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大地の系譜  作者: Melon
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「っ! なんでオレが渡り人だと!」


 渡り人と言い当てられた梗汰は、盛大にうろたえてしまう。

 アメリアが梗汰の情報を流したときも、渡り人であるということは隠していた。なぜなら、それは今日この後に発表されるはずだからだ。

 まだ一般には知られていないはずの事実、それをなぜコイツは知っている。


「お、やっぱり渡り人だったのか。

 今回は出現した時の反応が違って聞いてたからな。もしかしたら違う影響下の奴かもしんねぇって話だったが、どうやらアタリだったみたいだな」

「んなっ」


 やられた・・・・・・、完全に相手に言葉を引き出された。


 そいつは、暗闇の中で嬉しそうに顔を歪め笑った。

 漆黒のコートを帯びているその姿は、まるで闇そのものだ。背は梗汰より大きくガタイも遥かによく、まるでヘビー級のボクサーのようだった。


(やっちまった・・・・・・)


 さっきの梗汰の反応で、梗汰は自分自ら渡り人であると、相手の目的が自分であることを明かしてしまったのだ。

 自分の直情さがつくづく嫌になる・・・・・・。


 厳密には、梗汰は一度大精霊の元へ飛ばされてから、大精霊により再び転移されている。

それが探査にかかったのだろう。確かアズールも似たようなことを言っていた気がする。


 だが、今ので分かったこともある。と言っても、現時点で自分が確実に相手の標的になったという事、という情けないものだが。

 これから一体何をするつもりなのかが分かればいいのだが・・・・・・。

 相手が素直に言うとは思えないが、


「オレをどうするつもりだ!」


 梗汰は相手を威嚇するように睨み付け言い放つ。


「くっくっく、そうがなるなよ。まぁそれくらいなら特に言っても問題ねーしな。

 こっちの目的はなぁ。反応元が渡り人だった場合は、その強制力の確認・・・・・・と。まぁこっちは可能な限りなんだが、生きたままの確保だな。

 だから、これからお前と・・・・・・」


 梗汰は相手が言い終える前に動いた。


(こいつは危険だ)


 梗汰は全力での足止めを開始する。相手の周囲の地面を隆起させ、対象を飲み込む。おまけにその場を鉄の格子で取り囲んだ。

 そのまま踵を返し、この場からの逃走をはかる。


(三十六計逃げるに如かず! 到底オレが敵う相手じゃない・・・・・・。戦闘なんて有り得ない、つーか死ぬわ! 逃げろにげろおおおお!)


 わき目も振らず駆け出そうとするが、ドゴォ!! とまるで爆弾でも投下されたかのような衝撃が、梗汰の足を止めた。

 その衝撃に、思わず振り返ってしまう。

 ついさっき、梗汰が仕掛けた攻撃は、


(なん・・・・・・だと)



 爆心地の地面はめくりあがり、さっき発生させたばかりの格子ごと梗汰の攻撃は吹き飛ばされたのだ。

 梗汰はその光景に釘付けになってしまう。足がすくんで思うように動かない。


(足止めにもならないのか・・・・・・!? つーか、なんでオレがこんな目に!)


 そこで唐突に、過去の瞳の言葉が頭をよぎった。




"「このまま生きていても、あなたは闘争に巻き込まれないかもしれない。でも、巻き込まれるかもしれない。その時に”あの時やっておけばよかった”なんて思っても手遅れなのよ。ましてや、あなたは精霊術師、力ある者は何時いつか、何処どこかで、必ずその機会が訪れるわ」"


 今がその時だと言うのだろうか。





 ザッ・・・・・・ザッ・・・・・・。


 足音が聞こえた。


 一歩一歩梗汰へと近づいてくる足音が、梗汰の意識を引き戻す。


 そいつは大気中に広がった砂埃の中を、梗汰に向かって突き進んできている。

 地面を踏みしめる足音が、嫌に響くように感じた。


「おいおいアブネーな。ここでお前に逃げられたら、わざわざ遠くから来た意味ないだろ。

 んー、地面を弄るのがお前の"強制力"なのか? もちろん今ので終わりじゃないんだろ? もっと見せてくれよ。お前に備わった強制力を」


(な、なんだ? 精霊術のことを言っているのか・・・・・・?)


