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大地の系譜  作者: Melon
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36

「うおッと!」


 梗汰は自分に向かって来る魔物をギリギリで避ける。


 ――ドンッ!


 魔物が風を切る音が間近で聞こえた。魔物はそのままの勢いで壁に向かって突っ込み、梗汰はすかさずそれに蹴りつける。

 蹴りを受けた魔物は、壁に頭をぶつける形でその動きを停止させた。


「そりゃ!」


 その状態の魔物に更に蹴りを加える。それは魔物の胴体に突き刺さるようにめり込み、二発、三発とそれが当たる度に魔物はビクッとその体を震わせた。何度かそれを繰り返すと、魔物は一声発し壁に頭をつけたまま、ぐったりと地面に崩れ落ちた。

 確認の為につま先で触ってみるが、反応は無い。どうやら気絶したようだ。


「やっぱこいつ程度ならこれで十分いけそうだな」


 梗汰は軽く地面を蹴った。それは金属音を響かせ地面を僅かに砕く、梗汰の足にはそれを覆っている銀色が見える。鉄だ。

 魔物を蹴っていたその足には鉄製の足甲が着いていた。

こんなものでお腹を蹴られたらたまったものではないだろう。


「さて・・・・・・と、今のうちに頂いちゃいますかね」




 現在梗汰がいるのはL-3魔宮の一階層。

 今日は梗汰が退院の次の日。


 梗汰はアメリアから二層以降に行かないことを条件にL-3魔宮への通行許可を発行してもらい、そこでお金になりそうな物の探索や、魔物を倒してその魔源マナの集積部位を集めていたのだ。


 これは、お礼も兼ねて瞳に出してもらった治療費を自分で稼いで返す為である。


 お金を稼ぐためになぜ地下遺跡アンダーワールドへ潜るのか。

 それは、”アメリアからの仕事がまだ無い”、”そして精霊術師への仕事の依頼は瞳を介してでないとまだ行えない”と言う理由があったからである。

 よって、瞳に内緒でお金を返したい梗汰は、自己の鍛錬の意味も込めて地下遺跡アンダーワールドへ潜ることにしたのだ。


 当初、アメリアが十分な戦闘経験を積んでいない梗汰に許可を出すのを躊躇ったが、

「二階層程度であるなら、術師である梗汰が死ぬようなことは起きないだろう」とのロランからの助言により、それより下の階層へ潜らないことを条件にアメリアが許可を出すことになった。


 因みに、依然ロランから貰ったお金とアメリアからもらった給金は、食費などの生活費に当てるために別にとっておいてある。

 それに『自分で稼いだお金で返したい』と言うこともあり、自分で地下遺跡で稼いだ分で返すことに決めたのだ。




 そして今に至る。


 梗汰が相手にしていたのは獣型の魔物。体長は1m前後で見た目は大きめの犬に近い。ただ、角があると言う点を除けば。


 これが梗汰の世界であるなら、角は普通に進化していれば必要ない部位として退化でもしそうだが。この世界の魔物の多くがそうであるように、魔物には魔源マナの集積部位があり、こいつの場合は角がそれにあたる。


 魔源の集積部位とは、その名の通り魔源が集まり積み重なってできている部位である。

 それは魔源を集める専用の部位、又は体内で集めた魔源を貯蔵する器官として、個体により様々な専用器官が体内外に発達している。

 それを魔源の集積部位、又は、


「こいつの魔源籠マナケージは・・・・・・、少しちっさいな」


 探索者ダイバーの間では、魔源の集積部位のことを魔源籠と言うらしい。

 それがなんとなく言い易かったので、梗汰もその言葉を使うことにした。


 この魔物には、それと見て分かる程度に発達した角が頭頂部に付いており、梗汰の目的はまさにそれだった。


 魔物の頭と角を地霊術で発生させた鉄で覆い、頭部にはあまり力が加わらないよう固定し、角の周りだけに加重する。


 ゴギン


 骨を鳴らすような鈍い音を立てて、角が地に転がった。

 梗汰は角を手に取り鞄に突っ込み、そのまま魔物を一瞥し、それを覆っていた鉄と自分の足甲を解除する。


「うーむ、よく分からんが小さいとあんま高く売れないのかな・・・・・・」


 梗汰は地下遺跡に潜る前に、L-3魔宮の付近の店で低階層の魔物の情報を購入しており、それを参照して対象の弱点や魔源籠の位置、レートなどを確認していた。

 一般的に強くない魔物や、生まれて間もない魔物は魔源をあまり溜め込んで居ない場合が多い。

 それは、魔物の魔源を溜め込めるその受容力キャパシティに影響されている。

 一般的に、受容力が巨大な魔物ほど強いと言われていおり、同一個体でも魔源の保有量は違ってくる。

 

