という音で生物に石を投げる時の音じゃない。
なるほど『田中先生は人間じゃない』というのは本当らしい。
そもそも先生が生徒を散弾銃で撃つ、という話がおかしいんだが。
小石が当たって、田中先生の人工皮膚が裂けていく。
下から銀色のロボット丸出しの肌が覗く。
投石器で投げられる小石の速度は200キロ前後だろうか?
よくわからないけど、メジャーリーガーの球速よりは小石は大分速い。
遂に投石は散弾銃を弾き跳ばす。
浩は勝手に散弾銃が田中先生の最大戦力だと決めつけていた。
小石が何発も当たって、田中先生の全身はかなりボロボロに傷んでいる。
浩は田中先生が落とした散弾銃を拾おうとした。
(あ、バカ!)と左腕。
田中先生の右腕が散弾銃のように二つに折れて、何やら光が集まっている。
田中先生が浩に向けて折れた右腕を構えている。
左腕が慌てて楯の形になる。
楯の形になるのが一瞬遅かったら、右腕から発された極太レーザービームが浩の身体に直撃していた。
しかし、極太レーザービームを正面から受けた楯も無傷という訳にはいかない。
レーザービームを受けた楯は溶けて穴が開いた。
左腕には浩の感覚はない。
あったらどれだけの激痛があったのだろう?
(『勝った』と思うな!
その慢心が油断になる!
追い詰められた相手には一つか二つぐらい『隠し球』とか『切り札』があると思え!)と左腕が浩を叱る。
叱られた浩だが、今回は全面的に自分が悪い。
シュンと落ち込んだが、それも一瞬。
「それより左腕、大丈夫か!?
かなり溶けたみたいだけど」
(別にどうという事はない。
回復に時間はかかるが、一時間もしたら元に戻る。
一時間は惨たらしい見た目で、この格好で家に戻ったら浩は間違いなく病院に連れて行かれるだろうがな。
それより相手の右腕のエネルギー砲を学習した。
しばらくは1日一発が限度だが、大幅な戦力アップだ!)
「見ただけで学習出来るの?」
(基本は見て覚える。
しかし実弾兵器は見ても覚えられない。
弾がないからな。
エネルギー砲ならエネルギーが尽きない限り真似して撃てる・・・らしい)
「でもエネルギー砲はあんまり撃たない方が良いんじゃないの?
『最後の手段』だったっぽいよ?
身体のエネルギーを総動員して最後にエネルギー砲を撃ったんだろうね。
今はピクリとも動けないみたいじゃん」
(それは確かに。
エネルギー砲を撃ったら他の行動がまるで出来なくなるかも知れない。
気を付けよう)
「それより、田中先生、ここに放置しといて大丈夫かな?」
(コイツを人間と思うヤツはいないだろう。
放置はマズいかも知れないが、このボロボロのロボットを家に連れ帰る訳にもいくまい。
取り敢えず橋の下に隠しておくのはどうだろうか?
苦し紛れだが、今はそれしかあるまい)
「田中先生が俺を襲ってきた理由もわかってないんだよね。
そもそも田中先生って存在したんだろうか?
このロボットが田中先生に化けてたのかな?」
全ては謎に包まれている。
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あまりにも頭が良すぎて誰にも理解してもらえない。
周りの人間にはアホにしか見えない。
『あべべ自動車』『自動運転研究部』にも一人の『天才と誰にも気付いてもらえない天才』がいた。
彼がAI部門で残した論文は革新的なモノだった。
惜しむらくは彼が今まさに沈没途中である『あべべ自動車岡山工場』に所属していた事だ。
『あべべ自動車』は彼をリストラした。
彼は天才ではあったが、『生活能力』は0だった。
リストラされた彼は岡山の工業地帯の河川敷の橋の下でホームレスとして生活していた。
ある日、彼の棲み家である橋の下にボロボロに傷んでいるロボットが投げ込まれていた。
彼はそのロボットを自分の知識の全てを注ぎ込んで修理した。
彼が拾ったロボットから学んだ『アンドロイド理論』は後の世に産み出される『アンドロイド理論』の原型とされている。