 その言葉が妙に引っかかる。

 "強制力" その言葉にまったく聞き覚えがない。

 いや、それについての知識は備わっているが、それと自分に何の関係があるのかが分からない、そう言うべきか。


(強制力・・・・・・・・・・・・、世界に干渉する個体能力のことか。

 しっかしこの調子だと、『そんなもん持ってねーよ!』とか言っても信じてくれないんだろうな・・・・・・)


「力を見るにはやっぱこれしかないよな。

 戦ってもらうぜ、無理やりにでもな。

 まぁ、そっちが戦う意思を見せないなら、こっちが一方的に殴らせてもらうだけだが」


 そいつは目を見開いて、にやりとわらう。


 それに思わず、梗汰の口から「っひ」という小さな悲鳴が漏れた。

 急に、そいつから強烈な圧迫感を感じたのだ。

 まるでとても狭い場所に無理矢理体を詰め込まれたような本能的恐怖。あたりの闇が自分に押し寄せてくるようにさえ感じる。

 自分の本能が訴えてくる、"今すぐここから逃げろ"、と。だが、梗汰は萎縮してしまって、足が言う事を聞かない。

 完全に気圧されてしまった。

 まるで自分の意思まで闇に呑まれている様だ。マイナスのイメージしか湧いてこない・・・・・・。


(だめだ・・・・・・。このままじゃ確実にやられる・・・・・・。 いや、・・・・・・シぬ?)


