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結界

 「しかし何で『あと1人』探すんだい?」とばあちゃん。

 「どうして?」とウメ。

 「だって4人いるじゃないか。

 4人じゃダメなのかい?」とばあちゃん。

 「ダメ。

 『ドリームファイブ』は5人。

 4人じゃダメ」

 かつて『魔界四天王』に5人を指名したウメ、今回は気分的に数字にこだわるようだ。

 魔王軍はウメの気まぐれに右往左往させられたが、今回もそうなるのか?

 街行く人々が好奇の視線で魔法少女達を見送る。

 当の本人達は自分達の格好が珍妙だとは夢にも思っていない。


 「具体的にどこを探す?」とシンシアがウメに異世界語で聞く。

 「取り敢えずは『しまむら』に」とウメ。

 ウメは店といったらコンビニとタバコ屋と新聞屋と下着を買った『ファッションセンターしまむら』しか知らない。

 「妥当だな」とアンナ。

 アンナとシンシアも似たようなモノだ。

 ・・・という訳で、圧倒的信任を受けて一行は『しまむら』に行く事になった。


 『しまむら』の中は閑散としている。

 『しまむら』だけが閑散としている訳じゃない。

 街全体が『あべべ自動車乗用車事業撤退』の煽りを受けて、ゴーストタウンなのだ。

 『しまむら』に客はほとんどいない。

 客の数と店員の数だったら店員の数の方が多いぐらいだ。

 しかし郊外タイプの店は遠くから車でくる客も目当てにしているので、何とかやっていけている。

 店の中にハッピーな服装の4人が入ってきた。

 店員としては『気にしていないフリ』をする。

 『ハロウィンでもこんなハッピーな格好しないだろう』というトンチキな4人が店員の前に来る。

 「な、何かお探しでしょうか?」と店員の笑顔がひきつる。

 「レッドを探しに来た」とウメ。

 「レッド?

 赤でございますか?

 『赤い服』をお探しですか?」と店員。

 「違う。

 レッドは『ドリームレッド』だ。

 リーダーだ。

 『赤い服』じゃない。

 いや『ドリームレッド』は赤い服なのか?」とウメ。

 店員は思った。

 「ヤベーやつらが来ちまった」と。

 「申し訳ございません。

 『ドリームレッド』というのは生憎、現在ございま・・・」店員が「さっさと帰れ!」と断ろうとするのを遮りウメが店員の肩にポンっと手を置きながら勧誘する。

 「『ドリームレッド』をやってみないか?」と。

 『しまむら』の店員は激しく混乱する。

 何かよくわからんヤベー連中に勧誘されちまった、と。

 しかも勧誘してきたのは日本語カタコトの外国人だ。

 あ、コレあれだ。

 今、話題の闇バイトだ!

 東南アジアなんかから国際電話で老人に大金を振り込ませるって手口のアレだ。

 『ドリームレッド』って『ルフィ』みたいな符丁(サイン)だ!

 今、自分は闇バイトの勧誘を受けている!

 馬鹿にするな!

 確かに私は裕福じゃない。

 だが、『他人を不幸にしてまで銭を得たい』なんて思うほど人格が腐っていない!

 落ちぶれちゃいない!

 「お断りします!

 私は『ドリームレッド』とやらをする気はありません!

 お引き取り下さい!」と『しまむら』の店員。


 「断られた。

 それより何か怒ってた。

 何で?」とウメはマツに聞く。

 「タバコ屋に時々、保険屋が来るんだよ。

 暇な時には話くらいは聞くけど『タバコ買わないなら帰っとくれ!』という時もある。

 要はタイミングだね。

 タイミングが悪かったんだよ」とマツはウメをなぐさめながら頭をポンポンと撫でる。

 「・・・難しい」とウメ。

 「そう難しく考えるんじゃないよ。

 『今日は日が悪かった』ぐらいに考えれば良いのさ。

 また明日、頑張ろう!」とマツ。

 どうやら魔法少女達は明日も『しまむら』に来るつもりらしい。


 その日、魔法少女達は『しまむら駐車場』で流れ解散となった。

 「あ、儂、今まで着てた下着、寸法が合わなくなったんだった。

 下着買って帰らなきゃ」とマツ。

 「待ってようか?」とウメ。

 「良いよ。

 それよりあの子らと一緒に帰りな。

 友達は大切にしなきゃダメだよ!」とマツ。

 「うん、わかった!」とウメはアンナとシンシアと一緒に帰って行った。


 マツはウメとアンナとシンシアの背中が見えなくなるまで『しまむら』の駐車場で見送る。

 「そろそろ良いだろう?

