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結成

 「石鎚彰、アンタはどうせここで死ぬ訳やけど一応自己紹介しておこうか?

 ボクは『阿部馨(あべかおる)』って言います」と目の前の陰陽師が丁寧に言う。

 「これから殺し合いをする相手に自己紹介か?」と彰。

 「違う違う、全然違う。

 剣豪が名乗りを上げる理由は『死に逝く者への礼儀』なんよな。

 それと同じ。

 ボディーガードを突然殺すような、どこぞのクズとは訳が違うんですわ」と馨。

 「これは手厳しいな」と彰。

 どうやらここから和解は有り得ないらしい。

 『因果逆転の悪魔』が空中から突然現れる。

 生者と何もかもが逆。

 生者が重力に縛られているのに比べて『因果逆転の悪魔』は常に空中を浮遊している。

 『因果逆転の悪魔』には『重さ』という概念がない。

 この地上でその『制約無視』がどれだけ有利だろうか?

 その上、『因果逆転の悪魔』に触れられただけで『生者』の因果は『死者』へと逆転する。

 つまり絶命する。

 「監視カメラに映ってた『悪魔』とはまた違う『悪魔』みたいやね。

 一応、こちらの事を警戒してくれてるんやね。

 ありがたい事やわ」と身の周りの空中に札を5枚配置して即席の結界を築く馨。

 「警戒をしているのは貴様もだろうが」と彰。

 しかし彰は一子相伝の呪術師をまだ継いでいない半人前。

 相手は陰陽師のエース格。

 ちょっとした仕草にも、その『半人前』の部分は見え隠れしてしまう。

 (この呪術師、『悪魔』との連携が取れていない。

 『悪魔』は強力なのだろう。

 しかしこのコンビ、弱点は呪術師だ!)

 馨は一瞬で弱点を見抜いた。

 これぞエースだ。


 馨の放った式神が『✕』の形の紙で出来た手裏剣をクルクルと彰へ向けて飛ばす。

 彰は着ているフードを脱ぎ、手裏剣を打ち落とそうとする。

 きっとフードは術式で編まれた糸が使われており、あらゆる術を跳ね返すに違いない。

 しかし行動が一歩遅い上に、闘いの序盤で『切り札』を見せる愚策を彰は犯した。

 急いで『因果逆転の悪魔』が彰のフォローに回る。

 「おやおや、お優しい。

 『悪魔』が人間を護るんですなぁ」と馨。

 もう疑いようもない。

 (コイツ)は『悪魔』の足を引っ張っている。

 『悪魔』だって優しさで(コイツ)を護った訳じゃない。

 (コイツ)が死んでしまえば、勝負が一貫の終わりで『対価』も受け取れないのだ。

 もしかしたら、この『悪魔』は(じぶん)より遥かに格上かも知れない。

 悪魔の『瘴気』とでも言うんだろうか?

 ソレが「コイツはヤバい!」と本能に告げている。

 でも『コイツら二人』なら勝ち目があるんじゃないか?

 とにもかくにも半人前(あきら)を攻撃し続けよう!

 彰に式神の手裏剣で攻撃をする。

 その式神を払い落とす『因果逆転の悪魔』

 しかし『因果逆転の悪魔』もそんなに気は長くない。

 そこまでおおらかな性格をしているなら元々『悪魔堕ち』など経験していないはずだ。

 馨は悪魔の『性格の破綻』こそが見たかった。

 誰しも勝利の瞬間のために『切り札』は隠している。

 しかし優れた陰陽師である馨は知っている。

 『闇に住まう者達』はイライラするとつい『切り札』を使うべき場所ではない所で使ってしまう。

 とにかくヤツらは『性格破綻者』で『堪え性がない』のだ。

 こうやって彰を攻撃し続けていると・・・。

 「しつこい!」

 初めて『悪魔』が喋った。

 「今晩は。

 話してくれないから無視されてると思ったわ」と、わざとニヤニヤしながら馨は『因果逆転の悪魔』に話しかける。

 「・・・・・」

 感情を出したのは明らかな失策だと気付いたのだろう。

 「あら?

 またまた無視かな?