「・・・・・・ぅ」


「ん? なんだ? 何かやるのか?」


「うわあああああああああ!!」


 気合を入れ闘争意識を高めるための叫びでも、自分を鼓舞するための叫びでもない。

 ただ怖かった。

 溢れ出す恐怖心を抑えられなかった。

 そして遂に、臨界点を越えた恐怖が意識境界を侵し梗汰の精神を塗りつぶしたのだ。


 梗汰の絶叫と同時に地面から多量の繊維が噴出。それが瞬時に乱雑に梗汰に絡みつき、そしてそれを黒が覆い尽くした。


 全身を覆う滑らかな漆黒に、腰の辺りから突き出しす尻尾を持つ姿。

 これが梗汰の身を守る装甲であり、今の梗汰にとっての心の防波堤でもある。


「おぉ、それがお前の戦闘形態なのか。なかなかイインじゃねーか?」


 相手の言葉をかき消すように、梗汰は咆哮した。


「ああああああああああ!!」


 梗汰と相手の周囲に、何本もの柱が地面から突き出した。だが、相手は大した手間でもないという風に悠々とそれを避けた。

 梗汰は柱を避ける相手を目で捉えながら両足に力を込め、まるで爆発するように跳んだ。ドンッ!! と地面を踏み砕くその脚力で、一気に相手との距離を詰めにかかる。

 お互いの距離は10m程度。梗汰はその距離を三歩で詰めた。

 しかし相手はその場から動こうとしない。

 梗汰は拳を握りしめ相手に向かって襲い掛かった。


「その領域は我に "影駆エイク"」


 梗汰の拳が着弾する直前、その姿が掻き消えた。いや、梗汰にはそう見えた。

 そして、それとほぼ同時に感じる後頭部への衝撃。

 梗汰は背後からの衝撃に自らの勢いも相まって、自分が跳んだ以上の速度で地面につっこんだ。その衝撃で梗汰が着弾した地面は砕け、地表にその跡を残した。

 梗汰はすぐさま立ち上がり、同時に後頭部に手を当て状態を確認する。

 痛みは無いが、


「っつ」


 後頭部を覆う膜が吹き飛び、その下になった繊維が剥き出しになっていた。

 痛みを感じなかったのは、何重にも巻きついたケブラーが衝撃の吸収に成功したからだろう。

 梗汰は即座に表面の修復を開始する。


「ほー、今のがまったく効いてないのか。つーか硬ェな、手が痛ェ。

 ふーむ、今度はちょっと強めの、いくぜ」


 梗汰は慌てて飛び起き、再び突撃しようとするが。その時には、既に相手の指が宙を走り終えていた。


「突き通せ "影弩エイド"」


 あたり一面を包んでいる夜の闇の一部が、梗汰の目の前で歪んだ。


「!!」


 梗汰は跳ね飛ぶようにしてその場を離れる。

 直後、夜の闇より更に濃い黒が、ついさっきまで梗汰が居た場所を音もなく通過した。飛来する弾丸は黒く闇に溶け、視認することは困難を極める。

 梗汰は飛来する何かが見えたわけではない、何かが自分にせまってくるのを感じたのだ。飛来物は周囲の闇とほぼ同化し、梗汰は捉えることは出来なかった。


「後に続く一手 "暗手アンテ"」


 相手は何かを発動させたようだが、何も発生しなかった。


「・・・・・・?」


 特に異変は感じない、今のはハッタリなのかもしれない。


「よォし」


 相手は梗汰へと直進し、再び拳を振るった。

 高速の左右の連打が、防ぐ間も無く腹部へと突き刺さる。その衝撃で体が僅かに浮いた。


(・・・・・・ッ)


 見えているのに、体が反応できない。

 梗汰は続けざまの攻撃を覚悟し、装甲の修復に全力をあてる。

 今の攻撃で既に腹部の装甲には亀裂が生じていたが、それは、その攻撃はこの装甲で防げると言う事に他ならない。


 「"影突(エイトツ)"」


 ゾンッ!!


 突如梗汰の足元に魔法陣が出現し、それが漆黒の槍を吐き出した。

 咄嗟とっさにからだをひねる。

 槍は一歩手前で修復が完了した装甲にぶち当たり、梗汰の装甲を大きく削り飛ばした。

 だが、かろうじで直撃は避けることができた。その攻撃は滑らかな表面に弾かれ、梗汰の左右へと逸れていったのだ。


 ブチブチと繊維が引き千切れるような音が聞こえた。


(マズッ、修復・・・・・・)


 そこに更に連打が梗汰へと襲い掛かった。


「"暗冥(アメ)"」


 地面から無数に発生した黒い粒が、梗汰の全身をしたたかに打った。粒の着弾と同時に石が砕けるような音がし、装甲の罅が全身に広がった。

 まるで地面から降る雨だ。その衝撃が梗汰を更に上空へと押し上げる。無数の粒がゴリゴリと装甲を削り取っていく。


「やっぱ硬てぇな。 "淵鎖(エンサ)"」


 その瞬間、何も無い地面に変化が起こった。梗汰の真下の闇が渦巻き、4本の針となって梗汰の四肢に突き刺さる。だが、梗汰は痛みも衝撃も感じなかった。絡みついたと言うべきか。四肢に絡みついた闇は手足を覆い、梗汰を空中へと固定した。


(!!)


 地面から伸びたトゲは、その体積を増し柱となった。それ自体が意思を持っているかのように梗汰の四肢を締め上げ離さない。

 全力で体を動かすが、僅かに揺れる程度にしか反応を示さない。


「その装甲、剥がさせてもらうぜ」


 柱から伸びた闇が、梗汰の体を伝い装甲の隙間から浸入すると、鉄板をへし折るような音を発しながら装甲を引き剥がした。


「中はこんなんなってるのか、この紐も邪魔だな」


 そう喋っている間にも闇は動き続けた。サー、っと軽く線を引くように闇が繊維の隙間を縫うように走っていた。

 バサッ、と梗汰の全身を覆う家ブラーが切り裂かれ、闇の中に生身の体が晒された。


「へぇ、よく見ると髪の毛の色はアイツと同じ黒なのか」


 動けない梗汰に無遠慮に顔を近づけてくる。

 そして梗汰の頭を掴み、


「つーか真面目に戦ったのか? 戦闘技能は備わっているんだろう? 手加減のつもりか?」


 そう言いながら至近距離から目を合わせてくる。


(なに・・・・・・? "備わっている"だって・・・・・・?)


