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大地の系譜  作者: Melon
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「んじゃ、またなー」

「はいはい、またね・・・ふわぁ」


 挨拶を終えると、瞳はさっさと行ってしまった。

 その後姿は、少しフラフラしている。


「随分と眠そうだな、大丈夫かよ・・・・・・」


 フラフラとした瞳の状態に、梗汰は少し心配になったが。

 そのまま瞳が見えなくなるまで見送ると、梗汰も自宅へ向かって歩き出した。




 梗汰は部屋に着くと、荷物を置きベッドの上で軽くストレッチをした。

 背骨がバキバキと鳴る。


「うーん、車とは違って馬車での移動は疲れるなぁ」


 バタン

 そのまま梗汰はベットに倒れこむ。


「ぁー、良い気持・・・・・・」


 移動の疲れか、すぐに眠気に襲われた。


「・・・・・・やべ、服着替えてないや・・・・・・まぁいいか」


 激しい睡魔に抵抗できずに、毛布を被ると直ぐに梗汰は眠りに落ちた。




 

「朝ですよー!」 


 快活な声と共に、体が揺らされているのを感じる。


「・・・・・・おひるすぎまで・・・・・・おねがいします」


 うつ伏せで眠っていた梗汰は、声の相手に目も向けず、だるそうに返事を返した。

 今の梗汰は、自分が何を言っているか意識していないだろう。


「お昼近いですよ!もうっ」


 声の主は尚も梗汰を揺さぶり続ける。

 その声は段々と大きくなっている。


(眠すぎて全てがだるい・・・・・・しばらくすれば・・・・・・諦める、だろ)


「むー、そんなに寝ていたいんですか?」

「んー・・・・・・」

「仕方ないですねー」


 その声には何かを楽しむような感情が含まれていた。


「それじゃ一緒に寝ましょうか」


 掛け布団が捲られた。


(・・・・・・ん?)


「お邪魔しまーす。コータさんのお布団は温かいですねー」


 何か温かいものが体にくっ付いたを感じる。

 

(んぁ・・・・・・なんだ?)


 うつ伏せのまま声の聞こえた方を向くと、目の前にサイラの顔があった。


「あ、おはようございます」


 梗汰が振り向くのを確認すると、サイラは寝そべったまま元気よく挨拶をした。


(・・・・・・えーと、落ち着け、落ち着くんだ)


 梗汰は落ち着いて現状を把握しようと努めた。

 依然としてサイラは、梗汰の隣で毛布に包まっている。


 急速に意識が浮上する。

 そして当然、梗汰は現状に驚愕し飛び起きた。

 体に感じていたサイラの熱が無くなった。


「どどどどどうして!え?てか、何をしてんの!?」

「え?コータさんが起きないから、一緒に寝ようと思って」


 尤もな梗汰の疑問に、サイラは笑顔で答えた。


「は?えぇ・・・・・・」


 ”起きない”と”一緒に寝る”が、なんで=で結ばれるのか。

 梗汰は混乱のあまり、意味不明なことを考えていた。


「昨日のうちに帰ってきたのに、なんで会いに来てくれなかったんですかー?」


 どうやらサイラは、昨日のうちに会いに来てくれなかったことが不満のようだ。


「いやー、長い移動で疲れちゃっててさ、部屋に戻ったらすぐ眠くなっちゃったんだ・・・・・・ダメ?」


 その言葉にサイラは笑顔で答える。


「ダーメ」


 惚れ惚れするような気持のいい笑顔だ。


「あ、あはは・・・・・・ごめん」

「分かってくれたならいいです」


(つーか鍵かかってたよな・・・・・・あ、この前の合鍵で開けたのか・・・・・・)


「目は覚めましたか?」

「お陰さまで目はすっかり覚めたよ・・・・・・」

「それはよかったです。では、一緒にご飯を食べに行きましょー!」

「はは・・・・・・そうしよっか」

「はい」


(ふぅ、とりあえず着替えるか)