 つれないなー。

 相手してやー」と馨。

 「五月蝿い!」

 声を上げたのは彰だった。

 徹底的に自分抜きで会話を進めようとしている馨に対して、プライドが傷ついたのだろう。

 それは馨の計算通りなのだが。

 頭に血がのぼった彰が前に出ようとする。

 それを『因果逆転の悪魔』が制す。

 馨が相変わらず彰だけを攻撃する。

 ついに『因果逆転の悪魔』の堪忍袋の緒が切れた。

 彰へ向けて飛んだ式神の手裏剣が、何故か馨に向けて飛んでくる。

 馨は最小限の動きでそれを交わすが交わし切れなかった手裏剣が頬を掠め小さな引っ掻き傷を作る。


 「なるほど、なるほど!

 それがその『悪魔』の能力給ですか!」と馨がわざとらしく言う。

 「・・・・・」

 「相手の力を利用して反撃する?

 合気道みたいなモンやろか?

 それとも相手の力を自分の力にする?

 ・・・そのどちらも違うなあ?

 だってボクは式神を動かしたけど、式神を使った手裏剣には式神の力しか乗ってない。

 つまりボクの力は使われてない。

 なのに式神はボクを攻撃してこようとした。

 つまり『ボクの力と悪魔の攻撃は関係がない』って事や。

 答えは単純。

 『悪魔』の力は、もっと物理学的な源やな。

 例えば『力の反射』とか?『力の逆転』とか?」と馨。

 「・・・・・」

 「あらららら、ビンゴかいな!

 でも『悪魔』の目が言ってるわ。

 『切り札はそれだけじゃないぞ』と!」と馨。

 確かに馨は微妙に読み違いをしている。

 『逆転』は『逆転』なのだが『力の逆転』だけじゃない。

 『悪魔』は『ありとあらゆるモノを逆転させる』のだ。

 しかし『因果逆転の悪魔』の弱点は「先手が相手任せ」な事だ。

 『自分から仕掛ける』事が苦手なのだ。

 『因果逆転の悪魔』は『護る時は硬いが、攻める時は脆い』という一面があった。

 しかし負けた事がない『因果逆転の悪魔』は、そんな自分の弱点に気付いていない。

 「触れば『生』と『死』が逆転する。

 触れれば勝ちだ!」そう信じて馨との間を詰める。

 距離が縮まっている事に馨は気付いていない。

 ・・・と『因果逆転の悪魔』は思い込んでいる。

 近づいた『因果逆転の悪魔』が馨の肩に触ろうとする。

 そのタイミングで馨が『因果逆転の悪魔』に小石を投げつける。

 「なんだ、何か企んでいるかと思ったらそんな事か」と『因果逆転の悪魔』は鼻で笑いながら、目の前に透明な壁を展開する。

 しかしその油断こそが馨が待っていたモノなのだ。

 本来『因果逆転の悪魔』の格は馨より数段高い。

 馨には『一か八か』の作戦と、相手の油断があって初めて勝ちが見えてくる。

 『因果逆転の悪魔』が馨との間に『反転の壁』を作った瞬間に、『因果逆転の悪魔』の後ろの壁に馨が動きの中で貼った札から(トゲ)が無数に飛んで来た。

 そんな事は札から背を向けている『因果逆転の悪魔』は気付いていない。

 悪魔が馨との間に『反転の壁』を張った瞬間に悪魔の後ろから馨に向けて無数の(トゲ)が降り注ぐ。

 「「!?」」彰も『因果逆転の悪魔』も何が起こっているのか一瞬、わからない。

 『反転の壁』に当たった無数の(トゲ)は言葉の通り『反転』し『因果逆転の悪魔』に降り注ぐ。

 ザクザクと(トゲ)が『因果逆転の悪魔』の身体を貫く。

 これだけ(トゲ)が刺さればいくらなんでも致命傷だ、普通の悪魔なら。

 「こ、これくらいなら自分の『死の運命』と『生の運命』を逆転すれば・・・」

 「無駄やで。

 これは『退魔の札』から発された(トゲ)

 悪魔の力はたとえどんな力でも消されてしまう」と馨。

 しかし今回、最後に油断をしたのは馨だった。

 『因果逆転の悪魔』は馨に触れようと目と鼻の先まで迫って来ていた。

 苦し紛れで馨の後ろから体当たりしたのは完全に『馨の眼中になかった』彰だった。

 今、(まさ)に絶命しようとしていた『因果逆転の悪魔』に、(つまず)き、覆い被さるように馨は触れたのだ。

 「何・・・だと!?」と馨。

 99%勝ちが確定していたのに、油断により勝利を逃したのだ。

 『因果逆転の悪魔』も息絶える。

 彰は右目の眼帯を外す。

 捧げた対価が『因果逆転の悪魔の死』とともに返却されたのだ。

 つまり『マリアとの関係性』も消えていないはずだ。

 探さないと!

