契約
異世界で十数年、昔話の時代に六年、普通なら僕は三十路男だ。
なのに何故か令和では中学二年生だ。
訳わかんねー。
それはそうと犬と猿と雉以外『アイテムボックス』から外出禁止にしていた。
しょうがないじゃん。
見た目が鬼以上のバケモノとかもいるんだから。
でも、流石に可哀想よね。
認識阻害のスキルを持ってる子に限って、特別に放し飼いにする事にした。
他の子も山奥に連れて行って自由に遊ばせよう、と。
今日は豹のモンスター、バックスを放し飼いにする。
僕にしてはペットに名前を付けるのは珍しいって?
バックスに名前をつけたのは僕じゃない。
元々ついてたのだ。
バックスは元は『マイナス』って狂った女の乗っていた豹だった。
マイナスは女性信奉者で男を異常なまでに嫌っていた。
例に漏れず僕も理由もなく嫌われた。
『バックス、あの穢らわしい男を八つ裂きにしろ!』と。
簡単に言えばマイナスはフェミニストを8倍ぐらい厄介にした感じだった。
僕は傷ついてベソをかいた。
「僕って穢らわしかったんだ・・・」と。
僕を泣かせたマイナスを見て、テイムモンスター達は逆上した。
マイナスの最後は、トラウマになりそうだから思い出したくない。
主人を失ったバックスに「ウチ来る?」と聞いたら、何か喜んでついてきたんで何となくバックスはテイムした。
バックスは大きな猫みたいで、寒い夜はとっても暖かい。
でも夏は暑苦しい。
そんなバックスを放し飼いにして数時間。
自由を満喫したバックスが満足して戻ってきた。
良くわからん謎の小動物を咥えて。
バックスにしてみれば「褒めて!褒めて!ボクが捕まえたんだよ!」と自慢気だ。
だから怒る気にはならない。
しかしこの小動物見た事ないぞ?
もしかしたら無茶苦茶貴重なんじゃないの?
天然記念物?
ウソ、僕逮捕されちゃうの?
小動物を注意深く見る。
何やコイツ、ネコのようなウサギのような。
そして真っ白だ。
死んではいないようだ。
目を回してるのかな?
一安心だ。
何かウメはウチにホームステイする事になった。
まあ、英雄の家は既に2人ホームステイを受け入れてるし、親父が謎に英雄の親父に対抗心を抱いてて良かった。
「英樹の家でホームステイの受け入れただと?
ウチもホームステイを受け入れるぞ!」と。
因みに『英樹』は英雄の父親の名前だ。
僕の父親がバカで助かった。
父親はウメに『叔父貴』と呼ばせている。
理由は『任侠映画』に出てくる「広島の叔父貴」っていうのが何か格好良かったから、バカである。
だから僕とウメは一つ屋根の下に住んでいる。
その内、何か間違いが起こるかも知れないが今のところ健全で、全年齢推奨だ。
ウメが僕の部屋に入って来る。
「おい、ノックはしろってば」
「私は気にしないぞ」とウメ。
だから気にしろってば。
「この子、何?」とバックスが咥えて来た小動物を抱っこしながらウメが言う。
「知らん。
ウメにやろうか?」と僕。
「え、良いの?」とウメ。
良いも悪いも。
これだけペット飼っておきながら、人に『ペット飼っちゃダメ』ってどの口が言うんだよ?
しかし、あの偏屈親父がペットをOKするとは思えんがな。
「いいよ、許可する」と親父。
「おい、コラ、僕が小さな頃『ハムスター飼いたい』って言った時には許可しなかったじゃねーか。
どういう事だ?」と僕。
「ウメちゃんは一人で異国に来て心細いんだよ!
ペットぐらい許可するのが男の度量だろうが!」と親父。
ウメは一人じゃねーぞ!
何だったら部下の四天王が五人もいるぞ!
しかし『実は四天王がいる』とか言っても親父には意味不明だろうし、きっと僕が頭の病院に連れていかれちゃうだろう。
ウメが小動物を自分の部屋に連れて行く。
・・・まあいっか。
別に僕が飼いたい訳じゃないし。
この時、この判断をした自分を褒めてあげたい。
ウメが自分の部屋に小動物を連れて行く。
名前は『加藤豪』
理由は『白いから』だそうだ。
『大岡越前』の再放送を見たウメの感想は「白い」だった。
だから『白い犬や猫にシロと名付ける』子供のように、ウメは『白い小動物』に『加藤豪』と名付けた。
魔王の感覚はわからん。
部屋に入ると何と、小動物が喋りだした!
