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大地の系譜  作者: Melon
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インディグネイションよりグランドダッシャーのが好きです。

 朝、ガルダン周辺。


 抜けるような青空の下、ガルダンを遠くから眺める者が居た。


「おーおー、随分と巨大な城壁なこった」


 その視線は、街を取り囲む城壁に注がれている。

 そしてしばらくすると、その視線を門へと移した。


「ふむ」


 まだ人は少ないが、それでもポツリポツリとガルダンへと入って行く人が見える。まだ朝という事もあり、それほどの人は居ないようだ。


「さーて、ひと仕事やってくるとするか」


 門に向かって歩みを進める。








 今日は国成記念日。


 今日はガルダンだけでなく、ルクセビア国内外の地域や国から招かれた様々な来賓や見物客などが大勢訪れる。

 国成記念日は一般客にとってお祭りの様なものであり、それを目的とする見物客が沢山訪れるのである。

 普段から賑やかなガルダンだが、今日だけはいつも以上の賑わいを見せる。

 完全に整備された路上に展開される数多くの露店や出店が歩く人の心を奪い、祭り特有の雰囲気とあいまって、集まった見物客の購買心を煽り、多くの人が街にお金を落として行くのだ。


 そして、今日の目玉は、なんと言っても夜に行われる花火。 ―― ガルダンで一番高い塔から打ち上げられる、夜空を彩る様々な術式である。

 ガルダンに召抱えられている術師が、それぞれの所属している流派の術式で構築された術を夜空に披露するのだ。

 それは、最新の理論を用いて作られたものや、とてつもない技量を持っていないと再現できないようなのまであり、それを見るためにわざわざ遠方から足を運ぶ人がいるほどである。

 それほどまでに、今日はガルダンの人にとっても他国の人にとっても、特別な日なのである。




 アメリアの私室。


「今日の夜に舞踏会がある。そこには各国の富裕層やお偉い方も大勢訪れる」


 朝からアメリアの私室に呼び出された梗汰は、有無を言わさず今日の予定を聞かされ続けている。

 だが、アメリアの今日の予定を言われても、梗汰に関係することはまったくなくて・・・・・・。

 梗汰はそんなことがあるのかと、「へ~」とてきとーに相槌あいづちを打っていたが。どれだけ聞けども、自分がなんの為に呼び出されたかまったく分からない。


「というか、それはオレに関係があるのか? なんだかオレには縁遠い場って感じがするんだが。警備でもしろってか?」


 その言葉にアメリアは口角を吊り上げて笑みを作った。その笑顔からは嫌な予感しかしない。


「お前もそれに参加するんだよ」

「は?」

「今日の舞踏会にはお前への招待枠も用意されている。と言うかオレが用意した。安心しろ」

「はぁ!?」


 急な展開についていけず、言葉に詰まる梗汰。急にそんなことを言われても、一体何を安心しろと言うのか。


「・・・・・・聞きたいことは山ほどあるが、とりあえずなんで今日になってそれを教えたんだよっ!?」


 しかもなんで当日に・・・・・・、これはおかしい。こういうものは事前に伝えられて然るべきだ。

 梗汰は抗議の意味も込めてアメリアを軽く睨んだ。


「それはお前、お前のその反応を見たかったからだ。まあ、それだけではないのだがな。

 それにしても、お前の反応はおおかた想像通りだな」

「・・・・・・は? はぁあああ?」


 軽く言うアメリアに梗汰は詰め寄った。


「舞踏会開始前の夕方には王宮へ来いよな。それと、舞踏会用の礼服を用意しておけよ? よし、俺が伝えたかったことは以上だ。帰って良いぞ」


 それに対して梗汰は「ちょ・・・・・・!」と話を続けようとするが。アメリアの方は自分から話すことはもう終わったと言った感じで、梗汰との会話をシャットダウン、既に手元の資料に目を向けている。