 高く売れる魔源籠の条件としては、


 それが珍しい又は強力な魔物の物である。

 それに保有されている魔源の量が多い。

 それの魔源の受容力が巨大である。

 鑑賞品として優れた見た目をしている。

 そして入手困難な物。


 以上のことが例として挙げられることが多い。


 梗汰がついさっき入手したのは、もちろん低ランクのものである。

 梗汰としては、できるだけ高く売れる部位を持っている魔物を相手にしたかったが一階層だとそれも叶わず、そして襲ってくる魔物を放っておくわけにもいかない。

 それに自分を襲ってくる相手なら、梗汰としても遠慮なく相手にすることができる。と言う事もあり、先ほどから何度か襲われる度にそれを撃退してきた。


 一階層に強力な魔物が居たら、それはそれで困るのだが。


「ま、体内に魔源籠マナケージを持っているやつじゃないだけマシか」


 体内に魔源籠が存在する魔物であるなら、多くの場合対象を殺してから刃物などで体内から切り取るなどをしなければならない。もちろん梗汰にそのような経験も技量もあるはずもなく、そのような奴が出てきたら諦めるしかないだろう。


「これで三つ目か」


 鞄を開けて再確認。鞄の中には、大きさはまちまちだが、似たような角が三本入っていた。


「これだけで1時間も掛かるとは・・・・・・、お金を稼ぐってのは大変だな・・・・・・」


 再び鞄を担ぎなおす。

 カラン、と角同士がぶつかる音がした。

 

「さて、次はこっちか。っと、その前に」


 手元に鉄で画板を作り、そこに鞄から取り出した紙を置き何かを書き込む。


「まぁ、大体こんな感じでいいか」


 梗汰は地下遺跡へ潜る許可が出たときに貰ったロランのアドバイスで、一階層を自分でマッピングをすることにしたのだ。

 しかしながら梗汰にはマッピングの経験がまったく無い、なので自分の感覚で思うがままに紙に書き込んでいる。

 当然ながらそれは決して出来が良いとは言えない。だが、誰かに見せるわけでもないので、梗汰自身がその地図を見て大体の位置さえ掴めれば問題ない。


「さて、行くか」


 梗汰は探索を再開する。







 ★


 3時間後。


「ぉ、アイツは」


 梗汰の目に入ってきたのは、後ろ足が発達している兎の様な生き物。

 その体長は30cmくらいだろうか。くりくりした目とふさふさの茶色い毛に覆われたその姿は、随分と可愛らしい見た目をしている。

 そして注目すべきはその長い尻尾。細長い尻尾の先端は体毛と同色の毛に包まれており、そこだけふっくらしている。そして、その中に埋もれるようにして澄んだ青色をしたビー球の様な物があった。

 それがこいつの魔源籠マナケージ

 宝石の様な見た目通り、その価値はそこそこに高い。だが、


「っくそ、随分とすばしっこい奴だな・・・・・・」


 発見と同時に飛び掛かった梗汰を軽くあしらう様に避け、岩の上に着地した。


 こいつは個体数が少ない上に、とても素早い。そして、


「それに迂闊に攻撃できないし・・・・・・、めんどいな」


 こいつは自分の体に怪我を負うと、魔源籠から魔源マナを開放し怪我の修復にあてしまう。そうなると、魔源が急激に消費され宝石の色が濁って見た目がとても悪くなり、最悪破損してしまうこともある。