「こんばんは!ボクの名前は『イン・・・』」
「『加藤豪』」とウメ。
「『イ・・・』」
「『加藤豪』」とウメ。
「ボクの名前は『加藤豪』です・・・」と遂に小動物が折れた。
「そう。
キミは『加藤豪』
私のペット」とウメ。
異世界から日本に来たばかりのウメは、ペットが喋る事に全く抵抗がない。
「『加藤豪』か」と辛そうに呟く小動物改め『加藤豪』は気を取り直したように本題を切り出す。
「ボクと契約して『魔法少女』になってよ!」と加藤豪。
「魔法少女になって友達に噂されると恥ずかしいし・・・」とウメ。
「どういう事!?」と加藤豪。
これは僕が『ナンパされた時はこう言って断れ!』と言って練習させた言葉だ。
「一緒に帰って友達に噂されると恥ずかしいし・・・」
これを言われた男は『なんだ本ヒロインか。自分じゃパラメーターが足りないよな』と諦めるはずだ。
しかしウメは元ネタを知らない。
だからコレが使用用途が狭い断り文句だとは知らずに『加藤豪』相手に使ってしまったのだ。
「えーっと、魔法は使いたくないかい?」と加藤豪。
「魔法、結構、使える」とウメ。
「変身願望とかない?」と加藤豪。
「体調良い時、『最終形態』、変身出来る」とウメ。
ダメだ!この娘、話が通じない!
何て言ったら騙して『魔法少女』に出来るんだろう?
もうこの娘で決めるしかない!
だってここら辺はさっきみたいな危険なバケモノがウロウロしてるんだぜ?
ここで決めなきゃ食われちゃうかも知れない!
考えろ!
何かあるはずだ!
この娘が魔法少女に食いついてくる誘い文句が!
「可愛い服着たくない?
魔法少女の服、結構可愛いよ?」
ボクは何を言ってるんだ?
『服が可愛い』で魔法少女になる娘がいる訳がないじゃないか!
『制服が可愛い』って理由で進学する高校を決める女子中学生でもあるまいし。
しかしウメは『服が可愛い』の一言に何故か食いついた。
「本当に可愛い?」とウメ。
あまりにウメが前のめりなので、加藤豪は若干引いた。
「あ、うん。
結構可愛いよ。
小さい女の子らの憧れだよ?」と加藤豪。
「小さい女の子、どうでも良い。
若い男、その服好き?」とウメ。
「う、うーん。
どうだろー。
日曜日の朝早くからアニメ見るような男は好きなんじゃないかなー?」と加藤豪。
「ユタカは日曜日の朝、早起きする?」とウメ。
「誰やねん!
知らんわ!
早起きするかもね!」加藤豪がヤケクソで答える。
「わかった!だったら『魔法少女』なる!」とウメ。
加藤豪としたら何が決め手になったのか全くわからない。
とにかく相手は『魔法少女になる』という。
気が変わらないウチに契約を済ませてしまおう。
「じゃあ瞳を閉じて。
集中して。
頭の中からわき起こった『言葉』があるはずだよ!
それを唱えるんだ!
その言葉が魔法少女に変身するための鍵になる言葉だ!」と加藤豪が叫ぶ。
「CD!DVD!」
ウメが叫ぶ。
そう言えばウメは『夢グループ』の通販番組を何やら食い入るように見ていた。
「な、何だよ、それは?」と加藤豪。
しかしウメは光に包まれると、可愛らしい魔法少女の格好になっていた。
ウメは頭に思い浮かんだ言葉をとにかく述べる。
「『魔法少女ドリームファイブ』の『ドリームオフホワイト』見参!」
「『ドリームファイブ』って五人いるの?」と加藤豪。
「知らない」とウメ。
「魔法少女を色分けするのはありがちだけど、いきなり白はないんじゃない?」と加藤豪。
「知らない」とウメ。
ダメだ、この娘は!
ダメなはずなのに、『何か』を感じる。
冷や汗が止まらない。
それもそのはず。
ウメは魔法少女デビュー前から、熟練の魔法少女の数万倍の魔力を有している。
当然だ、魔王なんだから。
その上、豊のパーティーに入って無茶苦茶経験値を得ている。
加藤豪はウメの思いつきで、あと4人の仲間を見つけなくてはいけなくなった。
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彰は安倍家の屋敷から姿を消した。
安倍の息子の友達に攻撃を仕掛けた以上、屋敷でのんびりしている訳にもいかない。
浩はよく把握していないが、安倍家は彰を探している。
・・・というのもボディーガードの陰陽師が放った式神を排除したのが彰だと、安倍家は勝手に勘違いしているのだ。
本当は式神を何気なく破ったのは豊だ。
豊には式神の認識阻害が効かなかったから『何だコレ?』と紙で出来た式神をビリっと破いてしまったのだ。
それを安倍家は『そんな事が出来るのは呪術師に違いない』とミスリードした。
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石鎚彰彦は未だに岡山にいた。
倉敷のネットカフェで生活していた。
そんなに金がない訳じゃない。
ちゃんとした所に泊まったら、署名とか諸々、キチンとした足跡を残さなくてはいけない。
真面目に本名を名乗り、本当の住所をさらす気は毛頭ないが、少なくとも指紋は残ってしまう。
それに人の出入りが少ない場所では『防犯カメラの映像』が残ってしまう。
不特定多数が出入りするネカフェなら、指紋が残ったとしても残った指紋が多すぎて、そこから個人情報が発覚する心配がない。
『防犯カメラの映像』も同様だ。
多くのネカフェに出入りする人間の中から、一人だけをピックアップするのは不可能に近い。
何故、彰が未だに岡山にいたのか。
岡山の安倍邸で探し求めていた『不死鳥』らしき鳥を見たからだ。
探していたのは『不死鳥の尾の羽根』だ。
だが羽根どころか生きてる不死鳥を見つけた。
不死鳥は安倍浩の友達と一緒にいた。
奴等が何者かはわからない。
だが、奴等が安倍浩と同じ中学生だという情報は得た。
一緒にいた女達は留学生らしい。
日本人でないのは間違いないだろうが、外国人であることも怪しい。
何故なら、彼女らは『ジダンの門』から出てきたからだ。
門がどこに繋がっているかはわからない。
だが、門の繋がっている場所に『不死鳥』がいる可能性がある。
あの男二人は俺に立ち向かって来ようとした。
もしかしたら闘う手段を持っているのかも知れない。
警戒はして、し過ぎるなんて事はない。
狙い目は、あの留学生を名乗る三人の女子だ。
あのうちの一人を拐って『不死鳥』に関する情報を手に入れる、もしくは拐った女と不死鳥を交換で手に入れる。
・・・よし、この作戦でいこう!
