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更新が遅れてしまい、楽しみにしてくださっている方には大変申し訳ありません(’’;
現在就活で時間をかなりとられてしまっているので、もうしばらくは更新が遅れそうです。
「・・・・・・ま、まぁありがたく受け取っておくわ」
「おう、そうしてくれ」
梗汰がL-3魔宮へ潜った次の日。
自分でとってきた魔源籠を渡すために瞳のところへ来ていた。
机の上にとすん、と鞄を置く。そこには先日梗汰がとってきた魔源籠が入れてある。
瞳は、なぜかやや狼狽えながらそれを受け取った。お礼を受け取るのが悪いとでも思っているのだろうか。
「初心者のオレが換金するより、そっちで換金したほうが良いと思ってそのまま持ってきたから、よろしく」
これは換金の仕方を知っていると思われる瞳の方が、梗汰より上手く換金することができると思ってのことだ。
「わかったわ」
瞳はさっそく受け取った鞄の中身を見てみることにした。
中に入っているのは、昨日梗汰が取ってきたビー球状の魔源籠と角六本である。一本は別にとってある。
(・・・・・・あら、なかなかの魔源がこめられているものがあるわね。これがあるということは、アレと追いかけっこをしたのかしら?)
初めてアレと遭遇したときは、瞳も結構苦労したものだ。
梗汰は追いかけて捕まえたのだろうか、それとも殺してから奪ったのだろうか。瞳には想像することしかできないが、それなりに苦労したのは確かだろう。
「まぁ、ありがとね」
「んー、オッケーオッケー気にしないでくれ」
お店で聞いて調べてみたが、恐らくあの兎の魔源籠の価値は治療費を上回っているはずだ。それを渡したことで梗汰の目的は達成されたと言っていい。
瞳も何かの作業の途中みたいだったし、このまま帰るのがいいだろう。
「んじゃ、オレの用事はこれだけだから。 またなー」
軽く挨拶し梗汰は出て行った。
部屋の外へと出ていく梗汰の背中を見送った後で、瞳は受け取った魔源籠に触れてみた。宝石の様な綺麗見た目、傷のないつるりとした表面。そしてこれにはなかなかの魔源が込められているようだ。そこそこの値段で売れることだろう。
(・・・・・・気にしないでって言ったのに、まさか地下遺跡に潜ってくるなんて)
瞳はチラッと戸棚のほうに目を向ける。
そこには先日梗汰と潜ったときに入手したあるものが入っていた。
それは徘徊者から摘出した魔源籠だ。
あの層の徘徊者には対魔障壁を発生させる珠が埋め込まれており、それが魔源籠として扱われている。
厳密に言うと魔源籠ではないのだが、実際似たようなものなので魔源籠、または丸い玉の形状をしていることから、珠と言うことが多い。
それは徘徊者から取り出されると、本来の力より大分効力が落ちてしまうが、それでも使い方次第では対魔障壁の恩寵にあずかることができる。よってこの珠はそこそこ高い価格で取引されていた。
それでも徘徊者は常に一定数配置されることから、ある程度の力がある者であるなら比較的入手しやすい物となっている。しかし、その分他の干渉領域を発生させる物よりは、かなり価格が低くなっている。
この徘徊者の珠はL-3魔宮があるガルダンでは初心者から中級者の間では、他の地域で使われている同じ性質の物より低価格で入手できることから、比較的ポピュラーなものとして扱われていた。
因みにこの徘徊者のものだけでなく、干渉領域を発生させるものは、同じようなものを複数持っていてもほぼ一つ分しか効力を発揮することができない。それどころか、一つしか持っていないときより効力が下がってしまう場合もある。
それは、お互いの干渉領域同士が干渉し合い、それぞれの効力を打ち消してしまうからである。
