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「では、さっそく行っちゃいましょうか」
「軽っ!」
「まぁそんなかたくならずに、王都に来てもらって上の人と話をしてもらうだけですから」
「あ、はい」
「強制捕縛権もあるので逆らわないほうが身の為ですよ」
「そっすか・・・・・・」
「では、外に馬を繋いであるので先に外で待ってますね、できるだけ早く外にきてくださいね」
そう言ってアズールは家を出る。
含みのある言い方である。まるで別れの挨拶を済ませろ、そう言うような。
現在家の中は梗汰とサイラの二人きりである。
(どしよ、めっさ声掛けづらい)
「コータさん・・・・・・」
「うっ、すまん。なんかちょっと王都行くことになっちゃった」
「帰ってくるんですか・・・・・・?」
「分からないけど、戻ってこれると思う・・・・・・多分」
目を潤ませてこっちを見てくるサイラ。とてつもなく”さよなら”が言い辛い。
(うぅ、その顔はずるいだろ・・・・・・今にも泣きそうじゃないか)
しばらく一緒に居るといった手前、こちらから切り出しづらい。
「そんな言葉信用できませんっ」
「そ、そんな・・・・・・」
(・・・・・・どうしろと)
「私もついていきます」
「・・・・・・え?」
「だって一緒に居る約束したじゃないですかっ」
「でも、それはアズールさんに聞かないと」
「問題ないですよ」
タイミングを見計らったかのようにドアが開き、外で待っているはずのアズールが再び家に入ってきた。
「軽っ!ってか外で待ってるんじゃねーのかよ!」
「いえー、どんな話をしてるのか気になってずっと盗み聞きしていました。」
「おまっ、なんて悪趣味な。つかそういうことは本人の前で言うなよ!」
「まあいいじゃないですか、では、馬は1頭しかいないのでお嬢さんが乗って下さいね。私とコータ君は歩いていきましょうか」
「王都までどれくらい歩くんですか?」
「そうですねぇ、昨日のお昼頃に反応を感知して、捜索隊として派遣されたのがそれからすぐでしたね、それからすぐに馬をとばしてこの付近の村にくるのが半日くらいで、その村からここまでが馬で半刻くらいでしたので、ここから王都までは歩きだと二日くらいですかね」
「結構歩くんだな」
「そうですねっ」
サイラはさっきとうってかわって、もうすでに笑顔になっている。
「私、王都に行くの初めてです!どんなところなんですか?」
「そうですねぇ、とても活気がありますね。色々な国と貿易をしているので、特産品のお店なんかも結構ありますよ」
(こいつ等、もうすっかり旅気分ですか。さっきまで真剣に腹の探りあいをしてたのが馬鹿みたいだな、でも怖い感じの人じゃなくてよかった。かな?)
用意を終えたサイラはさっそく馬に乗る。
元々あまり物を持っていないサイラの旅支度に時間はかからなかった。
「では、行きましょうか」
「はい!」
「うーす」
★
さて、現在はアズールとサイラの三人で王都までの道中。
「そうなんですよー、コータさんったら精霊術のしすぎで倒れちゃったんですよ」
「へぇ、コータ君は精霊術師なんですか」
「まったく心配するほうの身になってほしいです。アズールさんもそう思いますよね?」
「そうですねぇ、サイラさんみたいな可愛らしいお嬢さんに心配されるなんて羨ましい限りです」
「またまたぁ、アズールさんはお上手なんだから」
サイラとアズールは家を出発してからずーっと話をしている。どうやらすっかり打ち解けたようだ。もうすっかり名前で呼び合っている。
なんつーか・・・・・・寂しい。よし、ここはオレも会話に参加だ。
丁度知りたいこともあるしね。
「そういえば、王都には精霊術師はいるんですか?」
「数は少ないですが王宮にも何人か居ますね。」
「おぉー、是非会ってみたいな」
「まぁ会う機会があるとしても、上の人との話が終わってからですね」
「ですよねー」
その”上の人”というのがとても気になる。
「まぁとりあえず、王都に着いたら話の前にその服は着替えてもらいますよ」
「え、なんで?」
「ずいぶんと珍しい服を着ているようですが、これから会ってもらうのは地位の高い人なので、きちんとした礼服でね」
郷に入れば郷に従えってことか。
「了解した。だけど礼服とか持ってないよ?」
「はいはい、こちらで用意しますよ。」
「よろしくねー」
(地位の高い人、ねぇ。どんな人なんだろうなぁ。オレの世界で言う警察の本部長とかかな?)