ではあの留学生達の情報を揃えよう。
彰は行動方針を決めた。
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タバコ屋の朝はそんなに早くない。
でもばあちゃんの朝は無意味に早い。
ばあちゃんの名前は『マツ』。
『ウメ』の名前のインスピレーションの元だ。
因みに『タケ』というババアはいない。
ばあちゃんの早起きに付き合って、ウメも早起きする。
ウメは何かばあちゃんに懐いている。
ばあちゃんも僕の事は『クソガキ』とか言うクセにウメの事は『ウメちゃん』と呼び、可愛がって『濡れせんべい』を振る舞ってる。
おいばあちゃん、若い子はあんまり『濡れせんべい』で喜ばんぞ?
・・・いや、ウメは無茶苦茶喜んでるみたいだ。
ばあちゃんとウメは2人で日曜日の朝アニメを見ている。
「おい、ウメ。
ばあちゃんに無理矢理アニメ見せるなよ!
老人には時代劇、と大体昔から相場が決まってるんだから!」と僕がウメに言う。
「うるさいね!
ばあちゃんはね、この魔法少女アニメ『ロサンゼルス69』が最初『ふたりはロサンゼルス』だった時から見てるんだよ!」
・・・ばあちゃんは日曜朝アニメの大ファンだった。
つーか『ロサンゼルス』ってなんだよ?
何で魔法少女2人が『ロサンゼルス』なんだよ?
「その頃の話、聞きたい」とウメ。
「そうかい、そうかい。
ウメは良い子だねえ!
どこぞの『クソガキ』とは大違いだ!」とばあちゃん。
「そりゃ僕は『魔法少女』の話に興味を示した事ないけどさ。
『男が魔法少女の話に興味津々』の方が、その子の将来が心配になるぜ?」
僕の話を無視してばあちゃんはウメに『魔法少女』の話を始めた。
「『ふたりはロサンゼルス』は最初、仲間はふたりきりだったのさ。
それがシリーズを重ねる毎に、3人になり4人になり、5人になり・・・ついには今の69人体制になっちまったのさ」とばあちゃん。
どうでも良いけどさ、一気に増えすぎだろ。
限度ってモンがあるよ。
「何で増えていったの?」とウメ。
「マンネリの打破を『メンバーの多様性』に求めたのさ。
でもそれは本当は触れちゃいけないパンドラの箱なんだよ。
一旦、人数を増やし始めたら歯止めが効かない。
増える一方で69人まで増えちまったのさ」とばあちゃん。
しかしくだらない話だな。
もうマンネリでどうしようもないなら、終われば良いじゃんか。
何で『69人に増える』まで続けるんだよ?
69人、全員の名前覚えてるファンなんているのかよ?
「5人って多い?」とウメ。
「ばあちゃんは調度良いと思うよ?
5人って個性を一番出しやすい人数じゃないかな?
なんとか覚えられるし。
何より5色に別れたら華やかだよ」
ばあちゃんの言葉を聞いて安心して嬉しくなったのか、ウメはばあちゃんに抱きついた。
「おばあちゃんは『魔法少女』になりたい?」とウメはとんでもない事を聞く。
「・・・そうだねぇ。
ウメが魔法少女になるなら、ばあちゃんも一緒に魔法少女になりたいかもね」とばあちゃん。
「本当?
じゃあ約束!
一緒に魔法少女をやろう!」とウメ。
「そうだね。
ウメがなれたらね」とばあちゃん。
この時、ばあちゃんは『ウメはどうせ魔法少女になれない』と侮っている。
しかし、この時、ウメは魔法少女なのだ。
こうして『ドリームオフホワイト』と『ドリームシルバー』の2人が『ドリームファイブ』にメンバー入りした。