 隠れてないで出ておいで。

 儂に用事があったんだろう?」とマツ。

 曲がり角から人影が現れる。

 『黒いフードの男』つまり『石鎚彰(いしづちあきら)』だ。

 「いつ頃から尾行に気付いていた?」と彰。

 「3日ほど前かねぇ?

 アンタ、タバコ屋の店先にいる儂を見ていただろ?

 一度死んでから『見ようと思えば、モノが透けて見える』んだよ。

 だからアンタが曲がり角の向こうから儂を見ていたのも見えてた、滑稽なほどにね」とマツ。

 「そこまで気付いてたなら、言い訳は出来ないな。

 そうだ、俺はアンタを尾行していたんだ」と彰。

 「スカートーかい?」とマツ。

 「惜しい、正しくは『ストーカー』だ。

 だが俺は『ストーカー』じゃない。

 答えはさっきアンタが言った『一度死んだ』事に関係がある。

 俺は『死者蘇生』の方法を探っているのだ。

 恋人を生き返らせたい」と彰は正直に答えた。

 「残念だったね。

 他を当たっておくれ、


 何で儂が生き返ったのか、自分でもわからないんだ。

 なぜなら生き返った記憶どころか、死んだ記憶すらないんだから。

 夜『おやすみ』って布団に入ったら死んでいたらしくて、生き返った記憶もなく、生き返って最初の記憶は自分の葬儀の精進落としの『茶碗蒸し』の匂いだ。

 悪いが役に立てそうにもないね」とマツ。

 「・・・他に色々、隠しているだろう?」と彰。

 「とぼけるな!

 若返ったよな!?」

 「・・・・・・」

 「それだけじゃあるまい?

 他にも『力』に目覚めただろうが!」

 「何の話だい?」

 「ここ数日、アンタを監視していた。

 アンタ、踏み台から足を滑らせた女の子の身体を支えたよな?

 それはそれで良いんだよ。

 女の子も気付いていない。

 あんなのは『遠くから見てないと』あの場所から咄嗟に支えられない事はわからない。

 アンタはどうやって『手を使わずに』あの子を支えたんだ?」

 「・・・・・」

 「俺は一つの仮説を立てた。

 アンタは生き返ると同時に若返っただけじゃなく『体内に力』を得た。

 その一つが『透視』

 もう一つが『念力(サイコキネシス)』」

 「・・・・・」

 「俺はアンタにどんな『力』が宿ろうが、全く興味はない。

 おれに興味があるのは『生き返った方法』だけだ。

 アンタを生き返らせるのに使われた触媒は副産物として、アンタの身体に超能力を与えた」

 「大した妄想力だ。

 その『触媒』とやらに心当たりはあるのかい?」

 「『不死鳥の尾』だろう?

 違うか?」と彰。

 「だから言ってるだろうが。

 儂は自分がどうやって生き返ったのか知らない、と。

 『生き返る方法』を知りたくて儂に聞いても無駄だよ。

 他を当たっとくれ」とマツ。

 「ならばお前の孫に聞くとするか。

 『豊』とか言ったか?」と彰。

 「豊は関係ないだろう?」

 「関係ないかどうかは俺が決める。

 お前の孫と一緒にいた鳥というのが、俺が探し求めている『不死鳥』かも知れないのだ」と彰。

 マツの動きが止まる。

 マツの部屋と豊の部屋は隣同士だ。

 豊が何かを飼っているのは絶対に間違いない。

 しかも飼っている獣は一種類じゃない。

 部屋は襖で区切ってあるだけなので、獣の鳴き声は聞こえて来るし、時々獣臭さも漂ってくる。

 「ちゃんと世話をしているなら」「ちゃんと衛生的にしているなら」「ちゃんと可愛がっているなら」特に口を挟む事じゃない。

 しかし時々、鳥のような鳴き声も聞こえる。

 「一体お前は何を飼っているんだ?」と気にならない訳じゃない。

 豊は最近、何かの秘密を抱えているようだ。

 可愛い孫をずっと見ていたのだからわかる。

 その秘密を『豊本人が自分から打ち明ける』事が好ましい。

 決して『秘密を無理矢理聞き出す』のは望ましくない。


 「孫がその『不死鳥』を飼っていたとしよう。

 それで何故孫が『死者蘇生の方法を知っている』と思った?