 スーツケースがどこに行ったかはわかっていない。

 フラフラと彰は『しまむら』の駐車場を出た。

ーーーーーーーーーーー

 英雄は日々のランニングを欠かさない。

 異世界に行ってその距離は更に長くなった。

 以前ならマラソンコースから外れていた『しまむら駐車場前』も現在ではマラソンコースに含まれている。


 英雄は気付く。

 「しまむらの駐車場に人が倒れている」と。 

 慌てて英雄は倒れている人間に駆け寄る。

 「良かった、息はある」と英雄のホッとする。

 顔色は悪くない。

 うつ伏せで倒れている様子を見ても後頭部を打ったんじゃなさそう。

 『動かさない方が良い』とは言うが、こんな駐車場のど真ん中には放っておけない。

 これ、駐車場に後から入って来た車にひかれちゃいそうだ。

 スマホで連絡しようにも、そのスマホを俺は持っていない。

 『しまむら』で電話を借りようにも、30分前ぐらいに閉店してシャッター閉まってる。

 しかし駐車場で人が倒れてたら、普通は『しまむら』の店員が気付くよな?

 どういう事!?

 英雄は人が倒れていた所に『人払いの結界』が張られていた事を知らない。

 ここに倒れてる人を放っておく訳にもいかないし、豊の家に運び込むか!

 あそこで病院に電話をかけよう。

 英雄は背中に倒れていた『女の人』を背負って再び走り出した。


 『因果逆転の悪魔』は息絶える寸前で、かける『呪い』も不完全なモノだった。

 だから『因果逆転の悪魔』に触れた馨の因果は完全には逆転せず『生』は『死』とはならなかった。

 しかし全ての因果が逆転しなかった訳ではない。

 『因果逆転の悪魔』に覆い被さられた馨の因果は『男』が『女』に逆転したのだ。

 そんな事は知らない英雄は豊の家のタバコ屋に走って行く。

 そこには『幸か不幸か』新しい魔法少女を探しているウメがいる。

 そして、『魔法少女つや消しブラック』の御披露目で無理矢理呼び出されたアンナとシンシアがいる。

 「何でアンナとシンシアがここに?」と英雄。

 「それは呼び出したウメに聞いて欲しいわね!

 『しまむら』から帰って来たら『緊急事態が発生したらしいからすぐにタバコ屋に向かってくれ!』って新聞屋に電話があったのよ。

 ・・・で、慌てて駆けつけてみたら『新しい魔法少女の御披露目』ですって。

 そもそも『魔法少女』って何なのよ?」とシンシア。

 英雄には『魔法少女が何なのか?』が全くわかっていない。

 英雄は『魔法少女』をウメの『ごっこ遊び』だと思っている。

 しかし『魔法少女』がその自らの力を制御しきれずに暴走した姿が『魔女』になる、と使い魔の『加藤豪』は知っている。

 つまり『魔法少女』達は『加藤豪』に騙されて魔法少女になった・・・と加藤豪は思い込んでいる。

 元魔王であるウメが『魔女の力』ごときを暴走させる訳がない。

 ゲーミングPCがWordぐらいで容量不足にならないのと同じだ。

 その魔王を討伐した勇者パーティーのアンナとシンシアも同じだ。

 『魔女』ぐらいなら今までもハナクソをほじりながら倒してきた。

 マツとマリアは一般人だったが、一般人に『不死鳥の尾』は完全にオーバースペックだ。

 ジャンク品のノートPCにスーパーコンピュータのHDDを繋いだみたいなモノだ。

 だから誰も『魔女堕ち』する心配はない。

 『加藤豪』が勝手に悪事を企てているだけで、そんな悪事が実行される訳がないのだ。

 『加藤豪』は自分は不死身だと思っている。

 「銃で蜂の巣にされても、剣で八つ裂きにされても再生する」と。

 でも英雄の持っている聖剣なら『加藤豪』程度なら粒子レベルで粉々に出来る。

 そして豊なら『加藤豪』程度、テイム出来る。

 当たり前だ。

 『加藤豪』の遥かに上位の存在、『魔王』ですらテイム出来るのだから。

 『加藤豪』は自分の事を『実は悪の支配者』だと思っている。

 しかし、ここにいる全ての者は『加藤豪』の事を『ペット』だと思っている、そしてその認識は間違っていない。


 タバコ屋の玄関先に謎の気絶している少女を背負った英雄。

 「何?

