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対価と呪い

 彰に殺された陰陽師が未熟、という事もある。

 しかしそれ以上に『彰対策』が出来ていなかったのが大きい。

 屋敷に仕掛けられている防犯カメラには陰陽師が彰に殺されている場面がハッキリと映し出されている。

 逃げる彰を追っていた陰陽師。

 追い縋り、もう少しで陰陽師が彰を捕まえられそう・・・と『追う側』と『追われる側』の影が重なる。

 すると彰の影から陰陽師の影に『何か』がサッと移った。

 その一瞬後、陰陽師の影から手首が生えて、陰陽師の左足首をガッシリと掴み、陰陽師を転ばせた。

 転んだ陰陽師はそのままピクリとも動かない『屍』になっていた。


 陰陽師の足を掴んだのは彰が契約している『影の悪魔』だ。

 『影の悪魔は『お互いの影が重なれば』影から影へと乗り移る事が出来る。』

 悪魔は気分屋で時々は対価無しでも動くが、大体の場合動く時はその『対価』を求める。

 『その対価が見合わない』と判断した場合、取り引きには応じないし、『態度が気に食わない』という理由で取り引きに応じない場合も頻繁にある。

 だから呪術師はあらゆる恐怖で悪魔に言う事を聞かせる。

 そのせいで呪術師は悪魔や死神に恨まれている。

 隙があれば、悪魔は呪術師やその関係者を殺そうとしている。

 それが『呪術師が普通に生きられると思うな』と彰が言われた理由であり、彰の恋人のマリアが死神に殺された理由でもある。

 そして倒れた陰陽師が死んでいた理由、それが『対価』だ。

 卑怯と言われるかも知れないが、彰は頻繁に『敵対した相手の命』を悪魔への対価にしていた。

 これは一種の『賭け』だ。

 相手を簡単に殺せる場合は良い。

 殺せない相手の命を対価に選んだら『契約不履行』、悪魔としては最も重い裏切りとなってしまうのだ。

 だが、悪魔に差し出せる『自分の大事な物』にも限界がある。

 だから『絶対に勝てる場合』に限り、敵対した相手の命を対価とする。

 それだけ殺された陰陽師と彰の間に実力差があった、という事だ。


 『しまむら』に現れた陰陽師は殺された陰陽師よりも数段強い。

 そして『影対策』がバッチリだ。

 彰の影が自分の影と重なる所に身を置かない。

 『影の悪魔』が彰に囁く。

 「コイツは私には荷が重いねえ・・・」と。

 わかっている。

 契約している悪魔は『影の悪魔』だけじゃない。

 だが正直、勝てる可能性のある悪魔と取り引きはしたくはない。

 『因果逆転の悪魔』

 コイツは確かに強い。

 強さの底が見えない。

 だが、とにかく性格が悪い。

 悪いからこその『悪魔』なのかも知れないし、悪魔としてはこれが普通なのかも知れない。

 俺が契約している悪魔で今回の敵の陰陽師に勝てそうなのは『因果逆転の悪魔』だけだ。

 敵の陰陽師は俺に対して殺意を隠そうとしない。

 まるでヤツの表情が言っているようだ。

 『早く切り札を見せてみろよ』と。


 ・・・仕方ない。俺は『因果逆転の悪魔』に声をかける。

 「おい、出番だ」と俺。

 「待ちくたびれたよ」と『因果逆転の悪魔』。


 『因果逆転の悪魔』を相手にして生きていられる者などいないだろう。

 何故なら『生』の因果の反対は『死』だからだ。

 『因果逆転の悪魔』にロックオンされた生きる者で、死なない者などいるだろうか?

 だが、とにかく『因果逆転の悪魔』が要求してくる『対価』がえげつない。

 こちらが苦しむのを見て喜んでいるのだ。

 そしてこちらが提案する対価では一切、取り引きに応じない。


 「おい、あの陰陽師を倒してくれ」と俺は『因果逆転の悪魔』に取り引きを申し込む。

 「あれは強敵だ。

 対価も高くなるぞ、わかってるんだよな?