 アメリアからの話は終わりかもしれないが、梗汰には質問したいことが山ほどある。これで帰れと言われても困る。梗汰はなんとか話を続けようと、アメリアに抗議する。

 だがアメリアは、そんな梗汰に面倒くさそうに視線を向けて。


「あーあーうるさい。俺は今日の予定の調整とかがあって忙しいんだ。さっさと帰れ」

「うぐ・・・・・・。なら、オレ参加しねー・・・・・・」

「あと、舞踏会不参加とかになったら精霊術師の面子を潰すことになるからやめておけ。参加出来ない奴が居ることを忘れるな。

 なによりお前の不参加は俺が許さん」


 執拗しつように梗汰の参加を強要するアメリアは、まるで梗汰が舞踏会に参加することで発生する何かを予想しているかの様に言う。いや、ただの悪ふざけなのかもしれないが。というかその可能性のほうが高い気がする。

 でも、梗汰にはそんなことはどうでもいいことだ。どっちにしろ迷惑なのには変らないのだから・・・・・・。

 梗汰は諦めたように、大きくため息をついた。


「・・・・・・そーっすか」

「そうだ。くれぐれも遅れるなよ、返事はどうした?」

「・・・・・・っ、分かりましたよッ!」


 それを聞くと、アメリアは嬉しそうに、再び豪快な笑みを作った。


「それでいい」


 逆に梗汰は、情けない自分とあまりにも強引なアメリアに、がっくりと肩を落とした。








 街には前日に用意された出店の骨組みを組み立てている人や、早くに到着した見物客などが、混雑と言うほどではない程度に道を占領していた。その人たちの賑やかな話し声が周囲に充満している。


「おーおー、随分と沢山人がいるこった。こりゃあ見つけるのがちょい骨だな」


(恐らくは王宮付近か兵舎に居ると思うんだが、自分で近づくのは得策じゃねーな。

 何か丁度いいのは・・・・・・っと)


 何か良いアイデアはないかと周囲を見回す。

 と、そこで、


「お、ありゃあ・・・・・・」


 ユニコルに引かれ、街中をゆっくりと進む馬車が視界に入った。

 あの方向には王宮への来客用の馬車小屋があったはずだ。目的地がそこであるなら、それはあの馬車の主が最低でも舞踏会に招待されるほどの者だということだ。

 そして、一般人ではユニコルを入手することなど到底無理なはずだ。馬車の主を貴族もしくはそれに近しい者として断定して問題ないだろう。


(こいつは丁度いい)


 すぐさま馬車のルートを先回りし、その馬車からある程度先に位置する路地裏へと入る。


 路地裏に入ると、周囲に自分を見ている人が居ないことを確認し・・・・・・。宙に向かって手を伸ばしたかと思うと、その指を高速で動かし始めた。

 その指先はかすかに光を放っていて。

 その高速で動く指の軌跡が、宙に光の跡を残している。それは複雑な線をえがき、瞬く間に一つの模様を作り上げた。

 魔方陣だ。


ひそめ、 影彙エイ


 その言葉に反応し、宙に浮かぶ模様が一瞬輝いたかと思うと、そこから黒い液体が滲み出し、複数の雫となって地面に堕ちた。

 いや、正確には地面にできている影に、だ。

 それは路地裏に満ちている影に落ちると、そこを中心に路地裏の影に小さな波紋を作った。

 そして最後の一雫が落ちると、ちゃぽーんと音を立てるように鞭の様なものが影から跳ねた。


 そして、うっすらと光を放っていた魔方陣は消えた。


「あとは・・・・・・」


 そして何かを探すように周囲を見回す。

 