「あぁ? 戦闘技能? んなの持ってねーよ! こちとら一般庶民だぞ!」


 梗汰の言う事は至極当然のことだ。自分にそんなものが無いことは自分が一番分かっている。しかし、そんな精一杯の強がりをするも、梗汰の声は震えていた。


「へぇ、つーことはお前は"まだ"なのか?

 世界の記憶との繋がりが浅いんかね?

 お前なぁ、記憶の欠片っつっても一応世界の記憶だからな、持ってるだけじゃ意味はねーんだぞ? もったいねぇ。

 ま、いいけどな。これで終わりなら、持って帰って任務終了なだけだ」


 梗汰の言葉は相手にとって意外だったようだ。



(なんだ・・・・・・? オレには確かに今までに戦ったことなんて喧嘩くらいしか・・・・・・。繋がりが浅い? 記憶は持っているだけじゃダメってことか? 浅い? つまりもっと深く?)


 しかし、今それを考えたところで、現在の梗汰に次の手は無いことには変わりない。 ―― 詰みだ。

 梗汰は、だらん、と脱力してがっくりとうなだれた。

 それ見て相手は僅かに肩の力を抜いた。


「諦めたのか? まぁその方がこっちもやりやすいが」


 既に現状を諦めたものと思い、行動を次の段階へと移す。

 梗汰の周囲に巨大な陣が完成されようとしていた。恐らくは、それが発動すると梗汰は戦闘不能になるだろう。その完成は間近にまで迫っている。


(まだ始まったばかりなのに・・・・・・)


 圧倒的な理不尽により異世界へと飛ばされた梗汰。それを乗り越え、やっと始まったガルダンここでの新しい生活。気の置ける知り合いもでき、可愛い妹のような存在もできた。なのに、それがまた別の理不尽によって奪われようとしている。

 自分では何も出来ずに、こっちの意思は完全に、圧倒的に無視される。

 それが弱者の運命。

 それが梗汰の運命なのだろうか。

  

(くっそぉ・・・・・・)


 梗汰は自分に襲い掛かるであろう衝撃に身を強張らせた。

 

 だが、梗汰を襲ったのは、身を裂くような一撃ではなく、強烈な光だった。


 闇の中なのに、いや、闇の中だからこそ、その光はより強烈に梗汰の目に突き刺さった。目を閉じていたのにも関わらず、だ。思わず目をきつく結んでしまうほどの光。

 そしてその光から数瞬遅れて、大気を破裂させたような轟音が梗汰の耳を震わせた。


「な、なんだ!?」


 これが相手の攻撃なのだろうか。

 その強烈な爆音と光が、梗汰の意識を現実へと連れ出した。

 爆音の所為か耳の中がジンジンと痛み、まぶたの裏側には強烈なオレンジが焼きついている。

 だが、それだけだった。体に異常は感じない。

 梗汰はうっすらと目を開けた。その時、まるで最初から何も無かったかのように梗汰を拘束していた影が宙に溶け、それによって支えられていた梗汰は地面に叩きつけられた。


「うぐっ」


 梗汰はすぐさま立ち上がり、続く攻撃を警戒するが、

 相手は・・・・・・

 梗汰の予想に反し、地面に膝を着き脇腹をおさえていた。


 その前方では、まるで強力な熱によって溶かされたかのように、地面がねっとりと液状に溶け出し、底が見えないほどの穴を地に穿っていた。


「ガ、ハァ・・・・・・。狙撃かよ・・・・・・やっれくれるぜ・・・・・・、くそッ、障壁が吹き飛んじまった」


 口から血を吐き、息も絶え絶えな様子だ。


(狙撃・・・・・・? そんなのは知らない・・・・・・だが、この状況は)


「・・・・・・好都合」

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