瞳はそれを二つ回収していた。その時点で梗汰の治療費を補っての収入を得ることができる。
だからこそ「気にしないで」と言ったのだが・・・・・・。
(あそこで貰っておかないと梗汰にも悪いしね・・・・・・)
「ここまでしてもらったんじゃ、早めに仕上げないといけないわね」
瞳は戸棚から徘徊者の珠を一つと、ネックレスを取り出した。
その細い銀色のチェーンには、何かをはめ込む窪みのある十字架のペンダントトップがついていた。
瞳は徘徊者の珠を使い、魔力領域の効果を備えたアミュレットを作成している途中だった。
これを作成しようと思ったきっかけは、梗汰の戦い方は見ていてとても危ない、というのが大きい。
そしてもう一つ。梗汰が倒した徘徊者から入手したものなのだから、と言う理由もある。
実際、自分の身を守る手段に乏しい梗汰の戦い方は、見ていて危険と思える場面が多い。
徘徊者を倒した時には黒い装甲を纏っていたが、あの感じではまだ完全に扱えるわけではないようだ。
特に術者は、術の詠唱、準備、などの間に無防備になることが多い。
ただ、精霊術師はそれらがほとんど無い為安定しているようにも見えるが、それは確かな戦闘経験や技術に裏付けされたものである。
それ以外でも多くの術師は近接戦闘と術を組み合わせているが、それでも自分の身を守る手段の一つとして干渉領域は採用されることが多い。
今回は、せっかく二つ手に入ったので一つは売って資金に、もう一つはしばらくしてからアミュレットにして梗汰へ渡す予定だった。
「ま、三日もあれば渡せるでしょ」
まぁ、三日連続で地下遺跡へ行くということがあるわけでもないし、よっぽどのことで巻き込まれでもしない限り、梗汰が戦闘を行うこともないはずだ。
よって、すぐに必要になることはないと思う。
それに、完成まで三日ならまだ早いほうだろう。なにも今慌てて作成する必要はない。
「焦って失敗してもだめだわ。ゆっくりいきましょ」
★
一方、梗汰は。
「ふぅ、無事渡せて良かった」
梗汰はぼーっとしながら術師館から出てきた。
今日はあれを渡すことだけを考えていたので、他の予定は特にはない。 要するに暇だった。
さて、これから何をしようか。
(これと言ってやることも無いし・・・・・・、誰か誘って街へ出てみるか?)
そういえば、そろそろお昼の時間だ。誰かと一緒に食べに行くのも良いだろう。一人で行ってもいいがそれでは寂しい。
梗汰の知っている人で、一緒にご飯を食べるほど仲の良い人物は限られている。
(瞳は忙しそうだったし)
そうなると必然的にサイラとニーナになる。
「そうと決まれば」
(さっそくニーナとサイラの部屋に行ってみるか)
王宮、ニーナの部屋。
豪華に装飾された扉を三回ノックする。
「どうぞ」
落ち着いた声での返事が返ってきた。 ニーナの声だ。
「失礼するぞー」
入ってすぐに室内を見回す。ニーナが机に座って何かの作業をしていた。
そこにサイラの姿は見当たらない、出かけているのだろうか。
「コータか、随分と久しぶりじゃないか。サイラなら今居ないぞ」
入室してきた梗汰に気付いたニーナは、室内を見回している梗汰にそう告げた。
「そうか、つーかホントに久しぶりだな。一週間ぶりくらいか?」
ニーナは手に持っていたペンを、両手でぐにぐにと弄りながら言う。
「う、うむ、大体そのくらいだろう。 それにしても、帰ったならすぐに会いに来てくれても良かったんじゃないか?」
「ぁー、それは悪かった、ちょっと色々あってね。 まぁ今日来たから許してくれ。
つーか、会えなくて寂しかったならそう言ってくれよ。それならもっと早くここに来たのに」
その言葉にニーナは顔を真っ赤にし反論する。
「ば、ばかっ!寂しいなんてあるか! それは地下遺跡で怪我したと聞いたときは友達として少し心配になったりはしたが・・・・・・。 まぁ、何はともあれ元気そうでよかった・・・・・・」
