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鬼退治

 「尻!尻!尻!女尻はどこだ!?

 どこにもないじゃないか!?」と僕。

 「尻はここ」とポンポンとウメが『尻』を触る。

 視覚阻害のバリアが張られている尻、ことタイムマシンは僕には見えない。

 ウメが触っている所を僕もポンポンと触ってみる。

 実際に触る事で視覚阻害のバリアが外れた。

 ウメは人間ではないから、視覚阻害のバリアがそもそも効果がないのだ。

 「これは『尻』というより『桃』だな」と僕は落胆する。

 しかし何だ?この大きな桃は?

 僕は好奇心からペタペタと大きな桃を触る。

 すると『認証確認、タイムマシンを起動します』と桃が機械音声で言う。

 あれよあれよ、という間に僕は大きな桃の中に吸い込まれる。

 『時間遡行を開始します』

 なんじゃそりゃ?

 そして『時間遡行』らしきモノが始まる。

 何で『らしきモノ』なのか?

 大きな桃は透けて外が見える訳じゃないし、時間遡行が行われてるか、なんて正確にはわかんないのだ。

 じゃあ何で『時間遡行らしき物が始まった』なんて思ったのか?

 時間が遡ったかどうかなんてわからないけど、確実に僕の身体が若返ってるからだ。

 若返るなんてレベルじゃねえ!

 どんどん、どんどんガキに戻ってる!

 これ、最終的には『お母さんのお腹の中』どころか『お父さんの袋の中』の姿に戻っちゃうんじゃないの!?

 おたまじゃくしになっちゃうんじゃないの!?

 やだ!消えたくない!

 ・・・どうやら新生児より前には戻らないらしい。

 一安心・・・じゃねえ!

 新生児になっちゃったじゃねえか!

 後で知った事だが『未来人』は時間遡行は滅多にしないらしい。

 何故なら『時間遡行』をすると、人間は肉体が赤ん坊になってしまうから。

 だからタイムマシンに乗るのは任務を帯びたサイボーグだ。

 

 しかしどうすんだよ!?

 と、思っていたら時間遡行は止まったらしい。

 機械音声が告げる。

 「これにて時間遡行を終了します。

 ミッションが終わるまで元の時代には戻れません。

 ミッション『何故、地下に(オーガ)が現れるようになったのか、調査せよ』

 それではタイムマシンはスリープモードに入ります」

 それから桃はうんともすんとも言わなくなった。

 どうせ桃の暴走を僕は止められない。

 だって新生児だもん。

 赤ん坊に何が出来るって言うんだ?

 しかし元の時代に戻る微かな希望はある。

 『何で(オーガ)が地下に現れるようになったか?』を僕が調査したらミッションクリアなんだよな?

 やってやろうじゃねーか!

 と言っても新生児だし今は何にも出来ないけど。

 ・・・そらより何か揺れてねーか?

 揺れるっていうか、波に揺られている感じ。

 どっぷん、どっぷん

 これ、空のペットボトルとか流した時にこういう音がするよな。

 おいおい、大丈夫かよ。

 これ、どこか流れてるんだよな?

 水漏れしないよな?

 ミッションこなす前に溺死とか勘弁しろよ!


 「あれ!?大きな桃が!」と外から聞こえる。

 助かった、誰かがいたみたいだ。

 「この桃を自分が食べるのは怖い。

 毒があるやも知れん。

 そうだ!試しにジジイに食べさせよう!」と何やらきな臭い事を呟きながら、声の主は大きな桃型のタイムマシンを拾ったようだ。

 しかしタイムマシンは相当な重さのはずだぞ?

 それを軽々と運んでいる・・・この声の主、化物か?

 声の主はドスン、とタイムマシンを家の中に

置いたらしい。

 しかし僕には外は見えないし、出れないし、想像するしかない。

 暫くすると、誰かの声がした。

 「ばあ様、ただいまー!」

 「おう!穀潰し!

 さあ、桃を食え!

 さっさと食え!」とばあ様と呼ばれた人の声。

 「嫌じゃ!

 全然季節じゃなかろう!

 桃は夏の果物だが、こんな春先に食える訳がなかろう!?

 しかもこの化物みたいに大きな桃は何じゃ!?

 毒でもありゃせんか!?」と『穀潰し』と呼ばれた声。

 「だから、儂が食う前にジジイが毒味するんだろうが!

 つべこべ言わずに食え!

 骨は拾ってやる!」とばあ様。

 諦めたのかジジイは桃を食べる事にしたようだ。

 ・・・ちょっと待てよ?

 どうやって桃を割るつもりなんだ?

