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あの後サイラに半ば引きずられるようにして森を歩き続けた結果。梗汰は現在サイラの家に普通にご招待されている。言葉通り梗汰の目の前には木のコップに注がれた緑茶の様な飲み物が置かれていた。
森の中の梗汰の居た場所から体感時間で一時間くらいだろうか、梗汰は森の結構深いところにいたようだった。
森を出たときにはもう空がやや赤らんでいた。完全に陽が沈むまでにあと数時間とかからないだろう。
(正直人に会えたのはラッキーだった、オレ一人じゃ森を出るのにどれくらいかかることか。最悪森で迷った挙句そこで一晩過すことになってたかもしれないな。つかオレってどんだけ森の深いところに居たんだ・・・・・・)
何より異世界に放り出され不安定になっていた梗汰にとって人と話すということはとても大切なことだった。
梗汰は目の前に置かれたお茶に手を伸ばしながら改めて自分の状況を再確認した。
サイラの家は梗汰達が森から出てきた場所からそう離れていない所にあった。
丸太で造られた質素ながらも温かみを帯びたログハウスのような家だ。周囲に家は見当たらない、梗汰が見たかぎりは家はこの一件だけのようだった。
(今回は良かったものの、勢いに流される自分の性格を思うと先が思いやられるな・・・・・・)
梗汰は今までの人生で何度となくあった、勢いやノリに流されていた自分の姿を思い出し苦笑した。
「んで、何が聞きたいんですかね。別に面白いことは何もないですよ?」
そう言ってはみるが、先ほどからこっちをずーっと見ているサイラは梗汰の話を楽しみにしているようだ。
(っぐ、これは断れない)
梗汰は純粋な目をした子供の頼みをあっさり却下できるような人間ではなかった。
「とりあえず、なぜあそこに居たのかを!」
元気いっぱいである。
(まぁ子供相手だしそこまで警戒することもないか)
梗汰はそう考え、仕方なく梗汰は今まであったことを話すことにした。
この時点で梗汰は相手の勢いに流されているのだが。当人がそれに気付くことはなかった。
世界の記憶が自分の記憶として根付いた梗汰には、自分が気を失う前に起こったことを既に理解していた。梗汰に語りかけてきた大樹はこの世界で大精霊と呼ばれるもの、そしてアレはおそらく地の大精霊。大精霊から祝福されるということはどういうことかを。
それを踏まえ梗汰は今までこの世界で自分に起こったことを順番に説明していった。もちろん自分が渡り人ということも。
サイラは時々目を見開いて驚いた表情になったり、梗汰に対してますます興味を深めたかのように目をキラキラさせたりしながら梗汰の話に聞き入っていた。
「とまぁ、一般人だったオレには到底信じられないようなことが沢山起こったわけですよ」
あらかた話し終えた梗汰は、質問は受け付けないよ、と付け加え喋り疲れた喉を癒すようにお茶を口に含んだ。
今から更に話をするのはさすがに疲れる。窓から覗く空には既に話をする前の明るさはない。完全に夜である。結構な時間話し続けた梗汰は森を歩き続けたこととも合わせて、なかなかに疲れていた。サイラに出されたお茶もガンガン飲んだ。今飲んでいるのは5杯目である。
一方、サイラは梗汰の話にすっかり満足したのか、ほぅ、っと息をつきながらも満足げな表情をしている。
そういえば、と梗汰はふと疑問に思ったことを口にした。
「サイラはここに一人で暮らしているの?御両親とかいらっしゃらないのかな?」
サイラはその言葉を聞いた時、一瞬、ビクッと体を震わせた。
サイラの家には自分たち以外の気配が無かった。家具や壁にかけられている服を見てもサイラのサイズと思われるもの以外のものは見当たらなかった。
(あちゃー、なんか地雷踏んだのか・・・・・・?)
そう頭の中で自問自答していたが、その思考はサイラの言葉によって途切れることとなった。
「渡り人様相手には、隠しても仕方ないですよね・・・・・・」
サイラは自分に言い聞かせるように呟いた。
「今日はもう遅いので明日の朝にでもいいでしょうか?」
もちろん梗汰には異論は無い、無いが。
(あれ、もしかしてオレここに泊めてもらえたりするのかな?)
重大なことである、今日一日色々なことがあり疲労が蓄積されている梗汰は出来るなら暖かい布団で寝たいと考えていた。しかし普通に考えて。
(見た感じ今は女の子一人で住んでいるようだし、ここに泊めてもらうように頼むのは論外だな)
「あー、じゃあオレはまた明日ここにくるね。近くに村などがあったら教えてもらえると嬉しいです!」
梗汰は残っているテンションを振り絞るようにしてそう言った。
「あ、そんな、もちろん私の家に泊まっていってくださいよ!」
え、でも。という梗汰の言葉はサイラの言葉によって上書きされることとなる。
「私のことなら気にしないでください、私のせいでこんな遅くまで居てもらったのですから。おゆはんも用意しますっ」
梗汰は半ば強引に引き止められ、温かいご飯をご馳走になり寝床まで用意してもらった。
こうして梗汰の異世界一日目は終わりを迎えた。
――――――― 世界の記憶 【精霊】 ―――――――
精霊とはこの世界に存在している自然を司る存在である。
それぞれこの世の事象を司っており、その属性は地、水、火、風、光、闇と分かれる。
精霊の個体は精霊術師の家系にのみ観測することができる。
大精霊とはその属性の精霊を束ねる上位存在である。大精霊はこの世の何処かにいるとされている。
――――――― 世界の記憶 【精霊術師】 ―――――――
精霊の個体を観測することができ、それを自分の意思で従え制御しこの世界というシステムに自分の意思をその属性に沿った現象として引き起こすことが出来る。
精霊術師はどれだけの精霊を従わせる、だけではなく精霊をどれだけ効率よく扱えるかでその強さがきまる。
例えば、対象を燃やし尽くすという意思を込めた炎、それは術者が燃やせないと思ってしまった物は燃やすことができない。高位の精霊術師は物理法則すら意思の下に捻じ伏せることができるいう。
――――――― 世界の記憶 【繋がりを持つ者】 ―――――――
大精霊の祝福をその身に受けた者は大精霊との繋がりを持つ者、コネクターと呼ばれる。
大精霊が司る属性の精霊を、大精霊の権限を以て扱うことができるコネクターは、
例えそれが一般人でも精霊術師として絶大な力を持つことになる。
人に観測されている歴史上でのコネクターは数えるほどしか生まれていない。
人に観測されたコネクターは善悪問わず例外なく歴史に名を刻む行為をしている。