 わかっているからこそ我を呼び出したんだろう?」」と『因果逆転の悪魔』

 「わかっている。

 早く『対価』を言え!」

 「我も鬼ではない。

 折角勝っても死んだらしょうがないだろう?

 『命を寄越せ』なんて野暮な事は言わない。

 しかしそれと同等の『対価』が必要なのはわかるな?」と『因果逆転の悪魔』

 『強敵じゃなかったら、我を呼びたさなかっただろう?

 それなりの対価をもらうぞ?』と言いたいのだ。

 「こういうのはどうだ?

 『お前と恋人の関係性を対価として差し出せ』というのは面白くないか?」と『因果逆転の悪魔』

 ムッとして「何が言いたい?」と言う。

 すると『因果逆転の悪魔』は大笑いしながら「そうか!そんなに嫌か!決めた!今回の対価は『お前と恋人の関係性』だ!

 ソレを差し出せ!

 ほかの物は受けとらん」と『因果逆転の悪魔』

 「別に良いだろう?

 どうせお前の恋人は死んでいるんだから!

 恋人もなにもないだろう?」と『因果逆転の悪魔』がゲタゲタ笑いながら言う。

 「その臭い口を今すぐに閉じろ。

 でないと俺は相手の前に悪魔(おまえ)を殺さなきゃならん」と俺。

 「そんな事よりどうするんだ?

 『恋人との関係性』を差し出すのか?

 それとも強敵に我抜きで挑むのか?」

 『因果逆転の悪魔』の言う通りだ。

 おそらく相手は陰陽師のエース格、(おれ)が勝てる相手じゃない。

 だが俺は相手の仲間の陰陽師を殺してしまっている。

 命乞いなんて出来る立場じゃない。

 俺が生き残るには『因果逆転の悪魔』の力を借りるしかない。


 ここで、悪魔に呪術師が嫌われている最大の理由を言わなくてはならない。

 『悪魔に差し出した対価を取り返す方法』が実はある。

 悪魔を殺せば、差し出した対価は返ってくる。

 しかし返ってくるのは『対価』だけだ。

 悪魔を殺しても、悪魔がかけた呪いは消えない。

 むしろ悪魔を殺してしまったら、悪魔がかけた呪いを解く機会が永遠に失われる。

 あと、悪魔が奪った命も悪魔を殺しても戻って来ない。

 返ってくるなら、俺は先ず死神を殺してマリアを生き返る方法を探す。

 ここで『マリアとの関係性』を悪魔に差し出しても、悪魔が死ねば対価は戻ってくる。

 それどころか『因果逆転の悪魔』に差し出した右目の視力も戻ってくる。

 ここで陰陽師と『因果逆転の悪魔』がお互いに相討ちになるのは悪くない。

 最悪のケースは『因果逆転の悪魔』が一方的に負ける事だ。

 『マリアとの関係性』を持っていかれるのは腹立たしいが、俺の悪魔に対する『いつか死んでくれ』という願いが叶うなら、一時的に何かを持っていかれるのは我慢すべきだろう。

 「・・・わかった。

 『マリアとの関係性』を対価に捧げる。

 あの陰陽師を倒してくれ」と俺。

 「ケケケケケケケケケケケケ!!!!!

 お前は『放っておいてもコイツはいつか死ぬ』と考えただろう?

 残念だったな。

 我は400年以上生きている。

 我と契約した者達も『いつか死ぬ』と軽い気持ちで対価を差し出して、悔やみながら寿命を終えていったのだ!

 だが、差し出された対価分の仕事はしよう。

 あの陰陽師を倒せば良いのだな?」と因果逆転の悪魔。

 良いも悪いもない。

 今、陰陽師と『因果逆転の悪魔』を闘わせるしかない。

 「『彼女との関係性』は確かに受け取った」と『因果逆転の悪魔』。

 「『受け取った』とはどういう事だ?」と彰はマリアの亡骸の入った足元のスーツケースを見た。

 いや見ようとしたが、そこにスーツケースはなかったのだ。

 「おい、どういう事だ!?