 背中に冷たいモノを感じ僕は何とか身を(よじ)る。

 身を捩った瞬間にババアが手刀でタイムマシンを二つに割っていた。

 タイムマシンには再生能力が備えられているようで、割れた所は時間とともに修復された。

 そんな事より、身を捩るのが一瞬でも遅れていたら、ババアの手刀を脳天からモロに食らうところだった。

 「ややや!桃の中から赤ん坊が!」

 ジジイは話を反らして桃を食べずに済ますつもりみたいだ。

 こんな訳のわからんモノ食いたくないわな。

 「この子はウチで育てよう!」とジジイ。

 「何でよ?」とババア。

 おいこら!

 つべこべ言わずに養え下さい!

 新生児が一人きりじゃ生きていけないんだから。

 「何でって・・・可愛いし・・・」としどろもどろになりながらジジイが言う。

 「玩具じゃねーんだ!

 家畜じゃねーんだ!

 『可愛いから』なんて理由で育てられる訳ねーだろーが!」とババア。

 ババア、正論言ってんじゃねー!

 思考停止して拾ったガキ、育てんかい!

 「儂らももう老い先短い。

 どうじゃろか?

 将来、面倒を見てくれる若者を育ててみんか?」

 ジジイ、良く言った!

 どうせ僕は未来に戻るし、お前らの『姥捨て山行き』の未来は変わらんがな!

 「ジジイがそこまで言うなら・・・」とババアが僕を育てる事を渋々了承する。


 「しかしばあ様、この桃はどこで拾ったんじゃ?」とジジイ。

 「儂が川で洗濯しとったら、この桃が『どんぶらこ、どんぶらこ』と流れて来たんじゃ」とババア。

 いくら僕が鈍くても、さすがにここで気付く。

 このババアが作った独特なオノマトペのせいで後世の日本人は「『どんぶらこ、どんぶらこ』って日本人の耳は腐ってるのか?」など海外で散々言われるのだ。

 これは日本人なら誰でも知ってる

 『むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんがいました。

 おじいさんは山に芝刈りに、おばあさんは川に洗濯に行きました』から始まる昔話と同じシチュエーションだ。


 「そうだ!この子は桃から産まれたから『桃太郎』という名前はどうじゃろか?」とジジイ。

 その理屈はおかしい!

 もしそんな理由で名前が決まるなら、この世は「子宮から産まれた『子宮太郎』」で埋めつくされるじゃねーか!

 「別にそれで良いんじゃね?」とババア。

 ババア、おいこら!

 興味ないからってテキトーに了承してるんじゃねー!

 ジジイの思いつきと、ババアの無関心のせいで僕の名前は『桃太郎』に決まった。

 全く・・・AV製作会社か!


 未来に帰るには桃太郎のシナリオを辿れば良いんだよな?

 つーかどこに鬼ヶ島ってあるんだよ?

 犬と猿と雉ってどうやって仲間にするんだよ?

 吉備団子って何だよ?


 僕は三歳になった。

 寄り道ばっかりしてるな。

 どうせ元の時代に戻ったら中学生なんだろ?

 何十年余分に過ごさせるつもり?


 「『鬼ヶ島』ってどこにあんの?」と自力で探るのには限界がある。

 だからジジイに直球で聞いてみた。

 「『鬼ヶ島』?

 何だそれは?

 『鬼ノ城』なら知っているが・・・」とジジイ。

 「『鬼ノ城』何それは?」と僕。

 「何でも、山に鬼が住み着いて、城を作って時々山から降りて来ては方々で暴れているらしい」とジジイ。

 しかし聞けば聞くほど鬼とオーガの特徴が似ている。

 鬼は硬くて刃物などの斬撃が効かない。

 金物などを叩き甲高い音を立てて鬼を追い払う。

 実は鬼はオーガの事なんじゃないか?

 しかし異世界のモンスターがどうやって昔の日本に住み着いたのか?

 わからない事だらけだ。

 まあ、一か八かやってみよう!

 六歳になった時に満を持して言ってみる。

 「ジジイ、ババア。

 僕は鬼退治に『鬼ノ城』へ行く」と。

 「何を藪から棒に言ってやがるんだ!

 お前は儂らの老後の世話をしてくれなきゃ困るんだ!

 こんなトコでくたばられたら今までかけた飯代その他諸々がかえってこなくなるじゃねーか!

 夢みるんじゃないよ!

 額に汗して働きな!」とババア。

 「うるせーババア!

 夢見て何が悪い?

 もし『鬼ノ城』に宝物庫があったらどうする?

 ガッポガッポで笑いが止まらんぞ!」

 ババアの動きが止まる。

 「『笑いが止まらん?』だと?

 頭付きのエビが食えるか?」とババア。

 「食える食える!

 茶碗蒸しに松茸が入れれる!」と僕。

 「よし!