 そうなれば再び魔源が溜まるまで待つしかなく、その修復には一週間や一ヶ月できかない程の時間が掛かってしまう。

 そう言う訳もあり、傷をつけることは避けたい。


 兎型の魔物は岩の上に座り後ろ足で顔を掻いている。

 この魔物は本来臆病で外敵を発見するとすぐに逃げてしまうはずだ。だが、こいつには逃げる様子がまるでない。

 今まで何人もの探索者ダイバーをあしらってきたのだろうか。その余裕ある仕草にはある種の風格すら感じる。

 まるで、捕まえられるものならやってみろと言わんばかりだ。


「ふっふっふ・・・・・・いい度胸じゃねーか。きっちりかっちり捕獲してやんよ!」


 ズンッ

 魔物の足元の岩が動く。岩が伸び、絡みつつこうとする。が、岩が動いた時には、そいつは既にその場には居ない。それよりやや後方に飛び退いていた。

 梗汰は着地位置を予測して、そこから更に地面を伸ばす。しかし、魔物がそこに着地してから梗汰が掴む動作に入るまでに、魔物は更に別の場所に飛び去っていた。

 梗汰の術はまるで追いついていない。


「待てコラ!兎ぃ!!」


(っち。ガチではええ・・・・・・、これは時間がかかりそうだな)







 そして20分後。


「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・、これ・・・・・・むり」


 最初はやる気満々で兎を追いかけていた梗汰だが、なんどもあしらわれる間にやる気がどんどん減衰し、しばらくすると完全に追うことを諦めた。


 壁際に背を預けへたり込む梗汰のすぐ近く、ちょっとでも手を伸ばせば届く距離にそいつは居る。だが、その距離がとてつもなく遠く感じられる。

 術を駆使し必死に捕らえようとしたが、一行に捕まる気配が無く。頑張って走ったりし跳んだりしたが、結局梗汰の手はかすりもしなかった。


 正直、このままではまったく捕まえられる気がしない。


「あぁーくそ、追いかけっこは止めだ!!」


(ちょいズルいが、これで素直に捕まってくれよ・・・・・・)


 梗汰のギラギラとした目は兎を捕らえ、視界から決して離さない。その目は本気マジだ。

 これは勝負では無い。よって足の速い相手に鬼ごっこを挑む必要はない、なにも相手の土俵でやる理由は無いのだ。


 圧倒的速度でこっちの手も足も術も届かないなら、


「逃げられないようにしてやるよ」


 梗汰の声に反応し、兎を中心として半径10m程度の場所に、梗汰と兎を囲むようにして円形の壁が発生。それは瞬時に天井まで伸びて梗汰達を覆う空洞の円柱となり、梗汰と兎とを周囲から隔絶する。


 キュ!?

 その音に驚いたのか、それともここにきて初めて危機を感じたのか、兎が一声鳴いた。

 先ほどまでずっと追いかけてきたが、今初めてこいつの鳴き声を聞いた気がする。


 だが、そんな兎を余所に周囲の変化はまだ続く。

 発生した壁が急激に縮まっていた。


 梗汰がやったのは移動範囲の制限。どんなに逃げ足が凄くとも、それを活かせない場所なら意味が無い。

 これは、先ほどまで散々追い掛け回した結果、相手が攻撃してこないことが分かったからこそ使える作戦だ。


 発生直後は10m程度だった円の半径も、今や半分の5m程度にまでなっている。


 兎は自らを取り囲む壁の内側を必死に跳ね回っていた。せまりくる壁を蹴り、狂ったように上下左右への移動を繰り返している。

 しかし、動き回るだけではこれを抜けることは無理だ。そういう風に作ってある。


 そして壁の収縮が収まると、次は上部が下がってきた。


「ふっふっふ、もう逃げられないですよー」


 発生した円柱は、横は梗汰が両手を広げてぶつからないくらいの位置に、高さは梗汰より頭三つ分くらいの大きさになっていた。この狭い領域には兎の逃げ場はもう無い。後は梗汰による捕獲を待つばかりである。


 一方兎の方は、自分が逃げられないことを把握したのか、端のほうで縮こまりプルプルと大人しくなっている。


「ごめんな、ちょっと尻尾のやつ貰うよ」


 さすがにこの状態の小動物に乱暴するのは気が引ける。だが、こっちの目的の為にこいつには少し我慢してもらうしかないと割り切る。


「よいしょっと・・・・・・、あ、ばか。暴れるな」


 縮こまったままの兎を両手で押さえガッチリと捕獲。

 先ほどまで必死に追いかけて掠りもしなかったが、今度はあっさりと捕まえることができた。

 兎は梗汰の手を離れようとじたばたと暴れるが、しばらくすると、無駄だと諦めたのか大人しくなった。


「では、魔源籠を」


 尻尾の先の魔源籠を掴み、捻る。


 キュキュー!!