「コータ君はどの程度精霊術を扱えるのですか?」
「ぁー、全然まだまだって感じですよ。地面を操作する程度ですね、後は土いじりとか」
「なるほど、地属性の血縁なわけですね。」
(実際は違うんだけど、めんどいし訂正しなくていいか)
「まぁ、そのようなもんです」
「ちょっと見せてもらっていいですかな」
「いいですよ」
梗汰はその場で立ち止まり目を閉じて集中する。
すると、ゴゴゴゴゴ、っという音と共に。
道の脇の土が急速に盛り上がり1m位の壁が出来た。
「ふぅ、こんな感じです」
「これはこれは・・・・・・」
「どうかしましたか?」
「いえ、ずいぶんと荒い造りだな、と」
「うっせぇ!初心者なんだよっ」
あれ、おかしいな涙が出そう。
「どうやらそのようですね。私には精霊は感知できませんが、術の制御が甘いことは分かります」
そういって壁をやや強く叩く。
壁の表面の土がボロボロと剥がれ落ちた。
「頑張ってくださいねコータさん!」
「はいはい、頑張りますよーっよ」
★
そして夜。
大体七時間ほど歩いたかな?梗汰は腕時計で時間を確認する。
梗汰達がサイラの家を出発したのが時計で確認したらニ時頃だった。そして現在は十時過ぎ。途中の休憩の時間を入れると大体そんなもんか。
梗汰達は道の脇に寄った木が数本生えている場所で寝るととなった。
「では、コータ君お願いしますね」
「?お願いしますって何を?」
「盗賊や獣などに襲われては堪らないので、私達の周囲を壁で囲ってください、できれば素材は石で、土じゃ脆いので」
「ずいぶんさらっと言いますね。んじゃ、集中するんで話しかけないでね」
「コータさん、でもまた鼻血が出ちゃうんじゃ・・・・・・」
「・・・・・・大丈夫、多分。」
そう言って梗汰は、しゃがみこみ地面に手をつける。
そして集中するように目を閉じた。
(地の精霊を感じる。後は術の構成を・・・ちょっと大き目の壁を造ってね、っと!)
っん!力を込めるように唸る。
ゴガン!ガガガガガガッと辺りに地を削るような音が響く。
地を軽く揺らすようにして梗汰達の四方周囲10m位の地面から、高さ8m位厚さ30cm前後の巨大な壁が生えた。それを補うようにして、お互いがお互いを支えあうような細かい支柱も生えてる。これならば地震が起きない限りしばらくは保つだろう。
「なかなか上出来ですね」
そういいながら壁を叩く。
「どうだ、オレだってなかなかやるもんだ・・・・・・ろ」バタン。
梗汰がそう言い終えると、地面に額を打ち付けるようにして倒れた。
「あぁっ、梗汰さん・・・・・・やっぱり」
「ふむ、彼はまだ精霊術に慣れていないようですね。初心者というのもあながち嘘じゃないようだ」
倒れた梗汰をアズールが毛布を敷いた場所まで引っ張り寝かせる。
そしてその上にサイラが毛布を掛けた。
「おやすみなさい、梗汰さん」
そう言うと、サイラは梗汰の隣に毛布を敷いて、自分の頭から毛布を被るようにして眠るのだった。
馬に乗っていたとはいえ、長時間の移動に慣れていないサイラはすっかり疲れていたのか。毛布を被ってしばらくすると寝息が聞こえてきた。
「おやおや、私へのおやすみは無しですか」
まぁいいですけどね、と少し寂しそうな声と共に、梗汰達から少し離れた木に背を預け、毛布を被り一人眠りにつくアズールだった。
ファンタジー的な展開はもうちょっと後かな!