 スーツケースをどこにやった!?」と彰。

 「お前にはもう関わりのない事だよ。

 お前との『関係性』は全く失くなったのだ」と『因果逆転の悪魔』がゲタゲタ笑いながら言う。

 やはり『因果逆転の悪魔』の性格は最悪だ。

 しかし『因果逆転の悪魔』が死ねば支払った対価は自分に返ってくる。

 彰の願いはただ一つ。

 陰陽師と『因果逆転の悪魔』の相討ちだ。

ーーーーーーーーーーーーー

 タバコ屋にマツが息を切らせて戻って来る。

 「お帰り、良い下着買えた?」と(ぼく)

 そうだった。

 「下着買って帰る」って言って『しまむら』に残ったんだった。

 「それより何よ?そのスーツケースは?」と僕。

 「スーツケース?

 何それ?」とマツ。

 「それ、ばあちゃんが持って帰ってきたんでしょ?

 ばあちゃんと一緒に家の中に飛び込んで来たんだよ」と僕。

 訳がわからない。

 何故ならマツは何にも持たずに帰ってきたからだ。

 スーツケースの中には『石鎚彰』という呪術師の恋人の死体が入っている。

 それが何故ここにあるのか?

 『因果逆転の悪魔』の要求した対価により彰は『恋人との関係性』が失われた。

 その事により、『恋人の死体』は彰の持ち物ではなくなった。

 誰の持ち物になるかは完全にランダムだった。

 『しまむらの駐車場』の近くにいた者として『死体の持ち主』に選ばれたマツとすれば「こんなモンもらっても困る」というモノだが「おめでとうございます。新しい『死体』の持ち主はマツ様です」という訳だ。

 「取り敢えずスーツケースの中身、確認しておいて。

 関係ないモノが入ってるなら警察に届けなきゃならないだろうから」とマツ。

 「えー!

 それ、ばあちゃん本人がやってよ!

 何で僕がやらなきゃならんのさ?

 面倒臭い!」と僕。

 「頼むよ。

 ばあちゃん、今日はもう疲れたんだよ」とマツ。

 何か疲れ果ててるマツを見ると「本当に疲れてるんだな」と思う。

 しょうがない。

 スーツケースの中身を確認するだけだ。

 それぐらいはやってやろうかな・・・と。

 「ギャー!!!!!!!」

 スーツケースの中に入っていたのは傷一つない、裸の女性の遺体だった。

 想像してみて?

 『どんなお宝が入っているかなー?』ってちょっとワクワクしながらスーツケースを開けたら、中から膝を抱えた女性の遺体が出てきて叫ばない自信がある?

 僕は無理でした。

 軽くチビりました。

 僕の叫び声を聞いて、テイムモンスター達が八畳間にわんさか出てきた。

 テイムモンスターに混じって、ウメも八畳間に駆けつけてきた。

 そこには腰を抜かしてチビっている僕。

 冷静にウメが僕に聞く。

 「この女の人、誰?」

 「知らないよ!

 僕がスーツケースを開けたら、もう裸だったし、死んでたんだよ!」と僕。

 「どうするつもり?」とウメ。

 「どう、って警察呼ばないと!」と僕。

 「警察呼んだら家の中、調べられちゃうよ?

 死んだばあちゃんが生き返った事も、この子らの痕跡も・・・調べられても良いの?」

 「『良いの?』って言われても人が死んでるんだよ?

 調べない訳にはいかないでしょ?」と僕。

 「じゃあ『死んでない』なら調べる必要ないよね?」とウメ。

 「そりゃそうだろうけど・・・」と僕。

 「フェニックスくん。

 じゃあ、もう一度頼むね。

 ばあちゃんが死んだ時みたいに!」とウメ。

 「ケーン!」(フェニックス)はウメに鳴き声で何かを伝えている。

 ウメはモンスターの言葉がある程度わかるらしい。

 「フェニックスくんが言うには『生き返らせた人には何か役割を与えないとダメ』らしい。

 この女の人に何かしらやらせたい役割ある?」とウメが僕に聞いてくる。

 「『役割』って言われても・・・。

 何を言われてるかわからん!」と僕。

 「じゃあ、役割こちらで準備するね!