「ちょ、すぐ済むから落ち着いてくれ」


 暴れる兎を怪我しないように押さえ込み、更に捻りながら引っ張る。

 魔物からしたら、自分の体の一部を持っていかれるのに落ち着けもクソもないだろう。


「ぬ、ぬ、ぬ・・・・・・」


 ズポッ

 力を加え続けると、そんな音が聞こえそうなくらいアッサリと取れた。

 尻尾の先に埋まっていた魔源籠は、今は梗汰の手に収まっている。

 すぐに状態を確認。特に目立つ変色や傷は見当たらない、どうやら確保することができたようだ。


「これでよし、と」


 兎を捕まえていた手を離し壁を解除する。すると、兎はそれを待っていたかのように凄まじい勢いで跳び出し逃げていった。


 随分と長い鬼ごっこだった。

 結構な時間を全力で走り続けた梗汰はくたくただ。


「ふぁ・・・・・・疲れた」


 無事に確保できた。これでやっと一息つける。

 今のを入れて本日の収穫は魔源籠八つ、その内の七つは角である。

 初心者にしては上々と言ったところだろう。 


「まぁ、今日はこんなもんだろ」


 梗汰がL-3魔宮に潜り始めてから、既に4時間近くが経過していた。

 疲労も蓄積し足の筋肉も地味に痛む、正直早く温泉にでも入ってゆっくりしたい。


「無理して怪我したら元も子もないしな」


 様々な要因(主に疲れ)を考えた結果、梗汰は探索を終了し帰ることに決めた。


「えーと、今どこだ・・・・・・」


 出口までの道を地図で確認する。所々擦り切れたその紙には、一階層がほぼ全て書き込まれていた。それは梗汰がさんざん歩き回った成果と言えるだろう。

 所々道の長さが合わなくなって無理やり調整したところもあるが、恐らくは出口まで迷わずに行けるはずである。


「んー・・・・・・こっちか」


 自分の作成した地図の見辛さにやや気落ちするが、それを見て出口へのルートを構築し移動を開始する。







 出口前。


「っと、忘れてた」


 胸元から金属製のトランプ大のプレートを取り出す。


「”A-293”」


 プレートが消え別の物がその場に現れる。変成器だ。

 現れたのは虫かごを大きくし物を収納する専用にしたような入れ物だ。

 梗汰はそれに今日集めた魔源籠を入れ、再び置換言語を呟き器の状態に戻した。


 なぜこのような事をするのか。

 それは、"地下遺跡の生き物は結界を抜けることができないから"である。生き物の一部もそれに該当する。

 よって探索者ダイバーは変成器を使いそれ等を地上へと持ち出すのだ。

 梗汰はそれを持っていなかった為、入り口付近の店で有料で借りてきた。


「つか、最初からここに入れて運べば良かったんじゃ・・・・・・・・・・・・、まぁいいか」


 梗汰はやや重い足取りで地下遺跡を後にした。





 地上へと姿を消す梗汰を見つめる視線があった。


「初心者の成果としては良いほうでしょう。それにしても、随分と優しいものですね」


 アズールだ。


 アズールは、梗汰の知り合いで今日は非番と言う事もあり、梗汰をそれとなく見守るようにロランに頼まれていた。

 もし梗汰が相手にできないような魔物が出てきた場合は、さりげなく手助けするつもりだったが。どうやら出番なく終わったようだ。


(アレをあんな方法で捕まえるとは、地霊術師ならではってとこですかね)


 最初、梗汰ではアレを確保するのは無理だと考えていたのだが。まさかあのような手段でそれを成し得るとは。


(途中で諦めるか、力ずくで倒してしまうと思っていたのですけどねぇ)

 

 あの魔物の最もポピュラーな捕まえ方は、一撃でその生命を絶つこと。

 そうすれば魔源を回復へ使わせることなく捕獲することができる。そして、それがこの魔物の個体数が少ない理由でもある。


「怪我はなさそうで何より、ってところですね。・・・・・・それにしても」


 アズールは少し思案するように顎に手を当てる。


(コータ君を見てたら、久しぶりに私も潜りたくなってきましたね。今日は非番ですし、このまま少し潜ってしまいましょうか)


 アズールは地上へ背を向け、下層へと歩き出した。

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