その声はどんどん尻すぼみになっていく。
(おい、まさか自分の言った言葉に照れてるのか? ・・・・・・面白いやつだな)
それに梗汰は思わず笑顔になってしまう。なんだかんだで心配されるのは悪い気はしない。
「はいはい、悪かったって。心配してくれる友達が居てくれてオレは嬉しいぜー」
梗汰も自分で言ってて恥ずかしいのか、後半は限りなく棒読みに近い。
「う、うむ。分かればいい」
ニーナは”友達”と言う言葉に慣れてないのか、また頬を紅潮させてしまう。
(まぁ、”友達”とか、あんま面と向かって使う言葉でもないしな。真面目に言うとこっちも恥ずかしくなる)
「ところで、サイラは今居ないって言ってたけど。どこかに出かけてるのか?」
「そうだ、今は図書館へ行っている。午後もそこにいると言っていたから、恐らく帰るのは遅くになることだろう」
帰りは夜か、ならサイラを誘うのは無理だな。
「そっか。ならニーナさんよ」
「ん?私に用だったのか?」
ニーナは僅かに首をかしげながら言った。
「いやー、一人じゃ寂しいから誰かとお昼でも食べに行こうと思ってさ。と言うわけで、暇だったら一緒に行かないか?」
その言葉にニーナは嬉しそうにはにかんだ。
「うむ、丁度私もお昼にしようと思っていたのだ。一緒に行ってあげようではないか」
「うっし、ならさっそく街にでるか」
「了解した」
★
「どうしたんだ? おまえはコレが好きなのだろう? 遠慮することはないぞ?」
そう言われ目の前に置かれたのは、
「・・・・・・それはオレが当てずっぽうに言ったって、後で言っただろ! 殺虫液の原料なんて食えるか! 加工してあるならまだしも、そのまんまじゃねか!」
梗汰の勘違いで好物認定されたカルラの実。
ドンッ! と梗汰はテーブルを叩く。
「ふふふ、冗談だ。これは普通に食べることができる果物だぞ、後で食べるといい」
そう言って果物を梗汰の方へと押し出してくる。
「・・・・・・そうならそうと最初から言ってくれ。 まぁ、それならありがたく頂くが」
梗汰は果物を鞄に入れる。
「それにしても、よくこんな店を知ってたな。前に来たことあるのか?」
現在二人が居るのは、なかなか豪華な内装のお洒落な店だ。ちょっとお昼に、というには少し敷居が高そうな店である。
梗汰としてはどこでもよかったのだが、ニーナの勧めでここで食べることになった。
「うむ、前にガルダンに来たときに知り合いの商人に連れてきてもらったのだ」
「へ~、つーかどれも値段が高そうだが。オレは金はあんまないぞ・・・・・・」
梗汰はちょっと外食程度に考えていた為、小遣い程度の金額しか持ってきていない。
よって、下手をしてシャレにならないくらいの出費になってしまった場合・・・・・・、少なくとも良い未来は思い浮かばない。
「気にするな。今回は私が奢ろうじゃないか」
「ほー、気前がいいな。 臨時収入でもあったのか?」
「実はそうなのだ。お姉さまと変成器の契約が決まってな。持ってきた分が全て売れて結構な額になったんだ。正直、とても高額での取引に成功した。
まぁ、今自分で自由に出来るお金ではないのだがな。だからその分自分で持ってきた分のお金でちょっと贅沢をしようと思ったのだ」
どうやら今回のこの豪華な食事は、ちょっとした自分へのご褒美と言うことらしい。
女性に奢ってもらうのは、梗汰としては避けたいところだったが、自分より金持ちの相手の場合は例外でいい、はず。
それに、奢ってくれると言っているのに、それを断るのは相手に悪い気がする。
「そいつは良かったじゃないか。 ふっふっふ、ならオレも遠慮なく食べることにするぜ。とりあえず高いのから」
梗汰は手を挙げて店員を呼ぶ。