 おそらくアンタは『死者蘇生』の方法を調べて全国を巡ってきたんだよね?

 それで、儂の事例に行き着いた。

 儂を生き返らせたのは『孫じゃないのか?』と言うのだろう?

 そうだとしても儂は孫に感謝こそすれ、問い詰めるつもりはないよ。

 孫が儂に秘密にしておきたい事があるなら、儂に出来るのは『孫が話したくなるまで待つ』事だけだよ。

 真相を明らかにしたいんだとしても他を当たっとくれ。

 儂は協力出来ん」とマツ。

 豊は『死者蘇生』の方法を知らない。

 『不死鳥の尾』は不死鳥(フェニックス)本人が悲しむ豊とウメを見て『自発的に提供したモノ』だ。

 『不死鳥の尾』はフェニックスの魂の一部で、本来フェニックスが誰かにあげるようなモノではない。

 そこまでフェニックスにとって、親がわりの豊の存在は大きく、豊の家族であるウメの存在もまた大きい。

 『賢者カヤマ』が『死者蘇生』を書物に残したので、『不死鳥の尾』を求めて、フェニックスの乱獲は行われた。

 フェニックスの寿命は永遠だが、殺されて死なない訳じゃない。

 フェニックスは絶滅手前まで追い込まれた。

 それに『死者蘇生』の方法は完璧なモノではなかったし成功例はほとんどない。

 だから『死者蘇生』の方法は失伝した、異世界では。

 異世界から日本にやって来た『賢者カヤマ』改め『仙人カヤマ』の残した書物の中には『死者蘇生』がある。

 その書物を彰が手に入れたのだ。

 もちろん日本にフェニックスなどいない。

 日本にいる限り『不死鳥(フェニックス)の尾』は手に入らないのだ。

 手に入らないはずだった。

 不死鳥(フェニックス)を連れて帰った豊がいなければ。

 『死者蘇生』の書物を読み、偶然に豊が『不死鳥(フェニックス)』を連れているのを見てしまった彰は豊の周りをマークした。

 そして「豊の祖母『マツ』が生き返った」という情報を手に入れて、こうしてマツと接触した。

ーーーーーーーーーーーー

 場所は変わり、竹内家のウメの部屋。

 ウメは『しまむら』から帰り夕御飯まで自分の部屋に戻っていた。

 「おかえりー。

 どうだった?」と加藤豪。

 「『ドリームレッド』は見つからなかった」とウメ。

 「そう簡単には見つからないよ。

 今までがトントン拍子に行き過ぎただけで。

 『ユニット組む』って決めた初日に4人決まるって異例中の異例だからね!

 それより何で『ドリームレッド』なの?」と加藤豪。

 「『リーダーはレッド』これは普遍の真実だってマツが言ってた」とウメ。

 「でも一番最後に入った1人がリーダーってどうなの?

 今はリーダー不在で動くって事なの?

 もう、君がリーダーで良いんじゃない?」と加藤豪。

 「それはダメ。

 私がリーダーで魔王軍は滅んだ。

 私にはチームをまとめる『カリスマ』が足りなかった。

 同じ失敗は繰り返さない」とウメ。

 「『魔王軍』って何?

 君は普通の女子中学生じゃないの?」と加藤豪。

 「それは乙女の秘密」とウメ。

 「秘密じゃしょうがないかー」

 「それはそうとマツは魔法少女としてどう?

 やっていけそう?」とウメ。

 「それは大丈夫。

 『ある程度』の魔力を魔法少女のコスチュームがくれるんだよ。

 マツが今まで普通の女の子だったとしても、魔法少女のコスチュームが力をくれるからね」と加藤豪。

 「『ある程度』ってどれくらい?」とウメ。

 「ユニットの場合、『足を引っ張らないように』他のメンバーとの『平均魔力』がコスチュームから供給されるよ!