 桃太郎!

 鬼退治に行ってこい!」とババア。

 ババアが食い物にがめつくて助かったぜ!


 いくつか課題がある。

 それは『お供』と『吉備団子』だ。

 どうやって『犬』と『猿』と『雉』を仲間にするんだよ?

 犬は飼ってれば懐くだろうけど、猿と雉はどうやって飼い慣らすんだよ?

 あとは『吉備団子』

 「おいババア!

 吉備団子をよこせ!」と僕。

 「それは何だい?

 知らないよ!

 それに儂は出せるモノは舌も出したくないんだ。

 儂から『食い物』をせしめようなんざ、100年早いんだよ!」

 「100年経ったらババアは死んでるじゃねえか!」

 「儂はあと500年生きるつもりだよ!」

 「この妖怪ババアが!」

 ババアと言い争いをしてても全然建設的じゃない。

 「どこにいるんだよ?

 犬、猿、雉」と呟く。

 すると『アイテムボックス』の中から『(フェンリル)』『(マヌハーン)』『(フェニックス)』が飛び出した。

 そういや『アイテムボックス』なんてモノがあった事をすっかり忘れていた。

 異世界だったらこの子らのエサなんていくらでも狩れるけど、日本に戻ってきてからは手持ちの肉団子をあげるしかない。

 肉団子の蓄えは沢山あるがそれも有限だ。

 だからテイムした子達には少し可哀想だが「呼ばれるまでアイテムボックスの中にいろ」と言っている。

 テイムされたモンスター達は、アイテムボックスの中にいる限りはお腹はすかないらしい。

 お腹はすかなくても暇は持て余しているだろう。

 こうやって、呼び出されるタイミングを今か今かと待っていたと考えると、たまらなく愛おしい。

 「しかしお前らも随分、可愛らしくなったなあ!」と。

 タイムマシンで赤ん坊に戻ったのは僕だけじゃない。

 三匹も赤ん坊に戻っている。

 それこそ『犬』『猿』『雉』と言われても抵抗がないくらいに。


 「『犬』『猿』『雉』って言ってもお前らじゃないんだよ」と僕は三匹に伝える。

 三匹は悲しそうな顔をして、トボトボと『アイテムボックス』に帰ろうとしている。

 「・・・別にこの子らでも良いか!」

 そうだ、元から『こういう子じゃなきゃダメ』なんて決まりはない。

 僕が『お供は犬、猿、雉の三匹じゃないと』と決めつけていただけだ。


 『吉備団子』もどんなモノだかわからない。

 だったら僕が『吉備団子』を作ろう。

 「僕が持ってる肉団子が『吉備団子』だ」

 以上、決めつけ終わり。

 「よし!お前ら!

 これから鬼退治だ!」と三匹に伝える。

 言葉が伝わってるかわからないのに何故か三匹は嬉しそうだ。


 ジジイが鬼退治の衣装を作ってくれた。

 悪くない。

 『ザッツ桃太郎』という衣装ではある。

 しかし頭を剃る事が前提の髪型はどうかね?

 ジジイ、そんな悲しそうな顔しないでくれよ。

 ジジイは『良かれ』と思って衣装を準備してくれたんだよな?

 ・・・わかったよ、剃るよ。

 剃れば良いんだろ、チクショウ!

 しかし僕がいた時代で頭のテッペンの毛がない人の事を『ハゲ』って言ってたんだぜ?

 「おお!桃太郎!

 良く似合うぞ!」とジジイ。

 うるせーカンチョーするぞ、クソジジイ!


 しかしこの格好で『(フェンリル)』『(マヌハーン)』『(フェニックス)』を連れて歩いてると何か歌いたくなってくるな。

 ♪メン、メン、メガネの良いメガネ~


 「ジジイ、ババア。

 じゃあ、鬼退治に行ってくるな」と僕。

 「気をつけて行ってくるんじゃぞ!」とジジイ。

 「・・・ふん、やっといなくなるのか。

 せいせいするわ!」とババア。

 コイツ、最後まで・・・。

 「これで最後になるかも知れないから言っておくわ。

 今までありがとう。

 二人とも身体に気をつけて、な」と僕。

 急にババアが僕を抱き締める。

 何だ、何だ?

 なにが起こったんだ?

 ババアがガバッと背中を見せて「早くどっかに行っちまいな!」と言う。

 ババアの声は弱々しく震えており、ババアの背中は年相応の『老婆』を感じさせる。


 本当の家族は元の家族にいる。

 養子に入った訳でもない。

 でもやっぱり『育ててもらった』という恩は何物も替えられない。

 鬼ノ城で宝物を手に入れて、ジジイとババアのところへ持って行こう。

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