「よし」


 すぐ近くに落ちていた陶器の欠片の様なゴミを拾い、それを手に持つと、


「太陽は・・・・・・、あっちか」


 路地裏から顔を出し、太陽と馬車をちらりと見る。

 そして馬車が路地裏の手前まで来ていることを確認すると。

 手に持ったゴミを馬車をまたぐように道路の向こう側へと投げる。路地裏の影から飛び出たそれは、緩やかな弧を描き向こう側の建物に落ちた。

 ただそれだけ。それは傍から見れば、ただの悪ふざけでゴミを投げと思われることだろう。


 ただ、投げられたゴミが地面に映す影の軌跡は、先へ向かう馬車の影と交わった。

 それを見ていた人も、それの意味を知っている人もこの場には居なかった。

 それをおこなった本人だけが、その意味を知っている。


 そして、それを見届けると、もうその場には用はないというようにその場から背を向け、人ごみに向かって歩き出した。


(波長は分かっている。後は、まぁ何とかなるだろ。とりあえず、これで夜まではやることはねーな)


「よォーし、夜まではこっちも祭りを楽しませて貰おうかね。

 別に今日中に見つけなきゃいけないわけじゃねぇんだ。見つかんなかったらまたやりゃあいい」


 完成しつつある屋台を眺め、にやりと笑う。

 そしてそのまま人ごみへと紛れ、その姿はすぐに見えなくなった。








 梗汰は悩んでいた。


「つーか、今日いきなり礼服を買えとか言われても・・・・・・。はぁ、考えるだけでめんどいな・・・・・・」


 色々と急すぎて何も質問も出来ず、考えがまとまる前に部屋を追い出されてしまった。

 自分が関わることが迫ってきているのに、今出来るのが服を買うことだけなんて、こういう自分の知らないところで話が進むのは好きじゃない。


「ぁー・・・・・・はぁ。服なぁ、めんどいなぁ。アズールに買ってもらったやつじゃダメなのかな・・・・・・?」


 うーん、と唸りながら考えてみる。

 舞踏会のような賑やかな場なら、それに合わせた専用の服があるのではないか?という気もする。


(服なんて、いっつも母さんに任せっきりだったしなぁ)


 梗汰は服を買うのが面倒に感じるタイプだった。偶に親に連れて行かれることもあったが、それでもジーンズの新調くらいだった。しかしジーンズの裾上げが面倒で、それすらも拒んでた記憶がある。


「ましてや舞踏会だなんて・・・・・・・」


 自分とはあまりにかけ離れた世界、今まで「舞踏会」という言葉を耳にしたことは数回あるかないかだ。あったとしてもテレビや雑誌で聞いたくらいのはずだ。

 そんなイベントに自分が参加することになるなんて、思いもしなかった。だからこそ、服装一つにここまで悩むのも仕方ないことだと思う。


 そして何より、梗汰は自分の服のセンスにあまり自信がない。

 この前サイラと一緒に買いに行ったときは軽いショッピング感覚だったし、それになんと言うか、すぐに服を買わないとヤバイ状況だった記憶もある。だから無難なものをてきとーに選んで購入したわけなのだが。

 今回は舞踏会用の服、てきとーで済ませられるものではない、それをただでさえこの国の晴れ着がどのようなものかも分からない梗汰がてきとーに選んでしまっては、目も当てられない結果が訪れることは容易に想像できる。

 そこで梗汰は考える。この状況を打破だはする方法を。


 そして辿りついた結論が。


「・・・・・・誰かについてきてもらうか」


 つくづく他人任せな梗汰だった。







「と言うわけで一緒に来てほしい」


 あの後、梗汰は店の案内を頼むために瞳のところへきていた。無論、礼服の購入を手伝ってもらうためである。


「・・・・・・・・・・・・、ここに来た理由は分かったけど。それがどうしてあたしのところに来る理由になるのかが分からない」


 それに対して、梗汰はあらかじめ用意しておいた答えを言う。


「ニーナとサイラは既に居なかった」


 さわやかにそう答える梗汰に、瞳は大きくため息をついた。

 瞳は梗汰のその一言だけで全てを理解した。いや、してしまったと言うべきか。


(梗汰にはサイラ、ニーナそしてあたし以外の親しい知り合いが居ないのね・・・・・・。はぁ・・・・・・)