 大体において、他のメンバーも『魔力0』だから最初は最低限の魔力がコスチュームから供給されるんだけどね!」と加藤豪。

 「『最初は』ってどういう事?」とウメ。

 「戦闘を重ねるウチに魔法少女ユニットとして、魔力が上がっていくのが普通なんだよ。

 そうしたら上がった魔力の平均値が増員した新人に入るんだ」と加藤豪。

 「しかし・・・。

 君らは一体何なんだい!?

 最初から魔力が半端じゃないよね!?

 君らの魔力の平均値が『ドリームシルバー』が手に入れた魔力な訳だけど・・・。

 最初から彼女は化け物だ!

 それにドリームシルバーの魔力は最初から0じゃない!

 彼女は君達ほどではなかったけど、高い魔力を持っていたよ!」と加藤豪。

 そりゃ、魔王と、勇者パーティーの魔法使いとクレリックなんだから魔力が飛び抜けていてもおかしくない。

 その平均値の魔力をマツは手に入れている訳だからいきなり途方もない。

 それにマツは生き返った時に身体に『不死鳥の尾』を取り込んでいる。

 『不死鳥の尾』は魔力の塊だ。

 それを取り込んで魔力が飛躍的に上がらない訳がない。


 「で、その魔力でマツは何が出来る?」とウメ。

 「と言うと?」と加藤豪。

 「シンシアは『回復魔法』『補助魔法』。

 アンナは『攻撃魔法』

 私は世界の全てを破壊し尽くす『終末魔法』・・・」

 「ちょっと待て!」

 加藤豪はウメの発言に聞き逃せない部分があって思わずツッコミを入れる。

 「君の魔法については謎が多くてよくわかってないんだけれど、今、それについてちょっと触れなかった?」と加藤豪。

 「気のせいでしょ?

 それよりマツの魔力についてが知りたい。

 マツは魔法を使えるようになるの?」とウメ。

 「無理だね。

 仕組みがわかってないのに魔力だけを得て、使えるようになる程、魔法は底が浅いモノじゃない」

 「だったらマツは魔力を得ただけの魔法を使えない一般人?」とウメ。

 「そんな事はないよ。

 世の中、ほとんどの人が魔法が使えないんだよ?

 そんな魔法を使えない人のための『お助けツール』があるんだよ。

 魔力を帯びた斬擊が放てる剣とか、魔力を帯びた矢が放てる弓矢とか・・・。

 でもマツはそういった『お助けツール』を一切必要としなかったんだ」

 「どういう意味?」

 「彼女は誰にも習わないでイメージの力で魔力を操れるようになったんだ。

 わかりやすく言うと『ドリームシルバーは超能力者だ』」

ーーーーーーーーーーー

 場面は『しまむら』の駐車場に戻る。

 マツはどうにか逃げるタイミングを狙っている。

 それを見越して彰が言う。

 「無駄な事よ。

 ここの人払いは完了している。

 貴様がどれだけ待っても人は来ないし、事態は好転しない」

 「ふん、先程も話しただろう?

 儂は『死者蘇生』について何も知らない。

 儂を捕らえたところで・・・」

 「方法はいくらでもある。

 俺は『呪術師』だ。

 貴様が知らなくても、『死者蘇生』の施術を受けた貴様の身体が知っているかも知れない。

 呪術師には『身体に直接聞く方法』というのもあるのだぞ?

 もっともそれを実行してしまえば、相手は正気じゃいられない。

 出来るだけ、その手段はとりたくないのだがね」と彰。

 「・・・・・」

 「それともう一つ。

 俺は絶対に『不死鳥の尾』が必要だ。

 それを手に入れるために貴様の孫にどうしても噺を聞かないといけないらしい。

 本当は『不死鳥の主』が水川英雄なのか竹内豊なのか判断がついていなかったのだ。

 だから貴様にカマをかけたのだ。

 『不死鳥の主は竹内豊なのだろう?』と。

 貴様もよくはわかってないようだが・・・『不死鳥の主が竹内豊である可能性が高い』という事はわかった。

 それがわかっただけでも大収穫だよ!