 タンスから着替えを出し、上着を脱ぎ着替えを開始。

 と、そこで気付く。


「サイラさん・・・・・・部屋から出て待っていてくれませんか?」

「え?大丈夫ですよ。ちゃんと見てますから」

「全然大丈夫じゃないです・・・・・・」







 なんとか説得して、着替えの間は部屋から出てもらいました。





「これ美味しいですねー」

「うん、意外と美味しいかも。このソースが良い感じだ」


 現在二人は屋台で買った、肉と野菜を生地で挟んだケバブの様な物を食べていた。

 

「ここら辺は色んな屋台があるから、ローテーション組んで食べていけば味に飽きないかも」


 実際この町の騎士も、屋台やパブで朝食を済ませている場合が多い。

 そのため、朝から昼にかけてと、夕方の露店街は毎日人でごった返している。


 梗汰達は、店の種類の多さに目を奪われながらも、少しずつ王宮に向かっていた。




「あっ」


 話しながら食べ歩きをしていた所為か、サイラが通行人の一人とぶつかってしまった。

 サイラはぶつかったはずみで後ろに倒れこんでしまうが。


 ―― 一瞬、柔らかな風が梗汰の体を撫でた。


 サイラは一瞬滞空し、地面に尻餅をつく前に宙に投げ出された手を掴まれた。


 梗汰にはそう見えた。


(なんか違和感を感じたけど、気のせいか)


「大丈夫ですか?」


 手の主からサイラに、優しい声が掛かる。


「す、すみません!ありがとうございます!」


 サイラは差し出された手のお陰で、地面に倒れることは無かった。

 そのまま手を引かれ、サイラは無事に上体を起こす。


「気にしなくて結構ですわ」


 透き通った上品な声だ。


「あ、あのっ、あなたにお怪我は?」

「大丈夫ですわ。こちらのことはどうぞ気にせずに」


(綺麗な人だなぁ、それにとても上品な話し方だ)


 身近に居ないタイプの女性に、梗汰は一瞬目を奪われてしまう。

 綺麗な栗色のロングヘアーが印象に残る人だ。


「次からは気をつけて歩きなさいね」


 そう言ってサイラの頭を軽く撫でると、すぐに人ごみに紛れて行ってしまった。


「綺麗な人だったな」

「そうですね・・・・・・」


 サイラの声からは、なぜか機嫌の悪さがにじみ出ている。

 今のでどこかに怪我でもしたのだろうか。


「どうしたんだサイラ、今ので怪我でもしたか?」

「いえ、それは大丈夫です。それよりコータさん、鼻の下伸びてましたよ?」

「は?っえ、嘘っ!」


 慌てて顔を触る。


「っふ」


 サイラはしてやったり、といった表情を浮かべている。


(しまった・・・・・・釣られた)


「やっぱりそういう目で見ていたんですね」

「そ、そんな分けないだろ、綺麗な人だったからちょっと気になってただけだよ!」

「大きな胸でしたよね」

「うむ、そうだったな」

「「・・・・・・」」


 賑やかな人ごみの中、梗汰には自分達の回りだけ、空気が凍った様に感じられた。

 なんだか周りの声が遠く聞こえる。


(・・・・・・やっちまった)


 サイラの笑顔が・・・・・・怖い。


「そ、そうだ。デザートに、なんか食べようか」

「食べ物で釣ろうだなんて、がっかりです」


(う、痛いところを突かれたぞ・・・・・・。ここでの下手な言い訳は立場を悪くするな・・・・・・)


「じょ、冗談だよ冗談。でも、見たっていいじゃない!オレだって男だもの!」


 その言葉に、サイラはややひいた。


「ぅゎぁ・・・・・・、ぶっちゃけましたね」


 もうここまできたら後には退けない。


 別にやましいことなど無い、”あれは仕方なかったのだ!”と梗汰は思うことにした。


 依然として、サイラの視線は冷たいままだ。


「ま、まぁいいです。さっきのは無かったことにしてあげます」


 梗汰の意味不明な決意を余所に。サイラはおふざけで変に梗汰を追い込んでしまった事を、軽く後悔していた。


(な、なんとか凌いだぞ・・・・・・)