「まったく遠慮のない奴だ。・・・・・・ほどほどにしておくんだぞ、私もそれほど多くは持ってきたないのだからな」
ニーナはやや呆れ顔で店員を呼ぶ梗汰を見る。
「すみません、このメニューのここからここまでください」
そう言って梗汰はメニューの金字で押されたメニュー範囲を全て指で示す。
その言葉にニーナは絶句する。
「はぁああああああ!? お、お前は頭おかしいのか!? 私の話を聞いてなかったか?そんなにお金を持っていないと言っただろう!」
ニーナはテーブルに乗り出して梗汰の襟首を掴みガクガクと激しく揺らしながら、さっき自分が言った言葉を確認するようになんども繰り返す。
おい、ちょっと苦しいぞ。
「冗談だよ。 あ、店員さん、さっきの無しでこれにしてください。ほら、ニーナも決まってるなら頼んじゃおうぜ」
ニーナはそのまま固まって、動かなくなった。
「・・・・・・・・・・・・」
「おい、どうしたんだ? それともまだ決まってなかったか? おーい」
動かないままのニーナの顔の前で手をパタパタさせる。 が反応はない。
あ、プルプル震え始めた。
ニーナは僅かに震えた声で言う。
「コータ・・・・・・」
「ん、なんだ?」
「・・・・・・泣いて、いいか?」
周囲を気にせず叫んでしまった自分が恥ずかしくなったのか。ニーナは顔は真っ赤に染まっていて、体もしゅん、となってしまっている。
(まさか、さっきのでそこまでダメージを負ってしまったとは・・・・・・。カルラの実の件のお返しにからかっただけなんだが。 やりすぎたか・・・・・・?)
梗汰はすぐさま謝罪モードに移行する。
「わ、悪い。やりすぎた!」
しかし、ニーナはズゥゥゥンと闇系のオーラを纏ってしまっている。
つまり、いじけてしまっていた。
(何か、何かないか。 この状況をなんとかできる何か・・・・・・)
そこで梗汰は思い出す、自分の鞄に入れてあるアレを。
「そ、そうだ。 これをあげよう、これで機嫌を直してくれ」
梗汰は自分用に残しておいた魔源籠である角を取り出し、テーブルに置いた。
ニーナは出された角をじーっと見つめた。
ニーナは商人である、これが何なのかは見れば分かるはず、だと思う。
それをしばらく見た後、ニーナは梗汰へと視線を移し、ゆっくりと口を開いた。
「物でなんとかしようなんて最低だな」
「・・・・・・・・・・・・」
梗汰が反応しないので、ニーナはもう一度言う。
「物でなんとかしようとなん」
「返す言葉もございません」
似たような言葉を、少し前に言われた様な気がする。
「あ、あはははは・・・・・・。 これはナシってことで」
梗汰は自分のしたことが失策だと気付き、角には再び鞄の中へ戻ってもらおうと手を伸ばすが。梗汰の手より早く伸びたニーナの手が、華麗に角を掻っ攫っていった。
「・・・・・・・・・・・・」
「いや、コレは貰っておこう。 せっかくコータがくれたのだから、な?」
さっきまでのしゅんとしたものはなく。有無を言わさぬダークな笑み貼り付けたニーナの姿がそこにあった。
それに対する梗汰の答えは一つ。
「・・・・・・どうぞ持っていってください」
「ふふふ、よし、ならご飯にしようか」
ニーナは満足そうにそう言うと、待たせていた店員に自分の注文を伝えた。
「まったく・・・・・・、ちょっと見ない間に随分と逞しく育ちやがって、お兄ちゃんは複雑だぞ」
梗汰は目頭を指で押さえ、大げさに悲しむふりをする。
「いや、まったく変っていないのだが。それに私にはお兄ちゃんなんて居ないのだが」
「ほら、そこは気にしたら負けだ」
ニーナはやや怪訝そうな表情をする。
「そういうものなのか?」
「おうよ」
「コータは、偶によくわからないことを言うな」
「ほっとけ」
そこで一旦会話が止まった。
「・・・・・・ふふ」
「ははは」
そして二人は顔を見合わせると、どちらからともなく笑い始めた。