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気が付くと梗汰はベッドの中にいた。サイラが普段使っているベッドだ。
「うぅ・・・・・・ん、ぁー疲れた」
「無事でよかったです。というか、起きていきなり疲れたとかどういうことですか・・・・・・」
「なんか少し体がだるくてね」
「なにか体に違和感とかあります?」
「うーん、言われてみるとなんか爪先のほうがちょっと痛いかも、感じるのはそれだけかな」
「っそ、それは多分大丈夫なやつです!他にないなら平気ですね!」
「そ、そうか」
サイラの剣幕におされるようにして梗汰は大人しく引き下がる。
サイラが倒れた梗汰を運ぶとき、盛大に足を引きずって担いでいった。その時に傷でもできたのかもしれない。
頭は寝起きにしてはすっきりしていた、自分が倒れる前のことも思い出せる。
手の甲についていた血の跡がない、サイラが拭取ってくれたのだろう。
しかし、今の梗汰には他にもっと気になることがあった。
「ところで、あちらさんはどちらさん?」
そう言って梗汰は顔を向ける。その先には見知らぬ人立っていた。
外見から判断すると20歳過ぎ程度だろうか、明るい色をした金色の髪、すらっとした体に長い足、それは、ややツリ目気味の青い瞳、そして金属で作られている胸当のようなものを着けている。それには獅子の様な生き物の金の模様が入っていた。
おそらく着ているものからしても一般人ではないだろう。
そのような人がなぜここに居るのか、梗汰は少し警戒した。
そんな梗汰にサイラは小声で話しかける。
「コータさんが気付くちょっと前くらいに尋ねてきました。話をちょこっと聞いた感じコータさんが目的だと思うんですが、知り合いなんていつの間にできたんですか?」
「あほかっ、オレに知り合いが居るわけないだろ」
「す、すみません。そうですよねっ」
と、思わずベッドの隣に立っているサイラに突っ込みをいれる。世界を渡ってきた梗汰に最初に会った人がサイラなのに、他に知っている人が居るはずがない。
サイラの言葉にその見知らぬ人がピクリと反応したように梗汰は感じた。
「お話中ちょっといいかな」
そう言うと、その人は梗汰の寝ているベッドの手前まで近づき話を続ける。
「ちょっとこの森周辺ので異変らしきものの反応があったらしくてね、それについて情報を集めるために、私と仲間が周囲に住んでいる人達に色々聞いてまわっているんだ。そこでちょっと君にも話を聞きたくてね」
「へぇ、そうなんですか」
「うん、そうなんだ」
「どんな異変があったんですか?」
「先ほどそこのお嬢さんにも言ったのだけれど、ここ国の機関が国中に配置している探知魔法の一つが、この森周辺に大規模な魔法の反応を感知してね」
正確な位置までは分からなかったんだけどね、とひょうひょうとした様子で付け加えた。
梗汰は嫌な汗が背中を伝うのを感じた。
(やば、こういうの全く警戒してなかった。そりゃちゃんとした国があればこういうシステムもあるよな・・・・・・すぐにここを離れるべきだったか?この場合の最悪の事態はなんだ、逮捕か?発見され次第殺害?それだけは避けたいところだ・・・昨日の今日で既に人を派遣して公に探っているなら何かあるはずだ、まずは目的を聞き出す!)
梗汰は心の中で急速に思考を展開する。
現在この人は異変の元凶たる”何か”を探しているのであって、今は梗汰のことを目的として探しているわけではない、と梗汰は結論付けた。
だが、サイラがオレを尋ねてきたと言っていたことはおそらく正しい、梗汰の事情を知れば梗汰が自分等の探しているものだと気付くだろう。
「それで、その異変とやらを起こした誰かを探しているんですか?」
「そそ、そうなんだけど。私は異変らしきものがとは言ったけど、誰かが起こしたものとは言ってないんだよね。どうやら君は何かを知っているみたいだね」
「っつ」
(まずった、いきなりコケるとは、やっちまった・・・・・・馬鹿かオレは。抑えろ、こっちの焦りを悟られるな)
いきなりぼろを出して軽く自己嫌悪に陥った梗汰は、平静を装うようにして必死にリカバリー作業に入る。
「あ、いえ。昨日怪しい人が森からすごい勢いで飛び出てくるのを見て、もしかしたらそれかなと」
「なるほど。ところで、先ほどそこのお嬢さんに聞いたのですが、コータくん。でしたっけ?」
「あ、はい」
「君は昨日、森の中でそこのお嬢さんに発見されたらしいですね」
「!!」
サイラが、あっ、と口をおさえる。
一応梗汰の事情は内緒して欲しいと朝の話し合いの中で頼んでおいたのだが、うっかり洩らしてしまったのかもしれない。
(詰んだか・・・・・・?)
今のは決定的だった。今のサイラの反応が、自分がこの人達が探っている異変に無関係でないということを物語っている。
もはや目的を聞き出すというのは無理な状況だ。
(っく、かなり辛いが別の路線に切り替えるか)
「いやー、実はですね。昨日まではこことは別の場所にいたのですが、そこで出会った怪しい人に飛ばされてしまってね、おそらく何らかの魔法だと思うのですが。そんな状況に陥ったのが恥ずかしくて隠していんですよー。」
できるだけ軽い感じで答える、自分を飛ばした相手は人ではないが、一応嘘は言っていない。
「なるほど」
だがしかし、梗汰は今の言葉で逃げ道を失ってしてしまった。無関係を装うなら森で寝てましたとでも、散歩してましたとでも言えばよかったのだ。今の言葉が梗汰が事の当事者であると伝えてしまったのだ。
「確かに貴方が言うように、解析結果は転移系でした。偶然の一致ですね、まぁそれはいいです。ただ、ね、その規模が尋常じゃないんですよ。先ほども言いましたが王都が配置してある探知魔法にかかるほどの規模なんですよ。それに転移魔法はそれ自体驚愕に値するものなんですよ?」
おそらくこの人の言う探知にかかった転移魔法というのは、地の大精霊によるもののこと、梗汰をあの場所からここの森へ送ったときに発動されたものに違いない。その余波が探知にかかったのだろう。
「貴方が転移魔法を使えるとは思えませんが、私が判断することではないですね。それに誰か他の人に転移魔法をかけられたとしてもその相手の探索も必要になりますね」
ここまで言うと、その人は目を細めて更に告げる。
「私と一緒に王都までついてきてもらいましょうか。因みに拒否権はありませんよ」
あぁ、とそこで一息つく。
「そういえば私の名前を言っていませんでしたね、私の名前はアズール=ミラー、王国の騎士団に所属する者です」
(あぁ、オレには腹の探り合いなんて無理だな・・・・・・)
梗汰は心からそう思った。