 なんだかとても虚しい。


「では、デザートを食べに行きましょー」

「ぇ?」







 サイラには、高めの値段のお菓子を沢山買うことになりました。





 午後、術師館。


「何しに来たのよ」

「いや、なんとなく。特にやることも無くて暇だったし」

「あんたねぇ・・・・・・」


 瞳は片手を腰に当て、がっくりと下を向き、ため息を付いた。

 もう一方の手には書類の束を抱えている、どうやら何かの作業中だったようだ。


「・・・・・・まぁいいわ。これからちょっとやることも有ったし、手伝ってもらうわよ。暇なんでしょ?」


 瞳はそう言うと、紙とペンを取り出し机に置いた。


「別にいいけど。なんか書くのを手伝うのか?」

「違うわよ。あなたの能力の規則とか、干渉出来る範囲をそこに書きなさい。あたしはその間に準備をするわ」


(自分の能力を書く?それを見てアドバイスでもくれるのかな?)


 瞳はピンと指を立て、説明を始めた。


「自分の能力を書いて、それを改めて確認することは、自分の力を理解するのにも役立つの。これは昔の精霊術師は子供の頃から誰でもやっていたみたいね。子供の頃には色々な事に影響を受けるから、それを理解するって事は大切なのよ。現在はあまり使われてないやり方みたいだけど、あたしはいい方法だと思うわ」


 幼い頃から家の教えに従って、術の扱いを習う精霊術師の子は、ほとんどが親の性質をリスペクトし、それと似たよう性質になることが多い。

 そのため現在の精霊術師の家では、殆ど使われていない。


「ほー、なるほどね。そう言う事ならやってみるか」


 早速梗汰は、席に着き書き始めた。

 梗汰は精霊術師の会合の期間の合間に(と言っても僅かな時間だが)、自分の精霊術を至焔しえんや瞳に見てもらい、それについての話を聞いたりしていた。

 その時に新たに分かったこともあり、梗汰はそれを含めて書くことにした。


(うーん、しかしこうやって改めて考えてみると、なかなか思い浮かばないもんだな。とりえず書けることだけさっさと書いちゃうか)




―――――― 【現在の地霊術のルール 梗汰】 ――――――

1.梗汰が地霊術で発生させた物質は、それを自分で還元しない場合、発生から約一日で消滅する。力を加え続けている場合は別である。


2.元々存在する物質の形を、質量の増加をせずに変えるだけなら、その効果は持続する。


3.1のルールにより、相対的に見てこの世界の物質量は、梗汰の地霊術によって変動しない。


4.精霊を使っての重さの肩代わりは、梗汰が力を加え続けている間しか持続しない。


5.梗汰が”無理だ”と思ってしまっている物には、意識改革が起こらない限り干渉することが出来ない。


6.元の世界の知識と発想は力になる。

―――――――――――――――――――――――――――




(今思い付くのはこんなところか。昨日干渉できる範囲は増えたって言われたけど、”本”は相変わらず形を変えることが出来ないし。それはやっぱり無理だって思っちゃってるからかね。やっぱ地霊術での変形=鉱物ってイメージが強いからなぁ、重さの肩代わりとしての干渉なら出来るんだけどなぁ)


 梗汰には、本は大枠で見ると大地に属する物と思えるが、その姿形への干渉は、”鉱物と違って無理”、そう判断している。


(せめて木のままだったら、まだやれる気がするんだけどなぁ)


「終わった?」


 そうした思考にふけっていると、瞳から声が掛かった。


「ん、ある程度は出来た感じ。見る?」


 ルールを書いた紙を瞳の目の前に出す。

 しかし、瞳はそれを受け取らない。


「あたしに見せなくても良いわ。むしろそれは誰にも見せてはダメよ」

「なんでだ?」

「なんでって・・・・・・、あなたはちょっと抜けてる部分があるわね」

「?」

「そこに書いてあるのはあなたの力の規則。それはそのまま弱点となるわ。だから自分以外に知られてはダメよ」

「ぁー、そう言う事ね」


 瞳の言うのも尤もな事だった。


「なら、この紙は自分で持っていることにするよ」


 紙をキッチリ折りたたみ、ポケットに突っ込む。


「それが良いわ。でも、一番良いのは処分することね」

「まぁ、後で気が向いたらそうする。んで、手伝ってもらいたい事ってなんだ?」


 その言葉を待っていたかのように、瞳は笑みを浮かべた。


「魔物の討伐よ」

色々起こりそうです(’’

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