 その娘?」とシンシアが冷たく言う。

 『あの女のハウスね』とでも言いそうな熱のこもっていない危うさを感じさせるシンシアに英雄も一瞬止まるが、そこは勇者。

 生まれ持った鈍感さでスルーした。

 「そうだ、シンシア!

 この女の子に回復魔法をかけてあげてくれ!」

 「・・・へぇ。

 ヒデオは私にこの娘を治せ、と?」とシンシア。

 「頼むよ!

 シンシアだけが頼りなんだ!」と英雄がシンシアの手を握り、瞳を覗き込みながら言う。

 「アレはズルい。

 ほぼ『魅惑(チャーム)』だ」とアンナ。

 シンシアはフラフラしながら気絶している娘に回復(ヒール)の魔法をかける。

 元々娘は気絶しているだけだ。

 どこかに大きな怪我をしている訳じゃない。

 ヒールをかけられた娘はムックリと起き上がる。

 起き上がって周りを見回して一言。

 「夢か・・・」

 娘は目の前に広がっている現実を『夢の中』と判断力したようだ。

 どう説明したもんか。

 「貴女は『しまむら』の駐車場に倒れてたんだ」とでも説明すりゃ良いのか?

 そもそも何で『しまむら』にいた人らは駐車場に人が倒れてたのに放置していたのか?

 そこまで日本は他人に対して『我関せず』の冷たい社会なのか? 

 それにまだ夜も8時前だぞ?

 誰も通りかからなかったとしても、限度があるだろ?

 「訳がわからん」と英雄。

 確かに常識的に有り得ないシチュエーションだ。

 しかし『人払いの結界』が張られていたなら、それは充分に有り得る。

 馨が張った結界の中で、馨と彰は決闘していて、その間、結界により人は近付かなかった。

 一応、馨と彰は決着し、結界は消えた。

 彰の勝ち、なのだろうか?

 彰は消えたマリアの亡骸を探してどこかへ行った。

 マリアは『死者蘇生』の秘法を受けて、現在、豊の家にいるのだが・・・その事を彰は知らずに見当違いな場所を探している。


 馨は一命をとりとめ『しまむら』の駐車場で倒れていたところ、ランニングで通りかかった英雄に豊の家に担ぎ込まれて今に至る。


 無茶苦茶ややこしい。

 相関図にまとめたいくらいだ。


 何が起こったのか、誰もが状況を正しく理解出来ていない。

 まあ『できてたまるか!』という話なのだが。

 そこに『加藤豪』を抱いて、マリアとマツを連れたウメがトコトコと二階から降りて来た。

 誰もウメに現状の整理など頼んでいない。

 だが馨を一目見たウメはポツリと呟いた。

 「あ、ドリームレッドだ」と。

 かくして『魔法少女ドリーム5』の6人が決定した。

 ドリームレッド・・・馨

 ドリームビリジアン・・・アンナ

 ドリームコバルトブルー・・・シンシア

 ドリームオフホワイト・・・ウメ

 ドリームシルバー・・・マツ

 ドリームつや消しブラック・・・マリア 


 馨は自分が魔法少女になった現実を上手く咀嚼出来ていない。

 『どうせ夢だしどうでも良いや。

 夢というのは訳がわからないものだよね』くらいに考えている。


 かくして魔法少女が集結したのだが

 『具体的に何をするのか?』という話である。

 倒したい敵だっていない。

 「平和を護りたいか?」と聞かれたらそうでもない。


 「こうして『魔法少女』が集結したので、来る明日『第一回魔法少女集会』を行う。

 『何を行うのか?』

 それを集会の中で話し合う。

 持参すべきモノは紙皿と割り箸・・・」とマツ。

 「「「BBQやる気満々じゃんか!」」」一斉にツッコミが入る。

 「でもやりたい事って何か他にあるか?」とマツ。

 「「「「・・・・・」」」」

 驚いた事に、魔法少女になってやりたい事が『特に何もない』ということだけは一致しているようだ。

 いや、マリアと馨だけは『自分が魔法少女だ』という事をまだ把握してはいないが。

 

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