 『魔法少女』今、探してたし調度良かった!

 じゃあフェニックスくん、彼女を生き返らさて!」とウメが言うと、(フェニックス)が尾の羽を自分の(くちばし)で千切って、遺体の上に置くと、その身体を一瞬で燃え盛らせると遺体の上に覆い被さった。

 「ヤバいって!

 遺体が燃える!

 家が燃える!

 タバコ屋が燃える!」と僕が慌てる。

 燃えている(フェニックス)が覆い被さった遺体は一瞬で灰になり、消えて失くなった。

 「おい!

 許可取らないで遺体を燃やすのって、結構な重罪なんじゃないの!?」と僕が泣きそうになりながら言う。

 「そうなの?

 知らなかった」とウメ。

 ケロリとしているウメの肩をガッシリと掴むと僕は言う。

 「良い?

 警察に何を言われても『知らない』で通すんだよ?

 遺体を勝手に燃やしたのは僕だって言うんだよ?」

 「遺体なんて残らないよ。

 だって生き返ってるんだから」と言うウメの横には全裸の娘さんが。

 僕やウメよりは若干歳上には見えるが、遺体の時よりは若返って見えるから実年齢はきっとあまりアテには出来ない。

 先にネタバレしてるからわかったとは思うが彼女は遺体だった少女だ。

 少女は全然状況が飲み込めていない。

 そりゃそうだ。

 こっちだって今の状況が『いったい全体何のこっちゃ』訳がわからない。

 ただ一つ時間が経過するにつれて、彼女にわかってきた事がある。

 『自分が全裸だ』と言う事だ。

 「キャアアアア!!!!!」僕は全裸の女性に何故かおもいっきりビンタされた。

 「全裸が恥ずかしいの?」とウメが彼女に聞く。

 頷く彼女。

 「じゃあ同じように恥ずがらずに大声で繰り返して。

 『CD(シーデー)!、DVD(デーブイデー)!』」とウメ。

 「それに一体、何の意味が・・・」

 疑問を言おうとする全裸の女性を遮って「良いから騙されたと思って言ってみて!

 『CD(シーデー)!、DVD(デーブイデー)!』」とウメ。

 「『CD(シーデー)!、DVD(デーブイデー)!』」半ばヤケクソ気味に全裸の女性が叫ぶ。

 気持ちはわからなくもない。

 何で素っ裸でこんな訳のわからん事を叫ばされているのか?

 僕としてはウメが訳のわからんコミュニケーションを取ってくれている間に、テイムモンスター達にアイテムボックス内に隠れてもらった。

 訳がわからないからテイムモンスター達に気付かなかったんだよね?

 気付いて周りがモンスターだらけだったら絶叫じゃ済まなかっただろう。

 ウメの言っている事は相変わらずサッパリだが、今回ばっかりはファインプレーだった。

 モンスター達をアイテムボックス内に移して振り返ってみると、全裸の女性は魔法少女のコスプレみたいな格好をしていた。

 これはこれで悪くはないけど、こんなんだったらもう少し裸を凝視しとけば良かった。

 「あっ」とウメ。

 「どうしたの?」と僕。

 「レッドじゃない。

 彼女は『ドリームつや消しブラック』」とウメ。

 「何の話?」と僕。

 「リーダーはレッド」とウメ。

 「そうか、良かったね」と僕はウメの使う日本語の理解を諦めた。

 「良くない、困った。

 どうすれば良い?」とウメが僕に聞いてくる。

 「好きにすれば良いんじゃん?」と僕。

 「わかった。

 好きにする」とウメ。

 「『ドリーム5』は『五人』に拘らない」という大前提が決まった瞬間だ。

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