 あとは貴様の孫との交渉だ」と彰。

 これは不味い事になった。

 どうもコイツは豊に話を聞くらしい。

 そして豊が正直に言わないなら、豊を尋問するつもりだ、と。

 それが本気かどうかはわからない。

 情報を引き出すための脅しなのかも知れない。

 しかし、自分は堂々と『豊を害する』と宣言するこの男を放置して良い訳がない。

 卑怯かも知れない。

 しかし『先手必勝』だ。


 マツは後ろ足で彰と距離を取る。

 「おいおい、逃げるつもりなのか?

 無駄な事はするなよ!

 こちらに乱暴な事はさせるなよ!」と彰が鼻で笑いながら言う。

 逃げれるなんて思っていない。

 言う事が本当ならコイツは呪術師だ。

 何かしらこちらが思い付かない事をするかも知れない。

 いや、するのだろう。

 生き返った事、超能力に目覚めた事・・・この世の中には、まだまだ理解不能な事があるらしい。

 しかし相手も儂が超能力に目覚めた事を知らないで、油断しきっている。

 今がチャンスだ。

 今なら相手に一撃食らわせられる。

 3mぐらい距離が離れただろうか?

 相手も『これ以上離れるのは不味い』と思ったらしい。

 小走りで前に距離を詰めようとした、刹那、彰は見えない『何か』にカウンターで左顎を思いっきり殴られた。

 彰の脳が揺れる。

 脳震盪を起こした彰はフラフラと二、三歩した後バタリと倒れた。

 倒れたのを見たマツは一目散に逃げた。

 しかし逃げる様子がおかしい。

 『飛んでいる』というか『滑っている』というか『ホバリング』しているというか・・・。

 実はマツは『念力』を使っている。

 彰の左顎を殴ったのはマツがイメージした見えない手なのだ。

 マツの手に入れた『念力』は、イメージした手に触れていないモノを触れる能力だ。

 しかしマツのイメージなど所詮は老人の想像力だ。

 朝、魔法少女のアニメを見た後、9時から海賊王を目指している少年のアニメを見る事がある。

 「そうか、遠く離れた所のモノを殴るって感じは『手を伸ばす』って感覚でどうだろうか?」と今回試したところ、上手くいった。

 想像の伸ばした手で相手の左顎を殴ったのだ。

 その後は『とにかく逃げよう』と。

 離れたところにある電柱を伸ばした見えない腕で掴む。

 その見えない腕を引き寄せて、推進力にして前に進む。

 進んだ先でまた電柱を見えない腕で掴んで、更に前に進む。

 彰の『人払いの結界』は殴られた事により弱まった。

 実際には殴られて結界が弱まったのではない。

 殴られた『油断』で精神集中が切れたのだ。

 そして、マツをむざむざ逃がしてしまった。

 「くそう、逃がすか!」と彰。

 しかし『人払いの結界』が弱まる、という事は同時に『石鎚彰を探している陰陽師』からも彰が見つかる、という事を意味している。

 「いやー、探したよ。

 いきなり安倍の屋敷から消えたらしいからねー。

 アンタ、何を企んでるんだい?」とまだ幼さの残る声で男が彰に聞く。

 「関係ない。

 そこをどけ。

 俺は急いでるんだ!」と彰。

 「『関係ない』とはつれないね。

 アンタ、俺の仲間を殺したんだぜ?

 安倍家のボディーガード、殺したよな?

 忘れたとは言わせないぜ?」と男。

 瞬間的に殺気が高まる。

 その殺気は彰のモノか。

 それとも相手の男のモノか。

 はたまた両方か。


 男が地面に札を貼る。

 貼られた地面から鋭い刃物のような爪が三本生えて、彰に向けて素早く移動する。

 彰はピョンピョン跳ねながら、自分に迫る三本の爪を交わす。

 どうやら爪は地面を離れる事は出来ないようだ。

 「ホラ、逃げろ逃げろ!」と男は楽しんでいるようだ。

 いたぶりながら彰を殺す事が『死んだ仲間に対する供養』だと考えているのだろう。

 

 


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