 瞳はなげやり気味に答える。


「・・・・・・あっそう」

「おいおい、冷たいじゃねーの! まぁ、オレの知ってる人は限られてるからなぁ、そんなわけでお願いしたいんだ」


 梗汰には既に後がない、ここで断られると・・・・・・、自分で買いに行く事になる。


 「自分で店員に聞いて買えよ」という考えもあるが、店員に聞くといつの間にか高いものを買わされてそうで怖いのだ。店員はこっちの都合に合ったものじゃなく、店側の都合に合ったものを勧めてくると、どこかで聞いた気がした。

 さすがにそれが全て本当の事だとは思わないが、そういう事もあると考えると不安になるのは確かだ。


「・・・・・・まぁいいわ。適当に案内するから、さっさと決めなさいよね」

「ありがとうな、とても助かる! そして服も選んでくれると更に助かる」

「はぁ・・・・・・」


 そこで瞳は再びため息をつくと、やれやれと言った感じで答える。


「仕方ないわね。もう面倒だから今から行くことにするわよ」

「おう、こっちは問題ないぜ」


 むしろ、面倒ごとを早めに終わらせられるのはありがたい。


 瞳は軽く準備をしてから、金属製のプレートを持ち小声で何かを呟いた。

 次の瞬間、その手に持っていたプレートは消え小物入れの様なものが現れた。変成器だ。




 これは、所謂いわゆる武器としての変成器ではなく、主にそれ以外の目的で使われる汎用変成器はんようへんせいきの一種だ。


 原理は変成器トランサーとは同じだが、武器を呼び出す変成器との一番の違いは、何より呼び出す対象が武器でないというのが大きい。武器以外の変成器である汎用変成器は、金属製のプレートで作成されることが義務付けられている。


 そして、プレートで作られた汎用変成器とは違い、武器を置換する用途で作られる変成器は、器の選択は自由だが管理機関への登録の義務があるのだ。


 武器は戦うためにあるもの、よって普段から携帯する変成器の器の形が決められているのは使用者にとって良いことではない、その理由から器の選択が自由となっている。

 そこが汎用変成器との最大の違いと言えるだろう。

 もちろん、梗汰が持っているハルバートも登録されている。




 瞳はその小物入れを開くと、そのまま中身を確認した。


「まぁこれだけあれば足りるでしょ」


 それはどうやらお財布らしい。

 なるほど、便利なものだ。変成器で作られてるということは、たとえ失くして誰かに拾われたとしても、持ち主以外では財布の中身をどうこうすることは出来ないだろう。置換言語さえ流出しなければ、だが。


 因みに、梗汰は普通の前の世界から持っていた財布をそのまま使っている。梗汰が前の世界から持ってこれた数少ない物の一つである。


「じゃあ行くわよ。 ついてきなさい」

「おー」







 それから数時間経って。


 お昼も過ぎて太陽が頭上を越える頃には、梗汰は舞踏会用の服を無事買うことができていた。

 それはもちろん瞳のお陰なのだが。

 何はともあれ、これで面倒ごとが一つ減った。


 後は舞踏会を待つだけなのだが・・・・・・。

 忘れていたが、実はそれ以外にも梗汰に関係する予定が一つあるはずなのだ。

 国成記念日に梗汰を雇ったことを伝えるとか、そんなことを言っていた気がする。かなり前に言われただけで、まだ詳しくは教えてもらってはいないが。以前の言ったとおりなら、舞踏会の前か後に梗汰を雇うことを家臣とやらに伝える場があるはずだ。


(うへぇ、なんだか今から緊張するわ・・・・・・。うぅうううう、さぼりたい・・・・・・)


 それを考えると、「面倒」という言葉が連鎖して梗汰の頭に浮かび、今から少し憂鬱になる。

 でもまぁ。


「なるようになるだろ」



 舞踏会の時間まで、あと僅か。

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